表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/51

13.誘拐組織の撲滅

予定にはありませんでしたが、流れ的に入れてみました。斉藤課長がチートです。今までのものに比べると、長めになってます。2話に分割は面倒でしたので。

■■13.誘拐組織の撲滅



 緊急案件が終わったあと、俺は1課の定例トレーニングという名の、地獄の試練に参加させられた。

 

 あえて言おう、1課はおかしいと。 なんだよあれ。ウォーミングアップにフル装備で10キロ走るとか。3対1での対人戦なんて、そもそも剣が早すぎてまったく見えなかった。おかげで打ち身だらけだ。あれは、1対1でも余裕で負ける自信がある。

 

 魔法職とか弓職にいたっては、10m先の5cmの的(しかもクレー射撃状態の)に当てるとか、おかしいだろう。というか、ドラゴンはともかく、魔王はそんなに小さいのかと。だったら、足でプチッとつぶせよ、と。 実際のところ、ドラゴンは、目とかブレスを吐こうとしている口とかを狙うので、それに比べれば訓練は楽って話らしいですが。

 

 でも、それなりに収穫といえるものもあった。

 

 まず、盾の使い方。俺は盾でがっつり受け止めていたが、それは効率が悪いらしい。盾は角度をつけて、受け流すそうだ。そのほうが疲れないし、力をそらされた相手は、バランスを崩すことがあり、その隙に攻撃するらしい。それに盾の破損も少なくなる。装備ローンで苦しんでいる俺には、まさにありがたい話だ。 でも、俺クラスだと、かなり練習しないと無理っぽいが。

 あと、フェイント。俺の攻撃はバレバレだそうだ。一応フェイントは使っていたが、それフェイントだろ?とすぐばれるそうだ。こっちもコツは分かったが、死ぬほど練習が必要になりそう。

 

 とにかく、ぶっ倒れまくって、なんとか終了しましたけど、終わった途端に、救急車で運ばれました・・

 その後2日ほど入院しました。ただ、VIPルームみたいな部屋でしたけど。1課ってこういうところもありえない・・

 

 ちなみに、救急車で運ばれたのは、俺が初めてではなく、時々いるらしい。 またヘタレって言われるかと、びびってたけど。

 

 

 なんとか仕事に復帰した俺は、赤坂とサスケを誘って社員食堂にきていた。そこにはちょっと死に掛けている田中が、すでに昼食をとっていた。

 

「よう、田中。」


「おう、1課のトレーニング参加したんだって。」


「ああ、死んだ、死んだ。 あれはありえない。」


「まあ、言うな。こっちも死にかけてるし。」


 どうやら、かなり忙しいらしい。それよりも、もっと気になっていることがあった。そう、ユニコーンの件と、誘拐事件のその後である。

 

 ユニコーンについては、なんとか営業で処理したらしい。結局、案件としては赤字だったが、ユニコーンがなければ、さらに被害が出ていた可能性もあるわけで。

 

 ところが、意外な方向に話は進む。

 

 まず、ユニコーンに乗った赤坂が、結構人気物になっているらしい。まあ、結構かわいい赤坂がユニコーンに乗ってるわけで、これは絵になる。 で、うちの会社の知名度と人気が、はね上がったらしい。

 

「ひょっとしたらだけど、うちの広告にユニコーンに乗った赤坂ちゃんが使われるかもね。」


 いや、たしかにそれは絵にはなるが、ユニコーンに乗った魔法少女って、何の会社だよ・・

 

 さらに、1社単独で、史上最速とも言える速さでの解決だったため、ギルド本部でも話題になっているらしい。これについては、冒険者ギルド発行の、こちらでいう感謝状のようなものがでたそうだ。 この意味するところは、そこそこ上位にいたうちの会社が、トップ3に匹敵するほどになってしまった、ということになるらしい。

 

 赤坂による宣伝効果、および市場価値の上昇、この2つを換算すると、確実にユニコーンでもおつりがくるほどになる。

 

「で、赤坂ちゃんとサスケには金一封がでたと。」


「え?俺は?」


「お前、VIPルームに入院してただろ?あれがそう。」


 げげげ。なんだと・・・ 

 

「俺、装備のローン終わってないんだけど・・・」


「ああ、そっちはおつりで清算しておいてやった。」


 おつりであの額が清算できるだと・・・ いくら出たんだ・・・

 

