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37話

お待たせしました。ようやく3章開始です。最終章になります。

■37話



 南の島を満喫した俺達は、通常業務に戻っていた。いや、正確には田中の祭りに絶賛参加中。

 

「熊本さんから、港はとりあえず4艘分まで完成したとの連絡があったっす。」


「会場のほうも、もうちょっとで終わるってさ。」


 サスケや花子の報告を、しーちゃんが書きとめていく。

 

「赤坂ちゃん、各国の対応のほうはどう?」


 田中もキーボードを叩き続ける。


「準備はできているそうです。ビザの発行も完了しているとの報告がありました。」

 

「沖田、ボーランドさんのほうは?」


「了承してもらってる。他の国の商人も、ボーランドさんを通じて了承の返事を貰ってある。」


「ドルセアさん、警備のほうは?」


「田中殿、準備万端である。」


 ドルセアは、レットラントに居づらいだろうと、部下を連れてこの島に来てもらっていた。レオールの爺さんにも頼まれてたしな。

 ちなみに、ドルセアの部下は1000人近くおり、いくつかのチームに分けてレットラントの北の地での勤務とこの島のローテーションをしてもらうことになっている。

 北の地については、近藤部長が魔物の討伐と砦の建築をしたため、以前ほどの劣悪な環境ではないものの、魔物達との激戦区であることには代わりがなかった。

 

 また、この島は俺達の文化がいたるところにあるため、今回のマーケットは完全に隔離する必要がある。イメージとしては出島のような感じだ。なので、警備はかなり重要である。

 

「よし! マーケットは予定通りオープンできそうだね。」


 田中の祭りとは、この島にマーケットを作ることだ。そして、この計画はジパングプロジェクトと名づけられている。

 魔王を討伐した後も、魔物はそこいらにいるし盗賊も相変わらずいるので、討伐系の案件や護衛の案件はそれなりにはあるのだが、やはり魔王バブルが崩壊した影響は売り上げに徐々に出始めていた。

 で、その売り上げの穴を埋めるべく田中が立案したのがマーケットである。まずはテストを兼ねたプレオープンを3日間ほどやるこにした。

 

 マーケットは、各国の商人達に特産品や名物などを出品してもらう。で、俺達には場所代などが入ってくるのである。

 

 また、マーケットは俺達ばかりでなく、この世界にも大きなメリットをもたらす。

 この世界の貿易は、大きく分けて2つあった。一つが国レベルの貿易で、もう一つが各商人レベルの貿易である。

 国レベルというのは、取扱量は大きいが種類となるとそれほど多くない。また、食料や武器など一般人の需要というより国の国策として行われている。

 そして、もう一つの各商人ごとの貿易は、取り扱い品目はそこそこ多いのだが、輸送の関係で取扱量はどうしても少なくなる。また、商人が自分の足で商品を旅しながら探す必要があるため、まったく知られていないものも大量にあった。

 よって、マーケットという形で売りたい物をお披露目でき、未知の商品を旅することなくさがせるのは、売り手、買い手の双方にメリットがある。

 たとえば、ヨーレルであれば工業製品が中心に出品されるであろうし、ラフェリアだと農作物が中心となるだろう。また、ロンドガルなら、その優れた文化から生まれる芸術品なども出品されることが予想された。そして、その中にはこれまで見たこともない商品が大量にあるはずだった。


 ところが、ここにいくつかの問題がある。一つはこの島までどうやって物と人を運び込むかというものだ。

 これについては、レットラントという存在がキーになる。レットラントは設立後に、帆船で国外に逃げていた人達が戻ってきていた。しかし、まだ経済も安定していないため、それほど仕事もない。よって、この人達に帆船を使って各国とこの島の人と物を運んでもらうことにした。そして、4艘の帆船がシャトルバスのように各国との間を1日1往復するのだ。これはいまだ国が安定せず、外貨を稼げないレットラントにすればかなりおいしい仕事だとうと思うが、俺達にしてもありがたいというまさにwin-winである。ついでに、復興に必要なものも、ここで仕入れてもらえばいい。

 

 もう一つは、物を出品する商人達である。場所やインフラがあっても、売るものがなければマーケットは機能しない。

 そこで、知り合いのボーランドさんという商人に相談してみたところ、各国の知り合いの商人達に話をしてもらえることになった。 で、正直なめていた。各国から10人ぐらい来てくれたらうれしいなとか考えていたのだが、問い合わせ件数だけでも数百を超えたそうだ。

