後日談 五年後のある日の日常
蛇足かもしれませんけど、どうぞ。
再会から5年が経ち彼女達は義息して彼を育てていた。
当初カトレア以外の3人は子育て初心者で会ったため四苦八苦しながらも何とか母親としての務めを果たすことができた。
皆それぞれ教育方針がバラバラでまとまりが無かったがやはりここで出たのがカトレアだった。
彼女はかつて妹を1人で育てていたため子供のしつけと言うモノには手慣れた様子だった。
かといって3人も黙って見ている筈はない。
サラとカグラは武術を教え、アリシアは勉学を教えていた。と言ってもまだ5歳の子供であるためそれぞれ遊び程度感覚だった。
「サラおかあさん」
「なんだ、リオン?」
リオン。それはこの世界では『再会』を意味する言葉だ。
彼女たちは彼に『再会を祝福する』と言う意味を込めてそう名づけた。
「きょうは、はくぶつかんにいくんだよね?」
「そうだ。今日は街に出て博物館を観て回るんだ。街には美味しい食べ物があるから観終わったら食べに行こう」
リオンを抱きしめると目いっぱい抱きしめてきた。
「やったー」
喜ぶリオンの可愛さにサラは悶え死にそうになった。
「サラさん、今日はリオンを街に?」
「そうだ。前から約束していたからな。お前も行くか?」
「私はまだやることがあるので。リオン、おかあさんの言うことちゃんと聞くんだよ」
「うん、アリシアママ」
腕の中でニッコリと笑うリオンの頭を撫でた。
「そう言えばカトレアとカグラは?」
「王宮さんからの要請で今日は魔物の討伐に行ってます」
「ああ、そうだった。忘れてた」
「もう、しっかりしてください。いくらリオンを独り占めに出来るからって」
「ふふっ、いいじゃないか。久しぶりの2人きりなんだから」
「…そうですね。くれぐれも事故のないように」
「分かっているよ。じゃあな、行ってくる」
「いてきまーす!」
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ったあと、アリシアは書斎の方へと向かった。
沢山の本が本棚に隙間なく置かれている。
机の上にも本と紙が無造作に散らばっている。
本来は決してこんなふうに物を粗雑にすることは無い。今、彼女は教師の資格を取ろうと勉強に励んでいるのだ。だから机の上を掃除するほど今の自分には無い。―――と都合よく言い聞かせるアリシアだった。
椅子に座ると一息ついた。
引き出しから、彼がくれた髪留めを手に取り太陽の光にかざした。
透き通った青い光を発する。
愛する人から貰った最初で最後のプレゼント。
彼女は15年以上たつ今でも大事に保管していた。
そして、雅道は今でも彼との約束を守り続けていた。
金銭面を含めた全面的援助を測ろうとしたが彼女達は『気持ちだけで』と言う理由で断っているのだが、それでも毎月大量の食べ物とリオンの服や子共たちを連れてこっそり遊びに来たりしている。
律儀という言葉よりも彼に対する償いの方が大きいと感じられた。
親友を守れなかった罪の意識からなのか雅道は本当に良くしてくれている。
初めリオンに合わせた時、人目をはばからず号泣する姿は今でも鮮明に覚えていた。
そのときの彼の子供たちの複雑な顔は結構笑えた。
リオンは自分たちを含め多くの人から愛されているのだと思うアリシアだった。
その頃2人は博物館にいた。
初めて見る展示物に胸が最高潮に高ぶるリオンにサラは手を引っ張られるのであった。
前に来たときは彼に連れて来られたがまさか今度は自分が連れて行くことになるとは思いもしなかった。
「走るなよ。他の人に迷惑がかかるからな」
「はーい」
と言いながらも走るリオンに手を焼くサラだった。
武具が並べられている前を通過した辺りでリオンの足が止まった。
「おかあさん」
「なんだ、リオン」
リオンが指をさす先を見た。
その瞬間、サラは一瞬息を呑んだ。
そこには黒いボロボロのマントが飾られていた。
『英雄の遺品』として飾られているのはまさしく彼の物だった。
「これなに? ぞうきん?」
「違うぞリオン。コレは15年前に起きた魔族との戦争で活躍した人のものだ」
「へえ、そうなんだ。おかあさんはしってるの?」
「ああもちろん。おかあさんとあの人は………仲間だったんだ」
「ええ、すごい! なんていうひとなの!!」