 赤坂とサスケを見ると、にんまりしている。赤坂はともかく、サスケはボンボンだ。よし、あとでサスケに高級焼肉をおごってもらおう。俺の退院祝いとして。

 

「誘拐のほうは?」


「そそ、そっちも進展あり。」

 

 冒険者ギルドが犯人を尋問したら、いろいろと情報がとれたらしい。で、そこから芋づる式に出てきており、その対応でちょっとしった特需状態になっているそうだ。

 

「し か も、さっき言ったうちの人気もそこに影響していて、うちにもどーんとその対応案件が舞い込んでる、って訳だ。」

 

「なるほどね。それで死にそうに忙しいってことか。」


「そそ。まあ、越後屋はこの流れを想定していたっぽいけどね。俺がユニコーンの件で謝りにいったら、ニヤニヤして即不問になったから。速攻であちこちに手をまわしたっぽいよ。」


 越後屋は、体格通り狸だったわけか。

 

「なんで、おそらく沖田のところにも話がいくと思うから、よろしく頼むわ。」


 

 俺達が昼食から戻ると、さっそく斉藤課長に呼ばれた。

 

「おう、沖田。どうだった、1課のトレーニングは。」


「あれは、人間のすることではありません。」


「まあ、1課は人間を超えてるしな、確かに。でも、あれを初回でクリアするってのも、結構めずらしいぞ。」


「あれをクリアというのかどうか・・・ 結局、救急車で運ばれましたし・・」


「ともかく、勉強にはなっただろうから、それはそれで良しだ。 ところで、案件なんだが。」


「例の誘拐事件の後始末ですか。」


「そうだ。なら話は早い。2課に話がきている。お前たちも参加だ。」


 

 早速、作戦会議が開かれる。

 

 参加者は、近藤部長、斉藤課長、千葉さん、静岡さん、埼玉さん、俺、赤坂、サスケ。 営業は田中だけ。 あと、開発部の真田課長がいる。

 

「では、営業部より説明させていただきます。 クライアントは冒険者ギルド。といっても、今回は本部になります。 例のタントンであった、誘拐の関連案件です。 場所は王都のスラム区。 なんと、奴隷商人の本拠地の襲撃です。これが最終決戦になるかと思われます。ちなみに、本拠地といっても、当然、表向きの本拠地ではなく、裏のアジトの方になります。さすがに表向きは真面目に営業しているようですので。 目的は、組織の殲滅と、首謀者クラスの確保、および、違法奴隷の保護となります。 また、今回は現地冒険者との共同作業となります。」


 田中が説明していく。冒険者ギルドからも、これまでの戦果から、さまざまな情報があがっているようだ。

 

「今回だが、俺、千葉のチーム、沖田のチームでいく。 俺と千葉のチームは敵戦力への対応と首謀者の確保を行う。沖田のチームは違法奴隷の確保とする。」


 あっちの世界には、奴隷、というものが存在し、その所持が認められている。当然、売買というものも、法によって認められている。

 

 奴隷には2種類あるらしく、任意奴隷と、強制奴隷というものがあるらしい。

 

 任意奴隷とは、自分の意思で奴隷になる。そんなことがあるの? と思われるだろうが、なんらかの都合で食い詰めたとかという理由でなるらしい。奴隷になることで、その所有者は、最低限の衣食住を保障する必要があり、奴隷はそれらが保障されない場合、該当役所に意義を申し立てできるようになっている。

 ある程度の人権は保障される、ということだ。 まあ、拘束されていたら、異議の申し立てとかできないんだけど。 でも、意外とそのへんはモラルが守られているようで、奴隷だからご主人様が無理やり手を出していい、とかいうことにはならないそうだ。

 ただ、任意奴隷は焼印を押される。そして、奴隷の解放は、基本的にはできないことになっている。 たまに、ご主人様が気に入っちゃって、奴隷解放して奥さん(というか妾?)にする、ってのは意外と多いらしいけど。なので、簡単に奴隷になるなよ、っていう脅しみたいなものだろう。まあ、奴隷って響きは勘弁だと思うんだが。

 あと、開放されても焼印て残るよな、と思ったら、開放された奴隷は、焼印の周りに刺青をして、刺青の一部であるようにするらしい。つまり、焼印の周りに刺青がある人は、もう奴隷ではない、ということになる。

 

