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最終話 ただいま

 変貌したコウキの姿に誰もが息を呑んだ。


 これまで共にしてきた雅道やサラたちも一体何が起こったのか理解できなかった。


「来い」


かざす両手に白銀と赤黒い二本の槍が出現した。


 浄化の矛―――ロンギヌス。


 破滅の矛―――グングニル。


 彼の手にはこの2つが握られる。


 コウキは一瞬で上空へと移動すると7人に分身した。


 散開したコウキ達は一斉にベルナデットに向けて攻撃を仕掛ける。


「まあ、こんなに」


 愉しそうに言うと、ベルナデットはコウキを斬りつける。


 斬られたコウキの身体は一瞬で透明な結晶と化し消滅した。


 間髪入れずに再度攻撃を仕掛けてくるが、ベルナデットは表情一つ変えることなくすべてのコウキを斬った。


「こんなに寄ってたかって。それほどまでに私のことが気に入ってくれたのね!!」


 歓喜の声を上げるベルナデットにコウキはロンギヌスを構える。


第一翼力(だいいちよくりょく)解放」


 コウキの言葉と同時に6枚ある内の1枚が消滅した。


 刹那、上空に白銀の魔法陣は展開されると魔法陣へ向けてロンギヌスを投擲した。


聖釘(せいてい)


 魔法陣から無数の光のロンギヌスが降り注いた。


 雨の様に降り注ぐロンギヌスを前にベルナデットは魔法陣で防ごうとした。


 その刹那、魔法陣に接触したロンギヌスは弾かれることなく魔法陣を突破した。


 ロンギヌスはベルナデットの身体に突き刺さっていく。


「ゴプッ!」


 血を吐くベルナデットにコウキはグングニルを構えた。


「第二翼力解放―――黒狼(こくろう)


