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29話

■29話



 スパイに対する対応は、斉藤課長達とも相談してすでに決まっている。

 まず、青森さんがスパイに接触する。そして、俺達の戦力を誇張して伝える。これでビビッてこの島をあきらめてくれれば問題ない。

 しかし、それでも攻撃してくるようであれば、その時は徹底的に迎撃することになる。

 

 それと、できるならチャーズについての情報も、多少なりとも入手しておきたいところだ。もっとも、あちら側も俺達同様にガセネタを流してくることも十分ありうるのだが。

 

 

「沖田さん、スパイですけどすっかり信じ込んでましたよ。」


 青森さんから連絡がはいった。うまくいったらしい。

 

「じゃあ、戦闘は回避できそうな感じですかね。」


「いや、それについてはちょっと難しいかもしれません。スパイはやりたくなさそうですけど、判断するのは上層部ですからね。」


 まあ、それはそうだ。戦闘することを前提としているなら、まず相手の戦力を確認して、その後弱点などを調べるのが一般的だろう。弱点とかの情報は流さないけど。

 

「で、スパイですけど、ビーコン持たせましたのでしばらく泳がせておきます。おそらく、例の場所に向かうと思います。」


 サスケがレーダーにビーコンが表示されるのを見ながらうなずく。


「ええ、ビーコンを拾えているのを確認しました。」


 さて、スパイについては、しばらく監視させてもらうことにしよう。

 

「あ、そうそう、沖田さんて魔王を召喚できたりしましたっけ?」


「は? できるわけないでしょう。何言ってるんですか。」

 

 青森さん、俺は何者ですか?


「やっぱそうですか。いや、なに、勇者は魔王を召喚できるので、この島の防御は完璧とか、思わず言っちゃったもんですから。でも、本当にできたりするかもと思ったので。」


「あ、召喚だけだったら、できると思うっすよ。」


「はあ? どうやってやるんだよ。」


 サスケ、お前は一体何者だ?


「いや、本物である必要はないっすよね。そもそも、本物見たことあるのって、殆どいないっすよ。」


 まあ、そうだろう。おそらくブラックシャドウと俺達、それに上位の冒険者達のごく一部ぐらいではないだろうか。

 

「誰かが偽魔王になるってことか?」


「ええ、そうっす。」


「それ、すぐばれないか?」


「まあ、かもしれないっす。でも、結局魔王ってインパクト勝負っすよ。」


 なんか良く分からないが使えるかもしれないので、とりあえずこの件はだめもとでサスケに任せることにする。

 

 

「という感じです。」


 俺とサスケ、青森さん、しーちゃんは、事務所で島根さんからの報告を聞いていた。

 

「順調と考えていいんですかね。」


「ええ、結果として出せるのはしばらく先かとは思いますが、手ごたえは十分という感じです。」


 触手コンビの二つ名を持つだけはあった。テストレベルでは、麦のような食物の生産量が2倍以上に跳ね上がっているという。また、連作障害についても、すでに対応プランが出来ているという。

 

「まずは、リザードマンの村で実験始める予定です。これがうまくいったら、次は塩害対応と寒冷地仕様ですかね。」


「まあ、大変な作業ですけど、気楽にいきましょう。」


 基本的に植物というのは塩分が多いところでは育たない。しかし、この世界は海に面した土地が多いため、そこを有効活用できると食料の生産が飛躍的に増える可能性があった。

 また、ローネシア大陸は暖かく農業に向いているのだが、ルイーネ大陸の北側はかなり寒く、結構な面積の土地が農業には向いていない。そこについても有効活用できると、やはり食料の生産が増える。また、ローネシア大陸とは違ったものができる可能性があるため、食生活に多様性がもたらされる可能性もある。

 

「ところで、教授は学会ですよね。」


「ええ、事前準備などもありますので、しばらくは戻ってきません。こちらの実験については最初の山は越えてますから、しばらくは不在でも問題はないです。」

 

 入り口の方で音がして、赤坂と花子、それにジュリアが入ってくる。

 

「あ、沖田さん。今よろしいですか。」

 

「こっちは終わったから大丈夫だけど、なんかあったか?」


「ええ、先日の森での件です。」


「エルフ達の森?」


「なんかあったかい感じとかいう話があったじゃないですか。」


「ああ、そんな話あったな。」


「あれなんですが、どうも魔力の泉というものが関係しているようです。」


「魔力の泉?」


 赤坂がジュリアに話を促す。

 