 もう一つが強制奴隷。これは強制的に奴隷となる。犯罪者などに多い。こちらは本人の意図にかかわらす奴隷となるため、当然反抗がある。なので、こちらは隷属の首輪ってものをされるらしい。これをされると、特定の人の命令に背けなくなるらしい。当然かなり危ないものなので、これは国が管理しているそうだ。こちらは、ほぼ開放されないそうだ。というか、死刑に該当するレベルでないと、つけられない。

 実は、こちらには死刑というものがない。なぜかというと、常に魔物などの脅威と対峙した環境において、死刑とかするのはもったいないそうだ。なので、隷属の首輪で制限をかけて戦地に送り出すほうが、よっぽど役に立つ、という考え方のようである。

 

 で、実はもう一つ、違法奴隷というものがある。これは国に認められていない、まあ、名前からして違法だし。

 違法奴隷というのは、人をさらうなどという方法で奴隷とするやり方である。先日の子供たちなどがその例だ。違法奴隷も隷属の首輪に該当するものがつけられる。まあ、出来の悪いレプリカみたいなものらしい。一部の違法奴隷を扱うものたちが作ったそうで、かなり極悪な仕様になっているそうだ。当然、違法品であり、コントロールができずに廃人となるケースもあるらしい。

 ただ、これは子供には使えない。効果がある、ないというわけではなく、物理的な問題である。首輪ははずせないサイズである必要があるため、ある程度ジャストサイズでないといけない。しかし、子供は成長する。なので、どこかで首がしまってくる。

 じゃあ、成長を見越して、となると、今度は抜けてしまう可能性がある。さすがにはずしてしまえば効果はなくなる。そのため、子供には焼印をして、心を折るという方法がとられるそうだ。

 

 で、ここで真田課長の出番である。

 違法奴隷は隷属の首輪をされている可能性がある。その場合、保護しても部屋からだせない、ということが考えられる。部屋からでるな、であれば、第3者が運び出せばいいが、部屋から出たら、即自殺とか命令されていると、アウトである。

 よって、保護したら、隷属の首輪ははずか無効化しないといけない。それを担当するが、真田課長である。

 でも、リモートでないとできないとか言ってるけど、本当にできるのかね。なんか奥の手はあるらしいけど。

 

 真田課長から、リモート用のテスターみたいな隷属の首輪用の機器が配られ、使い方の説明をうけたところで会議終了となった。

 

 

 

 さてさて、問題の奴隷商人達のアジトである。

 

 ここは王都のスラム区の一角であった。

 

 王都は、大きく分けて、貴族たちが住む貴族区、商人や職人、一般の人たちが住む商人区、その他身分の低い者たちが住むスラム区の3つのエリアがある。

 

 スラム区は、犯罪者なども身を隠すのに向いているので、ここに作ったのは当然といえば当然であろう。

 

 この建物は、見た目は周りにあわせて廃墟のようであるが、その扉は要塞のようであった。また、入り口付近に見張りがおり、異様な雰囲気をかもし出していた。

 

 その中では、罵倒が繰り広げられていた。

 

「どういうことだ! あっという間にアジトが冒険者達におさえられているではないか。」


 男は両手で机を叩いた。その後ろに控えていた、首輪のようなものをつけた女性が、その音と声にヒッという悲鳴に似た声を上げる。

 フードのついたローブをきているため、容姿はわからないが、その指にはめられた豪華な指輪などの装飾品より、それなりの地位にいる者であることは分かる。そのローブの下には、装飾品と同じような豪華な衣装をきているのであろう。そして、その言動から、おそらくこの男が首謀者であろう。


「現在、対策を検討しておりますが故・・」


「対策といっても、残りはここだけではないか。」

 

 首謀者に必死に言い訳をしている男もそれなりの服装をしているが、首謀者と比べると、いくつかランクが落ちる。

 言い訳をしている男が奴隷商人であった。

 

「このままでは、ここを嗅ぎつけられるのも、時間の問題ではないのか。」


「ここは警備も万全ですので、問題ありません。」


 その言葉に首謀者は、納得したようだ。むしろ、納得せざるを得ない。そうでなければ、早々にここを立ち去らなくてはならない。 それは、いままで築き上げてきた、この組織を手放さなくてはならないことを示す。

 

「憲兵は抑えておいたから、問題は何もないと思っておったが、まさか冒険者ギルドが動くとは。」


 この男、アークダイカーという子爵である。子爵という地位と、金などの力で、王国の警察組織である憲兵を手中に収めていた。そして、誘拐組織を作り上げ、その上前をはねていたのである。この子爵、もともとは落ちぶれ貴族であった。

