四十九話 課せられた罪/過去の過ち 其の壱
部屋に戻ると、3人はまだ待っていた。
外はもう暗くなり始めている。
「お帰りなさいませ」
「うん」
コウキは椅子に座るとグラスに水を注ぎ、一気に煽る。
「ハァ.......さっき言った事だけど―――」
「そのことならいいよ。無理に言わせようとするのは良くないからね。さっきはごめんよ」
カトレアは誤ってきた。
しかし、コウキは口を塞がなかった。
「いや。話すよ」
「兄さん無理しないで」
「ありがと。でも今はなさないと、後で後悔しそうだから。だから洗いざらい話すよ」
笑顔で返す。
「コウキ様......」
コウキは眼鏡を外して、目頭を指で摘まむ。
「―――まずカグラ、キミは最初俺のことを『少し違った』って言ってたけど、具体的にどういうこと?」
突然振られたカグラは背筋を伸ばしていった。
「あ、はい。その、今はもう慣れましたが、匂いが違いました」
「どんな?」
「わかりません。口では説明できないくらい、複雑で、ぶつかり合っている、っていうか........」
「わかったありがとう。じゃあ、皆に訊くけど、俺のコレを何か知っているよね?」
「アクセサリーと聞きました」
アリシアは言った。
「うん。でも、これはね。魔力を押さえるアイテムなんだ」
「どういうことだい?」
「俺はね、光の魔法を使えるんだ」
その途端3人は声を上げた。
「ええ?! あの光の魔法をですかァ!!」
「すごいで、兄さん」
「驚きだわ」
「我は知っていたぞ。初めて会ったときにコウキ様が我に使ったからな」
「うん。あと、もう一つあるんだ」
「なんですか」
サラは真剣な表情を崩さない。
「あと、闇の魔法も使えるんだ」
その瞬間4人の顔は恐ろしく険しい表情になる。
「ど、どういうことですか。闇の魔法を使える?! そんなのありえません。だって――」
「光と闇を持つのは不可能じゃないか」
アリシアの言葉にカトレアは繋げた。
「だからコレを付けているんだよ。俺はとても不安定なんだ」
「訳が分かりません。光の魔法は分かります。ですが何故同時に闇の魔法も持っているのですか、そのチョーカーとの関連性がさっぱりです」
サラは言う。
「う~ん、それは俺にも分からないんだ。だけど、現にこうして俺は2つの力を持っている。サラだって解っているじゃない。最初にあった時キミは俺に〝同じにおいがする〟って言ったじゃないか」
「それは.......確かにそうですが、納得いきません」
「なら、証拠を見せて欲しいね」
カトレアは言う。
「証拠なら、もうとっくに見ているよ。カトレアさん、それはキミが良く知っているよ。と言うより一度体験してる」
「体験? .......まさか、あの時の?!」
コウキは頷く。
「で、でも、あの時は回復魔法で」
「それは嘘。ホントは〝一度〟死んでいるんだ」
「なにぃ!?!?」
「そ、そんなことって、あるんですか!?」
カトレアに次いでカグラも思わず声が大きくなった。
サラもアリシアもコウキ以外みんなにわかに信じがたい表情のままである。
「とりあえず、先に言うとね。俺は..........不老不死、なんだよ」
「コウキ、冗談は止せ。ぶっ飛び過ぎてる」
「冗談じゃないよ。俺は老いることも、死ぬことも許されないんだ。何故そうなったか話すよ」
コウキは重い口を開けた。
その様子を4人な真剣な表情で聞く。
「ごめん、その前に一つ確認しておきたいことがある。この中に〝カルイ国の悲劇〟は知ってる?」
「もちろん、たった半日で壊滅した、確か隣国だったたな。まて、まさかお前!!」
カトレアの言葉にコウキは頷く。
「なんですか、それは」
アリシアは訊いた。
「今は無いけど、たった一体の魔人が国を滅ぼしたんだよ」
「そんなことがあったんですか。それとコウキさんがどういう関係なんですか?」
「それを今、本人の口から聞くのさ」
瞳を伏せるコウキは口を開いた。
「俺は―――――.........」
雅道とコウキはこの異世界に転生して約2年で魔王を倒すことに成功した。
ちょうど、魔王を倒しに魔界へ行く半年前に俺達はフレイに出会った。
そして、地上にいる7代将軍の残り2体を倒しに行動した。
その後俺たちはここ、サンクチュアリの姫―――当時結婚する前のマリア・セントワードと知り合い、そして国中にいる魔法使いの力で魔界に行った。
そのときすでにコウキには神に匹敵する力、『光の魔法』を手に入れていた。
この力で魔族たちを一掃していった。
3人の活躍により人間界と魔界との争いが終え、約半年後のことだった。
白い制服に身を包み彼はそこに居た。
「は、はじめまして。サトウ・コウキです。よろしくお願いします!」
挨拶が終えると同時にまばらな拍手が教室に鳴り響く。
