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アフターエピソードⅢ 『門』

大変ご無沙汰しております。お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした!!


 ある晩、マサミチ・セントワードは机の上で突っ伏していた。


 50歳の老体がついに限界が来たと言うわけではなく、単純に仕事量に対し手が追い付いていないのである。


 それを『老い』と言うのだろうが、マサミチは頑なにそれを否定している。


 ここ数年で、やたらと白髪が増えてきた茶髪をガリガリと掻きながら、びっしりと埋め尽くされた横文字に目を走らせる。が、老眼のせいですぐに目の奥が鈍く痛み出す始末。


 王と言う役職は、意外と忙しい。


 それに気づいたのはまだ、二十代のときだった。


 マリアと結婚したての頃、前世で培った浅い知識と経験―――そして若さで何とか執務とこなしてきたが、三十歳を過ぎてきた辺りから、急に身体の衰えを感じるようになった。


 とはいえ、ここで弱音を吐いていてはいけない。


 王として、民の為に働かなくてはと、己を鼓舞させ、無理やり体を起こす。

 今取り掛かっているのは、古代遺跡の調査についてだ。


 二十六年前に出現した古代兵器ネフィルムや過去の記憶が眠るモノリスなど、この世界にはまだ多くの謎が遺されている。


 オカルトが好きだったマサミチはこれらを率先して調査、研究しているのだ。


 特に、ネフィルムの様な兵器が敵の手に渡ってしまわないように、他国と協力して発掘し保管している。


 現在でも古代兵器と思われる遺物が発見されているが、未だそれがなんなのか解らない。

 ただ、危険である可能性の方が高いと言うことだ。


 一方で、ここ近年で判明されたことがある。それは、この世界には『門』と呼ばれる物が存在することだ。


 門とはすなわち、この世界と別の世界を繋げる架け橋の様な物で、北欧神話で言う所のビフレスト(虹の橋)である。


 何故、その存在が知れたかと言うと、海底遺跡から発見された文書に、この世界には複数の類似した世界が存在すると記載されていたからだ。


 古代人たちは互いの存在を認知し、知識と技術を共有していたとされている。


 その時に使用されていた物が門と呼ばれる道具ということである。


 はじめは、民話か、おとぎ話の類ではないかと考えられていたが、過去の出来事を顧みると、その考えは正しいとは言い切れない。


 魔族の襲来がその一つだ。


 彼らもまた魔界の門を開いてやってくる。


 それも転生してから二度も。


 そして、今まで魔王ベリアルとその娘ベルナデッドがその鍵を握っていた。


 だが、二人が死んでしまった以上その謎は分からず仕舞いだ。


 もう一つが、ネフィルムだ。


 あれは、紛れもなく未知の技術の結晶だ。それも搭乗者の魔力を増幅させることで稼働する兵器なのだから。


 この未知の古代兵器と魔界へと繋ぐための『門』が存在している。


「まさか」


 ガバッと起き上がったマサミチの中にある憶測が浮かび上がった。


「防衛か……」


 何を? 人間?


 いや、もっと他にあるはずだ。


 古代遺跡の文献では、複数の世界をしていた。


 まてよ……向こうの世界にあると言うことは、こちらにも同じものがあるのではないか?

 さらにマサミチはある仮説を建てた。


 もともと門は一つではなく、それぞれの世界に存在していて、互いに門で繋がっている世界どうしで行き来していた。


 しかし、ある何かの事情によって門を持つ世界がこの世界と向こうの魔界だけになってしまった。


「でも、そうなると、何故彼らは侵略を?」


 ベリアルと初めて邂逅した時のことを思い出した。


 彼はたしか、こう言った。


 弱き者は強き者の下に着く。それは自然の摂理。


 当時は人と魔族の力関係のことを言っているのかと思った。


 だが、今になって考えてみれば、それは少しニュアンスの違うものに聞き取れる。


「領土の拡大、か……?」


 それなら少し納得がいく。


 魔族は徐々に生存領域を拡大し、最後に残ったのがこの世界だと言うことである。

 単なる生存競争とは言い難い。


 これまでいた別世界の住人達は魔族によって支配され、やがては根絶された。残った者は一つの世界に集まって今あるこの世界系が構築されたのだ。だとすれば、エルフやドワーフ、獣人などがいる理由にもなる。


