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四十四話 冬だ、海だ、ヴァッサーだ

 容赦なく照りつける太陽。


 地平線の先には陽炎。


 季節は冬だと言うのにここ、ヴァッサーは真夏のようだ。


 おかげで季節感覚が狂い始めていた。


 突然だがコウキ達は大陸の南にある海沿いの国、ヴァッサーにいた。


「熱い」

「全くです」

「水、欲しい」

「アッシもう.....」

「ハァ.....」


 5人は街中を歩いていた。


 全員真冬のミノにいたため冬の格好のままでいた。


 初めから目的地を理解していたのであれば軽装するのだが、コウキ達は甘く見ていた。


 いくら南にある国とはいえ真冬であるためさすがにそこまで熱くはないであろうと思っていた。


 しかし、それは大きく的を外す結果となってしまった。


 転移魔法で着いた瞬間、一同その厚さに度肝を抜かれてしまった。


 蒸し暑いどころの騒ぎじゃなかった。


「ヴァッサーってこんなに暑い所だったの?」

「分かりません。覚えていません」


 コウキの言葉にカグラは答えた。


 彼女は幼少期までこのヴァッサーの近くで暮らしていた。


 しかし、ヴァッサー付近で暮らした年数よりそれ以外のところで暮らした年数の方が多いため、記憶にはなかった。


 街の中を見渡せば、皆半袖短パンと老若男女問わずラフな格好をしている。


 そんな中5人は厚着をしているためひどく暑苦しく見える。


「あ、そうだ」


 コウキは魔法で氷の塊を作りだした。


「―――あげる」


 コウキはアリシアに渡した。


「あ、ありがとうございます。コレは?」

「宿をとるまでこれで暑さを凌いでとくといい」

「兄さんアッシにもッ」

「分かってる」


 コウキはカグラ、サラ、カトレアの順に渡した。


「ありがとうございます」

「ありがたく頂戴いたします」

「ありがと」


 コウキも自分の分を作って首元に当てたり、額に押し当てたりした。


「く~」


 コウキは額から伝わる冷たさに目をつむる。


「ひんやりして気持ちいです」


 アリシアは言った。


「ホントさ」

「カトレアさん?」

「ん? なんだい?」

「氷はどこに?」

「ココだよ、ココ」


 カトレアは自身の胸元を開けて行った。


 そこには胸に挟まれた氷が顔を覗かせていた。


「蒸れてしょうがないんだよ」

「なんで俺の方を見ていうんだよ」

「あら、見たいのかなって思って」

「んなわけあるか!」


 コウキは顔を赤くして訴える。


「ふふふ」


 悪戯な笑みを浮かべてカトレアはコウキを見たのだった。


「コウキ様。声を上げては余計に暑くなるだけですよ」

「.......確かに」

「早いとこ、宿をとっちゃいましょうよ」


 アリシアの言葉にコウキは頷いた。


「そうしよう。そして何か美味い物でも食べよう」

「やったー」


 カグラは笑顔を見せたのだった。




 宿をとった5人は話していた。


 サラとアリシアは軽装に着替えていた。


 カグラとカトレアは普段着が軽装であるため着替える必要が無かったが、それでも暑さをしのぐことは難しいようである。


 コウキは珍しく、半袖に脛で切れているタイプのズボン。それに肩にはバッグを下げている。中身は折りたたんだマントと金の入った袋である。


「この国って、街中なのに川が多いですね」


 アリシアは橋の上から下を流れる川を見た。


 下には船が荷物を乗せてゆったりと移動している。


「―――この国、いや、この街は〝水の都〟って言って国内には何十か所にこういう川があるんだって」

「コウキさん詳いですね」

「いや、さっき買ったガイド本に書いてあった。俺もこの国に来るのは初めてだからね。いつも通り俺が案内することはできないんだ。悪いね」

「いえ、そんなことは無いです。ワタシとしてはコウキさんと同じ、気分を味わえるんですからワタシは新鮮です」

「確かに。お前の言う通りだな」

「アッシもーッ」


 するとカトレアは言った。


「そうなのか?」

「うむ、コウキ様は長い間1人でこの大陸を旅してきたのだ」

「へえ。アンタ、フットワーク軽いわね」

「まあね。でもほとんど行ったり来たりの繰り返しさ」


 コウキは本を閉じて言った。


「―――あ、そうそう。そう言えばこの川の水って海水なんだって」

「そうなのですか」


 アリシアは言った。


「南側が完全に海だから、水没しないようにしているんだって」

「考えてますね」

