四十一話 目的のために 下
カトレアは視線をテーブルの上に落したままため息をついた。
彼女にとって今回の出来事と妹の存在は深く結びついているように思える。
「話してくれないか。キミと妹さんに何があったのか」
「お前に話しても........」
カトレアは顔を下げたまま言った。
「なら何故あの時〝ごめんね〟っていたんだい? それは今回の出来事と何か関係あるからじゃないのかい? 俺はキミの妹さんと仕事、関係が無いとは思わない」
コウキの言葉にカトレアは顔を上げた。
「話してくれるかい?」
「……………わかった」
ここで黙っていても無駄だと判断したのか、カトレアは重く口を開いた。
「2年前、アタシとタチアナは2人で暮らしていた――――――」
アタシとタチアナは2人で暮らしていた。
両親は大戦の被害に遭って死んだ。
残されたのはアタシとタチアナだけだった。
住む場所を転々とし、たどり着いたのはここ、ミノだ。
アタシはハンターとして生計を立てて2人で細々と暮らしていた。
余り稼ぎは良くなかったがそれなりに充実した生活を送っていた。
そんなときだ、アタシはある荷物の護衛の仕事をしていた。
しかし、アタシはその仕事に失敗してしまった。
当然、失敗の罰は受けるつもりだった。
だが、矛先はアタシじゃなくタチアナに向けられた。
アタシはタチアナを人質にとられてしまった。
そしてヤツらは言った「妹に会いたければ俺達の言うことに従え」と。
てっきりアタシは慰みものにでもなるのかと思い覚悟を決めていたがそれではなかった。
暗殺の仕事だ。
またこの時アタシは知った。
あの荷物の中には違法薬物を運んでいたんだ。
そしてヤツらの実態を掴むことができた。
ヤツらは薬を売買する組織であると言うこと。
その資金源は売った薬の他にも別のものがある。
女の奴隷だ。
女の奴隷は男よりの僅かにだが高く取引される。
アタシの場合、奴隷を確保するために活動していた。
貧困層、富裕層関係なく、その家族や関係者の男を殺すこと。
残った女はそのまま奴隷として売るか、その前に奴らが一度使ってから売るかの二つだった。
家族を失う気持ちはわかる、けど、アタシはタチアナと早く会うことが目的だった。
他人がどうなろうがどうでもいい。
一刻も早くヤツらの仕事を終えてまた2人で暮らすために。
「――――――そう言うことだ」
カトレアは弱々しく言った。
「それで今回、俺を狙ったのは、サラたちを奴隷にするためということか」
カトレアは頷いた。
「お前を殺してそこに居る鬼人族の娘を売るためだ」
その瞬間カグラはビクッと反応した
「アッシが.........」
「鬼人族は滅多にいないからな。売れば相当金になる」
カグラはぞっとした。
またあの辛くて厳しい生活を思い出した。
カグラはコウキに身を寄せた。
「良くカグラが鬼人族だって解ったね」
「その身に着けている衣装で解った」
「なるほど」
滅多にいないから分からないと思っていたがどうやらわかる人には解るようだ。
「――――で、ここ数日俺たちを監視していたというわけね」
「何故分かった」
「視線を感じただけさ。たとえ気配を消せてもヒトの視線は消せないからね」
カトレアはコウキを見た。
「お前は侮れないな。昨晩もそうだが」
「まあね」
ここで一度コウキは一息ついた。
そして何かを考える素振りを見せた。
「あのさ。妹さんとはどのくらい会ってないの?」
「捕まってからだ。なんどか合わせて欲しいと願ったがダメだった」
「そうなんだ」
コウキは眼鏡を外して目頭を指で摘まんだ。
「じゃあさ。もし、俺が妹さんに合わせてあげるって言ったらどうする?」
「「「「!!!!!!」」」」
一同驚愕の顔を表した。
「コウキ様、一体何を!!」
「そうです。何をいっているんですか!?」
サラとアリシアは実を乗り出して言う。