「なんて、こともあり得ることだよな……」


 真夜中の静まり返った部屋で、一人虚空に向けてブツブツ呟いていた時だ。


「あなた、入ってもよろしいですか?」


 妻のマリアの声が聞こえた。


「良いよ」

「失礼します」

「どうした? 何かあったかい?」

「部屋で一人ブツブツ何かを言っていたので、心配になって観に来ましたの」

「ああ、それはすまないね。ちょっと遺跡について考えていたんだ」

「まあ。てっきり寝言かと」

「ごめんごめん」


 マサミチは立ち上がると、そのままマリアの元へと向かう。


 やはりマリアは美しい。とても五十代とは思えない。髪の毛だって金色を保っているし、顔のしわも彼女を引き立てるエッセスだ。と心の中で賛美するマサミチである。


「もう寝るよ。さすがに五十の体に夜更かしは毒だ」

「そうですとも。歳を考えてくださいな」

「だね」


 そう言ってマリアの手を取る。


 そう言えば、こうしてマリアの手を握るのは久しぶりの様な気がする。


 まだ結婚した頃は、毎日二人でいちゃいちゃしたものだ。


 マサミチにとってマリアは生まれて初めて恋に落ちた女性である。


 旅の途中で偶然出会って以降、彼女を思わなかった日は無い程である。


 魔界にて、魔王ベリアルとの戦いで力尽きそうなった時、『マリアを抱くまで死んでたまるか!』と己を鼓舞させトドメの一撃を与えた事は、今でもはっきりと覚えているのだ。


「どうしました?」

「いいや、ちょっと昔のことを思い出したのさ」

「と言いますと?」

「マリアと出会ったときのことさ」

「まあ、そうでしたの」


 懐かしそうに瞳を細めるマリアに、マサミチはほほ笑んだ。


「最近多いんだよ。ふと昔のことを思い出すんだ。なんでかなあ……」

「それだけ、多くの時間の中を生きてきたと言うことではないでしょうか」


 マリアはそう言った。


 たしかに、五十余年を生き、人生の半分以上をこの異世界で過ごしてきたことを考えると、確かにそうかもしれない。結構、色々なことを経験してきたなあ。


 マサミチはしみじみと心の中で思ったのであった。



*****



 魔族の進攻は過去に幾度となく訪れてきた。


 特に、二十五年前に起こったサンクチュアリ上空で起こった襲撃は多くの犠牲者を出したとされている。


 その犠牲者の中には、かつてマサミチ王の生涯の友であった、サトウ・コウキがいた。


 彼は当時こそ命と引き換えに国を救った英雄として祭り上げられていたが、結局の所、争いの犠牲者でしかないのだ。


 そして、残された者達は一生、亡くなった人を思い続けて生きていかなければならない。だから、強くなるために生きていかなければならない。


 教室の窓際で、窓の隙間から流れるそよ風を受けるリオンはそう思った。


 午後の授業は退屈だ。


 特に、歴史の授業はなおさらだ。


 国の成り立ち、他国との関わり、そして戦争だ。


 どれもこれも堅苦しいモノばかりで、あまり好きではない。


 ほかにもっとやることがあるのではないか? と思っていると、終りを告げる鐘が鳴った。


「ふぁー終わった、終った」


 身体を伸ばすリオン。


「歴史の授業は俺も好かん」


 隣のロビンは頷く。


「ところで、調子はもうよさそうだな」

「まあね。久しぶりの休暇だったし」

「自主休暇。だろ、そこは」

「休暇は休暇だよ」

「本質はな」


 そんなたわいもない話をしていた時だ。


「リオンさん!!」


 オリビアの声だ。


「やあ」


 リオンは軽く手を上げる。


「お身体のほうが大丈夫ですの?」


 流れるようにリオンの手を取り、息がかかるほどの距離まで顔を近づける。