 結局、予定していた場所を拡張して対応することにしたが、それでも工事の都合などで希望者全員を受け入れることはできず、プレオープンは国からの推薦のあった人達のみにビザを発行して制限することになった。プレオープンがうまくいったら、ビザの発行数や場所の拡張なども考えなくてはならない。

 

 しかしなんだな。うちの社是に「業務を通じて、社会に貢献うんぬん」ってのがあるが、まさにそれだった。考えた人も、本当にそうなるとは思っていなかったに違いない。

 

 こうして、マーケットは無事プレオープンの日を迎えた。

 

「田中さん、レーダーが船を捉えたそうっす。」


「了解。じゃあ、配置について最終確認をよろしく。」


 田中があわただしく動き回っていた。十分な準備はしたはずだが、完璧というわけにはいかないので、最後まで気を抜けないのだ。

 それぞれが、自分の担当部署の最終確認を始める。

 

 このマーケットのメインは各国の出品物だが、俺達も別にいくつかの強力なものを用意していた。

 

 まず、人が集まるということは、当然飲食は必須である。よって、食べ物を扱う屋台をいくつか用意していた。

 商人達が持ち込むのは恐らく素材であり、そのまま食べるにしてもつらいものもあるだろう。また、屋台が並ぶと気分的にもウキウキしてくるしな。

 なので、当然勇者ラーメンは出店している。現在ロンドガルに3店舗ほどが出店しているが、連日行列を作るほどの盛況ぶりだったので、これがあると盛り上がるはずだ。当然一番人気はスケルトンラーメンである。

 

 そして、今回あらたな限定新商品があった。なんとドラゴン焼きである。これは牛一頭を丸ごとミストレアのブレスで焼くという、プレオープンのイベントもかねた商品だった。そして当然ながら、ここでしか食べられない限定商品である。ついでに、牛も当然ながら猫人族の育てたものを使っている。この牛、そのうちブランド牛になるといいなと思う。

 しかし、ドラゴンのブレスでそのまま焼くと、牛は一瞬で炭になってしまう。よって、赤坂の指導のもとにミストレアはブレスの微妙すぎるまでのコントロールを覚えたのである。最初は強めのブレスで表面をかりっと焼き上げる。これで肉汁を封じ込め、その後に弱めのブレスで中までじっくりと火を通していく。その味は赤坂監修だけあり、まさに絶品だった。別に普通に焼けばいいだろうという話もあるかと思うが、食べてみれば分かるのだが、普通に焼いたのではこの味はでないのだ。あと、普通に焼くとインパクトも足りないし。

 只でさえミスリルドラゴンは伝説級のレアであり、かつこれまた一生に一度みれるかどうがというドラゴンのブレスも見れる(本来なら、見た人はそのまま丸焼けになるのだが)。 そして、むちゃくちゃうまいのである。これはヒットしないはずがない!でも、ヒットしてもミストレアしか作れないので、大量生産はおろか、継続して販売できないのがちょっと痛い。

 

 さらに、追い討ちをかけるようにエルフカフェも用意してある。

 エルフの長老から是非マーケットに参加したいという申し出があった。とはいえ、なにかアイデアがあったわけではなく、自分達の作った武器やアクセサリーでも売るかね、ぐらいの話だ。ところが、エルフ達はお金を稼ぐ必要がないので、最初につけた値段は信じられない安値だったのだ。そこにボーランドさんから苦情が入った。エルフの武器やアクセサリーが安易に出回ると、経済が破綻するから販売はやめてほしいとのこと。しかも安値とか、絶対にありえないとのこと。ボーランドさんいわく、そこそこのアクセサリーでもお城が建つぐらい、武器にいたってはちょっとした小国が買えるかもしれないぐらいの値段がつくそうだ。

 なので、結局参考出品的な展示だけでもいいんじゃないかって話になった。それでも、めったに見れないエルフの武器やアクセサリーが見れるのである。間違いなく人気はでるだろう。

