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34話

■34話



 ヨーレル国境のを守っていたゼイルは、進撃の準備で夢中だった。

 

 数日前。

 見張りの兵から、ここ最近ドルセア将軍の姿が見えないという報告があった。

 時々、首都に戻っていることは知っていたが、今回はこれまでと比べ期間が長い。

 もしやと思い状況を探らせたところ、南砦が陥落したために中央砦の防御に向かったという情報が入った。

 

 チャンスである。ゼイルはこのチャンスをひたすら待っていた。

 国からは進撃は禁ずるという指示が来ていたが、待ちに待ったこのタイミングを逃す手はない。さらに魔王を召喚するなどという訳の分からないことをいってきていたが、そんなことができる訳がない。

 ゼイルは、早急に進撃の準備を進めさせていた。

 

 そして、進撃開始当日。

 ゼイルは先頭に立ち、馬を進める。そして久々に開けられた門から颯爽と出撃していった。

 

 チャーズからの攻撃はない。これでドルセア将軍の不在は間違いないものとなった。

 さらに兵を進めていく。それはゼイルにとって、勝利への行進とも言うべきものであった。

 

「南より急速に何物かが近づいております。」


「確認せよ。」


 ゼイルは敵の襲撃かと思ったが、進軍の音は自分達のものだけだった。とすると、チャーズというよりは魔物かなにかだろう。そして来るべき戦いに備えて全軍に戦闘準備を指示し、己も腰の剣を抜く。

 

「ワイバーンが大群で押し寄せております。」


「なに?!」


 あわてて軍を止め、対ワイバーンの戦闘準備をさせる。弓兵達が訓練された動きで、すばやく戦闘準備をする。しばらくすると、20匹ほどのワイバーンがこちらに向かってくるのが見えた。

 あの数のワイバーンなら、この軍であれば対抗できるはずだ。

 しかし、次の瞬間に絶望がゼイルを襲う。

 

「あ、あれはミスリルドラゴン・・・」


 ミスリルドラゴンは、この世界においてほぼ無敵といえた。ミスリルドラゴンを倒せる武器はこの世界には数えるほどしかない。そして、そのようなものは当然もちあわせていないのだ。

 さらに、ミスリルドラゴンの吐くブレスは、一瞬で大勢の兵を焼き尽くすのだ。仮にブレスを避けたとしても、ワイバーン達に蹂躙されるのは目に見えている。

 この戦いは一瞬で終わる、そう確信できるほどの戦力差であった。

 

 撤退するか? しかし兵の数が多すぎて、撤退している暇はないだろう。戦う? 無駄だ。

 

 そして、それに追い討ちをかけるように、ワイバーンからエルフ達が降りてくるのが目に入ってくる。

 

 ゼイルにできることは、その場に立ち尽くすことだけだった。

 


◆◆

 

 赤坂達はあっという間に到着する。空を直線的に飛んできているので、当然といえば当然だが。

 

 そして、ミストレアは飛んでいる間中、赤坂に必死に言い訳をしていた。

 

「姫に仕えるために、2000年も修行とか研修とかしてきたんですよ? マジ凄く大変だったんですよ? 最終テストの競争率だって150倍とかあったし。」


「ダメです、許しません。」


 赤坂は冷たく言い放つ。

 

「それに修行が終わってからも、今日まで3000年とか待ったんですよ? それなのに・・」


「いいから、前をみて飛びなさい。」


「・・・・」


 ミストレアの目から涙がこぼれる。赤坂は間違いなく、最強と言われるミスリルドラゴンを泣かせた最初で最後の人だろう。

 

 そして、赤坂達は、進軍するヨーレルの軍を見つける。

 

「どうやら間に合いましたね。」


 赤坂は、ミストレアにヨーレル軍の前に降りるよう伝える。

 

 赤坂達が降り立つと、ヨーレル軍は動揺しまくっていた。

 無敵といわれるミスリルドラゴンに、ワイバーンに乗ったエルフ。この戦力をもってすれば、おそらくヨーレル軍は1時間も持たずに全滅するだろう。いや、30分、もしかすると10分かもしれない。もちろん、赤坂には全滅させるつもりはまったくないのだが。

 

 そして、赤坂はミルトレアから下りると、前に進み出る。

 

