五十五話 王の器
王宮の一室にコウキとサラ、そして雅道とフレイの4人は会議を開いていた。
机一つ隔てコウキとサラが座り迎えには雅道とフレイが座っている。
コウキとサラは今日あった出来事を話していた。
「もし康貴やレインアントさんの言う通り魔族が再び進行してくるのであれば、うちの魔法使いたちが何か察知するはずなんだけどな」
「確かに、防衛システムは万全だ。魔族がこの世界に侵入するのであれば向こうの魔力を感知できるはずだ」
「そうらしいね。でもあの時俺は本人の姿を見つけるまで一切何も感じることは無かった」
「私もです」
コウキの言葉にサラは言葉を乗せる。
雅道とフレイは神妙な顔で2人を見つめる。
するとフレイの口が開いた。
「ちょっといいか。ベルナデットがコウキに会いに来るのはまあ理解できるとしよう。しかし、何故レインアント殿まで魔人に会う必要があるのだ? なにか接点でもあるのか?」
フレイの発言に2人は顔を見合わせると、
「そのことなんだけど、フレイ。前に約束したこと覚えてる?」
「無論だ。まさか!」
「うん。サラ」
「はい。こんな時の言うのは少しおかしいのだが、その、我は――――――」
自身の過去と現在に至るまでの過程を話した。
雅道は驚いた顔をしていたがフレイは真剣にサラの言葉に耳を傾けていた。
話を聞き終えたフレイは「なるほど」と言うと、急に席を立ちあがった。
それをみた雅道は必死に彼女を止めに入った。
「ちょ、ちょっとフレイ早まるな」
「そ、そうだって。確かにサラは魔人かもしれないど、サラはいい魔人なんだ。だからそんな怖い目をしないでくれッ!!」
「少し黙ってもらいたい」
「「はい」」
フレイはサラの前にまで歩くなか、サラは黙ってフレイのことを見ていた。
緊迫する空気の中、コウキと雅道は黙ってその光景を眺めていた。
見下ろすフレイの視線と見上げるサラの視線がぶつかる。
そして、
「そうでしたか。あなたにあえて嬉しいでうす。大変でしたね」
「お前は、我の話を信じると言うのか?」
まさかのフレイの言葉に2人は言葉を失った。
今までもフレイは魔族であればだれであろうと容赦なく殺してきた。
かつての自分たち以上に彼女は躊躇しない性格であったのに現在の彼女はまるで別人のように見えた。
「はい。あなたの名字を耳にした時から不思議に思っていました。そこで実家に戻り倉庫でレインアント家ゆかりのある物を探しました」
「そんなことしてたんだ」
「らしくないね」
コウキと雅道はヒソヒソと耳打ちしていた。
「―――そこで私は古書を見つけました。二百年以上前の物で大分古びていたのですが、何とか字は読めました」
「そこにはなんと書かれていたのだ?」
「はい。かつての当主であったエリン・カルバーンの日記でした。メモは取っております。そこにはこう書かれていました。『我が友サラフォンティールと剣を交えた。彼女の剣はいつもまっすぐで濁りの無い無垢な剣だ。僕はそんな彼女の剣が好きだ』とか書かれていました。申し訳ありません。全体を通してこの一文だけが唯一まともに読めたものです」
フレイの言葉にサラは感慨深い表情を浮かべていた。
確かにそうだった。深い記憶の中にかすかに覚えている。
黒い髪の毛で細身の身体をしていた。顔は良く覚えていないが、屈託のない笑顔だけはうっすらと覚えている。そう、それはまるでコウキのように。
「そんなこともあったかもな」
「だから私は信じます。あなたは私のご先祖様です。たとえあなたが堕天したとしても、あなたは大切なひとです」
「じゃあ俺も」
「お前は別だ」
「えー」
「えーじゃない。お前は自業自得だ」
「んな殺生な」
情けない声を上げるコウキに雅道は苦笑いを浮かべた。
一方サラはフレイに対し申し訳なさそうに口を開いて言った。
「いいのか? 我はお前の一族にとって汚名ではないのか?」
