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五十八話 女王光臨

 目の前の出来事に雅道はただ茫然と立ち尽くしているだけだった。


 魔術師たちは地面に倒れ込み、雅道を含むと立っているのはほんの数人だけ。


 黒い塊はその身体をゆっくりと動き始めた。


 腹から煙を出したままネフィルムはサンクチュアリへと進み始める。


 雅道は残りに回復と撤退を命じ、自身はネフィルムを食い止めに入った。


「所詮は人間の魔法か……造作もないな」


 ウェパルは吐息を吐くように言った。


 つまらなさそうにモニターに視線を移す。


 人間と魔獣たちが戦っている姿はウェパルの目には遊んでいるように映っていた。


 本当は、さっさとここで決着を付けたいところだったが、ベルナデットからの指示があるまではこうしてしばし遊んでいなければならない。


「ハァ、つまらん。早く殺したい、もっと殺したい。こんな人形じゃなく、ダモクレスさえあれば、盛大に蹂躙できるのに………」


 思わず不満を漏らしてしまった。


 足を組み換えてネフィルムに命令した。


 すると、巨大な腕は城壁に向かって真っすぐに伸びた。


 しかし、すぐ目の前と言う所で雅道が止めに入った。


 剣の腹で受け止めると衝撃波が空間を揺らがせる。


「なるほど、ベルナデット様が言った通り、只者ではないようだな。スズキ・マサミチという人間は」


 関心を孕んだ言葉を漏らす。


 空いた手で雅道を払いのけようとするが雅道は避けた。


 ウェパルはそれ以上構うことなく、ネフィルムを上昇させた。


「させるか―――――ッ!!」


 真上から剣を振り下ろした刹那、ネフィルムの破気により身体が吹き飛ばされてしまった。


「さあ、散れ人間ども!!」


 城壁に向かって拳を振りかぶった瞬間。


「――――なにッ!? 今度はなんだ!!」


 ネフィルムの腕は停止した。


 焦るウェパルをよそに雅道はニヤリと口元に弧を描いた。


 全身に掛かる白銀の鎖はガッチリと動きをとめる。


「遅いぞ」

「ごめんごめん」


 コウキとサラが来た。


「あれがネフィルムか。まさかこんなかたちでお目に掛かるとは………」

「思いもよらなかったよ」


 雅道はコウキの言葉に繋げて言った。

 

 裁きの拘束(グレイプニル)で動きを封じているとはいえ何時またあの光線と衝撃はが来るのかわからない。


 一刻も早く、ネフィルムを破壊しなくては。


「早く片を付けるぞ雅道、サラ」

「分かったよ康貴」

「御意」


 鎖を解こうともがく姿を前に2人は頷いた。


「クソ、なんだこの鎖は!」


 突然のことで焦りを見せるウェパルの目の間には3人の姿があった。


 サラの姿を確認すると、


「おのれ裏切者が!」


 モニターに向かって毒ずいた。


ウェパルの意志に反応するかのようにネフィルムから唸り声が上がった。


 すると、周囲に魔獣が集まり始めた。


 魔獣たちは身体に巻き付いている鎖に向かって噛み付いたり、手で引き千切ろうとしていた。


「ヤバいぞ……アレ」

「分かってる。康貴、アレをするぞ」

「ええ、良くってよ」

「よし、それじゃあ、サラフォンティールさん。僕らで道をつくるから、あとは任せたよ」

「任せた? それは、どういう―――」


 サラを無視したコウキと雅道は上昇した。


 雅道は剣を構えた。


 一方、コウキはロッドを雅道へと向けた。


「我がつくりし、浄化する光の鉄槌、汝に譲渡せんッ!」


 ロッドの先から白銀の魔法陣が展開される。


「―――聖光柱(ロンギヌス)!」


 刹那、光の柱は雅道を包み込んだ。


「な、なんだと!?」


 サラは驚愕した。


 それは、かつてコウキと出会ったときに受けたあの魔法なのだから。あの二人はいったい何をしようとしているのだ?


