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八話 風邪と一人飯とお礼

「ゴホッ、ゴホッ!!ずびばぜんごうぎざば (すみませんコウキ様)」

「いや、いいよ大丈夫だよ、それよりはまず風邪を治すことを考えて」


 コウキは額のタオルを取り換える。


「めんぼぐないかぎりでず (面目ない限りです)。ゴホッ、ガハッ」

「とにかく、栄養を取って、しっかり汗をかいて寝れば、明日には治っているよ」


 さっき買ってきたシロップ花の蜜を含めた3種類の花の蜜と5種類の薬草を混ぜた瓶詰のふたを開けた。


「ほら、飲めば少しは楽になるよ」

「ずびばぜん、だにがらだにばで(すみません、なにからなにまで)」


 サラは状態を起こそうとするがなかなか起きれないため、背中を支えて何とか上半身だけを起こすことができた。


「さ、あーんして」


 スプーンで水あめのように薬をすくう。


「あーん」


 少し恥ずかしそうにしながらもその小さい口を開けた。スプーンを口の中に入れる。


「どうだい、苦くないかい?」

「はい、だいじょうぶでず」

「良かった。買ってきて正解だったよ」


 ゆっくりとサラをベッドへと倒し、再びタオルを額に乗せる。


「あの、ごうぎざば、おじょくじはどられだのでずが (コウキ様、お食事はとられたのですか)?」

「そういや今朝からとってないなあ。まあいいや、後でガッツリとるから問題ないよ」


 笑顔で返す。しかし、顔は申し訳なさそうな表情をしている。


「そんな顔すんなって、大丈夫、な。」


 顔をタオルで汗を拭き取る。


「はい.......」


 非常に弱々しい声で言う。


 なぜサラがこんな状態になったかと言うと今から数時間前に遡る。いつも通りに朝を迎えた俺はいつも通りに顔を洗いうがいをして、着替えた。その時、俺はサラの異変に気付いた。本来ならば俺よりも少し早く起きている筈のサラが今日は遅く寝ている。サラが寝ているベッドの方へ行くとサラは寝ているが少しおかしい、顔が赤いのだ。


 俺はすぐに掛布団をひっぺ返した時だった。目の前に白くたわわに実った2つの立派に実った肉の果実が目に入った。瞬時に布団を戻す。そのままサラを起こした時、彼女は今のような声かつダルそうだったのですぐに理解した。彼女は風邪を引いたのだと。


 いくら布団を掛けているとはいえそんなパンツだけ履いた状態で寝れば寝冷えして風邪を引くのは当然だ。いつかこうなることは予想していた。と言うか魔人でも風邪を引くのは驚いた。



「さあ、今日はゆっくりと寝な」


 サラの手を握る。


「はい」


 数分後サラは寝息を立てて寝てしまった。


 彼女の寝顔を確認し、椅子から立ち上がった時だった。それは唐突に訪れた。


 急激に、腹が、減った......


 いざ食堂へ。鍵を閉め、早々に食堂へと向かった。しかし、食堂は他のお客さんでいっぱいだった。


 しまった。昼は宿泊客以外でも利用できるんだった。くそ、空腹で記憶がすっ飛んでた。


 早く、飯を食いたい。


 急いで町の中にある食堂街へと足を運んだ。


 今日は何を食うか、肉、魚、あっさりめでスープ系も捨てがたい。ああくそ、空腹で優柔不断になってしまっている。どうする・・・・。移動中幾つもの看板が見える。その時目にある看板が入った。『牙ブタ専門店 まんぷく』。これだ。今日はこの店で決まりだ。

 

 急いでその店へと向かった。



「いらっしゃいませ、お一人でしょうか?」

「はい。」

「それではこちらへどうぞ」


 中年のおばちゃんが案内してくれた。店内はジューシーな肉のにおいで充満している。


 このにおいが俺の空腹のパラメーターを最大限にする。


 俺はカウンター席に着きメニュー表を見る。どれどれ......メニューは数多くある。どれにすればいいんだ、迷う。俺は何時しかメニューと言う迷宮を彷徨っていた。焼き、蒸し、生、煮込み......どうする、最初の一手が肝心だ。ミスをすれば、敗北だ。


