38話
■38話
そして、赤坂のダンスショーの会場に来ていた。会場のキャパは100人。正直、人があつまるかどうかは不安だったが、最悪赤坂ファンクラブに一報をいれれば一瞬で埋まるキャパでもある。まあ、ある意味サクラだな、それは。
しかし、そんな懸念を吹き飛ばすかのごとく会場は超満員。で、かなりの客が例のハッピを着ていた。赤坂ファンクラブだ。
「どっから漏れたんだ?」
「スパイがいたってことっすね。ファンクラブのメンバーはあちこちにいるっすから、油断できないっすね。」
しまった。さすがに身内にスパイが居たとは・・・ 盲点だった・・・
「でもさ、エルフも結構多くない?」
たしかに、エルフも結構いるな。よく見ると、なんか知った顔も見かける。
「なあ、あそこのハッピ。あれエルフの長老っぽくないか?」
「そうっすね・・・」
まあ、エルフが見に来るのは予想していた。でもな、ハッピとはな・・・
見ると、立ち見状態で一般人も結構居る。こんだけの量のハッピとエルフが集まったら、それは注目もされるだろう。
「沖田、どうするよ。」
声に振り向くと、田中がいた。
「どうするもないだろう。こいつらを強制撤去するのは無理だ。・・・いや、一人だけそれが出来る人がいたな。」
「魔王っすか・・・」
そう、魔王こと、近藤部長だ。さすがにファンクラブとはいえ、サラリーマンなので魔王、いや近藤部長の命令はいろいろな意味で絶対だ。なんか変な話だな。
「ところがね、その魔王なんだけどさ・・・」
田中の指差す先には、魔王が座っていた。越後屋もいるし、土方課長、斉藤課長なんかもちゃっかり座っている。
「万事休すだ。このままやるしかない。」
ハッピ集団の排除をあっさり諦めて、俺達はバックヤードに移動する。まあ、客が入っているのだから結果オーライだろう。バックヤードには赤坂やしーちゃんをはじめ、ジュリアやリーゼ達が待機していた。この島にいる歌って踊れる女性達である。
「なんか、凄い人が集まってますね。」
さすがの赤坂も緊張気味だった。
「まあ、完全なホームだけどな。」
そう、ここは完全にホームだ。むしろ、ここで下手なことをしたら、生きて帰れないだろう。ゲスな野次とかを飛ばそうものなら、即死だろうな。
「じゃあ、俺達は袖の方でみてるから、頑張れよ。」
「「はいっ!」」
こうして、ショーが始まる。
まず、田中が前説で出る。つまり、公演についての注意事項である。席から離れるなとか、やばくなったら中止するぞとかいうあれだ。写真も録音も禁止だ。これはハッピの連中に向けて。でも、解析部がこの公演を完全に記録しているので、それはあとで出回るだろう。もちろん有料でなw
そして、音楽が始まり、スモークとともに赤坂達がステージに上がる。
「みなさん、こんにちわー!」
赤坂が客席に向かって挨拶する。
「「こんにちわー!」」
野太い声に、ステージが揺れる。地面も揺れる。や、やばい。まじ怖ええ・・・
そして、1曲目は昔懐かしのものだった。正直、これはバカにしていたが、売れるな。商品化したらマジ売れる。
よく考えたら、赤坂もしーちゃんもかなりのものだが、エルフとか「猫耳」お姉さんとか、ほぼ全ての属性を網羅しているんじゃないかと思う。売れないわけがない。俺もマジで買おうと思う。
そして、動画サイトにUPでもしようものなら、とんでもないことになりそうだ。
そして、2曲目。なんか、エルフとかは泣き出しているっぽい。まあ、あれだ。姫の舞踏をリアルで見れる喜びってやつ?