 それに対して、こんどはエルフ側からクレームがはいる。それは参加じゃないだろうと。まあ、たしかに。参加といえば、せいぜい説明要員ぐらいだな。

 その結果、エルフカフェで話が落ち着いた。ちなみにこれは俺の案。

 非常にレアであるエルフという存在が、メイドや執事になってお茶などを出してくれるとなれば、これは間違いなくヒットする自信がある。しかも制服もエルフバージョンとメイド/執事バージョンの2パターンを用意しているのだ。ちなみに、メイド、執事とも赤坂デザインによるものだ。エルフバーションのほうは、自前だけどな。

 ちなみにお値段のほうは、ちょっとお高めの設定だったりする。しかもチャージあり、時間制限ありの完全入れ替え制。どっかの期間限定ショップみたいな感じだ。でも、これはずーっとやるけど。

 

 最後が赤坂達のダンスショーであった。

 どういうことかというと、日曜の朝にやってるあの番組のエンディングのダンスを、赤坂やしーちゃん達が踊るのであった。

 果たして需要があるのか?という疑問もあるが、赤坂が自信をもってお勧めするとのことなので、これはとりあえずやらせておくことにした。いわいる1回限りのオープニングイベントってやつだ。


 と、これだけの集客力の期待できる準備をしているので、成功間違いなしだろう。

 つうか、入場制限してるのに、こんなに強力なイベントいるのか?って話もある。

 

 

「よし、来たな。」


 船が到着し、大勢の人がこちらに向かってくる。そして大量の荷物も運び込まれてきた。

 

「じゃあ、ドルセアさん誘導と整理をお願いします。」


 ドルセアはここの警備や誘導をお願いしている。でも、なぜかドルセアはエプロン姿だった。ちなみに、エプロンの下はきちんと防具を着込んでいる。決して裸なんとかではない。


「心得た。」


 ドルセアはうなずくと、部下達に指示をだしていく。エプロン姿でな・・・

 

 ドルセアに続いて、青森さんが受付の最終チェックにむかう。受付はさまざまなトラブルが発生することが予想されるため、青森さんに対応してもらうことになっている。

 

 しばらくすると、手続きを終わらせた商人達がどんどん店先に商品を並べていく。そしてマーケットは徐々に活気付いてくる。

また、あちこちで早くもトラブルが発生しているようだが、ドルセアの部下達が手際よく治めていた。この感じなら、幸先の良いスタートを切れそうだ。

 

「じゃあ、沖田。こっちも手が空いてきたし、屋台見てこようよ。」


 そういうと、花子が赤坂やサスケの手を引いて屋台の方へと向かっていく。

 

 とりあえず、今回は俺達の用意した屋台だけだった。この屋台も、これからどんどん増えていくだろう。

ふと見ると、すでに行列を作っている屋台がいくつか見られる。まあ、腹が減っては戦はできぬというやつだろう。

そして、その行列のできている店の中に、なぜかドルセアの屋台があった。


「なあ、ドルセアさんの料理ってうまいのか?」


「部下の人達の話だと、結構うまいらしいっすよ。」


「ええ、料理の手際とかもいいですし、結構やりこんでるみたいですね。」


 とりあえず、あとで食べてみようと思う。で、なぜドルセアが屋台をだしているかというと、一番の理由はドルセアがやりたがったから。こう見えて、ドルセアは料理は趣味らしい。あと、警備本部を作るにしても、ただの本部は場所がもったいないので、店とかも併設してもいいかもしれないということだった。なので、ドルセアの屋台の裏には警備本部がある。まあ、ちゃんと仕事しているみたいだし、いいのだろう。

 

「おいひー!」


 見ると、花子がいろいろと買い込んでいた。で、さっそく食ってやがる。とりあえず、串焼きを一本貰う。これはリザードマン達の串焼きだろう。

 

「うわ、うめえ。」


「もう、最高っす。」


「ここは天国かもしれませんね。」


 口々にいろいろいってるが、もう夢中になって食っていた。気がつくと花子の買い込んだ大量の料理も、あっと言う間になくなっている。しかし、これは太りそうだな、いかに仮想身体とはいえ。

 

「おい、あれを見ろ。」


 周りの人がそらを見上げている。ミストレアが飛んできたのだ。そろそろドラゴン焼きがはじまるのだろう。

 そういえば、エルフと違ってミストレアは時間に正確だった。ほんと、時計とか持ってるんではないだろうか。

 