「私達エルフの森には、魔力の泉といわれるものがありましゅ。」


 あ、かんだ。でも、俺って優しいからスルーしてあげる。


「それは何、魔力が溜まっているところってこと?」


「ええ、実際に泉でもありますが。」


「へー。じゃあ、泉の水にも魔力があるって感じなのかね。」


「その通りです。」


「ってとこはさ、MPつうか魔力が切れても、その水を飲んだら、魔力が復活するってこと?」


「いえ、おなかを壊します。」


 なんじゃそりゃ。

 

「沖田さん、使えるかどうかはとにかく、一度調査してみる価値はあると思いませんか。」


 赤坂は、ものすごく行きたそうだ。ちなみに、エルフの村からさほど遠くない場所らしい。ということは、比較的安全な場所と考えていいだろう。

 

「じゃあ、調査してみようか。っていっても、俺とサスケは動けないから、赤坂達に行ってもらうしかないか。」


「すみません、自分も興味あるので参加させてもらう訳にはいきませんか?」


 島根さんが、静々と手を上げる。


 そういえば、島根さんには村への農業指導などの用途で専用の車を渡していた。

 

「じゃあ、島根さんの車で行ってもらうということでいいですか。」


「よし、善は急げね。さっそく行こうか。」


 花子が部屋をでようとする。

 

「ちょっと待て。すぐ行くのか、って行けるのか。」


 俺は島根さんをみる。

 

「じゃあ、車を回しますので、10分後に入り口集合ってことでいいですね。」


 なんだ、こいつらは。準備とかそういうものはないのか・・

 

「あ、準備とかはもう完璧です。島根さんの車が使えるなら、今日の夕方ぐらいまでには戻れると思います。」


 赤坂が俺の心を読む。その上、準備終わってるとか。

 

「じゃあ、念のために長老に調査の許可は取っておいてくれ。」

 

 10分後、俺とサスケ、しーちゃんは、見送りということで入り口にいた。青山さんは、早速リザードマンの村へ行っていた。

 

 すぐに実験ドームの方から、車が来る。

 

 ・・・なんだアレは。

 

「ずばり、痛車っすね・・・」


 そう、某アニメの痛車だった。赤坂と花子、それにしーちゃんもさすがに固まっている。

 一応社用車扱いなんだけどな、これ・・・

 

 島根さんは、俺達の視線がその車に向けられていることに気付く。

 

「あ、これですか? 田中さんから許可は頂いていますけど?」


「「「田中・・・」」」


 しーちゃんは知らなかったらしい。しってたら、あの反応はしないだろうし。

 赤坂達が乗り込むと、車は出発していった。

 

 

◆◆

 

 チャーズの誇る5将軍の一人、ドルセア将軍は、イライラした様子を隠せなかった。

 

「食料が無くては、戦争など出来ぬ。なぜそれが分からんのか。」


 しかし、問い詰められている男、トイツー大臣は意にも介さない。

 

「ヨーレルの砦一つ落とさずに、なにを申されますかな、ドルセア将軍。」


 ドルセア将軍の顔が、さらに赤くなる。

 

「攻城戦は、守りの3倍の戦力を持つのが定石。1万に対して2万の兵でどうせよと。しかも2万のうち、1万5千は農民兵ですぞ。」


「それを何とかするのが、将軍のお仕事では?」


「トイツー、貴様・・・」


 トイツー大臣は、ドルセア将軍を無視し、上座に座る男に向かう。

 

「ウーロンロン大統領閣下、内政を預かるものとして申し上げます。確かに食料不足といえる状況になりつつあります。これは例の島への侵攻を前倒しすべきではござりませんか。」


 トイツーを見ながら、ウーロンロンはうなずく。

 

「たしかに、食料の不足は民に混乱を招く。そして食料の入手には、新しい領土を得るのが手っ取り早いのも確かである。しかるに、侵攻の準備はどうなっておるのか。」


「お待ちください、大統領閣下。」


 ドルセアが立ち上がる。

 

「現在、我が国はヨーレル、北の魔物の2面での戦闘をしております。この上さらに戦線を広げるおつもりか。」


 チャーズは戦闘国家として知られ、その軍は100万とも言われていた。しかし、実際には60万を下回る程度であり、その大半は農民兵であった。戦闘規模が広がれば、兵として借り出される農民の数は増え、その結果さらなる食料難を生む。

 