 しかし、ある意味、商才のようなものを持っていた。このアークタイガーというものもそうであったが、貴族や豪商には、普通の人間には目を向けるような性癖を持つものがいる。自分の性癖を満たすために、奴隷商人を使ったのが始まりであった。そして、そういった人種のものたちに、必要となるものを提供することを思いつき、現在の組織が出来上がったのだ。

 

 自体を収束させるのに、憲兵は使えない。そもそも、憲兵は自分達のようなものを取り締まるのが任務である。いくら手中におさめていたとしても。せいぜい、動き出さないように、抑えておくのがせいぜいである。

 

 ここまで、大きな問題は無かった。顧客も人にはいえない秘密をもち、同罪であったため、組織の秘匿は自分達の身を守る上でも絶対条件である。また、それ以外のものが、秘密をかぎつけようとしてきたが、すべて力と金によって解決してきた。

 

 磐石の体制である、と思ってきたのである。

 

 しかし、1ヶ月も満たないうちに、あっさりと崩れ落ちることになる。タントンとかいう田舎で、たった3人の子供の誘拐に失敗しただけであったのに。失敗については、報告が来ていた。稀にあることであるため、気にもしていなかった。それなのに・・・・

 

 奴隷商人に手下が一人近づき、耳打ちをする。

 

「な、なにぃ」


 奴隷商人は、いきなり立ち上がる。その顔は、恐れと怒りで真っ赤であった。


「どうした。」

 

 アークダイカー子爵は、今後のことを考えていたが、不意に立ち上がった奴隷商人に訝しげな目を向ける。

 

「大変でございます。冒険者達がこの屋敷に潜入してきております。」


 本来であれば、子爵である自分に対して刃をむけるものは、王国に刃を向けるのと同様といえた。しかし、今の自分はある意味、王国に刃を向けているのである。

 

「まずい、逃げるぞ。時間を稼げ。」


 奴隷商人の言葉を信じるのであれば、逃げる必要などない。だが、自分がこの場にいることを知られるのはまずい。しかも、万が一、ということもある。

 

 あわてて、子爵は部屋を出ると、裏口へと回る。しかし、裏口も冒険者達により、封鎖されているという。

 

「秘密の抜け道を使う。」

 

 この抜け道を知るものは、殆どいないはずであるが、知られている可能性もある。奴隷商人の手下に抜け道の出口が安全であることを確認させる必要があった。

 

「先に行け。 あとは頼むぞ。」


奴隷商人が手下にそう指示すると、手下が部屋にある暖炉の壁をけり崩す。そしてたいまつをもってその穴の中へはいっていった。続けて奴隷商人、子爵、手下がはいっていく。

 

 

◆◆

 

 冒険者達による建物の範囲が完了した旨の報告を受け、斉藤は突入を開始する。

 

 埼玉が、室内用として用意した、いつもより小ぶりのコンパウンドボウを構え、入り口の見張りを次々と無力化していく。

 

 同時に斉藤達は建物の入り口に向かう。入り口には鍵がかかっていたが、サスケがすばやく開錠する。

 

「だめっす。かんぬきもかかってるっす。」


「どけ。」


 サスケがどけると、斉藤が刀を構える。次の瞬間、その要塞のような扉は、真っ二つになっていた。

 

 沖田たちと冒険者は、その光景をみて、唖然としているが、それを尻目にみながら斉藤と千葉達は突入を開始する。 そして、あわててその後に続いた。

 

 途中、奴隷商人の手下たちがその道をふさぐが、千葉と冒険者達が次々と葬っていった。

 

 地下へと続く階段の前で、斉藤が沖田に目で合図すると、沖田たちは地下へと向かった。

 

 斉藤たちは目的となる2階へと向かう。首謀者たちは2階の執務室に居る、ということは確認してあった。

 2階への階段を上り、目的となる部屋へと向かう。

 

 途中の部屋から、護衛と思われるものたちが斉藤達に襲い掛かる。

 

「ここは私たちが抑えます。」


 冒険者達のリーダーが、護衛たちに対峙する。

 

「よろしく頼む。行くぞ。」


 斉藤は、冒険者達に軽く頭を下げると、その通路の突き当たりにある、目的の執務室へと入っていく。

 

 