「じゃあ、俺達も見に行こうか。」


「そうですね。ちょっと心配ですし。」


 赤坂はちょっと心配そうだった。かなり練習したので大丈夫だとは思うが、やはり最初は心配のようだ。

 会場につくと、すでにものすごい人だかりである。ミストレアも、あまりの人の多さにちょっとあがっているようだ。

 そして、準備が整いミストレアがブレスを吐く。その瞬間にあたりがどよめく。ここにいる殆どの人が、初めてドラゴンのブレスをみたのだろう。しかも安全な場所から。たしかにドラゴンのブレスは迫力がある。こっちに向かってブレスを吐かれたら、迫力どころの騒ぎではないんだがな。

 しばらくして、ミストレアがブレスを絞り始める。ここまではうまく言っているようだった。そして、あたりにうまそうな匂いが漂い始める。その匂いにつられるように、さらに人が増え始めていった。

 ミストレアのブレスが止まると、周りから拍手が沸き起こる。でも、突然のことにミストレアがびびってる。まあ、拍手されたドラゴンって、ミストレアがはじめてだろうしな。当然、こういうのに慣れているわけがない。しばらくすると、ミストレアも余裕が出てきたようで、周りにお辞儀し始めた。そして、火山の方に飛び立っていった。こうして、ドラゴン焼きは成功し、焼けた肉は一瞬で売り切れたそうだ。って、食いっぱくれたじゃねーか・・・ まあ、試食でたっぷり食ってるんだが。

 

「じゃあ、そろそろエルフカフェいってみるか。」


 俺達はエルフカフェへと向かう。ところが、途中で人だかりに阻まれて進めなくなった。

 

「なんかあったんすかね。ちょっと見てくるっす。」


 そう言うと、サスケが人ごみを掻き分けて、というよりその隙間を何事もないかのようにするすると進んでいく。そして、しばらくして戻ってきた。

 

「大変なことになってるっす。この人はエルフカフェ目当ての行列っす。」


「ま、まて。ざっと見て千人ぐらいとかが並んでるということか?!」


 ちょっとびびった。

 

「そうっす。今、田中さんやジュリアが整理券配ってるっす。ちょっと手伝ってくるっす。」


「じゃあ、私も行きます。」


 サスケと赤坂が、人の隙間をするすると進んでいく。

 

「よし、花子。俺達は警備の方を手伝いにいくぞ。」


「しょうがないね、さすがにこれは。」


 花子とドルセアの屋台に向かい、手伝いが必要な場所を確認して、手伝いに向かった。

 

 

「もうね、大成功とおりすぎて、やばすぎ。」


 そういう田中は先ほどから机に突っ伏していた。ようやく今日のマーケットも終わり、俺達は事務所に戻っていた。マーケットは照明がないので、日没にあわせて終了になるのだ。

 

「ええ、これは明日からは人を増やしてもらわないとダメですね。」


 しーちゃんも突っ伏したままである。この二人はこのマーケットの総責任者として、一日中駆けずり回っていたのだ。

 

「でも、ほんと凄い人だったね。あれでもビザの発行制限したんでしょ?」


 花子は、最後に屋台を駆けずり回って集めた戦利品に囲まれていた。

 

「ああ、今回の分の競争率は10倍を超えたらしいな。しかも、条件を満たした人だけの競争率で、実際にはその数倍以上が希望していたらしいな。」


 そんなことを、この間の会議で聞いた記憶がある。で、突っ伏しながら田中もうなずいていた。

 

「まあ、とりあえず今日はみんなで温泉でもいきましょう。」


 という赤坂は、すでに桶やら着替えやらを持っている。

 

「よし、じゃあいくか。」


 待ちに待った温泉は、ついに完成していた。でも、車で2時間ほどと結構距離があるのが難点だった。しょうがないので、車に分乗して向かうことにする。

 温泉は、露天と内風呂の2種類である。当然、男湯と女湯に分かれている。そして、ここに入るには俺達のように仮想身体か、島の住民が持つ身分証明の腕輪が必要だ。よって、気がついたらゴブリンが入浴していた、などということはない。

 でも、車で2時間はちょっとした旅行になってしまうので、それほど頻繁にはこれないのが残念である。あとで上条さんあたりに相談してみようと思う。

 