「我らは選ばれし民である。ゆえに、迷える者共を統治する使命がある。よって、それらを統治し、そのもの達には供物をささげさせればよい。」


 ウーロンロンの言葉に、ドルセアは顔を歪ませる。

 

「ドルセア将軍、そなたの使命はヨーレルの砦を落とすこと。行くが良い。」


 ウーロンロンに退場を促され、ドルセアはウーロンロンに礼をすると足早に部屋を出た。

 

「こいつら、狂ってやがる・・」


 閉められたドアの向こうに向かってドルセアは吐き捨てるように言うと、きびすを返して自分を待つ戦地へと足を速めた。



 ウーロンロンが部屋を出ると、トイツーは下座に控えていた一人の武人を呼ぶ。

 

「パーコー将軍補佐、これへ。」


「ははっ。」


 パーコー将軍補佐といわれた男がウーロンロンの前へ進み出る。

 

「島への侵攻は、この者にお任せいただければと。」


 トイツーが大げさに礼をする。

 

「うむ、パーコー将軍補佐、よろしく頼むぞ。」


「ははっ。すでに島へはスパイを潜入させております。準備が整い次第、島への侵攻を成功させてご覧に入れます。」


「まかせたぞ。吉報を待っておる。」



◆◆

 

 チャーズのスパイは島の中央に向けて移動していた。

 この島に上陸できたのは3名。そのうち2名は、北の森で魔物に襲われ死亡していた。

 

 海岸沿いの村では、疑うことを知らない村人がいろいろな情報を漏らしてくれた。それによると、この島には強力な軍隊がいるらしい。そして、この島を治める勇者は魔王すら召喚するという。

 

「とんでも無いところに来ちまった。」


 しかし、ここの住民はまったく疑うことを知らないのか、ご丁寧に地図までくれるとは。そのおかげで迷うことなく目的地までこうして移動できるのだが。

 

 ふと、向こうから猫人族の男がやってくるのに気が付く。

 

「この辺では見ない人だね。」


「ああ、商売で来ている。」


 商人のカッコをして、大きな荷物を背負っている。疑われることはないだろう。もっとも、この荷物には通信用の鳩が入っているのだが。

 

「すまんが、町はこっちで間違いないだろうか。」


 地図で知っているが、念のために知らないふりをしておく。

 

「ああ、この先だ。魔物とかはでないから安心していい。」


「すまないな。助かる。」


 何の疑いも持たずに、猫人族の男は去っていった。

 すでにここまでに入手した情報は、鳩を使って送ってある。そして、最後の目的地となる町で最後の1羽を使う予定だ。

 しかし、北の森を出てから、まったく魔物や盗賊にはあっていない。チャーズに比べれば狭いとはいえ、魔物が排除されているということは、やはりそれ相応の軍はいると見るべきだろう。そして、この道の完成度にも驚く。これだけの長さの道を作るのは、相当な労働力を持っているということである。この島は侮れない。

 

 そろそろ着くはずだが、まったく町は見えていなかった。だが、町があるはずの場所に一人の男が立っていた。

 あの男に聞いてみようと、近づいていく。

 

「すまんが、町はこっちでいいのかね。」


「ああ、ここが町っす。」


「なんだと? 何もないぞ?」


「そうっす。何もないっす。」


「バカにしているのか?」


 思わず、隠していた剣を抜きそうになるが、すんでの所で思いとどまった。

 しかし、その男は笑っていた。

 

「ええ、バカにしてるっすよ。まんまと罠にはまるようなスパイは特にっす。」


 ひょっとすると、あの地図は罠ということか。そして、重要なものは見せないルートを取らされた。

 今度は剣に手を伸ばす。が、剣を触ることは無かった。

 

 そして、スパイはそのまま崩れ落ちるように倒れていった。

 

 

「沖田さん、ただいま戻りました。」


 赤坂達が魔力の泉から帰ってきた。

 

「お帰り。どうだった。」


「凄いのなんのって、もう最高!」


 花子がやったらとうるさい。

 

「魔力については自分には分かりませんでしたが、幻想的なところでしたね。あとサンプルも入手してきました。」


 島根さんが、ピンに入った液体を見せる。

 

「おそらく、魔素が液体状になったものだと思います。泉の付近は、ちょっと気持ち悪くなるぐらいの魔素で満たされていましたから。念のため解析班にも確認してもらいましたが、かなりの濃度の魔素でした。あと、人体に影響のあるようなガスなどはないそうです。」


 赤坂が気持ち悪くなるぐらいの魔素って、ちょっと怖いな。それと、ガスとかって存在を忘れてた・・・ 赤坂に行ってもらってよかった。

 

