四十話 目的のために 上
隻眼のダークエルフは手足首と氷で拘束されているため芋虫の様な状態だ。
コウキはサラに髪を鷲掴みにしている手を解くよう言った。
ダークエルフは地面に横たわり、左目をコウキに向ける。
視線に気づいたコウキは彼女の元にしゃがんだ。
コウキは彼女を抱き起し、ダークエルフは正座するかたちに直してあげた。
後ろで止めていた髪が解け白くて長い髪が垂れる。
するとカグラは彼女の首元に桜華の刃を当てる。
「首を跳ねるんですね」
しかしコウキ首を横に振った。
その答えにカグラは『何故』と言う表情を作る。
するとダークエルフの横にいるサラは言った。
「拷問ですか?」
「そんなことはしない。確かにそれも一つの方法だけどね」
サラは疑問を持った目でコウキを見るがコウキは無視してダークエルフに語りかける。
「キミたちは何故こんなマネをしのかい?」
無言で頭を垂れ、ダラリと前に垂れ下がっている前髪の間から見える瞳は不気味さを出している。
「......殺せ」
「ん?」
一瞬口が開いたが、上手く聞き取ることが出来なかった。
「殺せ!! 拷問しろ!! 犯せ!!」
突然目を血走ら、今にも食い殺すかのような勢いで彼女は叫んだ。
「アタシはもうダメだ!! さあ、早くヤれ!!」
サラとアリシアが彼女の身体を押さえつける。
「貴様、次おかしなマネしたら殺すぞ」
サラは彼女の顔を地面に落ちつけながら言う。
「クッ!!」
ダークエルフは歯を食いしばり睨む。
「まあまあ落ち着け」
2人を引き離しコウキは再びダークエルフの正面に立つ。
「2人の気持ちは良く分かる。だけどまずは何故こうなったのか、彼女に聞いてみようじゃないか」
「ですがそう簡単に口を割るとは思えません!」
アリシアは反論する。
「なに、時間はたくさんある。まずは簡単な質問から」
しゃがむ。ダークエルフはコウキを見つめる。
「君の名前、教えてくれないか?」
その言葉聞いたダークエルフは驚きで目を見開く。
「コウキ様、なにを」
「いいから。いいじゃない名前くらい。減るものじゃあるまいし」
コウキはダークエルフをジッと見る。
彼女が口を開くのを待っているのだ。
ダークエルフは考えた。
この人間は一体何を考えているのか。殺しに掛かった相手に何故こうも『親切』に接してくるのか。解らない、しかし現状を考えると大人しく従うっておくとしよう。
「.......カト、レア.........」
「カトレアさんね。俺はサトウ・コウキ。もう知ってるか」
コウキは立ち上がるとサラは言った。
「もういいのですか?」
「うん。簡単な質問だからね。それに今日はここでキャンプをしよう」
ロッドを使いコウキは土魔法でドームを作った。
その隣にも小さいのを作った。
「カトレアさんには悪いけど、今日はここで泊まってね」
「何故親切にする。私はお前を殺しにかかったのだぞ」
「俺、拷問とか苦手でね。それに、キミの〝もうダメだ〟も気になるしね」
一瞬驚いた顔をしたがすぐに目を伏せた。
「!!........ごめんね.........」
ぼそりとカトレアは言ったのだった。
一瞬止まったコウキは出口を柵で閉じると3人のいる中へと戻っていた。
コウキは中に入るとお構いなしに上着を脱いだ。
するとサラが寄ってきた。
「本当に大丈夫なのですね?」
コウキの胸を見ていう。
「問題ないよ。あーもったいないなー」
切れ目の入った服を名残惜しそうにマントの中にしまうと新しい全く同じ上着を取りだした。
コウキが万歳して上から着ようとしたときだった。
「良かった.........」
サラはコウキに抱きつくとコウキの胸に自身の顔を押し付けた。
コウキの鼓動を感じる。
「さ、サラさん?!」
「姐さんずるい!!」
2人から声が上がる。
「サ、サササササササササササ..........」
ひどく狼狽した考えを発した瞬間。
今度は後ろと横から抱きついてきた。
「すみません、コウキさん」
「兄さ~~~~ん」
このとき初めて涙声でアリシアとカグラは言った。
「え、ちょ、ええええええ?!?!?」
どうにもできず、紅潮させたコウキはされるがままだった。
「...........ん?」
目が覚めた。
とてもイイ匂いだ。
カトレアは地を這うように檻の傍まで移動する。
どうやら隣からだった。
すると、黒髪をなびかせながら女がやって来た。サラだ。
サラは柵の前で来ると言った。
「食事だ」
一言いうと、サラは檻を外すとサラはカトレアへ手を伸ばした。
「な、なんだ?!」
カトレアの言葉を無視してサラはカトレアを引っ張り出すと、無造作に担いだ。