 すると、光の中から雅道の姿が現れた。


 光のマントを羽織り、剣は巨大な白銀の大剣へと姿を変える。


「魔装、セイクレッドパージ」


 雅道は、その絶対的力と引き換えに魔力があるのも関わらず魔法が使えない。


 しかし彼には一つだけ魔法と使うことのできる能力がある。


 それはコウキの魔法を一時的に自分の物にすることができるのだ。


 『譲渡』、彼らはそう呼んでいる。


 そして今、目の前にあるのは譲渡を受け状態の姿。


 他を寄せ付けず、邪を払う絶対不可侵の領域を作りだす光のマント。


 他を凌駕し、すべての邪を薙ぎ払う絶対的力を持つ光の剣。


 最強の(つるぎ)と盾を併せ持つ奇跡の回答、それが『セイクレッドパージ』なのである!!


「行くぞッ!」


 雅道は剣を真横に振ると、光の波が魔獣たちを討つ。


 迫りくる攻撃はマントの力で無効化し、触れるモノは消滅する。


「さぁて、俺も!」


 コウキは周囲に無数の光剣(フラガラッハ)を出すと魔獣たちを切りさいて行く。


 2人の猛攻にサラは呆気に取られた。


 やはり強い。


 そう再認識するサラの手に力が入る。


 2つのハルバートを手にサラも進撃した。


 ネフィルムは身体を無理やりねじり始める。


 本気でないコウキが作りだした鎖は次第に亀裂が生じ始めた。


「雅道、時間がない」

「見ればわかるよ」


 背中を合わせる2人の周りには無数の魔獣が押し寄せてくる。

 

 雅道はコウキに耳打ちすると、コウキは軽く頷いた。


「……そんじゃあ」

「行きますかッ!」


 コウキに次いで雅道が言った。


 雅道はマントを手に取ると、ネフィルムを囲む魔獣に向けてマントを振った。


 するとマントは肥大化し魔獣たちを一掃する。


 周囲の魔獣がいなくなった事でネフィルムを阻むものはいなくなった。


 その隙にコウキは頭上に無数の魔法陣を出していた。


根絶の棘(ゲイボルク)!」


 魔法陣から放たれた白銀の棘は拘束されているネフィルムの表面を削っていく。


 一撃で貫くことはできない、だが雅道は連続した攻撃ならば表面に張られている魔法の回復力を遅らせることができると考えた。


 したがってコウキの持つ魔法により表面を弱体化させ雅道が直接ダメージを与える戦法だった。


「馬鹿な、ネフィルム!!」


 ウェパルの叫びもむなしく、ネフィルムの装甲は磨耗されていく。


「このオォオオオ! 人間風情が!」


 ネフィルムを無理やり上昇させると、鎖は崩れ落ち右腕をコウキに向けて突きだす。


 その瞬間、


「ゼァアアアアッ!」


 雅道は腕を斬り落とすと、間髪入れず胴体に向けて縦に振り落とす。


 脆くなったボディは簡単に崩れ落ちた。


「グアアアアアッ!? ―――――クソがァア」


 落下するネフィルムは腹から光線を発射するがマントによって無効化される。


 ウェパルはネフィルムの光輪を出し落下を防ぐ。


 すると、割れた外装から見えたのはハルバートを構えるサラの姿があった。


 サラはハルバートを交差させると、螺旋を描き黒い剣と変化した。


「ハァアアアアアッ!!」


 背中の羽から黒い魔力が噴出される。


 すると残像を残しながらネフィルム内部のウェパルへと肉迫する。


 ウェパルは光線を連射するが当たることは無かった。


「裏切者が! ベルナデット様からの恩恵は。ヒトの魂でありながらアンブラの称号を得た貴様の忠義はどこへ行ったァアアアアアッ!!」


「そんなのとうの昔に忘れたわァア!!」


 黒剣はウェパルを突き刺しそのままネフィルムを突き破った。


「グアア――――――――――――――――――ッ!!!!!!」


 心臓を貫かれたウェパルは口から大量の血を吐いた。


 刹那、サラの持つ剣が折れると同時に身に纏う鎧も崩れ始めた。


 剣が突き刺さったウェパルの身体は重力に引かれた。


 ―――ご苦労様、ウェパル。


 消え失せる意識の中、かすかに声が聞こえた。


 それは紛れも無く主君―――ベルナデットのものだった。


 ―――これでようやく、本番を始めれるわ。


 ベルナデットの声は何処か楽しさを孕んでいる。


 そこには自分の死を惜しむ言葉など何一つ無かった。


「―――ああ、ベルナデット、さ……ま……」


 悲嘆に似た声でウェパルは地面に叩きつけられ、その場にいた魔獣の餌食となった。


 魔力をほとんど使い切ってしまったサラはふらふらと降下していく。


コウキはすぐさま抱き抱えた。


 裸体になってしまったサラにマントを羽織らせると、めいっぱい抱きしめた。


「良くやったよサラ」

「すごいよ」


 2人の声に小さく笑顔を見せた。


 