会場はさらに盛り上がってきた。さすがにオタ芸とかは居ないが、どっかのライブ会場さながらのヒートアップぶりだった。
さらに3曲目、4曲目と続き、ラストの5曲目になると、観客側も大合唱である。よく見ると、エルフとかまで歌ってやがる。つうか、なんでこいつら曲を知ってるんだ?もう、わけがわからん。
さすがにアンコールに応える体力は残っていないようで、こうして赤坂達のダンスショーは無事終わった。
いまさらだが、入場料を取っておけばよかったとは田中の談。まあな、こんなに凄いとは思わなかったし、しょうがないな。
ところが、ハッピとエルフの集団が捌けた後に、一般の人達が競って席につき始める。
「なあ、こいつらは次のステージがあると思ってないか?」
田中も、うなずく。
「今日は無理だが、とりあえず後日もう1回だけやるか。」
そう言うと、田中がバックヤードの赤坂達に話をしに向かった。で、明日、もう一度やることになった。実は裏があり、明日は花子の考えたファッションショーがある。そっちも集客が怪しいので、このショーと組み合わせるのだ。さすがに観客がいないファッションショーはヤバイだろう。曲は減らすことになるだろうが、赤坂達もファッションショーに参加すれば、効果はかなり期待できるだろうとのこと。
そうと決まれば、観客達にはさっくりと説明して、とっととお帰り願うことにする。当然、あちこちからブーイングが出るが、島への出禁にする旨を伝えたところ、あっさりとお帰りいただけた。
こうして、二日目も無事終わったのだが、実はその後が大変だった。
まず、いきなり決まったファッションショーについて、ノベルさん達と打ち合わせする必要があった。これは花子や赤坂達に任せる。
そして、勢いで作ったフライドポテトだが、明日の分を作り溜めすることになった。よって店のおじさん、俺を中心に対応することになった。
サスケはというと、青山さんやドルセア達と警備に関する打ち合わせである。今日も特に大きな問題はなかったが、細かい問題はそれなりに発生しており、念のためドルセア達と課題の洗い出しや対応などについて確認しておく必要があった。
まあ、田中は責任者なので、放っておいても大量の仕事を抱えている。なのでそれらの対応である。しーちゃんは田中の補佐である。
結局、俺達が開放されたのは夜中になってからだった。さすがに温泉にいく気力もなく、普通に風呂に入ってそのまま寝ることにする。
こうして、プレオープン最終日を迎えた。
この2日間は、多少の問題はあったものの、おおむね成功といえた。本オープンに期待が持てる感じだ。そして、今日を乗り切れば、多少は楽になるはずだ。例によって、朝礼を済ませると各自が自分の担当へと散らばっていく。
今日の俺達は、午前中は警備の手伝い、午後はファッションショーなどの手伝いだ。早速ドルセアのところに向かう。
向かう途中にサスケに聞いたのだが、この2日間のトラブルはやはり結構多かったそうだ。一番多いのが迷子である。子連れで来ているケースも多く、親が夢中になっている間に迷子になるのである。また、仲間とはぐれた大人も結構いる。会場が結構広いため、一度はぐれると探せなくなってしまうのだ。これは本オープンまでに迷子センターや呼び出しアナウンスや待ち合わせ場所などの検討が必要だな。あと、喧嘩も意外と多い。どうも、偉い人達はプライドも高く、つまらんことで喧嘩し始めることが多いのだそうだ。喧嘩したら即刻退場とかいうルールを作ればいいだろう。で、意外と少ないのがスリや盗難。よく考えたら、国に選ばれてくるような人達がスリや盗難をするというのはちょっと考えにくいので、当然といえば当然だろう。でも、本オープンでは結構多そうな気がする。とはいえ、これって対策が難しいんだよな。
とか言ってるうちに、ドルセアの屋台に到着した。ドルセアの屋台の裏の休憩所での打ち合わせにそのまま参加する。
俺達の担当は、エルフカフェの誘導と警備になった。さっそくエルフカフェに向かう。エルフカフェでは、ジュリアが警備責任者をしていた。とりあえず、俺は最後尾と書かれたプラカードを持って最後尾に立つ係。赤坂とサスケは列の整理となった。
入場が始まると、大勢の人達がここめがけてやってくる。さすがに3日目となると、情報もある程度いきわたるため、オープンとともに殺到する。そして、はやくもあちこちで揉め始めた。ジュリアやドルセアの部下達が、手際よく解決していく。ここで下手に騒ぐと強制退去となることも知れ渡っているので、大きな問題になることはまずなかった。