コウキは強張った表情のまま直立不動でいた。
珍しいモノでも見るかのような視線がコウキに集中している。
先生が話をしている中、ヒソヒソ声がイヤに目立っていた。
「―――と言うわけで、途中からではあるが、今日からサトウ君と一緒に勉強し行くことになる。皆仲良くするように。じゃあサトウ君、中央の開いている席に座ってくれ」
「はい」
コウキは心地ない動きで席まで歩く。
その間もヒソヒソ声は終わらない。
席に着くが違和感がすごかった。
サトウ・コウキ、21歳。2度目の人生において、学生生活の始まりである。
戦争が終わり半年がたった。
依然として国中復興作業で忙しくしている中、魔王を倒した3英雄の内、雅道はマリアとの電撃結婚を発表し国中を驚かせた。
フレイは半壊した騎士団をまとめ上げるべく自ら総団長に名乗りを上げ、今日まで至る。
ちなみにフレイは結婚発表の直前まで雅道のことが好きだったが、気持ちを伝えることなく、あっけなく失恋してしまったのだった。
雅道、フレイは国のために働いている中、コウキだけは何もすることが無かった。
魔王を倒してしまった自分にこの世界での存在意義を考えていた。
雅道は王家の人間として働いている。
しかし、コウキには何もない、何もすることが無いのだ。
周りは何もしなくてもイイと言っているが、コウキ自身何かしようと思った。しかし、本当に何もすることが無いためしばらくニート生活を送っていた。
あるときコウキはある情報を聞き入れた。
それは学校の存在である。
コウキは大学1年の春休みに転生したため、まともに卒業できていないのである。
したがってコウキはもう一度学生活を送りたいと思い、立場を利用して特別入学することができた。
コウキが入学したのは国内でも最高峰を誇る、『セイクレッド魔法学園』に入学することとなる。
そこで、後にお世話になるニール・ライトマンと出会うことになる。
セイクレッド魔法学園は小学校から大学まで一貫した教育施設が備わっており、在籍する生徒のほとんどが上流階級の子どもである。
魔法を学ぶ施設であるため当然、座学と実技がある。
コウキの場合実技は問題ないため、実技のみ高等部の3年に混ざり学習し、座学は中等部の1年生に混ざるというおかしな学校生活を送ることとなった。
途中入学してから一ヶ月が過ぎた。
今ではすっかりクラスに溶け込んでいる。
この日は実技を行う為、高等部の3年生の中にいた。
「サトウ君、お願いします」
「はい」
コウキは、青い宝玉が着いているステッキ型のロッドをかざすと青白い魔法陣が浮かび、瞬く間に氷の塊を造りだした。
「完成です」
周りから歓声が沸き上がる。
初めの頃はコウキの魔法見たさに全校生徒と教師が見学に来る始末となったが、今ではだいぶ落ち着いた。
コウキは氷の竜を作ったのだ。
「すごいです。さすが3英雄の1人!!」
近くにいた学生が声をかけてきた。
彼の名はフィリップ。
コウキの隣の席に座っている。
「ははっ。ありがと。俺のことはコウキでいいよ」
「ちょっとフィリップ。なにコウキに取り入れようとしているの」
「あ、アメリア。そんなことないよ」
彼女の名はアメリア。
コウキの席の斜め前に座っている。
「とかなんとか言って。いつもコウキと一緒じゃないの」
「俺は感謝してるよ。魔法学とか教えてくれるし、助かってる。さすが先輩だよ」
「せ、先輩は止してくださいよ。コウキさんの方が年上なんですから」
「そんなことない―――ん? なに、アメリア」
アメリアはコウキの袖を引っ張って言った。
「わたしにも何か言ってほしいな~」
「アメリアにも助けてもらっているからね。先輩」
わざとらしく言うアメリアにコウキはほほ笑みながら言った。
「ふふん。よろしい」
少々照れた様子のアメリアは胸を張った。
「そこ、私語しない!」
注意されてしまった。
「「「すいませーん」」」
3人は口をそろえて言った。
その後模範演技をいくつか披露したコウキは食堂では無く、中庭で食事をとっていた。
コウキの他にも高等部のフィリップ、アメリア、ロイ、リーナ。そして中等部のレイ、アンリの姿があった。
彼らはいつも一緒に食事をする中なのである。
「コウキさん、コウキさん。今日も聞かせてくださいよ!!」
レイは言った。
「レイ、キミは本当に好きだね、その話」
少々呆れ気味にロイは言った。
彼はコウキの席の隣のクラスメートである。
「だって先輩、あの魔界で戦って勝利した3英雄の1人ですよ?!」
興奮気味のレイは小鼻を膨らます。
「はは、いいよ。今日はどの辺だたっけ?」
「バハムートじゃなかったかしら」
サンドイッチ片手にリーナは言う。
彼女も近くの席に座っている。
「そうそう。大魔獣バハムートね。アレは厄介だったな」