 執務室には、何人かの護衛と、そのリーダーのような男がいた。

 

 周りを見渡すが、首謀者と思われる男はいなかった。

 

「逃げられたか。」


 斉藤は顔をゆがめる。

 

「あそこから逃げたようですね。」

 

 埼玉が示す先の暖炉には、穴が開いていた。おそらく、あそこに逃走用の抜け道があるのだろう。

 

「埼玉、静岡、追え!」

 

 斉藤がそういうと、埼玉と千葉はその穴へ向かう。しかし、護衛たちが襲い掛かる。

 

 すかさず千葉はその間に割ってはいると、あっさりと護衛を切り伏せる。

 

「じゃ、見物させてもらいますか。」

 

 そういうと、千葉は、身近にあった椅子をもって、壁際に座りだした。

 

 それを見て、斉藤が苦笑する。

 

 

 

 護衛のリーダーの男は、動けなかった。雇い主を追うものたちを切り伏せなければ、と思うのだが、目の前にいる黒い鎧の男から眼を逸らせなかった。逸らせば斬られる、という恐怖を感じていた。

 

 護衛のリーダーの男は元冒険者として、名を馳せていた。部屋の外で護衛と戦っている冒険者達がみたら、冒険者達は絶望したであろう。「狂犬」という二つ名をもつ、その男が目の前に立ちふさがっていることを。

 

 この狂犬の二つ名を持つ男は、その強さで名をと轟かせていた。しかし、その強さに溺れ、酒と女に入り浸った。そして取り巻きたちはちやほやした。それは強者としての特権と思っていた。しかし、金が尽きると、周りは手のひらを返しだす。そんな時、彼に近づいたのが奴隷商人であった。

 

 奴隷商人は、暴力という力を求めていた。より強い力を。そんな時、狂犬の二つ名を持つ冒険者が、豪遊をしている噂を聞く。奴隷商人は、狂犬に金を使い切らせ、取り込むことにした。借金をすべて肩代わりし、冒険者にとっては大金で雇うのである。奴隷商人としてはたいした金額ではなかったが。

 

 

 しかし、その狂犬の二つ名を持つ男ですら、斉藤から目を話せなかった。そして、恐怖に震える手で、使い慣れた長さの違うシミターをその両手に構えた。

 

 

 

 斉藤は、目の前の男が両手に剣を構えるのをみて、刀ではなく剣を抜く。愛刀を使うほどではない、という判断である。

 

 その黒い剣を構えると、狂犬は斉藤に切りかかる。軽くいなすと、剣を狂犬に向け構える。それは、剣道の打ち込み稽古をしているかのようだった。

 

 

「斉藤課長、いつまでやってるんですか。」


 あきれたように、千葉が斉藤に催促する。

 

 斉藤は、それを合図に狂犬に切りかかった。狂犬は動けなかった。斬られる、という気配はかろうじて感じたが、剣がみえなかった。そして、一瞬遅れて崩れ落ちた。

 元ブラックシャドウの斉藤にとっては、練習にもならない相手であった。

 

「また、つまらぬ物を斬ってしまった・・」


 

 千葉は固まった・・・ そして思う、こんにゃく製の鎧を用意してたら、勝てたのかと・・

 

◆◆

 

 沖田たちは、地下へと階段を降りていく。階段を降りたところに一人いたが、サスケがすかさず無力化する。

 

 沖田たちは、赤坂、サスケと、3人の冒険者が同行していた。

 

 タロンさんは、盾を持った前衛である。沖田と同じ立ち位置になる。

 

 ミリーさんは、魔法職であり、主にヒーラーであった。赤坂の回復に問題があるため、ヒーラーの存在はありがたかった。また、保護した奴隷たちにけが人がいた場合、ヒーラーは必須とも言えた。

 

 フォッケさんは、冒険者では珍しく、捜索者と呼ばれる。人探しなどをメインとしており、今回の奴隷のなかに、対象となる人がいる可能性もあり、誘拐事件にも調査でかかわっていた。

 

 サスケと沖田を先頭に、進んでいく。サスケと沖田が先頭をいくのは、急な襲撃に対して、沖田が抑え、その隙にサスケが攻撃する、という点や、潜んでいる敵に対するサスケの捜索能力が発揮できる点が理由として挙げられるが、実は赤坂の魔法の誤射も理由の1つである。赤坂の魔法は強力ではあるが、その操作精度には若干の不安がある。たしかにフィールドなどで使う分には、百発百中ではあったが、屋内などの狭いところでの命中率は、若干不安が残る。 しかし、沖田とサスケには、味方からの攻撃をうけない防御システムがあるため、多少の誤射も問題にならない。