とはいえ、次々と人はやってくるわけで、俺は常に最後尾になるようにひたすら移動し続けなければならなかった。さらに、列がなるべくコンパクトになるように誘導してやる必要もある。なんか、一番めんどくさい仕事を押し付けられて気もする。
ようやく午後の担当と交換を終えると、昼食に向かうことにする。今日はドルセアの屋台にする。ここの裏手は関係者の休憩所もかねているので、情報収集もし易い。俺達はあいている席を見つけ、ドルセアの屋台から飯を貰ってきて食べ始める。
「あ、モツの煮込みか。これはうまいわ。」
「適度にこってりして、うまいっすね。」
ドルセアの料理は、どっちかというと家庭料理っぽい感じだった。これは、材料が手に入りにくいチャーズという環境というのもあるのだろうが、もともとドルセアはこういう感じの料理が好きというのが一番のような気がする。
そして、味については文句なしだった。ただ、プレオープンはどちらかというと貴族とか金持ちが多いため、庶民的な味すぎてあまり受けはよくない可能性もあったが、かなりの人が行列を作るぐらいの盛況ぶりだった。結局うまいければ問題なかったわけだ。
食事を終えたところで、午後のショーに向けての準備に向かう。
今回のショーは、ハッピの連中やエルフはご遠慮いただく。さすがに通達だけで済み、無理やりもぐりこもうとするようなことはなかった。
しかし、先日のショーが話題になっているため、結構な数が並び始めていた。さっそく、俺とサスケも列の整理を手伝っていく。そして赤坂達は、出演に向けた準備へと向かう。
「なんか思ったより人が多いな。」
「そうっすね。最初はこんなに多いとは想像もしてなかったっす。」
そんなことを言いながら、列を整理していく。が、なかなか整理が終わらない。
「これ、キャパを超えてないか?」
「まずいっすね。」
さっそく、田中へと連絡を入れる。
「うーん。とりあえず、一旦締め切るか。なんとか立ち見で逃げられないかな。」
「わかった、一旦締め切ることにする。とりあえず先に客を入れてみて、立ち見スペースについては、なんとかする。」
会場の警備担当と話をして、入場させていく。そして、追加の立ち見客のスペースを、ロープを張って作っていった。結果、なんとかなりそうだった。とはいえ、後ろの方だとステージは殆ど見えないのだが。
でかいモニターとかを用意すればよさそうだが、そんな物は流石に持ち込めないので我慢してもらうしかない。そして、あとはショーが始まるのを待つだけだ。
音楽とともに、ショーが始まった。さすがに前回のような盛り上がりはなかったが、それなりには盛り上がっていた。やはり、訓練されたファンと、訓練されていない一般人の差は大きいようだ。あたりまえだな。
特に暴動とかも起こることなく、前半のダンスショーは無事終了する。残るは後半のファッションショーである。
進行の田中が、ファッションショーについて簡単に説明していく。流石に男性客には理解されていないようだったが、女性客は興味津々という感じだ。これは期待できるかもしれない。
さっそく一人目がでてくる。そのファッションはそれなりに決まっているのだが、完全にあがっているようで歩き方がぎこちない。まあ、これは仕方ないだろう。そして、二人目、三人目と続いていく。観客も徐々に慣れてきたようで、拍手なども出始めていた。
そして、猫人族のリーゼが出てきた。淡いブルーのワンピースに、麦藁帽子といういでたちだ。清楚なアイテムなのだが、なぜかやたらと元気に歩き回っている。まあ、これはこれでありなんだが、おそらくしーちゃんあたりが同じカッコをすると、まったく違うイメージになるのだろう。とはいえ、リーゼはスタイルがいいので、男性客も釘付けになっていた。
さらにジュリアも出てくる。ジュリアはエルフなので、反則といえば反則だ。ちなみに、豪華っぽい真っ赤なドレスを着ている。貴族が舞踏会などで着るような感じのものだ。そして、観客からは歓声と落胆の声が聞こえる。歓声は男性客で、落胆の声は女性客だ。男性としては、この世のものとも思えない美女が着飾っているその姿は見とれるばかりである。しかし、女性客にしてみれば、一生太刀打ちできないレベルのものであり、落胆するのも正直しょうがないだろう。
