四十二話 責任
異臭が漂う中、4人が呆気に取られていると――――。
「タチアナ!!」
カトレアはコウキが手に持つ発光水晶を奪い檻の中を見渡した。
コウキはもう2つ取り出し二手に分かれて探すことにした。
「カトレアさん落ち着いて。タチアナちゃんの特徴を教えて!」
「私と同じ白髪で短い髪だ!」
カトレアからの情報は不十分であるが今は仕方がない。
コウキとカグラは檻の中を見る。
「兄さんッ!」
カグラはコウキの腕にしがみ付く。
光に照らされて見えて物、それはミイラ化した女性の死体であった。
その隣には膝を抱えながら何かブツブツ唱えている女性もいる。
「ここは.......」
コウキが言いかけたそのとき、サラがコウキを呼んだ。
「コウキ様、ちょっと来てください!」
「どうした!?」
コウキが行くと檻の中に空き瓶が転がっていた。
それもまだ中が若干ではあるが入っている。
「カグラ、悪いけどこの檻斬ってくれないか?」
「はい。任せてください」
カグラは檻を切断し、コウキは中に入った。
鼻を突く臭いの中コウキは瓶を手に取った。
その中には快楽薬が入っていた。
そして視線の先には壁にもたれながら死んだ目をした女性の姿があった。
コウキは近寄る。
女性の前で屈んだ。
「生きてるかい?」
すると、コウキの言葉に反応し女性は目を動かす。
しかし、視線はコウキに向けられておらず視線の先には今コウキが手にしている瓶に向けられていた。
女性は木の枝の様に細い指を動かし何とか取ろうとする。
「ちょう......だい......」
かすれた声で女性は言う。
コウキは瓶を渡すことなく立ち上がり、瓶を叩き割った。
そしてその破片をコウキは踏みにじった。
「コウキ様?」
「こんなこと、していいはずがない」
檻から出ると、コウキは再び捜索した。
檻から出たあと、残された女性は床にこぼれた液体を這いつくばりながら舐めていた。
時間が無いため大雑把にしか探すことができない。
コウキはタチアナの無事を祈りながらカトレアの証言を頼りに檻の中を探す事数十分は多々だろうか。
「タチアナ!!!」
奥の方からカトレアの声が聞こえた。
4人は駆け寄ると、そこには檻の前で膝を着くカトレアの姿があった。
落とした発光水晶は隙間に転がり、中を照らす。
その光景を見たとき、アリシアは初めて吐き気をもようした。
カグラはサラの腰にしがみ付く。
中にいたのは女の子だった。
背はカグラよりも小さく髪の毛は伸びきっている。
衣服は着ておらず全裸のまま。
体には褐色の肌に混じり青紫色に変色した所が見られる。
前髪からのぞく目には光が無くただ一点を見つめているだけである。
この子がカトレアの言う妹のタチアナで間違いなかった。
サラはカグラの桜華で柵を切断した。
カトレアは泣きながらタチアナの元まで行くと、彼女を抱き上げる。
「あ、ああ、タチアナ..........」
カトレアはタチアナを抱きしめる。
彼女の恐ろしく軽かった。
そのとき、タチアナの口が開いた。
「ちょう....らい.......もっと........ちょうらい、●●●......●●●.......」
その言葉を聞いた瞬間、カトレアは今までにない声で泣きさけんだ。
「イヤァ―――――――――!!!!!!」
「エヘ、エヘヘヘヘヘヘヘ――――●●●、もっと~」
カトレアの叫びを無視してタチアナは虚ろな瞳で天井を見る。
「コウキさん!! 何とかならないんですか!!」
アリシアは投げかける。
しかし、コウキは首を横に振った。
「これは魔法で治せることじゃない。いくら俺でも、ここまで来てしまったら.......」
「そんな...........」
コウキは下唇を噛んだ。
許せなかった。
ヒトをこんなめに合わせておくヤツらのことが。
「カトレアさん。行こう、この子に日の光を見せてあげるんだ」
コウキの言葉にカトレアは黙って立ち上がった。
腕の中にはタチアナが不気味に笑っているのだった。
無事出口まで出ることができた。
しかし、それだけでは終わらなかった。
「おい、お前ら!!」
目の前にはさっきまで気絶していた組織のヤツらと経った今駆け付けてきたであろう仲間が待ち構えていた。
その中にはアサシンの格好をしたヒトたちもいる。