 温泉は、和風っぽい岩風呂である。これは熊本さんの趣味だろう。おれもローマ風とかよりは、こっちのほうが落ち着く。さらに、シャワーもついていたりする、どっかの高級旅館のお風呂っぽい感じだ。

 

「いやー、温泉は最高だな。」


 田中が慢心の笑顔で入っている。マーケットも初日とはいえうまくいったわけだし、温泉も最高だ。それに田中はほぼ徹夜で仕事してたしな。

 サスケや青森さんも極楽極楽とかいいながら入っていた。思い起こせば、この島に来てからなんだかんだで働きづめだった。まあ、このぐらいの贅沢は許されて当然と言う気がする。

 

 温泉から戻ると、それぞれ明日の準備やチェックをして、今日の業務は終わりである。とはいえ、明日の朝も早いので事務所のとなりにある宿舎に泊まることになるのだが。まあ、通勤0分なので、これはこれでありだろう。

 

 

 翌朝、日の出とともに動き始める。

 殆どの商人達は、昨日中に到着しているため、今日はマーケットのメインである商人達のブースが中心になるはずだ。

 

 さっそく、朝のミーティングをしたあと、それぞれの分担に分かれていく。

 今日の俺達は市場調査ということになっている。早い話があちこち見て回るのだ。とはいえ、調査結果を報告書として出す必要があるので、ちゃんと見て回らないといけない。

 田中からもらった会場マップを片手に出発することにする。この会場マップは結構良くできている。紙はこの世界の紙であまり出来はよくないが、手書きしているように見せかけてコピーしている。また、各エリアが記号で区分けされており、自分の探している物がどこに出品されているかが一目瞭然だ。このマーケットもかなり広いので、これがないと結構厳しいだろう。

 

 まずは、工業製品のエリアに向かう。このエリアはヨーレルの商人達が中心となっている。

 見た感じは金属製のものが目立つ。やはりヨーレルは鉱山があるので、金属の加工が中心なのだろう。で、ところどころに木製のものがある感じだ。参考資料用として、デジカメで写真も撮っておく。まあ、デジカメを使うのはちょっと躊躇ったが、そもそもカメラというものもないので、俺達を不審がる人もいないのだ。なんか変なものを持ってる人、ぐらいの認識しかされていない。よって、個人情報やら肖像権やらというものが問題になることはない。

 

「やっぱり、想像をこえるようなものは、殆どないみたいだな。」


「ええ、そうっすね。」


 実は、魔力を使った電化製品のようなものがあるかと思っていたのだが、やはりそういうものは見かけなかった。

 

「やはり、魔力は供給が難しいんですかね。」


 赤坂が残念そうにしている。真田課長とか上条さんあたりだと、いろいろと作ってるのだが、さすがにこの世界に流通させるのがはばかれるようなものばっかりだ。俺達のあのバイクにしても、最近は電気と魔力のハイブリッドに進化していた。無理だよな、これを流通させるのは・・・

 

「あれ?」


 赤坂の足がとまる。そして、スタンドに石がはめ込まれている、スタンドライトのようなものを見ていた。

 

「あ、それ光るんですよ。」


 店番をしていたショートカットのドワーフの女性が説明してくれる。赤坂よりちょっと背が低いくらいで、肌はちょっと緑色っぽいぐらい。どっちかというと、不健康ってより日焼けしているって感じだ。

 

「ただ、魔蓄石は高いんで、ちょっと光らせるのはちょっと勘弁してほしいけど。」


「魔蓄石?」

 

「魔力を持つ石のことね。ヨーレルで取れるんだけど、この大きさでも結構高いんだよね。」


 ドワーフの女性が説明してくれる。手にしたのはビー玉ぐらいの大きさの石。この大きさで懐中電灯ぐらいの光がだせるそうだ。また1ヶ月ぐらいは持つとのこと。


「そんなものがあったんですね。ほかにはどんな物があるんですか?」


 赤坂が食いつく。

 

「これとかはお湯を沸かせるんですよ。といっても小さい鍋ぐらいだけど。」


 なんか赤坂の食いつきっぷりが凄かったので、赤坂を置いて写真だけとって先にいくことにする。

 

 一通り回ってみるが、魔蓄石というのを使った道具は、ほかでは見当たらなかった。値段も結構するので、ポピュラーではないのだろう。

 そして、このエリアの人はかなり多く、あちこちで商談が成立しているようだ。

 

