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三十六話 一期一会

 コウキ達はトセにいた。トセはロイトから見て東方面に位置し、コレと言って大きな特徴はないが強いて言うなら大きな川があるくらいである。


「トセってこんな感じか、久しぶりだよ」

「あの大きな川ってなんですか?」


 カグラは訊いた。


「トセ川って言って、祭りとかあると(いかだ)でなんかしたり、特産物の魚がいるくらいの川だよ」

「へぇ、特産物ですか」


 カグラはどうやらその特産物と言う単語に惹かれたようであった。確かに特産物と聞けば興味は湧くのも無理はない。いわゆる花より団子と言うやつである。


 色々国内を見て回る前に宿をとった。


 国自体はそんなに大きくないため数日もあれば国中全てを見て回ることができるがその様なことは考えていない。


 特に長居をすることは一切考えていなかった。フォッシルの時は色々事情があったが、ロイトやトセは何もないようなのでいても1、2週間くらいである。


 本来ならば、国に立ち寄ったらその国の歴史資料館に行くのだがこの国を見た感じ特に何も無さそうであったためスルーすることにした。ちなみにこれまで寄った大国の資料館には必ず寄っている。


 コウキ達は大きな通りを歩いていた。辺りには大道芸や移動式の屋台、絵描きなどが道端にいるのが見れた。


 ちょうど太陽が真上の位置にある。昼ご飯を食べていなかったためまさに打って付けの時間である。


「昼にしよう」

「やったー」


 カグラは言った。


 頭を軽く撫でると、コウキは通り沿いに立ち並ぶ店を眺めた。どうやらこの辺は観光客ように造られていることは一目で解った。


 観光向けの施設はどの世界でもどの国でも同じだと感じた。


 しかし、コウキはあえてそれらをスルーした。


「どうして寄らないんですか?」


 アリシアは訊いた。


「大抵ああいう店は観光客に向けて造られた店なんだ」

「それのどこに理由が?」

「観光向けの店って高いんだよ、値段がね。でも、観光すると気持ちが(たかぶ)ったりしてどんなに高いものでもつい手を出しちゃったりするんだ。だから、こういう時は地元のヒトが利用するこ所でご飯を食べる。これ重要だから」

「なるほど。さすがコウキさん」

「まあね」


 かく言うコウキも学生時代、意味の解らない金色に塗装された剣のキーホルダーや手裏剣、ガチャガチャ、木刀など買いその度に後悔していた。


 通りを抜け市場に向かった。


 市場には多くの野菜や果物肉、魚が多く見られた。やはりこう光景は見ていて気持ちの良いものだった。


 戦争が終わってすぐはこんな光景は見られなかったからだ。今の状態にまで回復したと言うことは、人々の心も以前の様に元気に明るくなっているのだと。コウキは勝手ながら決めつけていた。


 威勢の良い掛け声や人の話し声がするなか、コウキ達はある一軒の店の前に立ち止まった。


 古びた外観、時代に媚びず昔からの状態をそのまま維持してきた。もっと言えば時代に逆らってきたと言うべきか。


 その店の看板には、『山と川の食事何処』そう書かれてあった。


 コウキは直感的にこの店はアタリだと判断した。


「この店に入ろう」

「賛成です」

「ワタシも」

「アッシもです」


 3人から賛同を貰い、4人は店内に入った。


「いらっしゃいませ。何名様でしょうか?」


 中年の女性店員が挨拶した。


「4人です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 4人が案内されたのは小上がりだった。その瞬間コウキは驚愕と感動の2つの波が同時に襲い掛かった。


 ここは異世界である。室内に入る際は当然土足である。室内で靴を脱ぐと言う習慣自体無い筈であるしかし、これはどうだ。小上がりときた。靴を脱ぐことで足に解放感が広がり、椅子ではなく、直接床に座ることで寛ぎを堪能できる。そう、それはまさに実家の居間と同じ効果を発揮する。


「め、珍しいですね」

「はい。当店ではお客様には寛いでいただくために小上がりでお食事していただくかたちをとっております」

「ほう」


 コウキは靴を脱ぎテーブルの一番奥に座った。3人もコウキにつられるように靴を脱ぎ、上がった。


 場所は奥からコウキ、カグラ。迎えにはサラとアリシアが座った。


 隣のカグラは嬉しそうにメニュー表をとって観てる。しかし、迎えの2人はカグラに対し羨望の目で見つめている。


「.....先を越された」

「サラ、何か言った?」

「いえ、何も!」

「そう」


 コウキは横からメニューを見直した。中身は店名から読み取れるように野菜と魚料理が中心であった。するとカグラはあるメニューを指さして言った。


「これなんですか?」

「これはさっき言ったこの国の特産品の料理だね。魚料理だからあっさりしている筈さ」

(あに)さんはどうします?」

「俺はこの〝肉野菜定食〟にしようかな」


 なぜそこで、「魚じゃねぇんだよ」。と言いたくなってしまうがそれは置いておこう。


「じゃあアッシはコレで」

「2人は決まった?」

「私もコウキ様と同じので」

「ワタシは〝焼き魚と野菜の甘辛炒め〟です」

「オッケェ。すいませーん!」


 コウキは料理をたのんだ。


 しばらく4人で談笑していると、料理が運んできた。それぞれのテーブルの前には料理の乗ったお盆が置かれた。


「それでは、いただきます」

「「「いただきます」」」


 コウキは皿の山の頂を『フォーク』で突いた。野菜炒めにフォークとはいささか違和感を感じるが今のコウキにとってはどうでもよかった。


 味は絶品だった。塩コショウが程よく、野菜の甘みと肉の油が絶妙に絡みあっている。アタリだった。


 向かいのサラも満足そうに食べている。アリシアの料理はそこのそこの川で獲れたであろう魚と回鍋肉みたいな料理があった。甘辛いタレの匂いが鼻腔をくすぐる。


 カグラの料理は、コウキは良く知っていた。開かれた薄オレンジ色で周りには野菜が囲んでおり、魚本体にはペースト状の何かが塗ってあった。大きさはホッケくらいのサイズである。


