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四十八話 罪/罰/姓

 翌日の午後。


 コウキ達一向は野営を通して大陸最大の規模を誇る大国、サンクチュアリを訪れていた。


 馬車の中で、コウキは今朝からずっと渋い顔をしながら窓の外を見つめている。


 馬車は城まで真っ直ぐ進み、ついに城の敷地内へと踏み入れた。


 その途端コウキは「ハァ」と大きく露骨なため息を漏らした。


「大丈夫ですか?」


 アリシアはコウキの顔を覗きこむ。


「―――ッ! ああ、大丈夫........じゃあ、ないかもしれない」

「は、はあ?」


 不可思議な回答にアリシアは困惑した。


 すると、馬車の動きが止まった。


 ドアが開かれ、コウキ達は降りると目の前には白くて大きな城が視界全体に広がる。


 見とれて射る間もなくコウキ達は雅道率いる使用人たちの案内の元、城内に入ろうとする直前で、なぜか引き止められてしまった。


 突然のことで一瞬戸惑いを見せた五人であったが、コウキは1人納得した表情だった。


 向こうでは雅道と部下数人が話し合っている姿が見える。


 しばらくすると、雅道と使用人が2人、コウキのもとへと向かって来た。


「随分手間が掛かったようだな」

「すまないな、康貴。少しの間だけ〝コレ〟を付けてもらいたい」


 雅道の横から使用人が手に持っていたのは南京式の手錠と鎖であった。


 サラは険しい顔つきで言った。


「なんですか、コレは! コウキ様が何をしたと言うのですか!!」


 他の3人も雅道を睨むが、コウキに制された。


「いいんだよ。俺にはこれくらいがちょうどいい」


 コウキはマントを渡し、もう一人がコウキの後ろに着き手錠をはめた。


 そのままコウキの身体は鎖で固定されてしまった。


「確かにコレだと安全だな」


 コウキの言葉に雅道は申し訳なさそうに頷く。


「それではどうぞ」


 こうして、晴れて正式に入城することが許可されたのだった。


 城内は驚くほど広く、壁は大理石の様に光沢があり清潔感が漂っている。


 赤いカーペットの上を歩く中、コウキ達―――コウキは周りからの視線に若干困惑した表情を浮かべている。


「なんでコウキだけあんなにみられているんだい?」

「分からん。だが、我の目には明らかに歓迎されている様子ではない」

「確かに。なんであそこまで、蔑んだ目をする必要があるんだ。コウキは何をしたんだ?」

「我もそこまでは、話していないから分からない」

「ネエさんでも知らない事があるんだね」

「あの方はご自分のことを多く語らないのだ。だから我はなに一つ知らない」


 サラは寂しそうにコウキの後ろ姿を見つめる。


 それはまるで罪人の背中の様に何処か後ろめたさ、罪悪感が漂っているようだ。


 そのとき、


「何故貴様がいるのだ!!」


 何処からともかく声がした。


 コウキが振り向くと、衛兵に混じり甲冑を纏った女性の騎士の姿があった。


 女性は赤い髪をなびかせながら駆け寄ってきた。


「よくも、ノコノコ戻ってこれたものだな!!」


 刹那、女性騎士は腰のレイピアを引き抜くとコウキに向かって振りかざしてきた。


「ちょおおおおおおお―――――ッ!!!!!」


 コウキは目を閉じた。


 しかし、痛みが襲ってこない。


 ゆっくり目を開けると、目の前にはサラの後ろ姿があった。


「なかなかの太刀筋ではあるが、まだまだだな。小娘」


 サラは彼女の剣を2本の指で捕えていた。


「クッ、何者だ!! 私の邪魔をするな!! この男はここで始末しておかなければならないのだ!!」

「我は、サラフォンティール・アンブラ・レインアント。サトウ・コウキ様の従者である」