「心配かけたね。ごめん」

「心配しましたのよ! リオンさんの身に何かあったらと思ったら……心配で心配で夜しか眠れませんでしたの!!」

「随分健康じゃねえか」


 ロビンはぼそりと呟く。


「ラインハルトさんこそ、あんまり僕のことは考えなくていいんだよ? 僕のせいでキミにまで迷惑はかけられないよ」

「私なんかどうでも!」

「大事な身体なんだからさ」


 ニコリと微笑むリオンにオリビアは赤面した。


 身体の奥底から燃えるような感情が込み上げてくるが、オリビアは口の中で舌を噛み何とか平静を保った。


「……すき」

「ん?」

「な、なんでもございませんわ! ごきげんよう、リオンさん!!」

 オリビアは180度身体を回転させそそくさと教室から出て行った。

「嵐のようなヤツだな」

「そこか彼女の個性だよ」

「お前すげえな」

「なにが?」

「アイツ、香水キツイんだよ」

「だろうね」

「やっぱすげえよリオンは」

「そういう時は、舌を噛んで平常心ってね」

「やっぱすげえよリオン……」



*****



 考古学者、エドワードは亡き恩師サクージが遺した分厚い手帳を開きながらサンクチュアリ地下坑道へと足を踏み入れていた。


 ここは、かつて大戦があった時の避難場所として設けられたが、長い年月による影響で劣化が確認され、結果的に使用されたのは過去の大戦一度きりである。


 しかし、恩師サクージは生前そこに目を付けていた。それは、このサンクチュアリのルーツがこの地下に眠るからである。


 と言うのも、なぜ『聖域』などと言う名前なのか。それは、脚を踏み入れてはならない禁断の地だからである。


 故に、この王宮の地下に眠っていると予想したサクージであったが、そのころには既に寿命が尽きようとしていた。


 そこで、一番の助手であったエドワードが彼の意思を引き継ぎ現在に至る。


 長年誰も踏み入れていなかった為、地下坑道内部は湿気や砂埃でとてもではないが、長いができる環境ではなかった。


 小さな発光筒の明かりのみが頼りで、周辺の様子などは最低限分かる程度である。


 こうなれば、何人か助手を動員すればよかったと思った。


 しばらく歩いていると、突き当りにあたった。


「ここで終わり……?」


 発光筒で、手帳を照らす。


 サクージのメモには、隠しスイッチがどこかにある。とだけ書かれている。


 随分大雑把なことしか書いていないじゃないか! と、思わず口に出しそうになるが、あくまで恩師の憶測なのである。


 それを今回証明するために来たため、そこはグッと堪えた。


 エドワードは、今度は壁に沿って歩き始めた。


 それからしばらく歩いていると、壁の一部が妙に出っ張っている箇所があった。


 それは、ドアノブのような形をしていた。


「これは……?」


 おもむろに手を伸ばし、触れたその時だ。


 ゴゴゴゴゴと音を立てて、すぐそこの床の一部が開いた。


「おいおいおいおい、たまげたなこりゃ」


 エドワードは、汗を拭うと躊躇することなく、ぽっかりと開いた床の前に立ち、中を照らした。


 そこには、下へと続く階段があった。


「まだ、行けと言うのか!? 最高!!」


 そう言いながら、ずかずかと階段を降りて行った。


 入口は狭かったが、中に入ると、案外広く、三人が横並びに歩いてもまだ余裕がある感じだ。


 エドワードは、真っ直ぐ伸びた地の底へと続く階段を降りること数十分が経過したころだった。


「なんだ、ここは……」


 突然終わりを迎えた階段のその先へと進むと、さっきまでいた坑道とはくらべものにならないほどに、拓けた空間があった。


 エドワードは、予備で持ってきていた、発光筒数本を一斉に点灯する。


