四十五話 浜辺の再会
空にはギラギラと容赦なく熱を放射する太陽が、地上には熱を帯びた砂浜が。
そして目の前にはどこまでも続く青い海が広がっている。
水着を買った5人はヴァッサーの大衆ビーチにいた。
白い砂浜にはパラソルが立てられ日陰を作り、その下にはシートが敷かれている。
「兄さぁーーーーん!!」
カグラは太陽に照らされながらもそれ以上に明るい笑顔で手を振ってきた。
「お、おう」
コウキも振りかえす。
なんとも覇気のない声で返事を変える姿はまるで海中で揺れる海藻である。
カグラはアリシアと水を掛け合っている。
その姿を眺めていると、
「大丈夫ですか?」
サラは心配そうに尋ねる。
「大丈夫だよ」
笑顔で返す。
「コウキは可愛いなぁ」
突然後ろから抱きついてきた。
背中には薄い布越しから伝わる柔らかな感触は背中いっぱいに感じる。
「お姉さんと一緒にあ・そ・ぼ」
耳元で吐息のように吹きかける。
その瞬間コウキの身体は電気でも走ったようにビクッと跳ねた。
「冗談でもやめてくれ」
「アハハ――――イッタ―――――ッ!!」
サラはカトレアの尻を思い切り抓っていた。
「なにが〝アハハ〟だ」
「ネエさん、やめてって!!」
指を放すとあまりの痛さに尻を摩った。
コウキは苦笑いを浮かべながら、先ほど買ったジュースを喉に流し込んだ。
遡ること1時間45分間になる。
願いどおりコウキ達は水着が売っている店に来ることができた。
しかし、そこは女性専用の店であり男性用の水着は取り扱っていなかった。
コウキは外で待つと言ったのだが4人に半ば強引に引きずられて店内の中に消えて行ってしまった。
そこからはもう、コウキはドギマギしっぱなしであった。
どこを見ても水着だらけ、尚且つ男は自分一人。
コウキは終始うつ伏せで店内にいたのだ。
「――――お前はウブだな~」
思い返したようにカトレアは言う。
「いや、だってあそこ男物ないし。俺場違いだし」
「だからアタシらがコウキのために選んでやったろ」
45分前のこと。
4人の水着が決まった後、コウキのを買う為に別の店に移動した。
その店は安く売られており種類も豊富であった。
来店して数分後、アリシアが持ってきたのはおかしな水着だった。
黒地で黒いガムテープのような水着だった。
アリシア曰く、「見た瞬間革命でも起こしそうだたから」という全く意味不明な内容だった。
もちろん却下した。
カトレアが持ってきたのは赤と青の2種類のV字の水着であった。
彼女曰く「なにかの倶楽部でも入りそうな感じだったから」と言い悪戯な笑みを浮かべていた。
サラが持ってきたのは首から下すべてが黒いスーツの水着、と言うよりはダイバー向けの様に見えた。
しかし、コウキは一瞬黒い玉を想像した。
最後にカグラが持ってきたのは貝殻だったため即刻却下した。
結果一番オーソドックスな短パン型に落ち着いたのだった。
「最終的に俺が選んだのだけどな!」
コウキは毒づくがカトレアはしれッと受け流した。
「こんなバカは放っておいて海に入りましょう」
「ん、うん。そうだね」
2人が立ち上がるとカトレアも立った。
「ちょっと、アタシを置いて行かないでくれ」
カトレアはサラの反対側に移った。
2人に挟まれたコウキは周りの男性陣から羨望の眼差しを受けることとなった。
ちなみに、サラは黒いビキニ、カトレアは白いマイクロビキニ、アリシアは薄緑のスクール水着もどき、カグラは赤いワンピースの水着であった。
水着の美女たちに囲まれたコウキは思った。
これがハーレムなのか。と。
しかし、目のやり場に困るコウキは終始目をそらしていた。
海外のモデルのような、抜群のプロポーションを持つサラとカトレア。
ある意味、原点であり多くのマニアの心をくすぐる格好をしたアリシア。
幼さから来るある種危険な見た目のカグラ。
とくにサラとカトレアは一番布の面積が小さく露出度も高い。
「コウキ様、どうしたのですか?」
「そうだぞコウキ。チラ見するくらいなら堂々と見て欲しいんだけど」
「べ、別に見てねーし!!」
顔を赤くして訴える。
恥ずかしさからか太陽の熱に寄る物なのかは分からない。
するとコウキは1人でに走り出すと、海の中へダイブした。
そのままクロールし始めたのだ。
その様子を4人は不思議そうに見つめていた。
「兄さん、泳ぐの上手です」
「でも、なんか違うような気も.........」
「そうでもないぞ、アリシア。コウキ様のあの切れのある泳ぎは素晴らしいじゃないか」
「眼鏡したままでもかい?」
「それは、関係ないぞ」
「いや、アレはおそらく........」
頭を冷やしていた。