「レインアント!?」


 刹那、女性は剣の力を抜いた。


「...........コウキ。貴様後で顔を貸せ」

「その前に、お前の名前を聞かせろ。騎士なのであればそれくらいの礼儀は持ち合わせているのだろ?」

「フレイ・カルバーン。サンクチュアリ騎士団の総隊長を務めている」


 フレイはレイピアを納めるとくるりと反転して、そのまま何処かへ行ってしまった。


「ありがとう。サラ」

「いえ。それよりもあの女、フレイと申しましたか。あの者はなに者なのです?」

「昔の、仲間かな」

「そうですか」


 周りの空気が一気に重くなる。


「大丈夫か、すまなかった。俺がいながら」


 雅道が謝ってきたがコウキは笑顔で返す。


「いいって。だって誰も止めに入らなかったんだから。皆の意志を代表して彼女が代表してきたんだろ?」


 コウキは周りを見渡しながら言う。


「..........いいか、お前たち。彼らは今回僕が招待した、くれぐれも粗相のないようにしろ!!」


 雅道は叫ぶと、周りにいる貴族や衛兵たちは一斉に敬礼した。


「―――行こう」


 雅道に連れられ先へと進むこととなった。




「ご無沙汰しておりますね。コウキさん」

「ええ。実に5年ぶりでしょうか。相変わらずお綺麗ですね。マリアさん」

「コウキさんこそ、相変わらず当時のままで。うらやましいですわ」

「そんなそんな」


 コウキ達は大広間にいた。


 フォッシル城同様の空間には衛兵と貴族、そして雅道と妻であるマリアの姿があった。


 マリア・セントワード。サンクチュアリの王女を務めている。


 すでに先代の王と妃は引退し、現在はご隠居と化している。


 つまり、雅道はこの国の王であるのだ。


「すみません。このような――」

「いいんですって。それよりもまさかマリアさんが女王でお前が王になっていたなんてな」

「お前が居なくなってから色々あったからな。あと僕、2人の子どもの父親だから」

「ええ!? やるじゃねえか」

「ふふん。いいだろ、あとで会わせてやる。子供はいいぞ~」

「アナタ」

「はいはい」


 2人の談笑にマリアは制した。


「でだ、コウキ。ひとまず落ち着くまではこのままでいて欲しい。なに、すぐに自由になれる」

「それは構わないが、イイのか? 俺を野放しにして」

「そうだ、その通りだ!!」


 再びフレイが現れた。


「この男は我が国、いや、この地にとって最も畏怖するべき存在であり、悪魔の象徴とも言える」

「フレイ。これ以上康貴のことを悪く言うのは止してもらおうか。コレは僕が決めた事だ」

「ですが、マサミチ様!!」

「いいね」


 フレイは黙ってしまった。


 フレイはコウキを睨みつける。


「すまない。そう言うことだ。とりあえずこのあとはゆっくりしてくれ」

「そうしたいところだが、このままだと俺、フレイに殺されそうで」

「大丈夫。僕が付いている」

「そうよ、コウキさん。私たちがいるもの」

「ハハッ、ありがと」


 こうして挨拶を済ませたコウキたちは各部屋に案内された。


 依然としてコウキは拘束されたままなのだが、コウキは特に気にも留めることなく椅子に腰かける。


 すると、ドアがノックされ、許可するとサラたちが入ってきた。


「コウキ様、まだそのようなお姿をなさっているのですか!?」

「ひどい!」


 サラに次いでアリシアも言う。


「大した問題じゃないって。その内解けるから。ま、その辺に掛けてよ」


 コウキは平然としたままいつものように笑顔で語りかける。


 4人はそれぞれ、適当な場所に腰かけた。


「どうしたのさ。部屋で休んでいればいいのに」

「お前が心配で見に来たんじゃないか」

「そうです。兄さん、なんだか皆から嫌われている感じがして」