 すると、本当に何もない空間だけが広がっているだけだった。しかし、床にはなにか、見たことのない文字が刻まれていた。


 それを辿るように照らしていくと、それは、規則に沿って刻まれていることが分かった。


 その瞬間、エドワーの脳内に電流が走った。


「まさか!」


 急いで手帳を開く。


 古代人は、異世界への通行手段として、利用していた、何かがあるはずだ。と書かれていた。


 そして、エドワードは、一つの仮説を生み出した。


 過去に二度あった、魔族の襲撃はいずれも、このサンクチュアリの真上に出現した。


 そして、ここはちょうどその真下に位置する。


 さらに、禁則地として地下深くに存在し、長年誰にもその存在を認知されないように封印していた。


 だが、長い年月によりその封印が解かれたのか知らないが、移動手段として一時的に機能してしまうことが起こったとすれば……。


 エドワードは、全身の皮膚が泡立つのを感じた。


 大陸各地にある古代遺跡にある、異世界との交流の跡。


 魔族以外の種族がこの世界に密集している理由。


 未知の古代兵器。


「だから、ここは禁則地なんだ……そして、聖域……他種族最後の……」


 エドワードは、急いで荷物をもって階段を上り出した。


「こうしちゃいられん!!!!!」


 エドワードは、プロの冒険者顔負けの身体能力を発揮し、地上へと駆けのぼり、速攻でレポート書きあげた。


 後日、マサミチの元へ届けられた。


 レポートの内容が、正に自身の考察と合致していたことに歓喜したが、それ以上に、この国の地下に存在する『門』の対処方法である。


 そこで、マサミチはエドワードを中心に調査チームを作り、再度綿密な調査を行うよう指示した。


 頼むから、開かないでくれよ。


 マサミチはそう願った。



***



「はい、後五百回ッ!! もたもたするな!!」


 サンクチュアリ騎士団の訓練場では、今日もサラの怒号が鳴り響いていた。


 騎士団員たちは、皆全身から汗を拭きだしながら素振りを行っている。


 このウォーミングアップが終われば、今度はペアを組んで模擬戦が待っている。


 それを非常勤指導官として就任してから二十五年間、ほぼ毎日行っている。


 サラのスパルタ教育に最初こそ、音を上げていた団員達も、次第に付いていけるようになり、現在では、多くの名だたる騎士たちを生み出してきた。


 アリシアからは、いっそのこと正式に指導官としてはたらい見ればいいのに。と言われるが、サラ本人は、ガラじゃないと、それを拒否している。


 元々は、マサミチからの申し出で、少しだけ手伝ってあげる程度であった。


 しかし、気が付けば二十年以上もの間こうして毎日騎士たちを指導していた。


 趣味のようなものだ。と、本人は語っているが、同じく指導官として働くカトレアの目には、そんなサラの姿が活きいきと写っていた。


 コウキを失った直後のサラは、とてもじゃないが、見ていられなかった。


 毎日、うわごとの様にコウキの名前を口にし、睡眠や食事など、もまともに取らない生活が続いていた。


 しかし、その後、マサミチの提案で後続の指導を依頼され少しずつ、彼女は回復していった。


 そして、リオンと出会ったことで、サラは勿論、自分たちも前を向けるようになった。


 願わくば、この日常が一生続きますように。


 カトレアはふと、そんなことを思った。






 数時間後、指導を終えた二人は、王宮を後にした。


「姐さん、今日はなんか買ってく?」


「そうだな、そう言えば、カグラが最近珍しい果物を市場で見たとか、言っていたような……」