 事実、ゼイルにはミスリルドラゴンから降りる赤坂が魔王に見えていた。

 普通の人間は、ワイバーンはおろか、ドラゴンにのることはできない。ということは、ミスリルドラゴンに騎乗していたこの少女の姿をしているのは、紛れもなく魔王であろうと思うのは当然だった。

 

「ヨーレルの軍の皆さん。今ならまだ間に合います。引き返しなさい。」


 ヨーレルの軍に、動揺が走る。

 目の前にいるのは、少女だ。

 しかし、その後ろにはミスリルドラゴンやワイバーン、そしてエルフまでいるのである。

 この少女が、見た目通りのただの少女であるわけがない。ましてや、ミスリルドラゴンに騎乗してここまで飛んできたのだ。

 

「ま、魔王だ・・・」


 誰かしらから漏れたその言葉がトリガーとなって、ヨーレル軍は一瞬で混乱状態になる。

 

「ま、魔王とか言われてるし・・・」


 赤坂はむっとする。しかしそれ所ではなかった。目の前の軍は混乱しており、暴動寸前ともいえた。赤坂はヨーレル軍を混乱させに来たわけでも、全滅させに来たわけでもない。

 

「しょうがありませんね。」


 赤坂は、そらに向かってサンダーを放つ。

 

「「ひっ」」


 一斉に動きが止まる。

 

「静まりなさい。動くと今度は狙います。」


 誰も動かないし話もしない。いや、恐怖のあまり動けず、話をすることすら忘れているだけだ。

 

「司令官はどなたですか?」


 赤坂が、軍に向かって問いかけると、一斉に一人の男を注目する。

 

「あなたですね。」


 ゆっくりと赤坂はその男に向かう。

 

「ま、待ってくれ・・」


 ゼイルは何の役にも立たないと知りつつも、剣を構えながら後ろにじりじりと下がり始めた。その時、何かが動いた。

 

 ぱくっ。

 

「ちょっと、ミストレア?!」


 

 ミストレアは到着してからも、ずっと泣いていた。

 そして、ようやく落ち着いたときに見たもの。

 それは赤坂に剣を突き出した男だった。

 

 姫のピンチ!

 

 ミストレアは本能で動いた。姫の危機。それは、数千年にわたり訓練された動きだった。

 

 迷わず、その男を一飲みにした。

 これで、姫からは褒められるはず・・・・

 

 しかし、ミストレアを待っていたのは、赤坂のお叱りであった。

 

「なんで食べるの?」


「だって、姫のピンチでしょ? 救ったでしょ?」


「あー。」


 赤坂は頭を抱える。せっかく撤退してもらえるはずだったのに・・・

 

 しかし、ヨーレル軍の認識は違った。

 魔王はミスリルドラゴンへの生贄、いや餌を求めておられる。

 とすると、次は・・・

 

 一斉に副官が注目を浴びた。

 

「あなたが副官ですね。」


 赤坂の目が、副官を捕らえる。

 

「ま、待ってくれ・・・」


 赤坂は、静かに副官に微笑みかける。

 

「大丈夫です。食べませんから。それより、軍を引いてください。」


「か、かしこまりました!!」


 副官は、びびりながらも手際よく撤退の指示を出す。そして、その指示こそ、全軍が求めていたものであった。

 ヨーレル軍は普段の訓練の成果を、その撤退に遺憾なく発揮した。一糸乱れずに、全軍が撤退を始める。

 

 撤退が完了し、門が堅く閉じられるのを見届けると、赤坂はほっとする。そしてミストレアに説教を始めるのであった。

 


「カルロス隊長、俺達は何しに来たんすかね?」


「知るかよ。」


 まったく出番のないこの展開に、どーも納得がいっていないエルフ達であった。

 

 

◆◆


 近藤達は、ロンドガル国王とともにヨーレルを訪れていた。そして、進軍の停止を訴えていた。

 

 しかし、ヨーレルは国の決定事項としては進軍を禁じている。進軍はゼイルの勝手な判断によるもの。

 早急にゼイルへ進軍の停止を求める使者と軍を送っているが、それ以外は手の出しようがなかった。

 

 斉藤を現地に送るか。

 そう近藤が考えているところに、ゼイルの元へ向かわせていた使者が戻ってきた。

 