コウキは煩悩を薙ぎ払うべく一心不乱に泳いでいるだけであった。
周りに人が居ようが関係なかった。
彼はただ無心に波に逆らい泳ぎ続けていた。
しばらくしてコウキは上陸した。
「お疲れさまです」
アリシアはタオルを渡した。
「ありがとう。いやーサッパリした。海はいいねえ」
視線を感じたコウキはパラソルがある方を見た。
「どうした?」
カトレアはコウキの方をジッと見つめていた。
「アンタってこういう顔してたんだ」
「なんだよ、急に」
「普段前髪で顔隠れているからまともにアンタの顔みたの初めてかも」
「嘘だろ?」
「ホントだって。こうして髪を後ろにしている方がお姉さん、好きだよ」
すると再び顔を赤く染めだした。
カトレアはおもちゃでも扱うような目でコウキを見ていた。
「貴様、またコウキ様をからかうつもりか」
「おいおい、ネエさん。そりゃ侵害だねえ。アタシは場を盛り上げようとしているだけだよ」
「そんなこと言って。またコウキ様を困らせて遊んでいるだけではないか。そんなお前は化け物にでも食われてしまえばいい」
「サラさんそこまで言わなくても」
「そうだよサラ。もし本当に起きたらどうす―――――」
刹那、背後から爆発音が鳴り響いた。
コウキ達は振り返った。
「マジかよ」
沖の方には巨大な黒い蛇のような身体をしたモンスターの姿があった。
人々は悲鳴を上げながらわれ先へと逃げていく。
「姐さんまさか......」
「サラさんまさか」
「サラ、さすがに召喚するとは」
「ネエさん.......そうまでしてアタシを」
4人はサラを凝視する。
「わ、我ではないぞ!! 大体我にはあんなの召喚する程余力はない!!」
必死に訴えることからサラの仕業ではないことが伺える。
すると、沖にいるモンスターはコウキ達がいる陸地目がけて口から水鉄砲を放ってきた。
距離があるのにも関わらず、モンスターの攻撃は一瞬で浜辺の小屋を破壊した。
砂浜には深く溝が出来上がっていた。
「分かってる。避難誘導は誰かに任せといて、俺らはアイツを倒すことに専念しよう」
コウキはマントを羽織り中から全員の武器を取り出した。
「アタシらで迎え撃つのは問題ないけど、どうやって倒すんだい?」
「確かに、わざわざここまでおびき出すのは危険ですよ。兄さん」
「それは、考えがある」
コウキはマントの中から靴を取り出した。
サラとカトレアとカグラ、アリシアの3人の頭の上には『?』の文字が浮かんでいる。
「ま、来れば分かる」
コウキは4人を連れて海すぐそばまで来ると、ロッドを海に向けてかざした。
すると、の表面は一瞬で凍りついてしまった。
当然あのモンスターも同様に。
凍らされたモンスターは悲鳴のような鳴き声を上げた。
「そう言うことですか」
「うん。今のでヤツの動きは封じた。これで3人とも戦えるでしょ」
「さすが兄さん」
「やるじゃん。あとでご褒美を上げなくちゃね」
「じゃあ行くぞ!!」
コウキは浮遊し、残りの4人は氷上を駆けた。
刹那、モンスターはコウキ達の存在に気づき、あの水鉄砲を撃ってきた。
表面は一瞬で崩れてしまったが、それでも戦闘不可能な状態ではなかった。
「あぶねえな!!」
ロッドの先から赤い魔法陣が浮かび上がった。
「かば焼きにしてやたらァ!!」
〈業火〉を発しようとした刹那、コウキの動きは一瞬止まった。
「どうしたのですか!!」
下でサラの声が聞こえて来る。
コウキが海岸の方へ視線を移した瞬間。
「なん、だと........」
コウキが発したと同時に、目の前のモンスターはバラバラに斬られてしまった。
したの4人は何が起こったのか分からない様子でいることから、彼女たちの仕業ではなかった。
空中で静止したまま、コウキの視線は再びモンスターがいたところへ向けられる。
そしてコウキは瞳を大きく見開いた。
彼の視線の先には一人の男の姿があった。
その男もコウキ同様に空中で静止している。
この男も魔法使いであると思ったが、手に持っている者が剣であるためそれは違った。
コウキの口元はわなわなと震えている。
目の前の男はゆっくりと近づいてきた。
するとその姿ははっきりとしたものとなった。
茶色い髪の毛で白い肌。
目鼻立ちははっきりしている美形。
背丈はコウキより若干小さい。
服装は白地に金の刺繍が施された制服を着ている。
そして目を引くのは彼の手に握られている剣である。
刀身が白銀で両刃の不思議な剣である。
「久しぶりだな、康貴」
彼の口からはコウキの名前が出てきた。
その瞬間コウキは苦い顔をしながら彼にこう言った。
「ひ、久しぶり.......だな。雅道」