「今の私がいるのはあなたが昔活躍したおかげです。ですから私はそんなあなたを尊敬します」
「だが、我は………」
「いいじゃん。フレイがそういているんだから」
「そ、そうでしょうか」
「子孫が言ってんだし。尊敬してもらえるなんていい話じゃない」
コウキの言葉にサラは少し心が晴れた気がした。
するとすっとフレイの前に立ち上がった。
「…そうか、お前がそう言うのなら」
フレイに向けて手を差し出した。
「よろしく、頼む」
「はい」
2人は握手を交わした。
しっかりと見つめ合った2人は僅かに微笑んでいた。
「我のことはサラと呼んで良いぞ」
「では私のことはフレイと及びください。サラ殿」
「ああ。しかし、なんだ、こうやって子孫と会話をするのはなんか、こう不思議なものだ」
「私もです。あの、良ければ1つ頼みごとがあるのですが」
「なんだ、なんでも言ってくれ」
「一度剣を交えたいと思うのですが」
その瞬間、サラの口元は弧を描いた。
「いいだろう。さすが我の子孫だ。やはり我の血が入っているようだな」
「コウキ、悪いが少しの間サラ殿を借りてもいいか?」
「う、うん。別にいいけど」
「お二人も来られますか?」
「僕たちはいいよ。もう少し話があるから。キミたち2人で楽しんできな」
「はい。では、サラ殿」
「行ってまいります」
そう言って2人は部屋から出て行った。
残ったコウキと雅道はカップに残った冷めた紅茶を一気に喉の奥に流し込んだ。
「―――しかし、驚いた。まさか魔人を仲間にしてたなんて」
「まあな。色々あったんだよ」
「またそうやって面倒くさがる」
「いいじゃん」
「で、いつ結婚するんだ?」
「はぁあ!?」
唐突な雅道の言葉に素っ頓狂な声を上げた。
「康貴、お前はもう26だろ。そろそろ身を固めようとは思わないのか?」
「いや、まったく」
「なんでさ。あんなに可愛い女の子が4人もいるのに。………まさか、まだ手を出していないのか?」
「そう言う言い方止せよ。俺と彼女らは別にそういう関係じゃないんだ」
「じゃあなんだ?」
「家族っていうか、キョウダイみたいな。傍にいて当然の間柄なんだよ俺達は」
「って康貴は言っているけどさ。彼女達の気持ちは考えたことないの?」
「それは………」
鋭い指摘に言葉を詰まらせた。
言われる通り、今までサラたちの気持ちなど考えもしなかった。
今まで生活を共にしてきたがそんなこと微塵も感じなかった。
「康貴って案外鈍いからなあ。で、ベルナデットについてだけど」
「いきなりだなあ。まあいいや」
「確か、康貴の名前を言ったんだよな。正確には名字か」
「そうだ。あの時俺達は何も言わず、ただ一方的にアイツを殺した。だから名前は知らないはず。ましてや双子の妹を影武者にしたんだったらアイツはあの場にはいないはず」
「いったいどういう経路で康貴のことをしったんだろうか」
「さあ。で、アイツはどうやら俺に興味があるらしい」
「なぜ? なんでまた康貴なんかに」
「分からない。さっきも話した通りアイツは俺メインの宴と称した戦争をおっぱじめようとしているらしいしな」
「康貴が主役のか。ますます訳が分からない」
「ホント、ワケワカメ」
と言いながらクッキーを頬張るコウキだった。
「――――まあ、そう言うわけで痕のことは任せた。俺に出来ることがあれば言ってくれ」
「分かった。僕も皆に伝えておく」
「じゃあな」
コウキは部屋を出ると、外はすっかり日が暮れていた。
茜色に染まる空が時間の経過を物語っている。
今日は本当に濃い1日だった。
首の骨を鳴らしながら自室へと戻るのであった。
自室に戻るとすぐに食事が運ばれてきたため彼女たちにある前に食事と入浴を済ませたのだった。
しばらくするとカグラとカトレアの話し声が聞こえてきた。
どうやら終えたみたいだった。
愉しそうに会話をしているためよほど充実した1日だったことが伺える。