「あと、かなりの数の精霊がいました。魔素と精霊というのは結びついているみたいですね。」


 精霊が魔素を作るとか、そういうことだろうか。それとも、魔素に引かれて精霊が集まる? うん、わからん。

 

「じゃあ、これはあたしが解析班にもっていくね。」


「花子、よろしく頼む。」


 花子はビンを持って、部屋を出て行った。


「自分もリザードマンの村での実験の準備に行きます。」


「あ、私も手伝います。」


「すみませんね、島根さん、ジュリア、よろしくお願いします。」


 手を振りながら。島根さんとジュリアも部屋を出て行く。ジュリアは最近島根さんの手伝いをよくしている。森と農作物って似てるようだ。どっちも植物だしな。

 

「そういえば、サスケは?」


「ああ、スパイを捕まえに行ってる。」


「スパイ?」


 赤坂にスパイの件を説明してやる。

 

 そうこうしているうちに、サスケが戻ってきた。

 

「ご苦労、スパイは?」


「地下牢に閉じ込めてあるっす。」


 そう、この事務所、いや城には地下牢もある。地下牢といっても、見た目は昔ながらの地下牢だが、6畳ほどの広さで個室トイレと水道つき。しかもお湯も出てしまう。さすがに風呂はないが。これってこちらでは有り得ない仕様だが、一応会社のコンプライアンスや人権云々の関係上、こうすべきなのだそうだ。正直、よくわからん。

 それに、牢に個室トイレってやばそうな気もするが、真田課長いわく、壁を壊すことも鍵を開けることも不可能であるので、問題ないそうだ。

 

「じゃあ、先に荷物の方を見てみるか。」


 サスケが持ち込んだ、スパイの荷物をチェックしていく。

 

「まずは連絡用の鳩っすね。のこり一羽のようっす。あと、地図はこちらで用意したものではないっすね。手書きで写したものっぽいっす。なんで、オリジナルはチャーズに送られていると考えていいっすね。」


 地図を渡すというのは、青森さんの考えだった。当然、正確な地図ではなく、こちらの罠である。この地図だと、上陸できるのは数箇所だけとなり、こちらの対応がしやすくなる。

 

「武器っすけど、思ったよりは質が悪いっすね。これだとうちの中級装備あたりだと歯が立たないっすよ。初級でも切れるかどうかあやしいっす。」


 その他、チェックしていくが、目ぼしいものは無さそうだった。

 

「あったっす。」


 サスケが持っているのは暗号表である。泳がせていた理由はこれだった。

 鳩による通信をしているため、途中で鳩が死んでしまうなどの理由で、漏れたときに備えておそらく暗号化して送っているはず。であれば暗号表は持っているだろうという推測だった。

 まあ、暗号文そのものだけを入手しても、コンピュータで解析すればすぐ分かるのだが、できれば暗号表があったほうがいい。それに飛ばした鳩のうち、何羽かはこちらで回収済みなので暗号化された文書も入手済みである。あとは暗号表が使えるかどうかを確認するだけだった。

 

「じゃあ、確認してくるっす。」


 サスケが自席に向かう。

 

「沖田さん、こちらも魔法の練習しましょうか。」


「え? これから?」


「ええ、スパイの尋問は暗号の解析が終わってからですよね。なら当分暇のはずです。」


「いや、赤坂。お前疲れてるだろう?」


「車に乗ってるだけでしたから、別につかれてませんけど。」


 そのまま、赤坂に引きずられるように、魔法の練習に向かうことになった。

 

 

「じゃあ、魔力のコントロールから再開します。火をだしてください。」


 エルフの村から戻ってからというもの、暇を見ては赤坂に魔法の練習をさせられていた。

 とりあえず、火、水、雷、氷、などの属性魔法、それに回復が使えることは分かっていた。

 

 俺は手の平を上に向けると、そこに火を出す。


「うわっ」


 いきなり、1mほどの火柱が上がった。そう、一応使えるのだが、コントロールがまったくダメだった。

 

「もうちょっと、とろ火をイメージして。」


 もう一度やってみるが、今度はなぜか2mぐらいの火柱が上がっていた。

 

「なんででしょうね・・・」


「なんでだろうね・・・」


 何度か繰り返すが、とろ火には程遠く、すべて火柱といえるものだった。

 

「じゃあ、攻撃の方やりましょうか。」


 あきらめたように、赤坂が的の準備を始める。

 