「知恵だね」


 すると、


「兄さん兄さん」


 カグラは袖をひっぱりながら指をさした。


「なに?」

「あれ食べたいです」


 カグラの指す方を見ると、そこには小さな移動式の屋台があった。


 旗を上げており、そこには、


「砕き氷。美味そうだな。買うか」


 コウキは4人を連れて、砕き氷なるものを買った。


「これが」

「砕き氷」


 アリシアとサラは言った。


「なるほどねえ――――ちめたい」


 コウキは一口頬張った。


 砕き氷。それは果実のジュースを凍らせ砕いた食べ物だった。


 色とりどりの氷がカップの中に入っている。


 店主曰く、運が良ければ切った果肉が入っているそうだ。


「おいひいです」


 カグラは言った。


「あ、実が入ってましたよ、コウキ様」

「え、いいなあ~俺のゼロなんだけど」

「もう食べたのか、しかたがないなアタシの―――アッしまった。胸に落ちてしまった、しょうがない。コウキほら」


 わざとらしいく芝居口調のカトレアは胸を押し寄せコウキに近づけた。


「い、いらねえしッ」

「またまた、遠慮して」

「そうか、遠慮しなくていいのか」

「いだいいだい、ネエさんちょっと!!」


 サラはカトレアの胸に爪と立てて氷を取った。


「傷ついたらどうするんだい」

「唾でも付けてろ馬鹿者。さあコウキさ――――」


 言いかけたそのとき、


「はい、コウキさん」

「お、サンキュ」


 コウキはアリシアに貰っていたのであった。


「どうです?」

「美味い、ありがとよ」

「んふふ」


 アリシアは笑顔を見せた。


「チッお前のせいで」

「ネエさんが邪魔したのが悪いんじゃないか」

「どうした、2人とも」

「「な、なにも!!」」


 弾かれたようにサラとカトレアは互いに肩を抱きあった。


「仲がいいなあ」


 コウキの言葉に2人はぎこちない笑みを浮かべていたのだった。




 5人が次に向かったのは商店街だった。


 道の両端には多くの店が軒を連ねていた。


「ほう、ここはお土産店が多いようだね」


 コウキはさっき買ったジュースを飲んだ。「あ~すっぱい」と言いながら店の商品を見る。


「コウキ、これなんて綺麗だぞ」


 カトレアが持っているのは黒真珠が付いている首飾りであった。


「確かに、どれどれおいくらかな........ゲッ25000ゴールドかよ」

「土産品にしては随分高いな」

「そういうもんだよ」


 しかし、何処の店を見ても飲食店以外の店が推しているのは真珠系の物ばかりであった。


「どうしてここは真珠が多いんですか?」


 アリシアは訊いた。


「本によるとこの国には2種類の産業があるんだって―――――」


 シェップファー大陸の南に位置する国〈ヴァッサー〉には主な2つの産業が盛んで有名である。


 一つが漁業だ。この国の所有する海域(経済水域)で獲れる魚介類は味、品質がよく、漁獲量が盛んである。


 2つ目はわたる通り真珠の生産である。


 この海域には人魚族が住んでおり互いに協力し合って暮らしている。


 真珠は人魚族が生産し、国益としているのだ。また、漁も彼らと協定を結んでいる。


 陸地に住む者達は、外部(陸地)からの干渉。主に密漁や汚染に対して厳しく対処している。


「――――と言うことらしいぜ」


 本を畳んでコウキは言った。


「人魚族ですか。一度会ってみたいですね」

「会うも何もさっき橋の下で泳いでいたじゃないか。水面に顔を出して頭に大きな荷物乗っけて」

「見てないです! 行ってくださいよ~」

「結構目立ってたから」


 詰め寄るアリシアにコウキはなだめたのだった。


 太陽が容赦なく照りつけるため5人は比較的日陰があるところを歩いているのだが、気温が高くほとんど意味を成すことは無かった。


「そう言えば」

「何かあるんですか?」


 サラは言った。


「南の方に行くとビーチがあるんだよ」

「海水浴でもするのか?」


 カトレアは言った。


「ま、そうなるよね。暑いし、せっかく来たんだし」

「ヤッター」


 カグラは声を上げた。


「海水浴ですか。ワタシ初めてです」

「私もです」


 アリシアとサラは言った。


「時間もあるし。水着でも買うか。売ってるか分からないけど」


 こうして5人は水着を買うため店へと向かうのであった。


 しかし、この後コウキに試練が待ち受けていたのだった。


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