カトレアは口を開けたままコウキを見る。
「そのままだけど。だってカトレアさんは妹さんに会うためにわざわざやりたくもない暗殺なんて引き受けていたんでしょ?」
カトレアは頷く。
「それに、うちの仲間に手を出そうとしたんだ。それ相応の報いを受けるのは当然だと思わないかい?」
コウキの眼鏡が怪しく光る。
「組織を潰せばもう誰も死なずにすむ。だから、カトレアさん。今だけて手を組まないか? 俺たちで組織を潰したあと妹さんとまた2人で暮らせるんだ」
「イイのですか、この女は一度殺しに掛かってきたやつですよ?!」
「いいも何も、もともと不本意だったんだから仕方がないじゃないか。それに、カトレアはさんってなんか悪いヒトに見えないし」
コウキはカトレアの顔を見た。
2人の視線がぶつかる。
「..........本当に、できるのか?」
「なに。大したことじゃない。ちょっとお仕置きしてあとは国に任せればいい」
「解った。お前の案に乗ろう。ただし、もしできなかったら」
「そのときはもう一度殺せばいい」
コウキの言葉にカトレアは頷いた。
そしてコウキは足の氷を解いた。
「それじゃあ案内させてもらうかな」
「コウキさん。本当にできるんですか?」
「大丈夫。心配ご無用」
コウキはアリシアの頭に手を置いたのだった。
そこはミノの郊外にある国境付近の森の中にあった。
古びた大きな建物で人が住んでいるようにはとうてい判断できるものではない。
しかし、そこには見張りが何人か付いている。
5人は離れたところに隠れていた。
カトレアとサラとアリシアはアサシンの格好をしている。
「いいかい。これからあそこにいる見張りを倒してから中に潜入する」
4人は頷いた。
「それじゃ頼んだよ」
3人は建物の傍に向かった。
3人は見張りに近づいた。
その瞬間――――。
3人は一瞬で見張りを倒した。
と言うものの殺してはいない。
少しの間だけ眠ってもらうだけだ。
「さすが、戦闘に慣れてるな~」
感嘆の声を上げながらコウキは建物の上に登った.
カグラは3人に合流し、物陰に隠れた。
「さあて俺の出番だな」
コウキはロッドを構え、魔法陣を出した。
「〈業火拡散〉!!」
コウキは建物の周りに魔法を放った。
降り注ぐ火の玉は地面を陥没させていく。
すると、建物の中から、まるで巣から出てくるアリたちの様にわらわらと人が出てきた。
「奇襲か!?」
「クソッばれたのか!!」
「やべえぞ!!」
男たちは血相を変えながら叫んでいる。
「その通り」
コウキは〈電爆〉を投下した。
電爆は弾け、周囲を電撃が襲った。
断末魔が轟くなか、サラを含む4人はその隙に中に侵入した。
一通り片付いた後、コウキも中に入って行った。
「本当に寝むってもらったんだな」
カトレアは言った。
「まあね。しばらく起きることは無いと思うよ。それよりもこの先どこに行けばいいんだ?」
「地下に行けばいい」
カトレアが言うにはこの建物は昔使われていた建物で、今はその地下を利用しているらしい。
上の建物はカモフラージュに利用している。
まだ中に人が居る可能性があるため5人は慎重に潜入した。
薄暗い階段、通路を進んでいくと、鉄製の扉があった。
確認しつつ中を開けると、その中は思った以上に広かった。
左右には鉄格子が並んでいる。
これはまるで牢屋のようだ。
「この中にいるのかい?」
「おそらくな。アタシも話を聞いただけで実際にここに来るのは初めてだ」
カトレアは鉄柵の向こう側を覗いた。
「なんとことだ...........」
コウキ達も中を覗いた。
その瞬間言葉を失った。
中にいたのは皆女性で、それも全裸で痩せこけて目は虚ろで生きているのか確認するのが難しいかった。
一人じゃない。何人もの女性が収容されている。
その光景に一同息を呑んだのだった。