 

 曲がり角の奥で歩く音がする。佐助とうなずき会うと、沖田は後ろにハンドサインを送る。サスケと赤坂だけであれば、通信システムですむが、冒険者は通信システムを持たない。よってハンドサインを使っている。

 

 しばらくすると、護衛が3名。角を曲がって現れた。 護衛たちは沖田を見つけると、襲い掛かってくる。

 

 沖田は、左の剣を盾で受け流すと、足払いを掛け転ばす。その隙にタロンが転んだ護衛に剣を叩き込む。また、右からの剣を自分の剣でうけ、受け流し終わった盾を護衛の顔に叩き込み、ひるませたところを剣で斬りつけた。 残りの1人はサスケがあっさり片付けている。

 

「3人を一瞬だと・・・」


 タロンが一撃をいれたとはいえ、タロンたち冒険者は、沖田とサスケの動きに絶句した。たしかに、この人たちのリーダーは、あの扉を一刀両断したが、あの人はそれなりの装備をしていたし、見るからに強そうだった。しかし、目の前の2人は、ごく普通の装備をした若者と、変な黒ずくめの若そうな男であり、とてもここまで強いとは思っていなかったし、そうも見えなかった。

 

 1ヶ月ほど前の沖田であれば、その装備に準じた、想定どおりの動きをしていたのだろう。だが、今の沖田は一味違った。

 

 赤坂とサスケも、沖田の動きに驚いていた。そう、沖田は例の訓練で、今の動きに100回以上やられてきていた。それをやり返しただけであるが、それは今までの沖田からは想像できない動きであった。

 

 

 また曲がり角があった。 あれ?右?左? ・・・ 沖田はちょっとあせった。

 

「サスケ、先頼む。」

 

 さりげなく、道を忘れたことを回避する沖田であった。これはもともと持っているスキルである。

 

 

 

 厳重な扉が見えた。見張りも何名かいる。あの先に奴隷たちが捕らわれているは確認してある。

 

 沖田とサスケが突っ込む。 あわせて赤坂がサンダーを唱えた。タロンは後衛の盾になる。

 

 沖田が見張りをひきつけ、その隙に赤坂のサンダーで次々崩れ落ちた。サスケも手当たりしだい無力化していく。

 

 戦闘はほぼ無傷のまま、あっさり完了した。

 

 ミリーは焦っていた。いろいろな冒険者達と仕事をしてきたが、この若い派手な女の子は、その見た目によらずベテランの域にある。ほかの2人もそうだ。あなたたちは一体・・・ 単なるコスプレイヤーではなかったの・・・?

 

 かんぬきがかかっていたとはいえ、入り口の鍵をあっさり開けてしまったサスケの技を、また見れるのかとドキドキしながら見守っていたフォッケであったが、サスケは壁に掛かっていた鍵束みつけると、それで開けてしまった。

 

 がっかりするフォッケを、ん? という表情で見るサスケであった。

 

 

 中に入ると、10人ほどの首輪をつけた男女と、数人の子供たちが居た。沖田たちが警戒している間に、フォッケは一人一人確認していく。ここにいる全員が、行方不明となっていた人たちだたようだ。

 

「赤坂です。保護しました。 これから首輪の解除を開始します。」


「斉藤だ。こっちも終わった。 屋敷の中の残存勢力はこちらで対応する。」

 

「了解しました。よろしくお願いします」

 

 赤坂は、事前に渡されていた、解除用の装置を首輪につけていく。

 

「真田課長、準備できました。」

 

「赤坂さんか、ご苦労。それじゃあ、はじめるか。 春さんよろしくね。」

 

「あ、準備できた? こっちも忙しいから、さっさと終わらせちゃおうか。」


 

「「春さん?」」

 

 沖田とサスケは顔を見合わせた。 春さん、それは情報システム部の有名人であった。有名人であったが、誰も見たことも、会ったことも無かった。都市伝説ではないか?とか、システムの名称では?とか、ボーカロイドの一種では?とか、夜中に残業をしていると、たまに壁の中に消えていく白い服の人がいるが、あれが春さんに違いない、などさまざまな噂が飛び交っていた・・ しかし、実在するらしい・・・