「大人しくしてろ」
サラはコウキ達の元へと運んで行った。
中は広く、中央にはテーブルがあり奥の方にはコウキが魔法で作った調理場でアリシアと一緒に料理を作っていた。
カグラは人数分の食器を並べている最中であった。
サラはカトレアを席に座らせその隣に座った。
コウキとアリシアが料理を運んできた。
「おはよう」
コウキはカトレアに言った。
「.........うん」
とだけ言って黙ってしまった。
コウキは腕の氷を溶かしてあげると向かいの席に着いた。
カトレアの隣にはアリシアが座りコウキの隣にはカグラが座った。
コウキ以外3人は何時でもカトレアを殺す準備は出来ていた。ただし彼女がおかしなマネしない限り。
「その辺の食材で作ったから美味しいかどうかわからないけど」
コウキはスープを口にした。
「まあまあかな。もう、皆そうピリピリしない」
「何故コイツと食卓を囲まなければならないのですか」
サラは言った。
「リラックスしてもらうため、かな。何か物を食べれば落ち着くでしょ?」
コウキの言葉に3人は解せなかった。
確かにコウキの言うことは間違いではないが状況が状況のため3人は食事にありつくことが出来なかった。
「とにかく今は朝食だ。食べなきゃ始まらない」
3人は納得いく顔をしているなか、中央のカトレアはスプーンを手に取り躊躇することなく口に運んで行った。
「うまい.......」
彼女の口から『うまい』の言葉が出た。
「良かった」
カトレアは単調にスープを食していく。
3人も渋々口にしたのだった。
全員が食べ終わり、いよいよ肝心の尋問が始まった。
「キミの身に着けているコレ、支給されたものだね」
突如コウキはカトレアが身に着けていたマスクを手に取って見せた。
「どういうことですか?」
アリシアは訊いた。
「さっき死体を埋めるときに見たんだけど、皆まったく同じ物だったんだ。それでキミたちは何かの組織として活動している。また共通の刺繍があったからね」
コウキは淡々と話す内容を4人はまじまじと見つめている。
「それにコレは魔法道具の一種だね。多分サイレントクロスだ」
「なんですかそれ?」
カグラは言った。
「身に着けるだけで気配を消す物さ。こんな高価な物をキミたちが身に着けているのに疑問に思ったんだ。幾ら大規模な暗殺者ギルドでも全員分を用意するのは無理がある。だから恐らくどこかの暗殺者以外の財力のある組織のアサシンだとね。どう? 俺の推理は」
カトレアは黙ったままコウキを見つめる。
コウキの推理は大方当たっていると踏んで間違いないようだ。
「兄さん詳しいですね」
「昔暗殺者ギルドを潰したことがあってね。で、何処とは訊かないけどキミはその組織のアサシンで間違いないようだね」
「..........ああ」
「そうか。キミたちの目的はなにか教えてほしい」
カトレアは答えることなく黙って視線を落とした。
無理強いしないコウキは話を変えた。
「じゃあキミの言ってた、〝もうダメだ〟、は何を示しているの? 仕事を失敗したから? それとも、何か別の事が絡んでいるから?」
コウキの目はカトレアの左目を捕える。
「なにか言え」
サラはナイフを喉元に突き付けるが、コウキに注意されてしまった。
カトレアは思った。
このコウキと言う人間は何か見透かしたような目をしている。それになんだかコイツの言葉には憂いさを感じるのは何故だ。この人間は何故こうも慈悲を感じるのだろうか。
カトレアはおずおずと口を開いた。
「妹がいる―――――――ハッ!」
カトレアはしまったと言う顔をした。
「へえそうなんだ。名前は?」
コウキは訊いてくる。
カトレアはそのまま沈黙しようと思ったが、なぜかコウキであればイイような気がした。
「......タチアナ。ちょうど、お前くらいのな」
カグラを見る。
「あの娘はアタシと違って、やさしく、弱い。だから、アタシがいなければ、ダメだ」
たどたどしく妹の事を言うカトレアは視線を落としながら言う。
「そうなんだ。それなら一緒にいてあげなきゃね」
「ああ。そうなんだ。だからアタシは..........」
カトレアはそのまま声のトーンを落としていった。
ここでコウキは今までの会話の整理をした。
彼女の名前はカトレア、ある組織でアサシンとして活動している。そしてタチアナと言う妹がいる。
また今の彼女の様子から察するにタチアナとの間に何かあったかのようなそぶりを見せた。
これは何か厄介なことが起こりそうだ。
コウキは頬杖をついて小さくため息をつくのであった。