「コウキさんがどうしてこんな目に遭わなきゃならないんですか」

「ま、まあ。それには特に、深い意味はないよ?」

「嘘つかないでください。あの女騎士といいコウキ様。ご説明してください」


 サラはコウキに肉迫する姿はまさに尋問しているかのような光景である。


「もったいぶらずに教えてください」


 アリシアも言う。


 ジャラジャラと全身の鎖を鳴らしながらコウキは立ち上がった。


「悪いが、来たようだ」


 コウキが言うのと同時にドアがノックされ、使用人が入ってきた。


「サトウ様、こちらへ」

「はい。ごめんね、あとで説明するよ」


 解せない表情の4人を残しコウキは部屋を後にした。




 1時間後、雅道の部屋にコウキはいた。


「やっと自由になれたと思ったのに。なんでお前の部屋にいなきゃならないんだよ」


 不貞腐れた表情でコウキはソファーに深く腰掛けている。


 彼の身体には鎖など存在せず、その代わり両手足首にはブレスレッドを付けられている。


「なんだよ。お前のソレを提案したのは僕だけど?」

「.........わかってるよ」

「お前が不自由にしているのを見て、わざわざ経度の魔法拘束具にしてやったんじゃないか」

「もう、わかったって。でもこれじゃあペットの気分だよ」


 コウキはブレスレットを摩る。


 コレは魔法拘束具。つまり彼の付けているチョーカーと同様の力を持つ。


 コレを付けている間、本来の魔力を半分以下にまで下げるものである。


 ただでさえ、チョーカーで魔力を押さえているのにも関わらず、更に押さえつけられている状態である。


 極端に言えば、ライオンからネコへと変わるほどである。


 また、むやみに魔力を解放しようものならば、ブレスレッドは爆発する仕組みとなったいる。


「これで魔物でも攻めてきたら俺完全に詰むな」

「それは無いだろ。僕がいるんだ、この国は絶対に落とされることはないよ」

「随分調子こいているな」

「事実だろ? 僕だって3英雄の1人、勇者雅道だからな」

「〝元〟だろ?」

「お前が言えたことか」

「わあああああ!!!」


 コウキは跳ね起きた。


 そこには腕を組んで壁にもたれ掛けているフレイ・カルバーンの姿であった。


「い、いつから!?!?」

「立った今だ。全く、お前は注意力が無さすぎる」

「わ、わるかったよ。ところで何しにきたんだ?」

「雅道王の護衛に決まっているだろ」

「相手は俺だぜ?」

「関係ない。お前は自分の立場を理解していないようだな」

「してるよ」

「立っていないでフレイも座れよ」

「はい」


 フレイは椅子に座った。


「勇者の僕と、魔法使いの康貴、最強の騎士フレイ。3英雄再びってかんじだね」

「懐かしい響きだ」


 フレイは言った。


「もう5年も前か」

「終戦してか。そうだな、あっという間だよ」

「そしてあの悲劇から4年」


 フレイの言葉にコウキは顔を伏せる。


「そのことは彼女たちに言ったのか?」


 雅道の言葉にコウキは黙る。


「言った方が良いよ。彼女らだってどうして康貴がこんな目に遭っているのか納得がいっていないだろうに」

「説明するのが面倒だよ。それを気に俺の〝身体〟のことだって説明しなきゃならないし」

「仲間だったら包み隠さずさらけ出すのも必要だと思うぞ」

「仕方がない事なのはわかっているよ。本当は僕だって康貴にこんな目に会わしたくない」

「だが、一部の民衆と城内の人間はお前のことを良く思っていないのもまた事実」


 つなげてフレイが言う。


「それはしょうがない。俺が悪いんだよ、力に溺れたせいで、関係ない人たちまでも..........だからコレは俺にとって罰なんだよ。彼らの分まで背負って生きることが」