そして、しーちゃんや赤坂も登場する。こちらはジュリアほどではないが、確実に美少女である。そしてしーちゃんはなぜか浴衣っぽい感じの服で団扇を片手に出てくる。どう見てもあっちの世界の服なのだが、ローネシア大陸あたりの気候だと結構すごしやすいカッコでもあるのでこういう服もあるのだろう。そして赤坂はダンガリーっぽい感じのワンピースだ。手に籐のバスケットを持っている。どっかのファッション雑誌にでてきそうな感じだ。男性客は相変わらずの歓声であるが、女性も頑張ればひょっとしたら近づけるかもと言う淡い期待をこめた熱い視線を送っていた。
こうして、ファッションショーも大盛況のまま無事に終わった。ところが、終わったとたんに女性客が一斉に走り出していく。
「なんだあれは? トイレか?」
「さあ、なんすかね。」
サスケと不思議がっていたが、その答えは田中によりもたらされる。
「沖田、衣装エリアが大混乱してる。ドルセアさん達のヘルプを頼む!」
ああ、一斉に買いに行った訳か。
「田中! 赤坂達は近づけるな。あと、ザンギやスマイリーにも連絡して手伝わせろ。」
「分かってる。そっちは任せろ。手の空いているリソースを投入する。」
俺とサスケは大急ぎで衣装エリアに向かう。そこは、まさに地獄だった・・・ 分かりやすく言うと、バーゲン会場そのものである。押し寄せる人で今にも店がつぶれそうになっていた。
「まずいな。なんとか止めないと。」
「魔王だすっすか?」
いや、それは別な混乱を生むだろ? それにマーケットのイメージダウンだし。
俺達を見つけたドルセアが、肩で息をしながら近づいてくる。
「沖田殿、押さえ切れん。時間の問題だ。」
「沖田さん、魔法でびびらすって手もあるっすよ。」
「魔物じゃないんだ、それはまずい。」
なんかサスケが変な方向にいってる気がする。
「沖田さん、大丈夫か?」
声に振り向くと、カルロスがエルフを従えていた。
「見ての通りだ。かなりヤバイ感じだな。」
「これは何の戦闘だ? 見ると女性しかいないようだが。」
まあ、戦闘っていったら戦闘だな。カルロスは間違ってはいない。
「あ、エルフならいけるかも。」
さっそく、カルロスに思いついた作戦を説明する。しかし、カルロスは首を捻り続けていた。
「マジ、そんなんでいけるわけ? 信じらんねー。」
「いや、いけるはずだ。すまんが頼む。」
首をひねりながらカルロスがエルフ達に指示を出していく。そしてエルフ達は手あたり次第に、女性達に声をかけていく。エルフに声をかけられた女性達は、びっくりして声も出ないようだった。まあ、突然ものすごくカッコいい芸能人に声をかけられているようなものだ、かなりびびるだろう。効果はてきめん、あっという間に暴動が治まった。しかし、今度はエルフに殺到する女性が別な意味で暴動を起こしかけている。打ち合わせ通り、カルロスはそのまま空きスペースの方に誘導していった。どうやら、なんとかなったようだ。
で、カルロス達に手伝ってもらって、グループごとに買い物をしてもらうことになった。最後のグループは殆ど商品が残っていなかったが、エルフのおかげであまり不満はなかったようだ。
「沖田さん、助かりましたよ。」
へろへろになったノベルから、感謝された。
「しかし、ファッションショーというのは、ものすごいですな。」
「ええ、まさかここまで凄いとは思っていなかったですよ。」
「次からは、もうちょっと売り方を考えないといけませんな。ちゃんと並んでもらうとか、会場の脇で売るとか。」
ノベルがいろいろと考え込んでいる。
「え? またやるの?」
一回だけのつもりだったんだが・・・
「これはやらずにいられないでしょう。これほどの効果があるわけですから。」
うーん、まあ会場の有効活用ってことでいいのか。あとで田中に相談しておこう。
とりあえず、カルロス達やドルセア達に礼を言って、休憩所に向かうことにする。疲れた。
休憩所では、赤坂達がドルセアの屋台の料理を食べながらくつろいでいた。ついでに、フライドポテトも作っている。
ドルセアの料理やフライドポテトを食べながら、しばらく休憩だ。
「そういえば、フライドポテトってあのあとどうなったんだ?」
「さっき見てきたら、完売して店閉めてたみたい。」
「ああ、売り切れたのか。よかった。」
花子も一応、気にはしていたようだ。
「で、このフライドポテトは赤坂が作ったの?」
「ええ、ちょっと手を加えてみました。」
うん、ちょっとじゃないぞ、これは。なんというか、高級フライドポテトだな。さすがにこれを売ったら、また暴動が起きそうだ。でも、俺達だけで食う分には問題ないか。
「そうそう、ノベルさんが言ってたんだが、またファッションショーをやりたいらしいぞ。」
「おお、じゃあ第2回花子コレクションを計画しないと。」