 グングニルの先端に魔法陣が現れるとコウキは中央に向かって投擲した。


 魔法陣を通り抜けたグングニルは三つの狼の頭となってベルナデットに襲い掛かった。


「―――もう。犬スル気ないの、佐藤君のが欲しいの!」


 身体にロンギヌスが突き刺さったままのベルナデットは手にするレイピアで黒狼を薙ぎ払った。


 消滅する黒狼を前にベルナデットは笑みを浮かべる。


 コウキは両手に2本の槍を構えベルナデットへと加速すると、ベルナデットもコウキへ向けて一気に加速する。


 2つの力が衝突すると波動で周囲の魔獣たちは消滅していく。


「ステキよ、佐藤君」


「第三翼力解放」


 三枚目の翼が消滅すると、コウキから放たれたエネルギーでベルナデットの身体は吹き飛ばされた。


 コウキは2本の槍を交差させるとロンギヌスとグングニルは螺旋を描き大剣へと変化した。


「あは、面白い。面白いよ、佐藤君!!」


 興奮するベルナデットにコウキは大剣を振り下ろす。


 しかし、ギリギリのところで真横に避けられてしまった。


 だがそのとき、剣の側面から棘が放たれた。


 棘は本体を捕えることは出来なかった、しかし、


「あららら? 羽が」


 ベルナデットの羽に穴が開いていた。


 再生しようにも穴は塞がることは無かった。


「破壊と再生を司るこの刃だ。簡単に治せるとでも思うなよ」

「でも、本体を傷つけられたらの話でしょ? そうならないようにすればいいのよ―――」


 刹那、ベルナデットの姿は消えた。


「――――こ~んな感じに」

「―――ッ!?」


 背後に周ったベルナデットの斬撃に対応しきれないコウキは右腕を犠牲にして避けた。


「避けるのホントに上手」

「チッ」


 腕を再生したコウキは再び斬りかかる。


 受け止めるベルナデットは更に言った。


「時間が短いからって焦らないで。もっとゆとりをもっていきましょ?」

「黙れ」

「ほら。佐藤君の魔法、継続時間が短いから早く仕留めたいんでしょ? その剣もあと少しで時間じ切れみたいだし」


 ベルナデットは大剣を見て言った。


 刀身は既に亀裂が入っておりいつ壊れてもおかしくはなかった。


「そんな強大な力を2つも持っているんだもの。何時まで言うこと聞いてくれるのかな?」


 次第にレイピアの刃が大剣の刃に斬り込んでいく。


「早く結婚しようよ。いっぱい愛し合って、子供作って楽しい世界を創りましょ。あ、その前にまずハネムーンをどうしようか?」

「黙れッ!!」


 コウキの怒号と同時に大剣は破壊されてしまった。


 剣先がコウキに迫った瞬間、


「させないよ」


 白銀の刃がレイピアを弾いた。


「雅道、お前」

「康貴は殺らせない」

「俺に任せろって言ったじゃないか」

「馬鹿言うな。親友が……幼馴染が1人で戦っているのを黙って見てられるか。それに」

「それに?」

「僕も長谷川を止めたいからね」

「お前って本当にお人好しだな。こんな時まで善人面か?」

「僕は24時間年中無休で善人だよ」

「はいはいそうかい。ならお好きにどうぞ」


 雅道は視線をベルナデットに移した。


「そう言うわけだから。長谷川、いやベルナデット。僕もキミを止める」

「ホントしゃしゃり出てくるのね。あなたって」

「困ったヒトは放っておけないんでね」

「雅道ってこういうヤツだから」


 コウキと雅道は武器を構える。


「くだらない。本当にくだらない」


 ベルナデットは左手に2本目のレイピアを出した。


「くだらないッ!!」


 2人に向かって襲い掛かった。


 雅道はマントで防いだ瞬間、横からコウキが隙を突くがそれも防がれる。


 肉眼では確認できない程の動きを見せる3人にサラ達は呆気に取られそうになった。


「サラ殿、マサミチ様たちは……」

「信じるしかない」

「そうです。姐さんの言う通りです」

「カグラ、お前」

「アタシもいるよ」

「ワタシも」


 カグラ、カトレア、アリシアの3人がいた。


 ボロボロの姿だったが無事の様子で一瞬安堵するサラだった。


「お前たち、持ち場はどうした」

「サラさん達の方が危ないとの報告を受けたので加勢に来ました」

「そんなのどこも一緒だ」

「アタシらの所は援軍のおかげで大丈夫なんだよ。ネエさんの所が一番魔獣が多いからね。それに……」

「皆で兄さんを迎えることができないじゃないですか」

「お前たち……馬鹿だな」

「素晴らしいじゃないですか。サラ殿、私達も頑張りましょう」

「そうだ。コウキ様たちが、必ず、やってくれる。行くぞ貴様らッ!!」


 5人は最後の希望を胸に魔獣たちに向かって走った。





 コウキが身体の異変に言づいてときには既に遅かった。


「康貴…その身体」


 ようやく気付いた雅道もコウキの異常な姿に喉が詰まった。


 しかしベルナデットは嬉しそうだった。


「硬質化してるみたいだ」


 コウキは手を見て言った。手の甲には皮膚から突き破ったかのように結晶体が出来上がっていた。手、足、さらに顔も皮膚には亀裂が入りそこから半透明の結晶体がいくつも出来上がっていたのだった。


「……多分、副作用かなんかだと思う」

「なに冷静に分析してるんだ!!」

「なんとなく予想してたけどね。でも結構速い段階から進行するとは思わなかった」

「素敵よ、佐藤君。私のためのここまで頑張るなんて。濡れちゃう!!」


 下腹部の溝を指先でなぞるベルナデットを無視してコウキは雅道に言った。


「……2度目の正直、もう一度時間を作ってくれるか?」

「ダメだ、こんな状況で……康貴の身体の方が……」

「頼む、雅道。俺に託してくれ。世界を、長谷川を救う為にも」


 2人の視線が重なり合う。


「………わかった。でも約束してくれ。絶対に―――いやなんでもない」

「ふふっありがと」

「また作戦タイム? 好きね2人とも」


 嘲笑するベルナデットに雅道は言った。


「ああ、そうだね」


 刹那、雅道の振るった大剣はレイピアに亀裂を入れる。


 一瞬驚射た表情を見せたベルナデットだったがすぐに余裕の笑みを見せた。


 コウキは残り3枚の翼を広げた。


「第4、第5 第6翼力解放……」


 翼は消滅すると、両手にもつ槍を交差した。再び大剣を作りだすと思われたがそうではなかった。


 ロンギヌスとグングニルは一本の槍に変わった。


 コウキはそれを逆向きにすると、自身の胸に思い切り突き刺した。


「――――ッ!!」


 身を引き裂かれるような痛みを堪えながらゆっくりと槍を押し込んでいく。


 槍はコウキの身体を突きぬけることなく、飲み込まれていくようだった。


 全てを入れたそのとき、コウキは左右の眼を残した状態で人型をした光りの姿になった。


「佐藤君!! すごい!!!!」

「よそ見すんなよッ!!」


 光りの大剣は右のレイピアを破壊した。その流れで雅道は光りのマントを大剣に纏わせ光りの力を強化した。


 防御を捨てた雅道の渾身の一撃はベルナデットの身体を突き破った。だが、力に耐え切れなかった刀身は途中で砕け散り、刺さった刃をそのままに、力を使い果たした雅道は落下していった。