「じゃあ、次は衣類系いこうか。」


 俺達は衣類系のエリアに向かう。衣類はロンドガルが中心となっていた。布や完成した衣類など幅広く取り扱っている。素材も麻や綿、シルクなど、さまざまな種類がある。また、革製品などもここで扱っていた。

 

「うーん、結構地味な感じのデザインが多いわね。」


 それはそうだろう。この世界で着飾るのは貴族が中心であり、その殆どはオーダーメイドらしい。なのでここで扱っているのは一般の人達が着るような実用的なものが中心となっていた。でも、俺からすると結構色とりどりなのだがな。

 

「豹柄とかはさすがにないわね。」


 絶対ないと思うぞ? つうか、花子は普段はアニマル柄とか着てるのか? 地味ってそういうことだったのか・・

 

「おや、沖田さんじゃないですか。」


 振り返ると、ノベルさんがいた。この人はボーランドさんの知り合いの商人だ。

 

「あ、ノベルさん。久しぶりですね。今回は出店ですか?」


「ええ。でもこのマーケットというのは凄いですね。驚きの連続ですよ。私も結構あちこち旅して仕入れしてましたが、見たこともないものがこんなにあったとは。」


 まあ、俺達もここまで集まるとか思ってなかったしな。でも、ノベルさんとかでも見たこともないものが多いっていうのは、このマーケットは成功だな。

 

「ところで、ここの商品とかどう思われますか?」


 ノベルさんは、今回衣類などを中心に出品しているそうだ。つまりこの店はノベルさんの出店。ま、ロンドガルの人だしな。

 

「そうね、まず商品が積んであるだけなのよね。せめて種類とサイズぐらいは分けないと。」


「なるほど、たしかに気に入ったものでもサイズを探すとなると面倒ですね。」


 花子の指摘にノベルがしきりに頷く。

 

「それと、何を売りたいのかが良く分からないのよね。」

 

「洋服は良く分からんすけど、流行とかは無いんすかね。」


「まあ、テレビとかファッション誌があるわけじゃないし、そういう情報が流れるとすれば人づてとかだろうから、結構難しいのかもな。」


 サスケと花子もうんうん頷いている。

 

「え? 流行? ファッション誌? テレビ? なんですか、それは。」


 やべっ、これはまずいかも。とりあえず、やばくないレベルの情報を流しておく。

 

「なるほど。女性っていうのは一般人でも着飾るのが好きですからね。そういうのは面白いかもしれませんね。」


 メモとってるよ、この人。

 

「たとえばさ、そこの売り子さんにこれとか、これを着せておくわけよ。で、このアクセサリーつけて。そうすると、ここに買いに来た人が、あら、ちょっと素敵ね、ってなって買っていくのよ。」


 花子が調子に乗り始める。でも、俺達の世界だとマネキンとか、お店の人のファッションとか見て買うこともあるんだから、まあこれぐらいはいいのかな。

 

「ほう、なるほど。ではさっそく。」


 ノベルさんが、女性の売り子に、花子が選んだ組み合わせに着替えるように指示する。

 

「え? でもこんなに買えるお金は持ってないです。」


 売り子の女性があわてている。売りつけられると思ったのだろう。あわててノベルさんが説明する。ただ、売れ行きがよかったら、あげるそうだ。出来高制って奴だな。つうか、いきなり売り子さんの目の色が変わってるんだが・・

 

 で、着替えてきたら結構見違えるものだ。それに効果も抜群なようで、早速同じものが売れ始める。うん、やっぱ女性ってどこも一緒だよな。あと、目の色が変わった売り子も、かなりのやり手だった。どっちかっていうと、俺の苦手なタイプ。店に入ったとたんに後をついてきて、いろいろと口を出すってやつな。

 

「こういう売り方もあるんですね。良いものを並べておけば売れるとしか考えていませんでしたよ。」


 お礼に花子がストールを貰った。まあ、これぐらいはいいのかな。

 

「よし、沖田。明日あたりにファッションショーをやろう。その名も花子コレクション!」


 そのネーミングはどうかと思うが、面白そうではあるので、しーちゃんに頼んで赤坂ダンスショー用に作ったステージのスケジュールを確保しておく。また、ノベルさんも乗り気で知り合いに声をかけておくそうだ。こっちの詳細や準備は花子に任せる。