「兄さん」

「ん?」

「あーん」


 カグラは差し出してきた。


「お、ありがと」

 

 コウキは食べた。刹那。


「「あ!!」」


 サラとアリシアは声を上げた。


「ど、どうした?!」

「なんでも」

「ないです」


 コウキは不思議そうな顔で2人を見たが、すぐに2人は食べ始めた。


 口の中には野菜と魚の素材本来の旨味と甘み、塗られた味噌の様な味の調味料が食欲にブーストをかける。これはコウキにとってなじみのある料理だ。


 『ちゃんちゃん焼き』。コウキの地元ではそう呼ばれている料理を全く同じだった。まさかここに来て地元の料理と同じのが食べれるなど、思いもよらなかった。


「どうですか?」

「美味しいよ。とっても。そうだカグラも食べるか?」

「はい!!」


 コウキもカグラに『あーん』して挙げた。と同時に2人から「ああああああ」と声が聞こえた。


「どうだ?」

「おいしいです!」


 そのとき、アリシアは何かをひらめいた表情を浮かべた。しかし、察知したサラのよってそれは阻止されてしまった。


「....貴様....」

「ご、ごめんなさい」


 サラはアリシアの右腕を掴んでいた。口にタレを付けたままサラに言った。そのときアリシアに転機が訪れた。


「そうだ、アリシアも―――」

「ほらアリシア、食え」


 サラはアリシアの口に自分の野菜炒めを入れた。


「ぼがあ―――.......おいしい、です」

「そうか、そうだろ」


 コウキは苦笑いを浮かべていた。まあ、この時コウキは知らなかった。彼女達の間では静かなる戦いが起こっていたことを。


 現在、カグラが有利に立っている。次にサラ、アリシアの順である。距離の遠いアリシアが劣勢にあったが、メニューが違う為理論上『あーん』できる筈であったが、サラの手によってそれは不可能となってしまった。


 サラは目の前にいると言うだけで他には無かった。同じ料理をたのんでしまったのはとんだ誤算であった。


 静かなる戦い。そう、言うならば『静戦(せいせん)』、その言葉が似合う状況であった。


 そんなことも知らないまま、コウキは食べ終わるとくつろいでいた。小上がりの力なのか、静戦は自然と終わりを告げていた。コウキはゆったりと胡坐をかき、今にも眠たそうな目のまま言った。


「ああ、おいしかったなぁ。本当においしかったぁ.....」

「魚、美味しかったです」


 満腹のアリシアは言った。


(あね)さんのも食べてみたかったです」

「言ってくれればあげたのに」

「忘れてました」

「また来るか」

「いいですね。そうしましょう」


 サラは言った。


 そのとき、店員の女性がお茶を持ってきた。その際コウキは言った。


「あの、この店って長いんですか?」

「ええ、そうですね。もう結構昔からやってますよ」

「そうですか。なんか、イイですねこういう雰囲気のお店って。自分家と勘違いしちゃいそうで」

「ふふっそうですね。今までもお客さんの皆そう言ってここで寛いでいましたよ」

「ははっでしょうね。あ、すみませんお仕事中に」

「イイんですよ。久々のお若い人と話せて元気もらいました」

「若いって僕もう26ですよ」

「あら、そうなんですか。5歳は若く見えますよ」

「お上手ですね!」


 しばらくコウキと女性は話し込んだのだった。


「あの、本当に半額でいいんですか!?」

「ええ。今日は楽しませてもらいました」

「そんな。悪いですよ」

「イイんです」

「........じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて。また来ます、ご馳走さま」

「「「ご馳走様でした」」」

「はい、お粗末様です」


 コウキ達は店を出た。サラとアリシアが出ようとした時、女性店員は言った。


「頑張ってね」


 2人は笑顔で返すとコウキと共に人混みの中に消えて行った。


 翌日、コウキ達はあの『山と川の食事処』に向かった。確かにある。しかし、その見た目はどう見ても何十年も使われていない廃墟同然の姿であった。


 コウキ達は目を真ん丸にしながらその姿を見る。


「あの」


 コウキは近くにある店の従業員に訊いた。


「すいません。あのお店って.....」

「ああ、あそこね。残念だけどもうとっくの昔になくなってるよ」

「あ、ああ、そうですか」


 コウキは3人に言った。


「聞いたかい」

「はい。不思議、です」

 

 サラは言った。


「なんだったんですかね」

「さぁ。でも、なんだか懐かしいような、そんな気分にされたよ」

「アッシもなんだか、そこまで休めれたのは久しぶりです」

「ワタシも」


 この時コウキは思った。異世界にはまだまだ魔法じゃ置きかいられない不思議なことがまだ沢山あるんだ、と。

 

「一期一会ってやつか.......」


 コウキ達は別の店を探しに、トセを歩いて行ったのだった。


剣のキーホルダーは3つ持ってます。

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