 的は週刊の漫画雑誌ぐらいの大きさのもので、3mほど離れた場所に設置してある。

 

「じゃあ、良く狙ってください。」


 俺は、狙いを定めてファイアを放つ。

 

 右下に外れた。

 

 もう一度。

 

 今度は左上に外れた。

 

「3mで外すっていうのも、ある種の才能かもしれませんね・・・」


 3mぐらいで外すというのは殆どいないそうだ。しかも、その殆どに含まれるのは俺だけである。

 

「でも、回復は得意だぞ。」


 回復は手の平をかなり近づけて使うことが多いので、外れることがなかった。

 

「そうですね。でも、戦闘中には使えませんよ。」


 そう、戦闘中の回復は、離れた場所にいる仲間に向かって放つことが多い。むしろ、前衛の俺が、誰かと隣り合わせとか有り得ない。この場合は当然のこと、コントロールが必要だ。

 

「で、でも・・自分には使えるし・・・」


「自分だけ助かるつもりですか?」


 赤坂がジト目だ。

 

 視線に耐え切れなくなり、5mぐらいの火柱を出す。なぜか、このぐらいだと意外とコントロールできた。

 

「なんで、そんな火柱を出せるんですかね。」


 赤坂が首をかしげる。どうも、普通の人はとろ火ぐらいを簡単にだせるらしい。反対に5mとかを出せるのは、それほど多くないそうだ。俺の周りだと、赤坂、静岡さん、それに他数名とのこと。

 

「ひょっとして・・・」


 赤坂がなにかを思いついたように、インカムで話始めた。

 

「分かりました! やはり、沖田さんは出力が大きすぎて、細かいコントロールが安定しないようです。」


 解析班に連絡して、俺の練習している録画を解析してもらったそうだ。その結果、俺の魔法の出力はちょっとおかしい数値がでていたらしい。つうか、あっというまに解析できるとか、解析班優秀すぎるだろう。

 簡単に説明してもらうと、通常の蛇口だと、小さなコップに水をこぼさずに注ぐことは簡単にできる。しかし、直径が10cmぐらいある蛇口で小さなコップにこぼさないように注ぐのは難しい。その代わり、どわっと水を出す分には逆に安定するということらしい。

 

「じゃあ、あきらめた方がいいのか?」


 俺はちょっと安心する。

 

「いえ、コントロールしやすいところでやればいいだけです。」

 

「それだと的がすぐなくなるぞ?」


 この火力だと、一瞬で的が蒸発するぐらいの威力がある。


「そこは私が的に障壁を使います。私の練習にもなるので一石二鳥です。」


 結局、逃げられないようだ。

 

「それに、逆に考えれば、単体魔法ではなく、範囲魔法の方が使いやすいということです。」


 ああ、なるほど。 範囲なら狙う必要はないな。それに出力は十分ある。

 思わず、うなずいてしまった。

 

「ということで、追加で範囲魔法の練習もします。」


「ま、マジかよ・・・」


 それから赤坂先生による魔法の授業が、俺のMPが切れるまで続けられた・・

 

 

 結局、スパイの尋問は翌日になった。

 暗号については、暗号表が問題なく使えたそうだ。これは斉藤課長に報告してある。そのあと、評議会に渡すかどうかは任せてしまう。

 それと、意外とこのスパイは真面目に仕事をしていたとのこと。回収済みの鳩が持っていたのは、結構ちゃんと調べた報告だったそうだ。そのかわり、殆どが俺達の流した嘘情報満載だったのだが。なので、問題ない部分はそのままチャーズに送っておくことにした。


 スパイは牢のなかでそわそわしていた。普通、びびるよな、しかもこんな意味不明な牢だし。というか、こいつトイレに座ってる。椅子だと思ってるのだろう。

 

「よう、どうだい。」


 俺が声をかけると、あわててこちらを向く。

 

「どうなってるんだ、ここは。」


 あ、びびってる、びびってる。

 

「いや、見たそのままだが?」


「これは宿屋か? なら、なんで牢のような格子がある。」


「いや、それ牢だから。さすがにスパイを宿には泊めないし。」


 スパイは納得したような、していないような、微妙な表情をする。

 

「ん?沖田さん、あの首。」


 赤坂が指差したスパイの首には、隷属の首輪があった。

 

「お前、奴隷なのか?」


「そんな訳があるか。」


「じゃあ、赤坂頼めるか。」


「ちょっと準備してきますね」


 赤坂が解除装置を取りにいく。

 隷属の首輪をしている状態で口を割らせると、ひょっとして死んでしまう可能性も考えられるので、外してから聞き出すことにする。

 