その少ししてアリシアと思われる足音がした。
しかし、サラが返ってくる気配はなかった。
空が暗くなり夜空に星が輝き始めたころ、コウキを含めサラを覗く3人はコウキの部屋に集まっていた。
「ネエさん遅いねえ」
「そうですねえ。確か、フレイさんっていう騎士団長と一緒にどこかに言ったんでしたっけ」
「そうだよ。今頃何をしているんだか」
とコウキが言った時だった。
カツカツと音を立てて部屋の前を誰かが通ると、コウキは立ち上がり外を確認した。
「サラ、こっち」
「コウキ様、お疲れさまです」
「お疲れって、一体どこにいたんだ?」
「フレイと少し競技場で剣を交えていました」
「ずっと?」
「はい。気が付いたら外が暗くなっていましたので終わりにしました」
「呆れた、まあいいや。とりあえず俺の部屋に来てくれ」
「はい」
サラが戻り5人は例の魔族との戦争について話した。
3人は驚いた表情を崩すことなく終始驚嘆の声をひたすら上げていた。
「―――と言うことだ。だからみんなには最悪前線で戦ってもらうこともあり得るから」
「アタシは別に構わないよ。一応これでも前の戦争を乗り越えているからね」
「それならアッシも自信あります。今日だって皆から褒められました。アッシはいつでも戦えます」
「わ、ワタシは、いままでそう言うの、経験ありませんけど、でも、できることなら戦います。できる限り」
「皆、嫌じゃないの?」
「アッシの桜華は守るための物です。悪いモノから皆を守るものです。悪は即ち斬られなければなりません」
すこし興奮した様子のカグラにコウキは頭を撫でる。
「カグラの言う通りじゃないか。アイツらに今の生活を壊されたくはないからね。そ・れ・に―――――」
カトレアはコウキの後ろに回り、後ろから首に腕を回した。
後頭部にはカトレアの胸がダイレクトに当たった。
「―――コウキとの楽しみが無くなってしまうじゃないか」
「カトレア貴様ッ!!」
「イダダダダダ――――ッ」
サラの抓りに顔を歪ませると、尻を摩るカトレアだった。
「なにするんだいネエさん、跡が付くじゃないか」
「狼藉を働くな馬鹿者」
「ひどいねえ」
「………そ、そういうわけで皆、少し気を気を引き締めていくように。解散」
「ん~ふふ~ふふ~ん」
「姫様、行儀が良くありませんよ」
鼻歌混じりに食事をするベルナデットの姿にウェパルは注意するが当の本人は気にすることなく鼻歌を辞めなかった。
ウェパルは軽く息を吐くと止めていた手を動かし始めた。
魔界、旧ベリアル城。現ベルナデット城の食卓にはベルナデットと側近のウェパルのみが席に着いていた。
彼女ら以外の席は全て開いており食器の音に混じり彼女らの食す音が鮮明に聞き取れる。
天井にシャンデリア、卓上には花、周囲の棚には瓶や皿、彫刻が飾られていた。
ゴスロリの格好をしたベルナデットは血のようにまっ赤な瞳を細め、死人のような白い肌を僅かに赤く染めると、
「さ・と・う・こ・う・き」
真っ赤な唇をゆっくりと、咀嚼するように、1つひとつの言葉をかみしめながらその名を口にした。
「失礼ではありますが。姫様はあの人間の男のどこに惹かれるのですか?」
すると舌で唇を舐めた。
「愚問よ。あの方と私は深い運命の糸で繋がっているの。あなたには分からないと思うけど」
そう言ってフォークで肉を刺すと口の中に運んだ。
「なるほど、そうでしたか。失礼しました」
「ふふっいいのよ。あなたもいつか分かる時が―――いいえ、もうすぐわかるは、彼と私が愛し合う姿を見れば」
「はあ」
理解しているのかしていないのか判別つかない返事を返した。
「さあ、食べ終わったら分かっているわね」
「はい。アレを機動させればよろしいのですね」
「そうよ。そして私は会いに行くの。王を受け止めてくれる器に」
いよいよ宴が始まります。