「今だ康貴ィイイイイイイ――――――ッ!!!!」


 親友の声を耳にしたコウキはベルナデットへと向かった。


「ウォオオオオオオオオオ―――――――ッ!!!」


 自身を武器にしたコウキは一筋の閃光となってベルナデットに突撃する。


「アッハハハハハハハハハハハ―――サトウクンサトウクンサトウクンサトウクンサトウクンサトウクンサトウクン!!!!」


 狂喜の声を上げるベルナデットは残ったレイピアを突きだした。


 右拳とレイピアの剣先が触れ合った瞬間、コウキの拳はレイピアと共に消滅した。


「まだだ―――――――ッ!!」


 残った左手を伸ばした瞬間身体に刺さった光りの刃に当たった。


 同時に光りが発生し2人を包み込んだ。


 光のなか、消滅するベルナデットの身体から現れた黒い塊をコウキは掴んだ。


「お前の魂だ。コレを潰せばお前は今度こそ消える」

「それはお互い様でしょ? あなただってもう限界じゃない」

「そうだ。だが先に消えるのはお前の方だ。ベルナデット」

「そうね、残念だわ。せっかく、会えたのに。もう終わりだなんて……」

「―――これで、もう…終わりだ」


 コウキはベルナデット―――長谷川由香里の魂を握り潰した。


 同時にコウキの意識は光りの中へと消えて行った。











 瓦礫の中に彼はいた。


 全身の約半分が結晶化した魔力と化し右腕と右足は既に消失していた。


 顔も左半分が結晶化しなんか口を動かせる状態だった。


「コウキ様!」

「コウキさん!」

「兄さん!」

「コウキッ!」


 ボロボロになりながらコウキのもとへと駆け寄る4人は彼の惨状に言葉を失った。


 瓦礫にもたれ掛けるコウキは薄れる視界の中にサラ達を捕えることができた。


 無い手足を動かそうとしたが全身に力が入らない。


「やあ……みんな………」


 今にも消えてなくなりそうな声で話しかけるコウキに涙を流す。


「コウキ様、なんで……」

「そんなになって、お前は……」


 カトレアは傍まで寄るとゆっくりと頬を撫でる。


 金色の瞳を動かすと僅かに口元がほほ笑んだ。


「ご、めん………」

「謝らないでください!! それよりも早く回復魔法を!!」

「そうです、姉さんの言う通りです! 早くしないと、兄さんがッ!!」


 叫ぶアリシアとカグラにコウキはそっと囁いた。


「も……う、いい…んだ」

「あきらめてはなりません、まだ希望は、可能性はあります!!」

「サラ、いい、ん………だ、よ」


 するとコウキの視線は4人の後ろへと向けられる。


 そこには俯いたたまま立っている雅道の姿があった。


 固く握りしめる拳は震えてた。


「よう……さまみち……ぶじ……だったか………」


 だが、名前を呼ばれても反応を示さなかった。


 雅道はゆっくりと背中を見せ、そして歩き始めた。


「頼んだ」


 コウキの言葉に一瞬立ち止まった。


 そして、


「ああ、僕に任せろ!」


 再び歩き始めた。


 彼の通った跡にはポツポツと水滴の跡があった。


「………はあ、なんか、つかれた」


 すると視界に涙を流すサラの姿があった。


 うっすらと微笑みながら左腕を伸ばす。


 結晶をボロボロと落としながら手はサラへと向かう。


 サラも手を伸ばした瞬間、コウキの腕は砕け散ってしまった。


「あはは、ダメみたい」


 するとカグラはコウキの唇に自身の唇を重ねた。


「泣かないでください!!」


 涙で訴えるカグラにコウキは笑った。


「カグラ、だって、ないてるじゃ、ないか」


 全身の感覚が無い。カグラのキスも感じられなかった。


 次第に耳も目も全て感じることが出来なくなった。


「お前、まだ死ぬんじゃないよッ、アタシはまだお前を楽しんでなんだからね!!」


 そう言ってカトレアもコウキにキスをする。


「コウキさん、好きです!! だから諦めないで!!」


 アリシアもキスをした。


 しかし、コウキは何の反応も示さない。


 この時アリシアは唇から伝わる冷たさにいっそう涙で瞳が覆われた。


「コウキ様!!」


 サラはコウキを抱きしめ、そして唇を合わせた。


「……あなたのことを愛しています。お願いです、目を開けてください、話してください、笑ってください。あなたが居なくなってしまったら、私は―――………」


 薄れる意識の中コウキは思った。


―――もっと、愛してあげればよかった。もっとキスして抱きしめてあげればよかった。愛を確かめ合えばよかった。俺は、いつだってどうしようもないな。はぁ、なんてダメな男なんだろ。こんなに近くに愛してくれる仲間がいるのになにもしてやれなかった。できれば最後に、言いたかったなあ………。