 落ち着け、落ち着くんだ。その時ふとひらめいた。待てよ、どうせ金はあるんだからここは各種類から一品ずつ頼めばいいんだ。よし、そうと決まれば―――――。


「あの、すみません」

「はーい。すぐ行きまーす」


 数秒後おばちゃんが来た。


「ご注文はお決まりでしょうか?」

「この、各部位盛り合わせ焼きと蒸し牙ブタのサラダ、それと~刺身とタンスープをください」

「はい、かしこまりました。お飲み物は何になさいますか?」

「水をお願いします。」

「はい、それで少々お待ちください」


 おばちゃんは行ってしまった。


 数分が経過した。体感時間で二時間は待ってる気がする。早く来ないか、俺は今死にそうなんだ。すると別のおばちゃんがサラを持ってきた。


「お待たせいたしました。蒸し牙ブタのサラダでございます」


 テーブルに置かれた皿の上には、色とりどりの野菜とまだ少し湯気が立っている厚切りの肉5枚、そして黄色い色のソースがかかっている。


 これは美味そうだ。


「いただきます.....」


 フォークで肉と野菜を指して口に運ぶ。まだ少し熱い肉の旨味が広がる。蒸しているとはいえ溶けた油がにじみ出る。そこでクドくならないためにあっさりとした野菜と酸味の効いたサッパリとした柑橘系のソースがうまくコントロールしている。


 ううんっ美味い。非常に調和のとれた味わいだ。この肉、サラダに使うにはもったいない。肉をかみ切る歯触りとシャキシャキの野菜を噛む心地よさに浸っていると2品目が来た。


「タンスープと各部位盛り合わせ焼きでございます。刺身はもう少々お待ちください」


 そこには黄金色のスープとバラエティーに豊かな大皿が置かれた。


「わぁ、なんだかすごいことになっちゃったぜ」


 その光景を目にして思わず声が出る。


 さあて、それではいただくか。まずはこの黄金色のスープから行こう。


 スプーンを黄金の泉の中へと沈める。泉の底には細かく切られたタンが沈んでいるではないか。まるで砂金でも取っている気分だ。


 そっとすくい、スープと一緒に口に入れる。おお、これはこれはなんと!口の中いっぱいにタンの味が広がるではありませんかぁあ。タンも程よい弾力を残しつつしっかりとタンの役割を果たしている。


 美味い、なんだこのスープ。タンの味の他に香草の味もする。ここの料理は非常に味の均衡がとれている。


 おっと待たせて済まない、いよいよ本命に......


 フォークで一切れ刺した。フォークから伝わる肉の感覚ですでに涎が大変なことに。

「あむっ.......」


 肉自体は厚いのだが、切れ目が入っているため中に火が万遍なく通っている。また、切れ目が入っているおかげで噛みやすく、無駄に顎を使う必要が無い。肉汁と香草とスパイスが効いて余計に食欲を掻き立てられる。次々にフォークで肉を刺してゆく、すると最後の品が運ばれてきた。


「牙ブタの刺身でございます。これにてご注文の品は全部でございます。」


 待ってましたよこの時を。


 目の前の皿には桜色の綺麗なピンク色の牙ブタの切り身が。


 この世界では肉を生で食べることは珍しい。生で出すと言うことは相当鮮度がいいに決まっている。刺身をフォークで食べるのは少し慣れないがそんなことはどうでもいい。早速頂こうではないか。


 フォークで刺した。この料理はレバ刺しの様に表面にごま油の様なものがコーティングだれている。


 このままでも食べれそうだが、ここはこの味噌の様なペースト状の調味料を付けて食べるみたいだ。


 どれどれ.......これは本当にブタか?何の臭みもクセも無い。むしろ肉本来の旨味、いや、甘みが口内を駆け巡っている。それにこの味噌もどきが良いアクセントだ。肉をかみ切る際に生じる弾力が気持ちいくらいだ。


 どうやら、このチョイスは正解だったようだ。俺の身体が欲している味だ。これでひと通り頼んだ物に手を付けた。ここから一気に畳み掛けるとしましょうか。


 あぐ、あぐ、もぐ、もぐ、はふ、はふ、むしゃ、むしゃ.......


