黄昏
ある日のとある場所、とあるビルの屋上での出来事
「待って、止めて!!」
オレンジ色の光の中に一人の少年の声が響いた。その少年の声の先にあるのは一人の少女の後姿。彼女はそれに振り向きもせず、空を見つめて呟く。
「きれい、ね」
ひたすら空を見続ける彼女に少年は切羽詰ったように話しかけた。まるでそうしないと今にも消え去ってしまう、というように。
「琴李! ねぇ、帰ろうよ!!」
琴李と呼ばれた少女はその声に漸く振り返った。それと同時に彼女の美しい黒髪が風に踊る。
「どこに?」
それはどこまでも淡々とした問いかけだった。少年を射抜くのは冷え切った眼光。その力に彼は足をひく仕草をした。それでもなお彼は口を開こうとする、が
「ねぇ、綺麗だと思わない? でもね、私はこっちの方が好きだな」
優しさを取り戻した瞳に膝から下が透けて消えかけている少年がうつった。少年の後ろには太陽、少女の後ろには月が光っている。
「最後だから。お願い」
「っ! ……わかった」
少女の迷いの無い目に、少年は俯きながら承諾した。すると空は徐々に暗くなり、月が力強く優しく輝きだした。その様子に少女はしばし見惚れ、そして
「じゃあね、ハルカ」
そう告げて、夜空の向こうへ消えていった。
「っ…こ、とり…」
―ありがとう―
かくして、歯車が回りだし物語の幕が開く。
最後に響いた音は誰のもの?
ありがとうございます。
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