「どうするつもりだ・・・」


 さらにびびってる。まあ、そうだなろうな。

 

「安心しろ、それを外してやる。」


「ばか、止めろ。まだ死にたくない。」


 もう、びびりまくってる。隷属の首輪は無理やり外すと死ぬからな。

 

「いや、ちゃんと外すぞ? それに外した実績もある。 大体、なにも聞き出さずに殺すわけないだろ?」


 スパイは信用していいのか、悪いのか、判断付かないという微妙な表情だ。


 赤坂が戻ってくると、念のために俺とサスケで押さえつけて、首輪を外してしまう。この隷属の首輪は、奴隷商人が使っていた物よりつくりが簡単だったようだ。なので春さんに頼むことなく外すことができた。

 

「な、なんで外せるんだ・・」


 俺に聞くな。俺もわからん。


 とりあえず、首輪を外したところでいろいろ質問をすると、あっさりと質問に答え始めた。

 まず、このスパイはもともと農民だそうだ。で、その素質があるとのことで無理やりスパイにされたらしい。

 首輪については、スパイは逃げやすいので逃げ出さないようにするためだそうだ。それと、場合によっては家族とかが人質にとられたりもするらしい。だったら正規兵を教育しろよ、と思うが、スパイは損失率が結構高いらしく、割りにあわないそうだ。

 

 そのほか、赤坂がお茶をだしたのが決定的だったようで、チャーズについてもいろいろと話をしてもらった。

 何度かつかまったことがあるようだが、首輪はともかく、お茶がでたのは初めてだったそうだ。カツどんとかだしたら、どうなっていたのだろうか。次に機会があったら、試してみようと思う。当然、例の歌つきで。

 

 まず、チャーズは共和国を名乗っているが、一部の特権階級による独裁というのが実情らしい。で、トップはウーロンロン大統領。民衆からの支持はまったくなく、圧政による統治という絵に描いたような悪党らしい。この辺は事前情報とマッチする。

 

 この島への干渉については、チャーズは海軍で攻める準備をしている。これも予想通り。周りは海だし。

 で、海軍の規模はおよそ2万。これは海軍総出とのこと。ちなみにこっちの海軍は大砲を打ち合ったりするわけではなく、敵の船に乗り込んでの攻撃や、海から上陸しての戦闘などが中心らしい。早い話が、船を使える陸軍ということみたいだ。

 あと、陸軍は農民兵が多いが、海軍は正規兵のみで構成されているとのこと。なので結構強いかもしれない。

 

 それと、チャーズはヨーレルとも戦争中とのことで、こちらは硬直状態らしい。この軍を率いているのが、5将軍の一人、ドルセア将軍とのこと。5将軍っていうのは、チャーズの有名人のようだ。でも、実際には3人しかいないとのこと。

 

 それと、北には魔物が結構いるようで、ここも戦闘が続いているようだ。こっちはミルトア将軍って人が軍を率いているらしい。

 でも、ヨーレルとの戦争や、北の戦闘についてはよくはしらないみたいだ。

 

 ついでに、本当にチャーズには100万の兵がいるの?って話には、いるわけないだろうと即答していた。多く見積もって60万、そのうち40万ぐらいは農民兵だと思う、とのこと。でも、40万も農民を駆り出したら、農業大丈夫なんだろうか、と人事ながら思ってしまう。実際、食料難はけっこう酷いらしい。

 

 そのほか、チャーズの国の町の配置とかも、知ってる範囲で教えてもらった。

 

「で、このあとどうする? 村に帰りたいなら、送るけど? その代わりここでの記憶は消させてもらう。」


 実は、真田課長謹製の、記憶消去装置なるものがあった。試作品ってのが気になるが。


「いや、村には帰りたいが、今もどってもすぐスパイに逆戻りになる。下手すれば、処刑されかねん。できればこの島にいたいのだが。」


 一旦牢を離れて、斉藤課長達に相談したところ、逃げる方法も外部と連絡を取る方法もないのだから、周りで監視してれば問題ないだろうということだった。よって、リザードマンの村で農業をしてもらうことにする。あそこなら、子供でもこのスパイより強いから、あばれたとしても問題ないだろう。

 

 後日、念のためにスパイにはビーコンを付け、青森さんにリザードマンの村へ連れて行ってもらうことにする。

 

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