 

 次に、食料系に向かう。ここはラフェリアが中心だ。

 

「やっぱり、見たことのないものがいっぱいあるな。」


 先ほどまでのエリアと違って、食料系のエリアは見たことのないもので溢れている。俺達もこの世界で仕事しているが、結構きまった食材しか使わないし、赤坂がいるので魔物を料理したりもしていたため、それほどこっちの食事情を知らないというのもあるのだろう。


「そうっすね。どうやって食うのか、見当がつかないものもあるっす。」


 サスケが指差したのは、なんかバナナみたいな形のものだった。俺達の常識では皮をむいてそのまま食べるが、この皮はちょっと堅くて手では剥けそうもない。


 すると、どこかしらからボーランドさんがやってきた。

 

「沖田さん、こちらにいらしてたんですか。」


「あ、ボーランドさん、丁度いいところに。これってどうやって食べるんですかね?」


「これですか? 焼いて食べるのが一般的ですね。地方によっては煮込むところもあるかもしれません。」


 このバナナのようなものは、生では食えないようだ。まったく分からんぞ。

 

「これって一般的?」


 花子も興味津々だ。

 

「そうですね、ラフェリアとかロンドガルでは一般的ですね。ヨーレルではあまり知られていないかもしれません。」


「だとしたら、ヨーレルの人は買わないっすね。」


 ボーランドが驚いていた。

 

「たしかに食べ方が分からないものは買わないですね。なるほど。」


 まあ、そうだ。どうやって食べるのか悩むようなものなど、普通は買わないな。

 

「とすると、食べ方も一緒に教える必要がありますね。うん、なるほど。」


 次に行こうとすると、なぜかボーランドが付いて来た。

 

 花子がうまそうな果物のようなものを見つける。

 

「これってさ、試食してみたくない?」

 

「バリバラですね。それは結構くせがありますね。そのまま食べられますけど。」


 ボーランドは俺達の案内をしてくれるつもりのようだ。


「ちなみにどんな味なんですかね?」


「ええ、トトイルとかドリガに似た感じの味でしょうか。」


 うん、トトイルもドリガも知らんぞ。

 

「まったく分からんすね・・・」

 

「やっぱ試食するしかないのかな。怖いけど、ためしに買ってみる?」


 花子は生粋のチャレンジャーだった。そして、花子が食って大丈夫でも、俺達が大丈夫という保証もないのが怖い。


「試食ですか。なるほど、たしかに食べてみないと分かりませんね。」


 ボーランドさんもしきりにメモをしている。この世界の商人はメモが好きだな。

 

 ふと見ると、あまり人の居ないブースに気がつく。

 

「あれはじゃがなんとかだな。」


 じゃがなんとか?

 

「ジャガイモっすよ。北の地で見かけたっす。」


 ああ、ジャガイモがあるのか。

 

「ただ、あのジャガイモとやらは毒性があると聞いているが。」


 ボーランドが顔をしかめる。

 

「それって、保存が悪かったり、芽を獲らなかったりするだけじゃないの?」


「たしかに、北の地でも日向で保管してたりしたっすね。一応芽のことも含めて注意はしといたっすけど。」


 そういえば、ジャガイモは芽をとるのは当たり前だが、倉庫にシートをかけて保存しているのをテレビでみたことがあったな。あれは直射日光を避ける理由だったはずだ。

 

「よく知ってたな。」


「いや、赤坂さんに聞いたっす。」


 なるほど。サスケは絶対料理とかしなそうなタイプだしな。

 

「ではなにか、保存に気をつけて、芽をとりさえすれば問題ないのか。」


 ボーランドがびっくりしている。

 

「ああ、それどころか、ものすごくうまい。」


 あ、絶句してやがる。

 

「おじちゃん、ジャガイモ10キロちょうだい。」


 さっそく花子が買い物をしている。でも10キロとかどうすんだよ・・・・ 店のおじさんも驚いているし。

 

「つうか、フライドポテトが食いたいんだが。」


 俺は思わずつぶやく。

 

「でしょう、だよね。あとポテトチップスとか。」


 なるほど、作るつもりか。

 

「でも、花子って料理できるのか?」


 一斉にうなずく。

 