「あーそれ知ってる。メイナ(騎士団員)が言ってたわ。ドラゴンの鱗が張り付いた見た目の果物だとか」

「なんだそれは。でも、まあ、たまには買ってやってもいいか」

「姐さん、や~さすぃ~!」

「ふん、我は常時『やさしさ』であふれているではないか。そうだろう?」

「あはは、そうだったかも」

 そんな、たわいもない会話をしていた時だ。

「……」


 ふいに、サラは夜空を見上げた。


 その眼差しは、まるで何かを探しているかのようである。


「なしたの?」


 カトレアは訊いた。


「いや。なんでもない……たぶん」


 見上げたまま、そう応えた。


「どうしたんだい。らしくない」

「……お前達の種族は、耳は良かったか?」

「え、なに急に。まあ、見ての通りだし。いい方じゃない?」

「そうか。ならばいい」

「もう、姐さん。どうしたのさ。とうとう身体にガタがきた?」

「バカ者。そうじゃない」

「ま、今日は早く帰って寝よ」

「そうだな……」


 腹に一物抱えた様な雰囲気で、サラはそう応えた。



***



 時間は少し遡り、魔法学園ではリオンとロビンが放課後の自主練習を終えた頃である。


「「おつかれーーーーッ!!」」


 全身汗だくの二人は、演習場から離れ、休憩所へ向かった。


「あー疲れた」


 ロビンはタオルで顔を拭きながら言った。


「本当にね」


 その隣で、リオンも汗を拭こうとバックから取り出そうとした時だ。


「お疲れ様。リオンさん!」


 オリビアは、ぱたぱたとリオンの元へと駆け寄った。


「お疲れ様」


 リオンは笑顔で答えた。


「これ、良ければお使いくださいな」


 そう言って、オリビアはタオルを差し出した。


「あ、ありがとう。でも、ラインハルトさん、こそ使わなくていいの? さっきまで訓練していたんじゃ……」


 ちょうど、さっきまでリオン達と同じ演習場で訓練していたのだが、どういったわけか、オリビアは汗一つ掻いなかった。


「まるで、瞬間移動だな」


 ロビンはぼそりと呟いた。


 だが、実際ほぼその通りである。


 後に、とある女子生徒は語る。


 見たこともない速さでシャワーを浴びる光景はまさに、残像が見える程だったと。


「わたくしは、もう済ませてきましたのでお気遣いなく。あと、これどうぞ」


 そう言って、タッパーを取り出した。


 蓋を開けると、中には一口大にカットされたフルーツが入っていた。


「おお、いいの?」

「はい! どうぞ召し上がってくださいさ。ついでにそこのモブも」

「性格クソブスかよ」

「なにか?」

「なんでもねえよ。食おうぜ、リオン」

「う、うん。いただきます」


 リオンとロビンはそれぞれ摘まむと、口へ運んだ。


「ん! おいしい!!」

「たしかにな」


 疲れた体に果物の甘さがダイレクトに脳みそを刺激する。


「ドラゴンの卵と呼ばれる珍しいフルーツですのよ」

「へえ。せっかくだしラインハルトさんも食べなよ」

「わたくしのことは気にせず。どうぞ」

「そう? じゃあ、お言葉に甘えて」


 そう言って、リオンとロビンは一瞬にして平らげてしまった。


「ご馳走様」

「お粗末さまです」

「本当に美味しかったよ。今度何かお礼でもさせてよ」

「え、え!? お礼!!」


 オリビアは素っ頓狂な声を上げる。


「貰ってばかりだしさ。今度の休みにでもどこか行こうよ」

「そ、そ、それって……!!!」


 瞳をカッと見開くオリビア。


 おそらく、本人にはその気はないのであろうが、相手にしてみれば自分に気があるのではないかと変な期待を持たせてしまうリオンの言動に対して、いかがなものかと思うところではあるが、それはそれで面白そうなのでそのまま見守るロビンである。