「全軍、撤退しているようです。また、首謀者のゼイルは魔王に食われたとの事です。」


「げっ。」


 近藤は斉藤や青森を見る。二人も呆然としていた。

 

 ロンドガル国王がその近藤を見る。その目は、ほんとにやったのかよ? と訴えていた。

 近藤はロンドガル国王と目があうと、すかさず首を振る。

 

「大変ご迷惑をおかけいたしました。まさか、本当に魔王がでてくるとは・・・ ゼイルの件につきましては、どのみち軍法会議で命令違反による処刑と決まっておりますゆえ問題はございません。」


 ヨーレル国王が、ロンドガル国王や近藤に謝罪する。

 

 近藤はちょっとだけほっとした。

 しかし、赤坂が向かったはず。なにをやったんだ・・・ しかも人を食うとか・・・

 

「もうちょっと詳しくわかりませんか?」


 斉藤が使者に尋ねる。

 

「我軍の侵攻に対して、魔王とその眷属と思われるドラゴン、ワイバーン、およびエルフなどが立ちはだかったそうです。そして、ドラゴンがゼイルをぱくっと。」


「「ドラゴン?!」」


 近藤は斉藤と思わず見合ってしまう。しかし、一斉に有り得ないと首を振り始めた。

 

 エルフについては、すでに報告があったので、納得できる。

 しかし、ドラゴンってどっから出てきたんだ・・・・

 

 そんな二人をずっと見つめるロンドガル国王であったが、この二人がここまで動揺するのは始めてだった。

 これはこの二人も知らない、なんらかの不慮の事態が発生したと考えるべきだろう。

 つまり、ボロが出る前に撤退するに限る。

 

「とりあえず、一度引き上げましょう。今回の後始末については、いずれまた。」


 そういうと、ロンドガル国王は近藤達を促して、部屋を早々に立ち去っていく。

 


 クルーザーに戻ると、斉藤が赤坂に連絡を入れる。

 

「赤坂か、斉藤だ。今大丈夫か?」


「あ、斉藤課長。大丈夫です。」


「ちょっと待て。」


 斉藤は、通信をグループモードに切り替えて、沖田達も呼び出す。

 

「よし、一体なにがあった?」


「実は・・・」


 赤坂は、これまでのことを話し始める。実験島にいるエルフがワイバーンやドラゴンと来たこと、そして一緒にヨーレル軍を止めにいったこと。

 

「ということは、そのドラゴンの暴走が原因か。」


「ええ、詰まるところ私の監督ミスですね。」


「とりあえず、その話は置いておくことにする。」


 その時、全員の頭に浮かんだのは、社長賞無くなったな、だった。そして、花子だけがそれを口にする。

 

「社長賞か、まあ無理だろうな。」


「みなさん、すみません。その代わり、私が招待しますから。」


「いや、それも無理だろう。それにおそらく休みはないぞ?」


「「え?」」


「減給については別途検討するが、今回の代償として休みの方はしばらくないと思ってくれ。」


 そして、沈黙のあと、沖田が口を開く。


「あのー斉藤課長。沖田ですけど、その件って俺と赤坂の責任ってことだけじゃダメですかね? 一応、俺って責任者ですし。」


「いや、自分も仲間っす。うけるっすよ。」


「しゃーないよね。沖田と赤坂さんだけってのは有り得ないし。」


「お前ら・・・」


「みなさん・・・」


 沖田と赤坂は、サスケと花子の申し出にちょっとだけ感動していた。持つべきものは仲間であると。


「プッ、ははははは。お前ら本当に分かりやすいな。斉藤もあれだが。」


 いきなり近藤部長の声が割って入ってきた。


「近藤部長?」


 斉藤も思わず笑っていた。


「ああ、俺だ。休みも取っていいし、減給もしない。ただ、社長賞だけは微妙だがな。」


「「ありがとうございます!!」」

 

「あと、社長賞がでなくても、そんときは今回の特別報酬を出すから、それで行ってこい。ハワイ行くんだったろ?」


「「ありがとうございます!!」」


 とりあえず、通信をきると、斉藤は近藤に頭を下げる。

 

「いや、斉藤。気にするな。今回も結果だけ見たら、最良の結果だ。当然だろう。」


 改めて頭を下げる斉藤だった。

 

