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三十五話 年越し

 気付けばもう12月も終わりに近づいていた。と言うよりはもう終わりである。この1年はコウキにとってかなり濃い1年だった。


 何せ仲間が一気に3人も増えたのだから。魔人にハーフエルフに鬼人族、全て女の子とハーレム状態? であることは間違いなかった。


 そんな最高の状況なのにも関わらず、コウキは自ら立場を存分に堪能することは無かった。彼にとって彼女らは家族に近しい存在であることに違いない。


 そんなこんなで時間は午後の1時をちょうど迎えた頃である。コウキ一向はロイトの宿でくつろいでいた。カグラもこの生活に慣れたようであった。陣形も今まで以上に良くなった。


 前衛が2人、後衛も2人。コレで攻撃の幅が広がることができた。しかし反面サポートが重視されてきた。サラは問題ないのだが、カグラに問題があった。

 

 確かに戦力としては申し分ないのだがやはり注意力に欠けるというか、強さから来る驕りか、すぐに足元をすくわれてしまう場面がいくつもあった。そのためサラが度々注意を促している。サラ曰く、まだまだ訓練次第では伸びる。と言っていたためカグラの事はサラに任せるコウキであった。


 コウキは1人用のソファーで読みかけの本を読み、アリシアは寝ているのかは知らないが目をつむっている。その横でカグラはサラに膝枕をしてもらっている。カグラは寝息を立てながらぐっすりと寝ている。


 その頭をサラはゆっくりと撫でている。カグラにとって時に厳しく、時に優しく接するサラを母親の様に慕っている。アリシアは歳が近いため本当の姉妹の様に仲がいい。


 コウキに対してはイマイチ良く分からなかった。急に甘えてきたと思ったら、少し距離を置いたような態度を見せたりとおかしな感じだった。コウキ自身はそう言う歳頃だからだろうと勝手に決めつけていた。ちなみにコウキから見てカグラは親戚の子みたいに可愛い存在だった。


 コウキは一度本を閉じると、眼鏡を外し目頭を指で摘まむ。


「あ~、もう今年も最後か」

「そうですね。この1年は色々ありましたね」

「そうだねぇ。そう言えばなんだけど、次の移動先について少し話し合おうか」

「では2人を起こしますか」


 サラはアリシアと膝で寝ているカグラを起こした。カグラは大あくびをして目をごしごしとこする。


「どうかしました? 姐さん」

「コウキ様が次の移動先に関してお話があるそうだ」

「次はどこにするんですか?」

 

 アリシアは訊いた。


「まあ、このまま小国を周ろうと思うんだけど。今度は俺も初めて行くところなんだ」

「どんな国ですか?」


 サラは言った。


「トセと言う国なんだ。前に一回だけ通っただけで観光したことは無いんだ」


 コウキと言えど、すべての国を制覇したわけではない。ただ通っただけの国や、周辺に立ち寄っただけなどまだまだ知らない国は山ほどある。来年から今まで立ち寄ってこなかった国を中心に回ろうと考えていた。知らない国に行く。これこそ旅の醍醐味である。


「いいですね。私は賛成です」

「ワタシも」

「兄さんに賛成~」

「来年はトセに決まりで」

「場所ってどの辺ですか?」


 カグラは訊いた。


「ここから東の位置かな。そんなに遠くないし。転移魔法で一瞬だよ」

「コウキさんも実質初めての国ですか。面白そうです」

「小国だからこことそんなに変わらないけどね」

「かまいませんよ」


 サラは言ったのだった。


 次の国はトセで正式に決まった。トセに行くと言ってもとりわけ何かある訳でもないため1、2週間程度の滞在で済むと思われる。


 どうか変な事件に遭わないこと祈ろう。とコウキは思った。


 時間があるため外出した。外は相変わらず雪が積もり冷気が漂っている。南側にあるとはいえ年末の冬の寒さはどこも同じだと、コウキは思った。


 1年を締めくくる特別な日にも関わらず街中は普段と変わらない。前いた世界ではお正月に向けてどこも門松など装飾など施していたがこの世界では全くそう言うのが存在しない。もとより、この異世界に置いて年越しに対して全く特別な意識は存在しないのだ。


 この事実を知ったのはまだコウキと勇者が転生して1年目の事であった。




「おい」


 コウキは言った。


「なんだ」

「もう1年たつな」

「確かに。しかしあれだな。どこも年越しを祝う気配がないな」

「そういやぁ、そうだな」


 コウキと勇者は氷の国〈アイシクル〉の隣国にいた。2人は地上にいる魔王軍の幹部である7大将軍がいる城を探していたのだ。2人は持ち前のチート能力のおかげで4体の将軍を倒していた。