「どう厄介なんだい?」
ロイは言った。
「アイツは魚竜で、湖と海を行き来きしてさ。攻撃がまともに当たらなかったんだよ」
「で、どうしたの?」
「まず、地盤沈下地下の通り道を破壊して、その後に湖に閉じ込めて速攻で蒸発さして、身体がむき出しになったところを雅道がスパッと」
「また、マサミチ様が仕留めたの?」
アメリアは言う。
「う、うん」
「なんか毎回コウキが道具にされている様にしか思えなんだよね」
ロイは言った。
「は、はぁあ? 道具じゃねーし」
「動揺してるわよ、コウキ」
「アメリアさーん、僕だって大物の一匹二匹、普通に倒してるし~~~」
「ちょっと、その喋り方気持ち悪い。あと、コウキそれサンドイッチじゃなくて石よ」
「!!!」
コウキの腕が止まった。
「あはは。コウキくん、動揺しすぎ!」
レイは笑いながらコウキにサンドイッチを手渡す。
コウキは顔を赤くしながら受け取るとすぐさま口に運んだ。
「――――大人を馬鹿にするな!」
「はい。お水」
アンリから水を貰うと一気に喉に流し込んだ。
「ホント、コウキさんってわかりやすいなあ」
フィリップは楽しそうにパンに噛り付いた。
するとコウキは言った。
「そう言えば、次の授業ってなんだっけ?」
「わたしらは魔法史よ」
アメリアは言った。
「てことは、俺は中等部だよな。何かあったっけ?」
「コウキくん、ニール先生の課題があったよ」
その瞬間、レイの言葉にコウキの顔から滝のように汗が流れ落ちた。
6人は察した表情でコウキを見つめる。
「まさか、忘れたの?」
ニーナが言うと、コウキはゆっくりと頷く。
「呆れた、何が『大人を馬鹿にするな』よ。宿題すらまともにやってないんじゃ仕方がないわね」
「見せようか?」
刹那、コウキはアンリの手を取った。
「ありがと、マジ感謝、歓喜、俺!!」
「ダメよ、甘やかしちゃ」
「はあ、いいじゃん」
「いい、アンリちゃん。このおじさんは〝大人〟なんだから」
アメリアの鋭い視線がコウキを貫く。
「う、うるせえ!」
と、言いつつも結局なんとか.........間に合わなかったコウキはレイとアンリの協力のもと課題を追えることができた。
午後の授業を終えたコウキ達はそれぞれやることをやった。
魔法の実技の練習、勉強、友達と遊び、買い物など。
どの世界の学生もやることは変わらなかった。
コウキはと言うと、図書館でアメリアに基礎魔法薬学と魔法理論を教わっていた。
「いやあ、悪いな」
「いいのよ。今日は暇だから、でもその代り今度付き合ってよ」
「はいよ」
コウキはノートをとっていくなか、アメリアはコウキの横顔を見つめていた。
この辺では経ずらしい黒髪に、歳不相応なほど幼く10代を彷彿とさせる見た目。
気さくで、明るく、愉快でおっちょこちょいなところが可愛い、ちょっとおかしな大人。
アメリアはそんなコウキに対し、いつしか好意を抱き始めていた。
彼女も花も恥じらう10代の少女。
恋の1つや2つするのは当然である。
「.......アメリア?」
「ひゃい!?」
突然振られてしまい、裏返った返事をしてしまった。
「だ、大丈夫か?」
「な、なんでもないわよ。ことろでなに?」
「この問題なんだけど」
「ああ、それね。それは――――――」
コウキの顔が近くにあるため、妙に緊張した面持ちで教えたのだった。
やがて時間はあっという間に過ぎ、太陽が完全に沈みかけの頃にはコウキの自習はとっくに終えており、2人は家路についていた。
アメリアは実家から通っており、コウキは下宿だった。あえて下宿を選ぶことである程度の自立を図ろうとしているのだ。
2人は偶然にも同じ道を通るため、必然的に一緒になる。
「じゃ。俺はここで。ありがとな」
「ううん。わたしは先輩なんだから、当然よ。じゃあね」
「おう。また明日な」
コウキは軽く彼女の肩に触れると帰路について行った。
アメリアはその後ろ姿を眺めながら、自身の肩に手を置く。
「.......んふふん♪」
アメリアは満面の笑みを浮かべて家に帰ったのだった。
そんな生活を送ること1年が経ち、コウキは22歳になった。
現在は実技の時間を減らし、中等部の2年生に混じり座学を主軸として生活を送っていた。
そして、いまだに雅道とは顔を合わせる機会は訪れていない。
ロイ、アメリア、リーナ、フィリップの4人は大学の方へ進み、それぞれ専門分野を学んでいた。
国や周辺地域の復興作業もだいぶ行き届き、1年ほど前に比べると幾分マシな姿へと変わりつつあった。
ちょうど季節は夏に差し掛かった頃、それは突如として訪れる形となった。
本来コウキは実技は必要ないのですが、模範演技というかたちで授業を行っていました。本人は座学をメインにしたかったようですが。