「上手くやってくれたようだな」


 フレイは崩れるネフィルムを見ていた。


 地上の方も他国からの援護もあったおかげで戦局も大分回復に向かっていた。


「フレイ――――ッ」


 雅道とコウキはフレイの元へと降下してきた。


 フレイは駆け寄ると驚いた表所を浮かべていた。


「さ、サラ殿ッ、一体なにが」

「大丈夫、魔力を使いすぎただけだ。救護班を頼む」

「分かった。しかし、良くやってくれた」

「なあに、あんなの所詮骨董品だよ」

「その骨董品にあこがれて、さらに苦戦していたヤツが言うセリフじゃあないな」

「うるさい。とにかく、サラフォンティールさんを」

「分かった」


 フレイは近くにいた兵を呼ぶとサラを運ぶよう指示をした。


 コウキはカグラとカトレア、アリシアの元へと向かい一度体勢を立て直すよう命じた。


「コウキさんありがとうございます」

「なに、気にするな」


 アリシアに回復魔法を施すコウキは応えた。


「ネエさんがばてるなんて、よほどの相手だったんだな」

「サラの魔力は三分の一程度しかないからね」

「確かコウキさんとの戦いで」

「うん。だから申し訳ないよ」

「ところで、兄さん。このこの戦いはいつまで続くんですでしょうか」


 カグラの問いに首を横に振った。


「それは分からない。ベルナデットが出てくるまでは……」


 その時だ。


「地上のみなさ―――――――――ん。ごきげんよう!!」


 突如上空から声が聞こえた。


 不謹慎ともいえる口ぶりにコウキは顔を強張らせる。


 その瞬間、魔獣の動きが一斉に止まった。


 上空の黒い魔法陣から現れたのは、パラソルを肩にかけながら悠長に笑うベルナデットの姿だった。


「いかかでしょうか、宴の方は。楽しんでもらえているでしょうか!」


 戦場にベルナデットの声が響き渡る。


 その声は、やはり不快だ。


「さあ、これからが本番です。みなさん、もっと沢山、血を流しましょう!!」

「ベルナデットォオオオオオオ――――ッ!!」


 雅道は一瞬で斬りかかる。

 

「ジャマよ」


 だが、ベルナデットは虫を見るかのような目でパラソルで迫りくる雅道を払いのけた。


「グ―――――ッ!」


 黒い波動に耐え切れず、地面に叩きつけられる瞬間にコウキは雅道を受け止めた。


「すまな――――――」

「サトウ・コウキ君ッ!!」

 

 刹那、歓喜に満ちた声がコウキにぶつけられた。


 大きく見開かれた紅い瞳、さらに頬を赤く染めるベルナデットだった。


「貴様のせいでどれだけの犠牲が出たというんだ!」

「あら、それはお互い様でしょ? アナタ達だって私の仲間を多く殺してきたじゃい」

「お前ら魔族が攻てきたからだ!」

「うるさいわねアンタ。私はサトウ君とお話がしたいの」


 ゴミを見る目で雅道を見下すベルナデットにコウキは言った。


「お前の目的は俺なんだろ? なぜ他を巻き込む」

「それはもう少し楽しんでからにしましょう。 楽しみは後の方が良いでしょ?」


 小首をかしげるベルナデットにコウキと雅道は激怒した。


「ざけんな……。康貴、僕は久しぶりに心の底から殺したいと思ったよ」

「奇遇だな、俺もだ」


 するとコウキはチョーカーに手を当てた。


 それは、禁じられた力に今一度手を染める時だった。


第二魔力制限(セカンドセーフティー)解除」


 コウキの身体は光に包まれた。

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