1.お電話ありがとうございます。勇者サービスです。
初投稿です。更新遅めだと思います。
■1.お電話ありがとうございます。勇者サービスです。
「沖田、ちょっと来てくれ。」
俺、沖田守は隣の席の赤坂恵を促しながら、斉藤課長の席に向かう。俺の同期で営業部の田中もいるので新規案件だろう。
「仕事ですか?」
「そそ、護衛するだけの簡単なお仕事。」
思わず、田中を殴りそうになったが、赤坂が俺を必死に止める。
しかし、その赤坂もかなりやばい目つきで田中を睨んでいる。
田中が持ち込んだこの間の仕事も、商人の護衛の仕事だった。 田中いわく、このエリアに魔物がでた実績はなし。 現地の冒険者も参加するので、人手は十分。 超優良案件という触れ込みだった。 開けてみたら、現地の冒険者は初心者ばっかり。 護衛の仕事を教えてやってほしいとのこと。 OJTかよ。 ここまでなら、まだ許す。 魔物が出やがった。 しかも団体様。 まあ、ゴブリン程度だったからか、何とか被害は出さずにすんだが、一歩間違えると全滅する可能性もあった。
「まあ、この間のこともあるのは承知しているが、これは沖田と赤坂で担当してくれ。」
斉藤課長も何気に鬼。 寡黙な人で、見た目も怖いし、上長なんで逆らえませんが。
「えー、また貧乏くじですかぁ。」
「あ、赤坂ちゃん、ひどいね、その言い方。まるで俺が疫病神みたいに聞こえるじゃない。」
「だって、田中さん、本物の厄病神じゃないですか。」
「もうやめて。俺のHPはもうゼロよ。」
訳のわからないことを言いながら、田中は帰っていった。 しっかり俺達に仕事を押し付けて・・
俺の会社は株式会社勇者サービスという。 異世界に勇者を派遣する会社だが、この業界のなかでは結構大手だし老舗に入る。 異世界に人を送れるシステムが開発され、一躍脚光を浴びたこの業界には、その後いろいろな会社が参入してきた。 結果、 学生アルバイトにドラゴン討伐にいかせる(当然瞬殺された)、異世界で好き勝手やった挙句に、勝手にハーレム王国をつくった馬鹿がいたりと、さまざまな問題が発生した。
結局、異世界への実態の転送は禁止され、仮想身体を異世界で構築するシステムが開発された。 これにより、異世界で死んでもこっちの世界で復活可能となった。 また、異世界で暴走してハーレムとかやりだすやつがいたら、強制送還が可能となる。 そして異世界でのすべての行動はシステムにより監視、記録される。 つまり、仕事をサボっていると、速攻でばれるわけだ。 ちなみに死ぬと基本的に査定が下がる。 俺も新人のころに何度か死んだが、生き返ると分かっていても、死ぬというあの感覚は結構嫌なものだ。ある程度緩和されているとはいえ、怪我をすればそれなりに痛いし、死ぬほどの怪我というは、やっぱりもの凄く痛い。 そういえば、俺の同期で特攻上等という馬鹿がいたが、あっさりクビになった。
俺の所属している戦闘部は、1課から6課があり、1課はドラゴンとか魔王とかを討伐するエリート部署。 俺の所属している2課は、治安維持とか護衛とかの雑用だ。 3課から5課は2課と同じだが、それぞれ担当エリアが異なる。 6課は経済の建て直しとか、災害などによる復旧作業とかを受け持っている。戦闘っぽくないが、異世界にいる限りは魔物に襲われたり、戦闘が必ず付きまとうため、戦闘部扱いになっている。 異世界での実働部隊が戦闘部ということだ。
コンビを組んでいる後輩の赤坂恵は、最近となっては珍しい女性の戦闘職だ。 仮想身体なら、死んでも生き返るし、怪我しても体に傷が残るわけではないので、以前はそれなりにいたらしいが、異世界では任務によっては1週間とか風呂に入れなかったり、睡眠不足が続いたりして、精神的にも美容にも悪いため、最近はかなり少なくなった。 赤坂が戦闘職を選んだ理由の1つに、彼女は足が悪い。昔はアスリートだったらしいが、怪我により全力ではしれなくなった。 日常生活では問題ないようだが、アスリートとしては致命傷だ。 仮想身体であれば、彼女も以前と同じくらい、いや、それ以上の身体能力が発揮できる。