 そのとき腕に抱かれるコウキは僅かに口が動いた。


「…………愛してる」

「えっ」


 その瞬間、コウキの身体は消滅した。


 サラの腕の中には崩れ落ちた結晶だけが残り、光の粒子へと返って行った。


「いやァアアアアアア――――――ッ!!!」


 4人の泣き叫ぶ声が木霊した。





 その日、1人の魔法使いはいなくなった。


 世界に再び起きた危機に身を投じ、仲間ともに多くの人々を守るために戦った。


 しかし、結果として彼は自らの命と引き換えに人々の命を守ったのだった。


 彼はもう二度と見る事は出来ない、この空を、大地を、人々が築く平和や笑顔を愛する者たちの姿を…………。


 彼は、今度こそ英雄となった。











 10年の時が流れた。


 現在は各地の復興も終えて以前のような穏やかな日々を送れるようになった。


 コウキが居なくなった後、4人は雅道から王宮で過ごすことを許可された。


 彼はコウキの意志により4人を保護しようとしたのだが断られてしまった。


 その代り家を欲しいと言われた雅道は了承し、コウキが遺したマントは博物館に寄贈されることとなった。


 サンクチュアリの郊外にある森の中にひっそりと佇む一軒家に4人は暮らしていた。


 そこには成長したアリシアとカグラの姿があった。


 以前に比べてさらに大人びた姿をしたアリシアは髪を後ろで一本にまとめていた。


 カグラも鬼人族らしく額には立派な2本の角が生えて身長もアリシアの頭一分の差までにまで伸びていた。


「姐さんたちおそいですね」

「仕事だから仕方がないよ。ハンターも楽ではないからね」


 サラとカトレアはハンターとして家系を支えていた。


 現在ではその見た目と強さから『美魔女コンビ』としてその名を馳せていた。


 雑談をしているとドアを叩く音が聞こえた。


「あ、返ってきた」


 アリシアは立ち上がると玄関まで行きドアを開けた。


「お帰りなさい」

「ただいま。アリシア」

「帰ったぞ」


 カトレア、サラと順に家に入ってくる。


 2人は相変わらず見た目に変化はなかった。


 しかしアリシアは目を大きく見開かせて言った。


「ど、どうしたんですかその子?!」


 目の前には布に包まれた赤ん坊を抱くサラの姿があった。


「家の前に捨てられていたんだ。お前たち気付かなかったのか?」

「いえ、まったく。ねえ、カグラ」

「はい。誰も気配を感じませんでした」

「そうかあ。しかし、なんでこんなことするんだろうねえ、こんなに可愛いのに」


 カトレアが頬をつつくと赤ん坊は嬉しそうに「キャッキャ」と声を上げて喜んだ。


 頭にはまだ産毛が生えていて生まれたてのことが分かる。


 クリンとした黒い瞳には誰もが癒された。


「ま、とにかくこの子をどうするか決めよう」


 そういって歩き出した時だった。


 赤ん坊から『カチャリ』と音をたててそれは床に落ちた。


「なんでしょうねえ」


 アリシアが拾い上げるとそれは黒い縁が厚いメガネだった。


 それを見た瞬間、全身に鳥肌が立った。


「さ、サラさん、まさかこれって」


 アリシアが見ると、目の前には涙を流すサラの姿があった。


「そうか。そうか。また、会えましたね」

「ネエさん、なに泣きながら笑っているんだい」

「お前こそ同じだろ、バカ者」

「うわぁああああん」


 カグラの泣く声が部屋に響き渡る。


 そんななか赤ん坊はメガネに向かって手を伸ばすがサラは無視して抱きしめた。


「10年、10年も待ちました。またこうやってあなたを抱きしめことができるのを!!」

「これも、運命ってヤツなのかい。神様も粋な真似をするじゃないか………」


 森の中にある一軒家からはすすり泣く女性の声が聞こえていた。


 しかし、その声は何処か嬉しく幸せに満ち溢れていた。






〈エピローグ〉


 気が付くと俺はロビーにいた。


 そこはまるでホテルみたいに豪華なつくりをしている。


 周りを見渡しても、やっぱり俺以外誰も見当たらない。


 そういえば、視線の先にあるカウンターに見覚えがあった。


 ここは俺が、いや、俺たちが一度来ている場所だ。


 すべての始まりの場所―――俺と雅道が死んだときに一度来ている謎の建物。


 なぜまた俺がここに来ることになったのかは知らない。


 服装はいつも通りのマント姿だ。


 まあ、考えても仕方がない、とりあえずカウンターへと足を運んでみた。