「なあ、斉藤。沖田は成長したな。例の件だが、考えておいてくれ」


「・・・分かりました。」

 

◆◆


「あー、あれが中央砦か。」


 中央砦は南砦より若干小ぶりだった。

 ここは元からチャーズの領内であり、チャーズは攻めることだけを考えていたようで、守るという考えが希薄だ。なので、ここは重要拠点のはずだが、その割にはしょぼかった。

 

 とはいえ、ここが砦であることには変わりはない。

 

「大体、5000ぐらいの兵が詰めいているはずですが、その殆どが正規兵のようです。おそらく戦力は南砦よりちょっと落ちるぐらいと考えていいでしょう。」


 ローレイが説明する。

 

 今のこちらの戦力は、俺と花子、それにレジスタンスが4万ほど。赤坂とサスケはまだ戻っていなかった。

 

 そして、幸いなことに、ドルセア将軍達の援軍もまだ到着していないようだった。

 

「さて、どうするかね。」


 とりあえずは連合軍の到着を待ちたいところだ。しかし、ドルセア達援軍が先に到着した場合、逆にこちらが攻められる可能性もある。先に攻めるか、連合軍を待つか、悩みどころだ。


「やるっしょ?」


「いや、花子。やるって、どのぐらい被害がでるか分かってるか?」


 あの砦に対して、4万の兵というのは十分な数だろうとは思う。しかし、その大半は農民兵であり、この先補充も期待できない。なので、極力被害を抑えるような戦い方をする必要があった。そして、最悪連合軍が遅れた場合には、ドルセア達援軍が到着するまでに決着をつける必要もあるのだ。


「え? あの門ぶち破ればいいし。」


「お前があの門を壊しに行くの? さすがに死ぬよ?」


「いや、行くのは沖田だし。」


「意味わかんないんだけど?」


 こいつは何を考えてるんだ? というか、絶対何も考えていない。

 

 ちょっとしーちゃんに相談してみるか。

 

「あ、しーちゃん。沖田だけど、今いい?」


 しーちゃんに状況を説明して、アドバイスを求める。

 

「まず、援軍が来る以上は、その前に決着をつけるべきでしょうね。よって、連合軍を待つという選択肢は悪手だと思います。戦闘の規模が大きくなればなるほど、被害の規模も大きくなりやすいですから。また、今の状況だと、手としてはやはりトロイの木馬が思いつくんですが、今回は木馬に相当するものがないんですよね。」


「だよねえ。」


「とすると、あながち三村さんの案も悪くないかと思います。魔法って手もありますしね。」


「待てよ、おい。魔法で門をぶち破れって? 赤坂はまだ戻ってないんだぞ?」


「ええ、中から開けるか、外から開けるかの違いです。それに魔法なら距離も置けますから比較的安全です。大丈夫、沖田さんならできますよ。」


「お、俺かよ・・・ うーん、当てる自信がない。」


「なら、当たるまで、打ってみせよう、ホトトギス、ですね。どの道、敵の援軍が到着するまでが勝負です。現在の状況から考えるに、最善の手かと思います。」


 なんか、良く分からんが、俺が魔法で門を破ることになった。

 注意するのは石弓だけだったので、これは花子が打ち落とすことになった。なので、俺と花子の二人でいくことにする。

 そのほかは、突入準備をしてもらう。

 

「ちなみに、敵が出てきたらどうするの? 流石に、あたし一人だと20人ぐらいが限界なんだけど?」


「その時は、門も開いてますから全軍で門めがけて突入ですね。もともと門を開くのが目的ですし。まあ、出てくることはないとは思いますが。」


 ローレイが苦笑しながら答える。


「あ、そっか。」


 花子、目的は俺の魔法で門を破ることじゃないぞ? 門が開くなら、なんでもいいんだぞ?