 

 

 

 しばらくすると、「えげつねー」とか、「ああ、なるほどね」などという、春さんの独り言がスピーカーから聞こえてくる。

 

「なんか、春さんってどっかのボーかロイドみたいっすね。やっぱボーかロイドなんすよ。」


「いや、じつはこれは真田課長の自作自演で、都市伝説だと思う。」

 

 などと、沖田とサスケは話していた。とたんに、

 

「あ、外れました。」

 

「「え?まじで?」」

 

 赤坂の声に反応して、駆け寄る沖田とサスケの見たものは、見事にはずされた隷属の首輪だった。

 

「「すげえ!」」

 

 その場にいた、全員の声がそろった。

 

「でしょー。 魔法っていっても、結局システムには変わりないからね。」


 といって、春さんはどこかに行ってしまったらしい。

 

 

 まずい、まずい、まずい・・・・・

 

 突然真っ青に鳴り、固まりだした2人を不審に思いながら、タロン達は保護した人たちを誘導していくのであった。

 

 

 まずい・・ 沖田は春さんの存在について、都市伝説に昼食1ヶ月分を、サスケはボーカロイド説に高級焼肉食い放題1年分を、そして赤坂は実在説にかけていた。

 

 そんな2人をみて、微笑む赤坂であった。

 

 

◆◆

 

 埼玉と静岡は、隠し通路を進んでいたが、しばらくして外にでた。埼玉はレーダーで場所と首謀者を確認する。

 

 どうやら、町のはずれらしい。30mぐらい先に反応があるため、そちらを望遠つきスコープで確認する。

 

 

 やたらと後ろを振り向きながら走る4人組がいた。 あれだろう。

 

「いた。」

 

 静岡は、埼玉の指す方向を望遠鏡で見る。

 

 埼玉はコンバウンドボウを構えると、たてつづけに4本の矢を放つ。

 

 その矢は、4人のターゲットの足に次々命中していく。

 

「おお、全弾命中。」

 

「静寂の矢、なんちゃって。」


「なに? ・・・」


 静岡は見た、見てしまった・・・ 魔法少女クレナイの決めポーズをしている埼玉を・・・ な、何故、おまえがそのネタを・・・

 

     埼玉さんだけは、信じていたのに・・・

 

◆◆

 

 それぞれの個人的には、さまざまなことが起こったが、全体としては何の問題もなく終わった。

 誘拐組織の一味はことごとく捕らわれ、捕らわれていた人々も助け出された。帳簿から、顧客だった貴族や豪商たちも判明し、今後なんらかの処罰があるだろう。ちなみに、子爵なんかは、爵位と領地の没収、奴隷商人は、自分が強制奴隷になってしまったようだ。

 

 こうして、幕を閉じるが、相変わらず千葉は固まってるし、静岡は見てはいけないものを見た表情が崩れないし、沖田とサスケは真っ青なままであるが、これに参加した冒険者達には、その理由は知る由も無かった。

 

 

◆◆


 狸のような男は電話をかけていた。しばらく呼び出し音が続く。

 

 「おや、これはこれは越後屋さん」

 

 「すまないね、忙しいところ。例の件はどうだね。」

 

 「ふっふっふ、万事、順調でございますよ。そちらはいかがだったでしょうか。」

 

 「どうやら、うまくいったようですな。例の被害者の家族からの依頼という形で、誘拐組織の撲滅という依頼を出してやる。被害者家族は行方不明者が戻ってくるし、うちはギルドにも王国にも名前が売れると。WIN-WINってやつですな。まあ、例の埋蔵金をちょっと使いましたが、今後が期待できそうなので、良しとしましょう。」

 

 「それはすばらしい。さすがは越後屋さんでございますな。」

 

 「これでおいしい黄金色が食べれる、というものですよ。」

 

 「越後屋さんもワルですな。」

 

 「お互い様といったところでしょう。」

 

 「「ひっひっひっ。」」

 

 越後屋は電話を切ると、改めて人間ドックの結果を見て、その血糖値に顔をしかめるが、おもむろに大判焼きを食べ始めた。




今後のための整理をしていたところ、結果的にこの話が出てきてしまいました。おかげさまで、次以降がちょっと見えていません。来週ぐらいまでには、なんとかしようとは思っておりますが。 あと、最初のほうって手抜きがすごいので、そっちも加筆修正したいな、とは思うのですが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