「でも、あれじゃね? あとで盛大に花火なんか打ち上げたり」

「それは無いだろ。さっきから聞き耳を立てているけどそんな会話なんて聞こえてこない」

「たまたまだろ?」


 2人は酒場の席で会話をしていた。コウキの手には果実のジュースが入ったグラスが握られていた。一方迎えの席の勇者にはワインレッドの液体がグラスの中に入っていた。コウキはグラスに口を付けると、迎えの勇者は言った。


「これは俺の予想だが、この世界には年越しを祝う概念が存在しないんじゃないのか?」

「え~それはさすがにないしょ。これまで寄った国にはそれなりに祭りごとがあったじゃないか」

「おまえ。歴史で新嘗の祭りってあっただろ」

「もちのろんよ」

「あれってさ、要は収穫を祝う祭りじゃん。あくまでも」

「解った。お前が言いたいのは、この世界には新嘗の祭りみたいに収穫や国や人の繁栄を祝う祭りはあるけど、歳を越す祭りは何もないと」

「だからさっきも言った通り年越しの概念は存在しない。この世界では1年は1ヶ月経った感覚と同じじゃないのかと」

「は――――ん。何だかカルチャーショック!!」

「憶測にすぎんがな」


 その後宿に戻り、二人はグラスにそれぞれお酒を入れた。


「おれ飲めないんだけど」

「大丈夫だ、問題ない」

「大ありだ」

「アルコール度数は2パーセントくらいだ。お前でも飲める」

「.......なら飲んでみるかな」


 そしてその時は来た。時計の針が12を示した。


「え~この1年お疲れ様でした。これからの健闘と健康と平和を祈って後1年、頑張りましょう。乾杯!!」

「乾杯」


 勇者の合図と共にグラスを鳴らした。コウキはグラスの中の液体を胃の中に流しこむ。アルコールが五臓六腑に染み渡るのが感じられた。


「まさか、異世界で年越しとわな。俺たちもう20歳か。せめて死ぬ前になりたかったな」


 勇者はすこし寂しそうな目でグラスの中を見つめる。


「なに、言って、んだ、よ。俺たち、の、人、せせせ生はぁ、これぇ、からぁだぞ」

「確かにお前の言う通りだ。コウキ、俺さぁこのた―――おい、どうした!?」


 コウキは顔を真っ赤にしながら、虚ろな目で宙を見つめていた。


「お前まさか!!」


 そのまさかだった。コウキは酒に酔ってしまったのだ。


「大丈夫か!! コウキ、コウキ――――――!!!!」


 部屋の中心でコウキの名を叫んだ勇者だった。




「コウ―――コウキ――――コウキさん!!」

「ハッ、な、なんだ?!」

「どうしたんですか? ぼおっとして。ご飯冷めてしまいますよ?」


 店でご飯を食べていた。3人は不安そうにコウキを見つめる。


「いや、ちょっと昔の事を思い出してね」

「そうですか。よかったぁ」

「心配させてごめんな」


 コウキは肉を切ると口に含む。ソースの味が口いっぱいに広がる。


「どんなことですか?」


 カグラは言った。


「こら、カグラ」


 サラは注意したがコウキは「いいよ」と言って思い出を話した。


「―――そのお友達も大変でしたね」


 アリシアは言った。


「ホントさ。勇者(アイツ)には年明け早々迷惑をかけた」

「コウキ様はお酒は得意じゃないからな。よく覚えとくんだぞ」

「勿論です」

「はい」

「大丈夫だよ。多分ね」


 こうして4人は食事を終えるとそのまま宿へと戻って行った。そして数時間が過ぎ、ついにその時はやって来た。とはいえコウキ以外の3人は特に年を越すことに関心を示すことなくベッドの中に入って行った。


 3人の寝息が聞こえてきた頃、コウキは1人起きてソファーに座り暗くなった部屋で、月の光を頼りに時計を眺めていた。手元にはジュースの入ったグラスを片手に心の中でカウントする。


 3、2、1.....


 コウキは無言でグラスを口にする。グラスをテーブルに置くと一息つく。


 これで、異世界の生活も7年目に突入。歳も26、もう30手前かぁ。


 再びグラスに口を付けると、コウキは夜空に視線を向ける。


 冬の寒空の向こうで月は静かに地上を見下ろしている。


 するとコウキは口を開いた。


「あけましておまでとう、マサ......」


七年目に入りましたが題名はそのままで行きます。

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