「サトウ・コウキといって、魔法使いだったんだ。とても優しくて、いつも一緒に…いて、楽しかった。みんなを守るために、最期まで戦って……くれたんだ」
「そうなんだ……ねえおかあさん。なんで、ないてるの?」
「え?」
リオンに言われて初めて気づいた。
急いで涙を拭くと微笑みかけた。
「そ、そんなことないぞリオン。ちょっと目にゴミが入っただけだ」
「よかった。ねえもっとおしえて!」
「あの人についてか?」
「うん」
「……仕方ないなあ、じゃあ、外に出てご飯でも食べながらゆっくりと話そうか」
そう言って、リオンと手を繋ぐと、最後にマントを一瞥してその場を後にした。
夕食をとっているときのことだった。
今日の席順はサラとアリシア、向かいにカグラ、リオン、カトレアとなっていた。
「はい、リオン、あーんして」
「あーん」
カグラはリオンに野菜の炒め物を食べさせていた。
「可愛いなあリオンは」
「お前も食べさせてないで、さっさと食べろ」
「カトネエさん、いいじゃないですか。今日はリオンと一緒に入れなかったんだし」
「それはアタシも同じだ。ほれリオン、ニンジンもしっかり食べろ」
「結局自分だって同じじゃないですか」
「ふんだ。食べ終わったら風呂に入らないとうなあ」
「アッシも!」
「2人とも、みっともないです」
呆れたようにアリシアは言った。
「で、ネエさん。どだった、久しぶりのデートは」
「うむ。楽しかったもんな」
「うん。おかあさんにいっぱいおしえてもらったんだ!」
「そうか、で、なにを教わった?」
「さとうこうき!!」
その瞬間、3人の手は止まった。
「ネエさん、まさか変なこと言ったんじゃないだろうね?」
「まさか。ただマントの前に来たときにどういう人物だったか教えただけだ。それにリオンに話したところで何もないだろ」
「確かにそうだけど。驚いたよ」
「アッシも」
「ワタシも」
「どうしたの?」
「なんでもないぞ。さ、残りを食べてしまおう」
頭を撫でるカトレアだった。
風呂に入り就寝の時間がやって来た。
寝室にはベッドが5つも入る広さだった。
昔の生活が染みついているのか、いまだに寝室はともにするのであった。
今日は特別、いや、いつものことなのだがリオンは自分のベッドでは寝ず別のベッドで寝ていた。
「カトレアおかーさーん」
「リオンは甘えん坊だなあ」
「ふふ」
カトレアはリオンと一緒に寝ていた。
リオンと寝るのはローテーションで決まる。
そのため一晩リオンを独り占めすることができるため皆自分の番が来るまでの間は苦行を強いられるのだ。
「リオン、そんなにおっぱいが好きか」
「おかあさんのおっぱいおおきくでふわふわするからすき」
「もう、リオンったら」
カトレアは胸にリオンの顔を押し付ける。
そのときだった。
「おい貴様、性教育にはまだ少し早すぎじゃないのか」
「そうです。姐さんの言う通りです。アッシだってもうあります」
「それならワタシだって………てそうじゃなくて、なに言ってるのカグラ」
「おやおや、悔しいのかい? ま、いつの時代だってアタシの胸の方が一番ってことさ」
「おのれ、カトレア!!」
「おかあさんこわい」
「あうッ………」
「ほら、ネエさん、リオンが怖がっているじゃないか。安心しろ、母さんが守ってやるからな」
更に抱きしめた。
サラは握りこぶしを造りながらベッドの中へと戻っていった。
フン、と鼻息を漏らしながら枕に頭を沈めた時だった。
「ぼくね、おかあさん」
「なんだ?」
「おおきくなったら、さとうこうきみたいになりたい」
「ど、どうしたんだ急にこの子は」
動揺するカトレアの声が聞こえた。
「ぼく、きょうサラおかあさんたくさんきいたよ。さとうこうきはとってもつよくておかあさんたちをまもってたって。だからぼくもだいすきなおかあさんたちをもまもれるように、つよくなりたい」
リオンに言葉に誰もが耳を貸した。
すると、カトレアは口を開いた。
「お前ならきっとなれるよ。皆を守れるくらい強い男に……英雄にだってなれる」
「ほんとう?」
「本当だ。カアさんは嘘つかない」
そっとリオンの額に唇を触れた。
「疲れたろ。今日はもう寝ろ」
「……うん。お休みなさい………」
「お休み、リオン」
こうして一日が終わりを告げた。
母であり、父であり、師でもある4人との生活はこれからも続いて行くのである。この先も……ずっと。
次回は『さらに十年後のある日』です。