「それは当然………街……に……」


 すると突然、言葉がとぎれとぎれになった。


 リオンは、片耳を押さえながら辺りをきょろきょろと見渡す。


「ん? どうしたリオン?」


「あの、大丈夫ですか、リオンさん……?」


 困惑する二人の言葉など聞こえていないのか、リオンはそのまま出口へと走り出した。

 外へ出ると、睨みつけるように夜空を見上げた。


「ハァ、ハァ……どこだ……どこから……」

「リオン!」

「リオンさん!!」


 ロビンとオリビアが追いかけてきた。


「どうしたんだよお前、大丈夫かよ!」

「ロビンたちには、聞こえなかったの……?」

「はあ? 何が……?」

「とくには……」

「……じゃあ、アレはいったい……」


 空を見上げたままリオンは呟いた。


「リオンさん、どこかお体が悪いのですか?」


 心配そうに見つめるオリビアである。しかし、リオンはそんな二人に目もくれず、茫然と立ち尽くしたままである。


 あれは、耳鳴りとかじゃないはっきりとしたものだった。


 そう、例えるなら……重低音だ。どこか遠くから聞こえる『笛の音』のような。



***



 地下の『門』が発見されてから、数日が経過した。


 現在、エドワード率いる調査チームに加え、宮廷魔法使い達は、『門』の解析を行っていた。


 結論から言うと、それは紛れもなく太古に使われていた、異世界を繋ぐ役割を果たしていた。


 また、マサミチにより、『門』は『ビフレスト』と呼称された。


 ビフレストには、太古の魔法使い達によって厳重なプロテクトが施されており、その機能が徐々に薄れてきていることが分かった。


 二十六年前の、さらにその前。つまりは、マサミチ達がこの世界に来た時から既にプロテクトが緩んでいたというわけである。


 魔族は、その緩んだタイミングを見計らってこちらの世界に襲撃していたと結論付けられた。


 だから、再び緩む前にプロテクトを再構築しなければならないのだが、それがまた難解を極めていた。


 施されている術式が、今の時代で再現することが不可能に近い。


 仮に、解析に成功してプロテクトの再構築を施そうにも、一度解除してからではないとならない。


 いっその事、ビフレストを破壊するという案も出たが、破壊した瞬間何が起こるか不明である。


 つまり、どうしようもないのである。


 そんなとき、宮廷魔法使い達は思った。


 マサミチ王の生涯の友で、世界最強の魔法使い、サトウ・コウキの事を。


 もし、彼が今でも生きていたらおそらく、すぐに解決してくれていただろう。


 先人たちの言葉に『無い剣は振れない』とある。まさに、今の自分らにうってつけであった。


 もし、今この瞬間、門が開かれでもしたら……。と思うと背筋がぞっとするエドワードであった。



***



「どうしたものか……」


 執務室で、頭を抱えるのはマサミチ=セントワードである。


 一刻も早くビフレストの対処法を編み出さなければならないのだが、いかんせん、なにも思いつかないのである。


 パンドラの箱でも開けてしまったかのようだ。


 ふと、壁に掛けている剣に目が行く。


 それは、転生してから今日に至るまでともに生きて来た神の加護を持つ剣。


 曰く、この世界で斬れない物はなく、その気になれば概念ですら切り伏せてしまう程のものであるが、そんな物を今ここで何が起こるのかわからない。


 古代の魔法使いが厳重に封印しているということは、万が一に備えているに違いない。


 例えば、大陸もろとも自爆なんてことも考えられる。


 それに、ヴァッサー近辺にある遺跡のモノリスに刻まれていた過去の戦いの記録を見るに、ビフレストは破壊できない理由があるのかもしれない。


 封印せざるを得ない理由を突き止めることが出来ればいいのだが……。と、脳をフル回転させている時だ。


 ドアがノックされた。


「……どうぞ」

「失礼する」


 妙齢の女性の声だ。


「お疲れ様。フレイ」

「ふむ。相変わらず悩んでいるな」


 サンクチュアリ騎士団の生きる伝説、フレイ・カルバーンである。


 現在は彼女は将軍の地位にいる。また、実力は衰えることを知らず、その身をサンクチュアリの安寧の為に捧げていることから、『剣聖』『鉄の女将軍』『騎士道を抱いた女』など様々な異名を持っていた。


「そっちの方はどうだい?」

「万全だ」

「そうか。なら良いんだけど……」

「やはり、そう簡単に策はでないか」

「ああ、そうなんだ。いつ爆発するか分からない爆弾を抱えているようなもんだからね」

「……一応、近隣国の上層部には伝えているんだよな?」

「当然。だけど……」

「はあ、お前の気持ちは分かる。だも安心しろ。今の騎士団は昔よりもずっと強くなっている。

 コウキの奥さんたちのおかげでだ」

「奥さんねえ」

「いつまでも彼女のままと言うわけではないだろ」


 コウキの事だから、彼女だったのかすら怪しいところであるが、この際それはどうもいいとして……。


「彼女たちがいるなら安心だね」

「そうだな」


 とは言うものの、いつそれが訪れるのか分からない。


 今できる範囲で最善を尽くすしかないのだ。


次回 アフターエピソードⅣ『Re:On ~再動の魔法使い~』

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