 フォークの持つ手が止まらない。気付けば牙ブタの虜となっていた。しかしなんだ、こういう時は米が食べたい。とても米が恋しくなる。


「ふひぃ.........食った食った。ご馳走様でした」


 ブタ尽くし、最高に良いひと時だった。今度はサラを一緒に来たい。


 一休みし、食後の余韻を堪能した後、お勘定を済ませた。


 店を出てすぐ宿へは向かわず、お菓子を扱った店に立ち寄った。食後のデザートではなくサラに買ってゆくためである。少し甘い物でも食べて気分を変えてほしかったからだ。


 俺はその店でカップケーキを3つ購入した。


 太陽が2時の位置にある頃、ようやく俺は宿に戻った。エレナーダさんに頼んで替えの寝巻を貰い部屋へと向かった。


「ただいま。」

「おがえりなざいばぜ(お帰りなさいませ)」


 サラは起きていた。しかし、身体はまだベッドの上。


「寝ててよかったのに。熱の方は大丈夫かい?」

「だいぶおじづぎまじだ(なんとか落ち着きました)」


 確かに今朝に比べれば幾分か元の色白の肌に戻りつつある様子だ。と言ってもまだ少し全体的にほんのり赤い。


「よかったぁ。あ、そうそうサラにお菓子を買ってきたよ。はい、コレ」


 袋の中のカップケーキを見せる。


「ずびばぜん、わだぐじのだべにわざわざ(すみません、私のためにわざわざ).......」

「後で食べるといいよ。そうだサラ、身体拭いてあげるよ。汗ばんで気持ちが悪いでしょ?」

「ぞうでずね、ぞういばれでびれば(そうですね、そう言われてみれば)」

「じゃあ、早速桶に水入れて持ってくるから」


 脱衣所に向かい風呂桶に水を入れ、タオルと一緒に持ってきた。サラを椅子に座らせようとするがやはり自力では難しそうなので支えながら座らせた。


 するとサラがいきなりコウキの方を向きながら寝巻を脱ぎ始めた。寝巻がはだけて肉のメロンが見えた瞬間、「背中を拭いてあげるからぁあ!」と言って背中を向けてもらった。


 彼女には羞恥心が無いのか、それとも俺の前だから恥ずかしくないのか謎だ。


「拭くからね」

「おねがいじまず(お願いします)」


 華奢な背中に手を伸ばす。彼女の身体を洗うのはこれで二回目だがドキドキする。


「冷たすぎないかい?」

「だいじょうぶでず、むじろぎもじいぐらいでず(大丈夫です、むしろ気持ちいです)」

「ならよかった」


 うなじの方から腰、尾てい骨の辺りまで入念に汗を拭き取ってあげた。しかし、再び俺に試練が訪れる。身体を拭くと言うことは、当然全身を拭かなければならなのではないか。しまった。どうする......タオルを絞る手が止まる。


 洗うと言ったのは俺だ。ここで病人のサラに「後は任せた」なんて言えるわけがない。俺がもし言われたら少し腹立つし。よしっ俺はやる、責任を持ってサラの身体を綺麗にしてあげなくては!!


 タオルを力強く絞る。


「サラ、今度は腕を拭いてあげるね」

「はい.......」


 せっせと両腕を拭き終え次は脇に差し掛かる訳だが。


「次は脇の方を拭くから少しの間、両腕を上げてくれないか」


 サラは両腕を上げた。よし、行くぞ。


 布を通して彼女の脇の下の感触が伝わる。すげえスベスベなんですけど!!脇の毛一本も生えてないスベスベの肌だ。男には分からないがきっと世の女性の人々はこういうのを目指しているのだろう。その時、指先にほんのちょっとだけ柔らかい感触が直に伝わった。


 ちょうど肋骨辺りを拭いているとき、〝偶然〟彼女の胸に当たってしまった。


「さ、さてと。これで脇は終了だ。次は....前の方をやるから......」


 落ち着け、落ち着け俺。何を恐れているんだ。たかが体を拭いてあげるだけじゃないか!!


 タオルを持つ手が震える。


「じゃ、いくよ」


 なるべく見ないようにするために後ろから前に手をまわす。ゆっくりと下の方から......


 ああああああああああ!!!!や、柔らか――――い!!なんだこれは!?タオル越しから伝わる〈ぽよんぽよん〉とした感覚が俺の眠っている煩悩に火を付けられそうになる。―――いかんいかん俺はいったい何を劣情をもようしているんだ。己に言い聞かせ何とか平常心を保つ。


 今度は上の方に手を回す。下の時とは違いしっかりとした弾力が伝わる。やべえぞこれは。前に顔面で受けたことあるが、その時とはまた違う感覚が俺を襲う。


 ついに残すところはあと一つ、童貞(コウキ)がまだ到達していないと言われる頂を目の前にしてた。俺は、行くのか、この山の頂上に......俺は...行く!!