花子がにやにやしている。赤坂達も盛り上がってるぞ。なんか嫌な予感しかしない。
「花子、一応田中に相談しておけよ。」
こんなやばそうな話にかかわりたくないので、さっさと手離れさせるに限る。
「まかして、田中とうまくやるから。」
うん、あとは田中に任せよう。俺は知らないっと。
「ドルセアさんの料理って、うまいっすね。」
サスケはドルセアの料理が気に入ったようだ。さっきから、一心不乱に食っていた。
「ええ、なかなかでしょう。見た目はちょっとアレですけど、それも含めて男の料理って感じで良いですね。」
赤坂も褒めている。正直うまいし、赤坂が褒めるのだから、これは本物だろう。
その後は、特に混乱もなくプレオープンは無事に終了したのだった。
「いやー、いろいろ問題はあったけど、プレオープンは成功だったな。」
田中が満足そうに言う。後始末を終えて、俺達は事務所に戻ってきていた。
「ああ、一時はどうなるかと思ったことも、何度かあったがな。」
頷く、サスケやドルセア達。
「とりあえず、予定通りにオープンは2週間後でいくから。それまでに各チームは今回の課題の対応をよろしくお願いします。」
田中がみんなに頭を下げる。そして、全員が田中に拍手をしていた。まあ、本当に田中は頑張っていたからな。
「じゃあ、船の方はヨーレルあたりに相談してみるか。」
「そうですね。一応、ヨーレルの方にも聞いてみたんですが、船を作っているところがあるのは確認できています。ただ、帆船となると厳しいようですが。」
赤坂は工業品エリアのドワーフの女性から、いろいろと聞き出していたようだった。さすがは赤坂である。俺なんかすっかり忘れてたぞ。
「まあ、船については難しいのは分かってたし、それにマーケットの規模とかから考えても、船を増やすのは結構後だからな。」
田中もその辺は把握していた。今回は4艘の船を使ったのだが、人も物も溢れかえっていた。つまり、ある意味4艘でぎりぎりバランスが取れていたわけだ。船を増やすと、このバランスが崩れ、マーケットが混乱に陥る可能性があるのだ。
「でも、そうするとこの島に来たい人達が、船待ちで溢れるだろうね。」
一応、花子ですらそこに気がついていたようだ。田中も頷いている。
「ああ、だろうね。一応、手は打ってある。」
「どうするんだ?」
一斉に田中に視線が集まる。
「まず、各国のこの島への港を、町から離れたところに作る。これは結構大変だけど、6課に頼んで既に始めてもらっているから、オープンには間に合うだろう。」
田中がさらにニヤニヤしている。
「あと、新しく作る港だけど、人が集まるってことは町ができる可能性があるから、そこにもいくつか店を開いてもらって、港でも物を買えるようにするつもりだ。こっちはボーランドさんに頼んである。」
ああ、たしかに町になるだろうな。
「これは営業の話だけど、港の土地はうちの会社で借り上げてあるから、町ができるとテナント料とかうちに入ってくる金も結構な金額になるんだよね。」
さすがは敏腕営業である。抜け目がない。
「そういえば、この島って誰でも来れるわけではないですよね。たとえば港から遠いところにすんでる人達とか。」
赤坂がつぶやく。
「さすがは赤坂ちゃん。そそ、その件なんだけどね、評議会の各国から近藤部長や越後屋に、それぞれの国でもマーケットを開いてほしいって依頼がきてるってさ。」
なるほど、それはそうだろう。
「でも、それは正直むずかしいだろう? 物の輸送が問題になる。」
物の輸送は、この島の立地と、船を使えるという条件がそろって初めて解決できたのだ。陸地での輸送となると、馬車がせいぜいであり、鉄道でも作らないと難しいだろう。
「なんだよね。でも、何もしないわけにはいかないから、そっちはボーランドさんに頼んで、旅商人達と調整するつもり。」
「その手があったか。なるほどな、旅商人なら規模はともかく適任だな。ついでに仕入れもできるわけだし。」
「うん、規模についても、旅商人に協会っていうかギルドみたいなものを作ってもらって、ある程度の規模で動けるようにしてもらうつもり。当然、護衛はうちなんだけどね。」
この男、マジ抜け目がない。まさに営業の鑑である。
「なんか、田中さんが越後屋に見えてきました。」
「うん、越後屋のDNAを受け継いでる感じだよね。」
「ちょ、ちょっと、赤坂ちゃん、花子! それはないでしょう。」
田中がマジ落ち込んでいた。本人はそういう自覚はなかったようだ。どうみてもそうなんだがな。
こうしてオープンに向けて、俺達の仕事はさらに忙しくなっていく。