「生きる事と罰ってどういう事だ? 僕はそこまで知らないぞ 」

「私もだ」

「2人は知らないのか。俺はね―――――――」


 コウキは2人に自身に課せられている罰を話した。


「知らなかった」

「そりゃあ、何も話す前に出てったからな」

「まるで牢獄だな」


 フレイは神妙な面持でコウキを見つめる。


「そうだな。だから俺は皆が羨ましいよ。同じ時を過ごしているのに、俺だけ時間が止まっている」

「そう悲観的にとらえるなよ」


 コウキの肩に手を置く。


「もう慣れたよ」

「腰を折るようですまないが、コウキ。お前に訊きたいことがある」

「なんでも訊いてくれ」

「お前の従者と言うあのサラフォンティールに着いて一つ気になることがあるのだが」

「サラがどうしたの?」

「彼女の姓についてだ。あの時彼女はレインアントと言ったんだが、間違いじゃないのか?」

「そうだよ。レインアントで間違いない。どうしたのフレイ、そんな険しい顔して」

「そのな、私の実家。カルバーン家はもともと別々の名家だったんだ」

「へえ。そうなんだ」

「うむ。一つはカルバーン家、そして、もう一つが〝レインアント家〟なんだ」


 コウキは瞳を大きく見開く。


 その後フレイが言うには、もともとカルバーン家とレインアント家は別の名家親交も深かった。


しかし、あるときレインアント家が衰退の危機に瀕したそうだ。


 このままでは一族の血は途絶えてしまう。


 そこで、一族全体でカルバーン家に嫁ぐことでその血が途絶えることを回避したのだった。


 また、それは200年も前の話であり、そのことを知っている者はフレイを含めて数少ない。


 ちなみに、カルバーン家は剣の使い手でレインアント家は槍の使い手であった。


「―――だから、私は驚いたんだ。レインアントの名を使う者がいることにな」


 そこでフレイは一息つく。


 そんな彼女を見てコウキは思った。


 良く見れば、サラとフレイの顔は良く似ている。鼻や目元など顔のパーツを見ると、驚くほど一緒なのだと。


「コウキ。彼女は何者なんだ」

「それは、良く知らない。旅先で出会ったんだ」


 ウソを着いた。


 素直に魔人を言ってしまえば彼女は殺されてしまうと踏んだからだ。


「なあコウキ。このことを彼女に訊いてみてはくれないか?」

「ええ、それは、ちょっと........」

「すぐとは言わない。でも、なるべく早く教えてほしい。本物のレインアント家の人間なのか、それとも単なる他人か」


 一瞬考える素振りを見せたが、軽く頷いた。


「わかった」

「頼んだ」


 コウキも今の話を聞いて少しおかしな点を思い出した。


 なぜ、魔人なのに姓があるのか。


 姓が存在するのはエルフと人間の2つの種族だけなのに。


「少し放しすぎたようだ。すまなかったね」

「いやいい」

「あ、そうだそうだ。康貴の情報は既に国中に広まっているから町に出ても余計なことは するなよ」

「解ってる。って、町に行ってもいいんだ」

「ああ。ソレが付いている間ある程度までは自由だよ」

「ありがとうございます。王様」


 コウキはお辞儀をする。


「気持ちが悪い」


 言ったのはフレイだった。


 苦笑いを浮かべ、コウキはドアの方へと向かう。


「それじゃあな」


 ドアを開けて外にでた。


「――――ッ!!」


 思わず硬直した。


 戸を開けてすぐ、横にはアリシアの姿があったのだ。


「アリシア。どうしたの?」


 平静を装い問いかける。


 すると、アリシアは深々と頭を下げた。


「ごめんなさい」

「まさか、訊いてたの?」

「はい、罪の話からサラさんの所まで........」


 徐々に声のトーンが下がっていく。


「かなり前から聞いてたんだ。よく誰かに注意されなかったね」

「はい。あまり人気が無かったので。たまたま見かけて、その、あの......」

「いいか。サラのことについては黙っておいてくれ。そのかわり」


 アリシアの両肩に手を置くと、彼女は顔を上げる。


 その目は若干潤んでいる。


「そのかわり?」

「――――俺の話をしよう」


次回。ついにコウキの謎が明らかに!? 絶対に見てくれよなッ!!

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