「ああ? お前ら、あたしを何だと思ってるわけ?」


「花子」


「デストロイヤー」


「魔王?」


 まあ、全員当りだな。

 

「じゃあ、お前らにはやらん。」


 いきなりすね始めやがった。

 

「すまん、とりあえず謝る。でも、作れることは証明してみせろ。」


 正直、切ってあげるだけだ。俺でも出来るがな。

 

「分かった。おじさん、店の裏を借りるね。沖田は鍋と油と塩を買ってきて。サスケは水汲みと竈の用意。」


 衣料品エリアとかは火気厳禁なので無理だが、食料品については竈が必要となることもあるため、食料品エリアでは許可制で認められている。

 

 とりあえず、鍋とかを仕入れに向かう。鍋は30cmぐらいの両手持ちの中華鍋がすぐ見つかった。で、塩もこの島の猫人族の出店で扱っていることはリサーチ済み。塩田をつくっているのだ。

 問題は油だった。ラードはすぐ見つかるのだが、植物油がない。事務所の食堂にいけばあるが、それはちょっとヤバイと思う。

 

 インカムで花子に聞いてみよう。

 

「花子。油がみつからん。ラードしかないみたいだ。」


「あー、やっぱそうか。しょうがない、ラードで試してみよう。」


 ラードを買っていくことにする。ついでに、おもしろそうなものを見つけたので、それも買っておく。

 

 俺が戻ると、すでに準備は整っていた。なにげに花子の包丁っていうかナイフさばきが見事だった。意外だ。

 

 さっそく花子がラードを鍋に入れて油にしていく。そして、油の温度があがったところで、ジャガイモを入れていった。

 しばらくすると、フライドポテトが出来上がっていくので、塩を振って早速試食だ。

 

「あ、うまい。」


「ジャガイモの種類が違うみたいね。ラードのほうがおいしいかも。」


 たしかに、俺達の世界のジャガイモとは違う種類のようだ。ラードが正解だったのだろう。植物油だとコクが足りないかもしれないな。


「こんな食べ方があったとは知りませんでした。」


 店のおじさんも驚いている。この世界では焼いて食べるとか、スープに入れるのが一般的だそうだ。


 俺達がフライドポテトを食べていると、なにやら背後が騒がしい。ふと見ると、店の前に人だかりが出来ている。

 

「なあ、それは売り物か?」


 見物客の一人が声をかけてくる。なんだ、こいつらは。あ、客か。

 

「いえ、この方達がお求め頂いたものを、ご自分で調理されているだけですが。」


 店のおじさんが困ったように返答していた。

 

「花子、売るか?」


「よし、売ろう。おじさんも手伝って。」


 さっそく、ジャガイモを洗って切っていく。こう見えても、一人暮らしは長いのでそれなりに料理はできるのだ。つぎつぎとフライドポテトを作っていく。

 

「値段はどうしましょうか。」


 店のおじさんがおろおろしていた。

 

「材料費がこれぐらいで、料理の手間がこれぐらいだから、こんなもんだな。」


 ボーランドさんがあっさり値段を出す。さすがだ。

 

「あー、それでいいかも。」


 花子もうなずいている。これで値段が決まった。

 

「サスケ、そこにある葉っぱを筒状にしておいてくれ。」


 俺が先ほど見つけた葉っぱだ。使い捨て容器になるので、自分で使おうと買っておいたのだが。

 

 どんどん作っていくが、次々と売れていく。むしろ、行列が長くなっているような気もする。

 

「やばい、油が持たない。」


「葉っぱも足りないっす。」


 まだジャガイモはあるのだが、この辺が限界だろう。

 

「つうか、そろそろ赤坂のショーが始まるぞ。」


 俺達にとっては、一番大事なイベントである。これを逃したら、大変なことになる。

 とりあえず、並んでいる人達に謝って、フライドポテトは一旦終了にする。当然、あちこちから文句は出るが、そこは花子があっさりと黙らせた。

 

「明日からは、自分でお願いね。あと、その10キロはあとで取りに来るから。」


 花子が作り方や必要なものをおじさんに教えていた。塩は猫人族の店を指定しておく。

 

「人については、こちらで手配しておこう。」


 ボーランドが人を手配してくれるそうだ。後はなんとかなるだろう。


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