 

 とりあえず、30mぐらいまで近づいてみる。矢が飛んでくるが、まったく当たる気配はないし、当たってもたいしたことはない。

 まずは1発目。

 あ、ダメだ。ぜんぜん方向があってない。やっぱり遠すぎるようだ。

 

 次に20mぐらいまで近づく。矢はたまに当たるが、まだどうって事はない。石弓も飛び始めており、当たると痛そうだがこれは花子に任せる。

 で、結局魔法も当たりそうで当たらなかった。

 

 しょうがない。10mぐらいまで近づくことにする。これはさすがに当てる自信があったが、思ったより矢や石弓で気が散ってダメだった。

 

 結局20mぐらいで狙うことにする。

 撃ってみる。ダメだ。 次。ダメだこれは。

 門に当たらなくても、壁を壊すのもありだと思うが、流石に一撃で壁は壊れない。そして、同じところに何度か当てることができれば壊れそうだが、そもそも、同じところに当てるコントロールは最初からない。そんなものがあったら、とっくに門に当ててるし。

 

 ちょっと出力を落としてコントロール重視でやってみる。

 あ、当たった。けどさすがに門は壊れない。やっぱ、出力たりないか・・・

 

 どうも、魔法の出方が均一にならないので、曲がってしまっているようだ。

 これって、なんとか方向を制御できないもんかね?

 

 しばらく考えていると、ふと銃を思い出す。

 あれって、バレルで方向を制御して命中立を高めているんだよな。ってことは、手をバレルにしたらいけるんじゃないか?

 両手を合わせてチューリップの形を作る。この指で方向を制御できれば・・・

 

 両手をチューリップの形のまま差出し、方向を決める。

 そのままファイアを撃つ!

 

 ドカンという音とともに、門が吹き飛んだ。

 

「沖田、それってか○は○波?」


 うん、その発言はまずいな。って、俺の指がものすごく熱かった。さすがにファイアを指で制御するってのは無理があった。

 あわててフリーズを遣って指を冷却するが、こんどはかじかむぐらい冷たい・・・

 

「突撃せよ!」


 俺がうなっている間に、ローレイが出撃の号令をかけていた。あわてて走り出す花子。

 俺も、かじかむ指で盾を何とか掴み、剣を抜く。あ、かじかんで剣を落とした。あわてて拾いしっかりと掴みなおすと、その後を追って門に向かって走り出す。

 

 俺が到着するころには、戦闘は始まっていた。

 しかし、門が破られることはないという安心感からか、砦の兵達は防具すらつけていないものも目立っている。

 そもそも、奴らからしたら、戦闘そのものが本格的に始まったという実感すらなかっただろう。この砦にしてみれば、まずは砦の壁をはさんでの戦闘をして、その後に本格的な攻城戦という意識でいたはずだ。いきなり扉を魔法で壊すというのは、有り得ない話だった。

 しかし俺達にしてみれば好都合で、この状態であれば農民兵であっても十分に戦える。というより、あっという間に戦闘が終わっていた。

 

 こうして、相変わらず良く分からないうちに、中央砦も落ちていた。

 

 

 中央砦が落ちた後、まず赤坂が合流した。

 もちろん、ミストレアも一緒だ。山に捨ててこいよ、と思う。マジで。

 

 そして、その後しばらくしてサスケ達も合流してきた。

 サスケとレオールには、ミルトア率いる1000の兵が同行していた。

 

「ローレイ王子、お久しぶりでございます。ご無事でなにより。」


 ミルトアはローレイの前に進み出ると、ローレイに最敬礼をする。


「ミルトア、良くぞ生きて戻った。まさに神に感謝する。」


 赤坂や花子が俺を見る。いや、神に反応するのマジで止めろや。

 

「どうしたっすか?」


 花子がサスケに説明する。

 

「ああ、そういうことっすね。」


「え?驚かないの?」


「いや、普通の人は魔王と1対1で戦うとかないっすから。」


「それってほんとなの?」


「まじっすよ。斉藤課長とか近藤部長とかも見てるっす。」


「うわ、神はんぱねーわ。」


 花子、みんなに聞こえてるんだが・・・

 

「どっちかっていうと、スサノオノミコトかオオクニヌシノカミのどっちか迷ってたっすよ。」


 サスケ、そこは迷うな。どっちでもないぞ?

 

「あの戦闘力からして、スサノオノミコトってのは十分納得できるっす。」


 いや、そこは納得するところじゃないんだが。

 

「ほう、沖田殿はそういう生まれであったか。」


 なあ、レオールの爺さん、あんたは常識人じゃなかったのか? つうかスサノオノミコト知ってんのかよ?!