 するとあのお姉さんが驚いた顔で俺を見ている。


「お客様、これはどういうことでしょうか!?」

「俺だって知りたいですよ。てかなんでそんなに驚いているんですか?」

「なんでと申されましても、まだ、お客様が旅立たれて1時間しか立っておりません」

「な、なんだってぇえ―――――ッ!!!」


 誰もいないため声が恐ろしい程に響き渡った。


 信じられない。どうやらこの場所と俺達が居た場所では時間軸が違うみたいだ。それにしても1時間て………。


「マジですか!? でもそんなのどうでもいいからお願いします」

「転生ですか? それは難しい話です」

「何故ですか、別にあと一回くらいいいじゃないですか」

「同じ世界に転生は難しいです。別の世界ならどうにかなりますが」

「そこをどうにかお願いします。せっかくまたここに来ることができたんだし。ねえ!!」

「どうしたんだい?」


 突然、奥の方から声がした。


 声質からして男のものだと分かった。


「あの、こちらのお客様が」

「ははーんまさか、戻っちゃったパターンのやつね。ハイハイどうしましたー」


 現れたのは金髪碧眼のイケメンの男だ。


 なんかキザくさいけど、この人ならどうにか話を付けれそうだ。


「あの、もう一度同じ世界に転生したんですけど」

「おやおや、キミも物好きだねえ。いいのかい? 今のままで別の世界で活躍できるのに。そんなに思い入れがあるんだ」

「はい。俺には会いたい人たちがいるんです。そして今度こそ、思いを告げたいんです!!」

「いいよ。そんなに言うのなら」

「ちょ、それは」

「いいのいいの、だって僕偉いんだし。けど、それには一つ条件がいる」

「なんですか」

「今回は例外中の例外だからね、今回特別に許可するだけど、そのためには今までの記憶をすべて消して赤ん坊の状態からスタートする。どうだい、それでもキミは行きたいかい? 思いとか、告げることができないんだよ?」


 試すような目で見てくる。


 だが俺はその碧い目をしっかりと捕えた。


「はい。構いません。もう一度、会えるのであれば俺はなんだってしますし、どんなものも受け入れます。後悔はしません」


 記憶が無くなるのは確かに嫌だ。でも、彼女たちに、雅道たちに再会できるんだったら俺はそれでもいい。


 すると、その人は笑顔を見せて言った。


「わかった。ならコレをキミに」


 俺は鍵を受け取った。


「左の通路を行くといいよ。番号は鍵に書いてあるから見間違いないようにね」

「ありがとうございます」


 一礼して俺は言われた通り左の通路へと向かった。





 カウンターの女性は不服な様子だった。


「そんなに怒らない。いいじゃない、彼がいいと言ったんだから」

「それにしても甘すぎます。それにいままでどこに行っていたのですか?」

「ちょっと部屋にいたのさ。久しぶりのお客さんだからね。色々教えてたら遅れたのだ」

「胸を張らなくていいです。ところで、その人間はどんな感じだったのですか?」

「なんかね、陰陽師をしている青年だったよ。あそこまで力を持っている人間はそうそういないよ。いやー〝どこの世界の人間〟も面白いな。これだから神はやめられない」

「もう、しっかりしてください」


 女性はため息をついたのだった。






 どのくらい歩いただろうか。


 左右にはドアがずらりと並べられていてそれが無限に続いている。


 鍵には『1061』と書かれている。


 ちょうど今1050番目のドアの前を通過した所だ。


 随分かかったけどあと少しだ。


 しばらく歩くそこにあった。


「1061、ここだ」


 俺は鍵穴に鍵を入れた、しかしそこで一瞬止まった。


 このドアを開ければ向こうの世界に繋がっている。


 そして、俺は今までも記憶を全て失ってしまう。


「でも!!」


 決めたんだ。俺はもう一度彼女たちに会いたい。


 もう、躊躇しないって決めたんだ!!


 鍵を捻ると『カチッ』と音を立てたのを確認し一気にドアを開ける。


 目の前には真っ白な空間が広がっている。


 あの時と同じだ。


 なんだか胸が高まってきた。


「さーて、来ますかッ!!」


 一気に身を投じた。


「みんな―――――」


 ただいま。


END


いままでありがとうございました。ちゃんとした後書きは活動報告に載せておきます。

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