「よくも邪魔をしてくれたな」
中央にはこの組織のボスと伺える大男がいた。
「お前たちこそこんなマネはよせ。国に知らせればどうなるかお前たちだって解っている筈だ!!」
コウキは言った。
「そんなもん知るか!! いいか、これは商売だ。俺が何を売ろうが買おうがお前たちには関係ねえ!!」
男の怒号に怯むことなくコウキは言った。
「お前のやっていることは犯罪だ!!」
コウキの言葉に男の顔の血管が浮き出る。
「何しようが勝手だ!! 大体カトレア、お前が裏切ったせいでこのあり様だ、どうしてくれる!!」
「黙れ!! タチアナをこんな目にしておいて!!」
涙を流しながら訴える。
「知るか! そうだ、どうせお前らの最期だ。教えてやるよ。このガキなかなかの名器だったぜ。いい締まり具合だったから三発も出しちまったぜ!! あっはっはっはっはっはっはっは――――!!」
男は笑った。
「キサマ―――――!!!!」
カトレアは今にも殺しに掛かる勢いで叫んだ。
しかし、それはコウキによって抑えられた。
「サラ、アリシア、カグラ」
「ハッ」
「はい」
「なんですか」
コウキはロッドを出した。
「殺すな。それだけだ」
一瞬コウキの言葉に戸惑いを見せたが、3人はすぐに理解した。
「御意」
「了解です」
「はい」
3人も武器を構えた。
「お、お前たち何を」
カトレアは言う。
「何って。もちろんコイツらを倒すのさ」
「倒す?! 何いってんだお前、この人数で何をしようっていうんだ。まあいい、コイツら殺したら元通りだ。生かして返さねえぞ!!」
男が言うと周りも武器を構え、魔法を放つ体勢に入った。
「殺れ!!」
合図と共に一斉に襲い掛かってきた。
しかしその瞬間。
襲い掛かってきた全員の脚が切断された。
「「「!?!?!?!?!?」」」
一瞬何が起こったのか理解できなかった。
突然足が無くなってしまったのだから。
「殺しはしない。ただし、その分苦しんで生きてもらう!!」
ロッドを構えるコウキは言った。
「な、なにしてる!! 行けぇ!!」
男は叫ぶと、手下たちは弾かれたように攻めてくる。
魔法が飛ぶが全てコウキの手によって無効化されてしまう。
サラとカグラは相手の手足を切断する。
「眷属魔法―――サイクロン・スピア!!」
アリシアの放った矢の周りを風多い高速で回転していた。
射られた矢は相手の肩を削り取る様に一直線に貫通した。
部下たちの手足が吹き飛ぶなか、ボスの男は呆然と立ち尽くしていた。
目の前に広がるのは手や足を失って地面を這いつくばる部下たち。
中には逃げようとする者もいるが直前で斬られてしまう。
泣き叫ぶ声が鼓膜を通して脳に直接響いてくる。
男はただその黙ってこの惨状を見ていることしかできなかった。
「ハァア!!」
サラは腕を斬り同時に足も斬る。
サラもカグラもある意味ストレスを感じていた。
殺さない。
これはいくらなんでも難しかった。
コウキの命令とはいえ急所を外して攻撃するのはいささか困難を強いられる。
「アッ!?」
サラは誤って腹部を斬ってしまった。
傷口から腸が漏れ出す。
「バレなきゃ、いいか」
サラはその場から逃げた。
カトレアはタチアナを抱きしめたまま地面に座りこんでいた。
2年と言う長い年月が経ち念願の愛する妹と再会できた。
しかし、それはあまりにも残酷な物だった。
今この子にあるのは色欲だけである。
それ以外何もない。
ただ餓鬼の如く快楽を求めるだけの存在。
タチアナ中にはもはや姉であるカトレアの存在は消えうせていた。
「タチアナ.......」
カトレアは頭を撫でる。
しかし、タチアナはあろうことか自身の秘部を刺激した。
「―――ッ!」
カトレアはすぐに手をどかし力強く抱きしめた。
「ごめんね、ごめんね.....」
「フヒヒヒヒヒ............」
カトレアの言葉はタチアナの耳に届くことは無かった。
「あとはお前だけだ」
コウキは膝を着く男に歩み寄る。
地面には亡者のように唸り声を上げながら身体を捻らせる部下たちがいるがコウキは踏み潰そうが関係なく突き進む。
バラバラになった手足を男に向けて蹴り飛ばす。
男の顔にぶつかり血が付着する。
血生臭い。
しかしもう慣れてしまい嘔吐することは無かった。