 

 そんな感じで、ローレイとミルトアの感動の出会いを尻目に、その脇では変な話で盛り上がっていた。

 


◆◆


 中央砦付近に辿り着いたドルセアが見たものは、レジスタンスに占拠された中央砦だった。


「間に合わなかったか・・・」


 それにしても、早すぎる。南砦といい、中央砦といい、それなりの防御はしていたはずだった。それなのに、どちらも1日とかからずに落とされているのである。これは常識的には有り得ないことだ。そこから導き出される答えは、レジスタンスの戦力は常識を超えたものであるということだ。

 

 後ろに控えるチャーズの5万の兵。常識でいえば、レジスタンスの4万の兵には負けることはありえない。

 しかし、そういった常識が崩れることが、すでに何度も起きているのであった。逆に5万程度の兵で奴らに勝てるのか・・・

 

 そんな思いを持ちながら、ドルセアは中央砦と首都の間に最終防衛線を準備させていた。

 

 

◆◆



 その夜、俺達は最後の決戦に向けて作戦会議をしていた。

 もちろん、ミストレアも居るが、俺の近くには来ないように赤坂が見張っている。

 

 ドルセア将軍が率いると思われる軍は、中央砦の防衛には間に合わなかった。しかし、現在ここと首都の間に防衛線を着々と準備していた。

 

「まず、敵の戦力っすけど、大体5万ってとこっすね。」


「うむ、5万か。思ったよりも少ないな。もはや兵は残っておらんようだ。」


 レオールの言葉にサスケがうなずき、話を続ける。。

 

「おそらく、殆どが農民兵っすね。正規兵がもっといるかと思ったっすけど、おそらく正規兵は1万ぐらいしかいない様子っす。」


 正規兵と農民兵は装備が圧倒的に違うので、見れば一発で分かる。


「まあ、ここが落ちた時点で、かなりの兵が逃げ出しているだろうとは思ったが、それしか残らんのか。もっとも、正規兵自体も、かなり減ってるとは思うが。」


 ミルトアがあざけるように言う。

 

「落ちぶれたものよの。」


 艘つぶやくレオールは、悲しそうにも見える。自分が育てた軍がそこまで落ちているという事実は、たとえ敵となっても悲しいものだろう。

 

「しかし、農民兵は国の復興には不可欠。できれば敵といえども傷つけたくはないのだが。」


 ローレイは戦いに勝つことだけでなく、すでにその後の復興も見据えている。

 

「じゃあ、だめもとで魔王呼ぶっすかね。」


 エルフ達が一斉に赤坂を見る。

 

「私のことじゃありません・・・」


 エルフ達が首をかしげている。これで赤坂も、神とか言われ続ける俺の気持ちが分かることだろう。

 

「なんか手があるのか?」


「ええ、これっす。」


 サスケはプロジェクターのようなものを取り出す。電源を入れると、そこには魔王が立っていた・・・ でも・・

 

「フォログラフィとかプロジェクトマッピングとかの応用っすね。大きさは結構自由に変えられるっす。今回は全長10mぐらいっすかね。」


「「なんだと・・・」」


 俺達以外の全員が絶句していた。多分、サスケがなにを言ってるのか分からなかったはずなので、驚いているのはその技術ではなく魔王そのものだ。

 

「ちなみに、本物ではないっすよ。」


 サスケが周りの反応にフォローを入れたので、一斉にほっとする。しかし、俺にも本物に見える。すくなくともベースは本物の魔王だ。 ああ、これは本物だ・・

 

「スモークを炊いて、そのスモークに投影するっす。スモークの効果もいい感じで、テストではばっちりだったっすよ。」


「これって、やるなら夜だよな。」


 さすがに、昼間だとバレバレのような気がする。

 

「そうだよね、夜の方が魔王感があっていいんじゃない?」


 花子、その魔王感ってなんだ?

 

「じゃあ、今晩やるっすか。」


「これで、農民兵達が逃げ出してくれればいいのだが。」


 ローレイが心配そうに言う。


「そこはこちらでもフォローしましょう。」

 

 ミルトアになんか策があるようだ。そこは任せよう。

 

 こうして、魔王出現の準備が始まった。


場面の切り替わりが多くてすみません。なるべく分かりやすいようにはしたつもりですが、いかがだったでしょうか。こういうレイアウトとか構成は難しいです。

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