もう1つの理由。 彼女は魔法少女オタクだった。 子供の頃は、練習に明け暮れてみていなかったらしいが、怪我で引退してから見るようになり、はまったらしい。 そして一人前の魔法少女コスプレオタクに無事成長した・・・ もちろん、彼女は魔法の使い手である。 しかも、魔法少女の格好をしながら。 通常、装備や戦闘服は会社からの支給だが、彼女はわざわざ申請して、自前のコスプレ衣装を持ち込んでいる。 一応、4種類までは確認しているが、彼女の持ち込み自前衣装に、防御力などのエンチャントを施す開発部の知り合いによると、泣きたくなるぐらいの申請数が来ているらしい・・ さらに悲報。 開発部のエースである真田課長が、その挑戦?に対して一人で勝手に燃えており、どうやら彼女の装備は結構やばいことになっているそうだ。 ちなみに、赤坂は結構かわいい童顔でスリムな体系なので、年齢以外はそれほど痛くはない。 いや訂正する。 その存在が痛い。
とりあえず、田中の持ち込んだ案件の詳細を案件検索システムで確認する。
「まず、クライアントはボーランドさんって方ですね。」
「あ、ボーランドさんか。懐かしいな。」
「知り合いですか?」
「駆け出しの頃、何度か護衛やったことある。結構大きな店を持ってる商人で、すげーいい人だった。」
場所はローネシア大陸の北部にあるドンガラからダダイムのようだ。赤坂がマップシステムで検索する。
「んー、1週間ぐらいですかね。途中に魔物の領域がいくつかあるみたいですけど、どれもレベル5ぐらいっぽいですね。」
マップシステムは、該当エリアの地図と、これまでに確認されている魔物エリアと、そのエリア内のレベルが分かる、便利グッズだ。レベル5だとすると、初心者レベルなので問題はないだろう。 レベル5だからと安心していると、大量に出てきて苦戦したりするわけだが。
「それって、いつの更新?」
「先月の頭ぐらいなんで、結構最近ですね。」
「じゃあ、大丈夫かな。」
時々、古い情報のままであり、昔はレベル5だったが、魔物が成長してレベル20でした、とかいうことが稀にある。一応、成長度合いとかから考えても、通常1年以内のデータなら問題ないとされている。 このデータは、異世界での活動記録や情報収集などから更新されているが、めったに人が行かないところなどは、どうしても更新が滞り勝ちになってしまう。
「任務内容は、田中も言ってたけど護衛だな。護衛対象は商人の荷物輸送団か。」
「現地の冒険者も私たち以外にも3チームほど雇われてるみたいですね。規模からすると適正っぽいですけど。」
「なんか、前回と同じ流れっぽい・・・」
「・・・・」
仕方ないので、その他の情報をチェックしたあと、装備の申請をする。 装備は基本的に個人装備が会社から支給される。俺の場合だと前衛職なので、ソード、盾、防具一式などである。そのほか、連絡や情報確認用のモバイル端末も貸し出されている。 今回は、護衛任務のため、移動のための馬が必要になるため、馬を2匹申請する。 馬の費用は当然営業持ちの経費である。 え?馬にのれるの? という疑問は当然あると思うが、異世界に車を持ち込むわけにもいかず、馬が一般的なため、新人研修で乗馬はやらされるし、仮想身体がその辺のスキルを補ってくれるので問題はない。 赤坂は、ユニコーンを選びたがったが、グレーアウトされていて選択できなかった。 ちなみに言語の違いも仮想身体が何とかしてくれる。
「出発は3日後か。今日は早めにあがりますかね。」
「あ、真田課長のところに寄ってから、あがります。」
「・・・ひょっとして、新コスチューム?」
「ええ。魔法少女クレナイです。」
魔法少女クレナイは、全世界で知られる超有名作品である。 日本の文壇の神といわれる某作家が、孫のラノベが読みたい、といわれて書いた、全2巻の魔法少女物である。 まず日本で大ヒットし、アニメ化された。 アニメ化についても、アニメ界の巨匠といわれる神が、自分の製作途中のものを凍結させてまで、是非やらせてほしいと立候補してきた。 テレビ放送は1クールだったが、平均視聴率が50%をこえたらしい。 当然、俺も見ている。 結局、続編2巻の全4巻、テレビシリーズの続編と映画が作成されることとなった。 そしてその売り上げは、額に傷のある魔法少年の数倍になったらしい。 ・・・話がそれた、戻そう。
「やっぱり、対魔波動砲は実装されているの?」
「んー、欲しいですけど、制御が難しいらしいので、無理っぽいみたいですね。」
対魔波動砲とは、魔法少女クレナイの必殺技で、某宇宙戦艦のあれと同じだと思ってもらえればいい。つうか、星ごと吹っ飛ぶわw
待て。制御が難しいから、実装できそうもない。 ということは、制御さえできれば実装可能ということだ。 真田課長おかしいだろう・・・
翌日から、出張申請をしたり(異世界への転送は、出張扱いとなる。 当然危険手当もでる。)、装備の点検などを進める。 装備に結構痛みがあちこちに目立ってきていた。 思い切って装備慎重するか。 これも申請する。 午後には申請が承認されていたので、早速開発部に向かうことにする。