「お前が今までやって来た代償だ」
コウキは髪の毛を鷲掴み持ち上げた。
「自分の欲を満たす事だけを眼中に今までどれだけの血が流れてきた。どれだけのヒトが悲しみ、苦しんできた。これだけじゃ足りない筈だ!!」
コウキは怒鳴ると顔を蹴り飛ばした。
鼻が折れる音がした。
「グッ!!」
男は仰向けに倒れる。
「それが、どうした」
男は必死になって声を絞り出す。
「お前、だって、欲はあるだろ」
起き上がりながら男は言う。
「別にいいじゃねえか!! 人がどうしようが、勝手じゃねえか!! 何事にも犠牲が必要だ!!! 食欲だってそうだ、食べ物の命があって満たされる。薬を売って女を買いヤッて売って満たされる!! 同じことじゃねえか!!」
その言葉を聞いた瞬間、コウキはフラッシュバックを引き起こした。
「黙れ!!」
コウキはロッドを男に向けた。
「お前のやっていることは強欲だ傲慢だ!! ヒトはお前らの欲を満たすだけの道具じゃない」
ロッドを握る手に力が入る。
「俺には分かる。お前は俺と同じだ。その目は他者を犠牲に快楽に浸った事のある目―――」
その瞬間男の左腕は吹き飛んだ。
「ギャーーーーーーーー!!!」
男は無くなった左腕を押さえてのた打ち回る。
「お前に何が分かる」
今度は両足を氷漬けにすると、思い切り足で踏みつけた。
男の足はいとも簡単に砕け散った。
「お、俺の足が――――!!」
残った右腕で無くなった両足を確認しようとするがその腕もついに斬り飛ばされた。
「ガァアアアアアア!!!!」
痛みで叫ぶ声はまるで獣の咆哮だ。
「殺してくれ!!!」
男は懇願する。
「ダメだ。お前の命を奪うと言うことはその命の分を生きなきゃダメになる。そんなのはもうたくさんだ」
コウキは達磨になった男に背を向けた。
「頼む!! お願いだ!!」
するとコウキは立ち止まった。
「残りの人生楽しんでください」
コウキはそう言い残し歩き始めた。
コウキ達は別の場所にいた。
「あのままにして良かったのですか?」
サラは言った。
「どうせこの辺に住む原生生物の餌にでもなるさ」
コウキはカトレアの元へ寄った。
「この子、どうする?」
疲れ切った表情でコウキを見る。
「楽に、してあげたい」
カトレアはかすれた声で言った。
「いいの?」
「ああ。これ以上、この子に苦労は掛けたくないんだ」
カトレアはタチアナを地面に寝かせると剣を抜いた。
「自分でできる? ダメだったら俺が」
「イヤいい」
4人が見守る中、カトレアは妹の胸に剣先を突き立てた。
「...........ごめんね。お姉ちゃん、お前のこと、守れなかった.......」
涙で訴えながらカトレアは手の一気に力を加えた。
サラはカグラを抱きしめた。
アリシアは手で口元を覆い、涙目でその光景を見る。
コウキはじっと見つめていた。
タチアナは土の中に埋めることになった。
カトレアは盛られた土を目の前に立ち尽くしている。
「アタシは、これからどうやって生きていけばいいんだろうな。生きてく意義が、思いつかない」
するとコウキは隣に立つと言った。
「生きればいい」
カトレアは振り向く。
「亡くなっていった分の命をキミが引き継いで生きていけばいい。.............俺の様に」
最後の言葉は聞き取ることが出来なかった。
「目的もなくただ生きるのに、何の意味があるというんだ」
「じゃあこれから作ればいい」
「どうやって」
「俺たちと一緒に旅をすればいい」
コウキの言葉に4人は驚きを表す。
「お前、本気で言っているのか!?」
「うん。どうせ行くあても無いんだから俺たちと一緒に周らない?」
「この女は一度コウキ様を―――」
「サラだってヒトのこと言えないでしょ」
サラは言葉を詰まらす。
「どうなの?」
「..............アタシは、アタシは、イキたい」
カトレアは言った。
「だってさ。皆、イイよね」
3人は頷いた。
「ようこそ、カトレアさん」
「カトレアでいい。よろしく」
「解った。俺のことも好きによんでいいよ」
「うん。なあ、コウキ」
「なに?」
「お前は、やさしいんだな」
カトレアは瞳を細めて言った。
「.............どうかな」
笑顔で曖昧な答えを出したコウキだった。
仲間が増えました。