 タオルで頂全体を覆うように拭いた時だった。


「んっ...」


 サラから艶めかしい声が漏れた。


 なん、だと....頂がこすれてまさか....思い返してみればあの時だって甘噛みした際に盛大な声を上げていたな。と言うことはサラは何かしらの〝刺激〟を与えられることが好きなのかもしれない。胸限定で。


「んんっ、ごうぎざば、もう、みぎは、じゅうぶんでずっ(コウキ様、もう、右は十分ですっ)」

「ああ、すまない!」


 つい考え事をして止めるのを忘れていた。きっとサラは俺が夢中でやっていたと思っているに違いない。変な誤解は生みたくないものだ。


 やっとこさ左も頂上制覇した所でいよいよ谷間だ。二つの山を制覇した俺にもう怖い物はなかった。もう何も怖くない。


 上から突っ込んだ瞬間、俺はやられた。首を取られた。首といても手首の方だがね。


 俺の右手が二つの肉山の挟まれたことにより完全に動きが封じられてしまった。


「ハァ、ハァ、ハァ....」

「ご、ごうぎざば、めが、じばしっでまず。だいじょうぶでずが(こ、コウキ様、目が、血走ってます。大丈夫ですか)?」


 明らかな異変に気付いたサラは振り返り言った。


無問題(モウマンタイ)、気にするな」

「そ、そうでずが(そ、そうですか)」


 その後、コウキは完膚なきまでに精神(こころ)をズタズタにされ、後の事は結局サラに任せた。


 終焉(フィナーレ)を迎えた。かっこ悪い。でも、煩悩にか、勝ったよ。


 太陽が沈みかけた頃、コウキだけ先に夕食を済ませた。間に結構食べたはめ軽い軽食だった。部屋に戻るとサラはカップケーキを食べていた。


「お、どうだいそのケーキ」


 ベッドの横の椅子に腰かける。


「おいじいでず(美味しいです)」

「良かった」

「ありがどうございまず、ごんなわだぐじのだべになにがらなにまで(ありがとうございます。こんな私のために何から何まで)」

「いいんだよ、こんな時はいっぱい甘えていいんだぞ」


 サラの頭を撫でる。


「......はい」

 恥ずかしそうに小さく俯いたサラはごまかすようにケーキを食べた。




 太陽が沈み、月が9時の位置に上った頃。コウキもサラも既に寝る準備を終えていた。サラもだいぶのどの調子が良くなりはじめた。


 薬を飲ませたし、あとは寝るだけか。


 ランプを消そうと手を伸ばした時だった。


「あの、こうぎざば、ひとつ、おでがいが(コウキ様、一つ、お願いが)」

「なに、サラ?」

「そ、その.....いっしょに......」


 恥ずかしくなったのか後半の言葉を聞き取ることはできなかったが、サラの言いたいことは理解できた。


「どうして....も?」

「さっき、あまえでいいど、おっじゃったので(甘えていいと、おっしゃったので)。」


 サラは口元を布団で隠しだした。


 た、確かに言ったけど.....ええい!!男に二言はない!サラにどういう意図があるのか何てそうでもいい、彼女の頼みだ聞き入れようでじゃないか!!!


 ランプを消してサラの寝るベッドに腰掛け、そのまま布団の上から添い寝する形で寝そべった。


「これで、いいか?」

「はい」

「そうか。...お、お休み」

「おやずみなざい、こうぎざば(おやすみなさい、コウキ様)」


 久しぶりに二人で寝たため緊張して寝れなかったが、色々と体力を使ったためすぐにコウキは寝てしまった。


 そんなサラはまだ寝つけずにいた。日中ずっと寝ていたため上手く寝ることが出来ずにいた。サラはコウキの方を向く。コウキは寝息を立ててぐっすりと寝ている。


 今日は色々とありがとうございます。身の回りの世話までしてもらって。あなたと一緒にいるととても落ち着くのです。無理を言って申し訳ございません。


 あと実はコウキ様、もう一つ私はコウキ様に謝らなくてはなりません。胸を拭いてもらった時、本当は自分でやるつもりでした。ですが、コウキ様が頑張る姿と少しあわてる姿を見ていたら、なんだか、可愛くなってしまってつい、いじわるしてしまいました。でも、その、あの刺激は....なんでもないです!!


 言葉で言わず、心の中でそう語る。


「ですから、そのお詫びとして......」


 サラはコウキの前髪に手を伸ばし、長い前髪を上げ、そのままそっと額に唇を近づけた。


 1秒にも満たなかったが、そのキスにはサラの思いが詰まっていた。


 するとなんだか急に恥ずかしくなってしまったのか、サラは布団にもぐってしまった。


最近マスクをしている人たちが目立ちますので、皆さんも風邪にはお気を受けてください。

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