「上条さん、久しぶりです。」
「よう、沖田。ああ、装備更改の申請か。」
上条さんに指定された机の上に、個人装備を出していく。 さすがに真田課長にいくようなことはしないし、普通はできない。赤坂がちょっとおかしいだけである。
「この装備、結構きてるな。 あれか、例の田中案件の団体様の殲滅任務。」
「いや、あれは護衛任務で、殲滅任務じゃないですよ。 たまたま殲滅戦になっただけで。 そもそも2課は殲滅戦なんぞしませんし」
おれは苦笑した。
とりあえず、一式を新品に交換してもらうことにした。 古い装備は、痛みとかをチェックして改善ポイントの洗い出しに使いたいからと、開発部で引き取ることになった。 下取りにだしても、二束三文にしかならないので、開発部で引き取ってもらったほうが、高くなるのでこちらとしてもありがたい。 装備って、一応は会社からの支給品なのだが、買取って形になってる。 勝手にオークションに出したり、新しい装備が欲しいがために故意に壊したりするのを防ぐためらしい。 で、結構手入れしたり大切にするけど、やっぱり痛みはでる。 そうすると、どうしても下取りって安くなるんだよね。 まあ、自分の命を守るものだから、しょうがないけど。
「そうそう、赤坂さんのクレナイのやつ。 あれはかなりやばいぞ。」
そういえば昨日、言ってたな。
「対魔波動砲は実装されないんですよね。」
「馬鹿、あれはしゃれにならん。 大体、星ひとつ丸ごと破壊できるとか、おかしいだろう。」
たしかにそうだ。俺達は軍隊ではない。 というか、軍隊でも難しいだろう。
「それ以外にも、静寂の矢とか、漆黒の稲妻とか、そっちは阻止できなかった。」
「げげっ。」
静寂の矢とは、大量の矢が音もなく襲い掛かり、その後には静寂だけが残るという、広域殲滅の魔法である。 漆黒の稲妻の方は、その名の通り黒い稲妻が敵一体に突き刺さり、徐々にその体を漆黒が侵食していき、ついに息絶えるというもので、さらに物理防御も属性防御もすべて無視するという、超チートである。おそらくドラゴンですら、一撃で倒せるのではなだろうか。
「でも、そんなもの、MP足りないんじゃないですか。」
「普通はな。あの子はどうも普通じゃない。例の殲滅戦を解析班が戦闘データを解析したところ、あの戦力でほぼ犠牲なしとかありえないという結果だ。 だいたい、あのレベルの魔法職がMP切れを起こさずに連発できるというのがおかしい。 だとすると、使いこなす可能性は十分にある。 つうか、真田課長の傑作だ。 間違いなく使えるように魔改造しているハズ・・・」
赤坂、なんて恐ろしい子・・・ 真田課長もやりすぎ・・・・
「とりあえず、注意しておきますよ。 意味があるかどうかは分かりませんが。」
「ま、がんばれ。 そうそう、その装備、ランクアップしてるから。」
装備にはランクがある。 俺がいままで使ってたのは、初級装備。 これは中級装備らしい。 装備はランクが上がるごとに性能も上がるが、それなりに使いこなす技量が必要になる。 初心者が上級装備をつけても、防御力だけは上がるが、初級装備以下の性能しか発揮できない。 下手すると、まったく動けないということもあるらしい。 あ、赤坂の装備は別ね。 あれは真田課長のオーダーメード品なので。 これはあくまでも、汎用品の話。
「一応確認ですが、これって突然光ったり、アルテメット形態になったりしませんよね。」
突然、開発部に静寂が訪れた。 全員の視線が上条さんに集まる。
「・・・おそらく・・・大丈夫だとは・・・思う・・・」
「おいっっ!」
「嘘、嘘。 大丈夫だ。 正真正銘の汎用品だ。 ただ、赤坂のこともあるから、ちょっと性能あげてあるけど。」
性能を上げてある、というのが引っかかるが、信用しておく。 開発室を出ると、新装備の確認のためトレーニング室に向かう。 トレーニング室で新装備をつけて、動きやすさなどの確認をしていく。 中級装備をつけるのは初めてだが、防御力はかなり上がっていた。 動きやすさについても、前の装備より動きやすかった。 あと、いきなり腕がロケットのように飛んだり、胸が開いてレーザービームが出たりすることもなさそうだ。 しかし、まだ安心はできない。
「メタモルフォーゼ」
どうやら、アルテメット形態はなさそうだ。 ふと、周りを見ると、なぜか注目を浴びていた・・・ なんだ、その痛いやつを見る目は・・・
追われるように、トレーニング室を出た。




