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三十一話 鬼の子

 ある日の昼時、3人は郊外の森で依頼を終えたところだった。この日は針狐(はりぎつね)の討伐であった。近隣の畑が被害に遭っているため、できるだけ多くの針狐を討伐することが目的だった。ロケットアイに記憶させたころ、コウキはあることを思いついた。


「結構スムーズに行ったからまだ、時間はあるな。ここらで昼飯にしない?」

「ここで、ですか」

 

 アリシアは答えた。


「うん。川も近いし森の中だし。たまには店じゃなくて料理するのも悪くはないと思うんだよ。まあ、ちとばかし寒いけどね」

「ワタシは構いませんけど」


 アリシアはサラを見る。サラは「任せます」と言った。


「よし、そうと決まれば今日の昼飯は魚とスープにしよう!!」

「やったぁ!!」

「楽しみにしてます」


 アリシアとサラは歓喜の声を上げたのだった。


 コウキはやけに気合が入っていた。それもそのはず、前回釣りに言った時、あれだけ豪語していたのにも関わらずコウキだけボウズだったのだ。それで今回はリベンジを兼ねての事だった。




 少し進むと川があった。あまり深くないため肉眼で水中の魚の姿が良く見える。


 到着するなりコウキは土の造形魔法で小さな小屋を作り、中には(かまど)とテーブルと椅子、そして簡易まきストーブを作った。そして鍋とフライパン、ナイフに調味料と次々調理器具をマントの内側から取り出していく。その間サラとアリシアは材料の調達をしていた。


 アリシアは木の実や山菜を、サラはコウキに作ってもらった(もり)を使い川で魚を獲っていた。


「よし、行くか!!」


 竈の火の調整が済み、コウキもサラのいる川へと向かった。サラはブーツを脱ぎ、膝まで浸かって上から銛で魚を突いていた。


「どうだい? ちょうしは?」

「まあまあと言ったところです」

「そっか。そんじゃ俺も」


 コウキは竿を取り出し、餌のパンの切れ端を付け川の中に投げ入れた。そのままコウキはじっと黙ったままでいる。そのすぐ近くでサラが銛を突く音が聞こえる。


「あの、サラ。ちょっと一旦やめてもらえるか?」

「あ、はい」


 サラは岸へと戻って行く。コウキはサラの銛の音で魚が釣れないのだと思った。しばらくコウキは無心を貫いた。瞳を閉じ、呼吸を整える。()竿(さお)(たい)3つを1つにすべく、自然と一体になった。そのとき、アリシアが戻ってきて、コウキに話しかけようとしたがサラに止められた。


「あの、コウキさんは......」

「集中なさっている。釣れるまでそっとしておくぞ」

「集中って、前回もそんなこと言って1匹も釣れませんでしたよね?」

「馬鹿者、聞こえるではないか」

「す、すみません」


 アリシアはあわてて口元を押さえたが。


 聞こえてるっつ――――の!!


 全く集中できていなかった。


 その後も試みたが全く竿は反応を示さなかった。


「あーだめだ!! 全く釣れねえ。今日はダメだな」

「今日もじゃ―――――」


 サラはアリシアの口を塞ぐ。そこはコウキには聞こえていなかった。

 

 コウキは竿をしまう。サラの成果を確認した。彼女は6匹ほど獲っていた。


「........よし、戻るぞ」


 戻ろうとした時だった。アリシアは水が流れてくる方をジッと見つめる。


「どうした?」


「........あれ」


 指をさす方を見る。かすかに遠くから何かが流れてくるのが見える。


「雪の塊じゃないの?」

「違います。人の形をしてます!!」

「まさかぁあ?!」


 コウキ達はアリシアの指す方へ向かった。近づくにつれその姿ははっきりとしてきた。人だった。それも全裸で仰向けになって流れてきている。コウキは〈風の絨毯ウィンドホバー〉で川の中央まで向かい、引き上げる。赤い髪をした少女だった。コウキは岸まで向かうと少女を仰向けに寝かす。アリシアは瞬時に心臓が動いているか確認する。


「.........動いてません!!」


 アリシアは少女の顎を押し、気道を確保した。そして大きく息を吸と思い切り少女の口に向かって、自身の口を付け息を吹き込む。胸骨の下に手を重ねてリズミカルに押した。心肺蘇生法をしているのだ。コウキとサラはただただ心配するしかなかった。しばらくすると――――――


「ゲホッゲホッ!!」


 少女は息を吹き返した。鼻や口から飲み込んだ水を吐き出す。


 コウキはマントを脱ぎ少女を包む。少女は虚ろな瞳でアリシアを見る。


「あ.........」

「しゃべらないでください。安静に」

「任せろ。〈妖精(フェアリーブレス)の吐息〉!!」


 淡い緑の光が少女を包み込む。すると全身の痣や切り傷が瞬時に消え、少女の顔色は次第に生気を取り戻していった。


「これで、何とか身体のダメージは治った。けど、この娘、極度の栄養不足だ。早くご飯を食べさせなきゃ!」


 コウキは抱き上げると土で作った小屋に向かって走ったのだった。




 少女を椅子に座らせ、左右にはサラとアリシアが挟んで座っている。少女にはまだコウキのマントを羽織らせている赤髪の少女は浅い呼吸のまま黙って座っている。コウキはサラの獲った魚をフライパンで焼き、アリシアが採ってきた山菜等を鍋に入れて煮込んでいた。


「まずは自己紹介しようか。俺はサトウ・コウキ。コウキなり、サトウな好きに呼んでもらってかまわないよ」


 コウキは鍋の中をかきまわしながら言った。


「我はサラフォンティール・アンブラ・レインアントだ。2人からはサラと呼ばれている。お前も呼んで良いぞ」

「ワタシはアリシア・アルバーニ。アリシアでいいよ」


 少女はコウキから順に視線を移して言った。


「キミの名前はなんて言うんだい?」

「............カグラ....」


 かすれて弱々しい声でそう言った。


「そうか。カグラちゃんか。待っててねすぐにできるから」

「ところでカグラちゃん。はいくつなの?」


 アリシアは差しさわりの無い質問をした。


「15、歳」

「ワタシと変わらないね。ワタシは18だよ」

「え、アリシアって18だったの?!」

「コウキさん知らなかったんですか?」

「ごめん、20歳くらいだとばかり」

「失礼ですね。ワタシはコウキさんより7つ下ですよ」

「若いな~」

「そしたら私はもっと年寄りですよ」

「それ言われたら何も返す事できないって」


 笑いながらコウキは魚を皿に乗せる。その横に置いてある容器にスープを注ぎ込む。


「そら、できた。今回は川魚のムニエルと山菜のクリーム仕立てのスープだよ。火傷しないように注意してね」


 そう言ってそれぞれの前に料理を並べて行く。終わるとコウキは席に着いた。


「んじゃ、いただきます」


 コウキが言った時だった。


「アムアムアム――――ズズズズズ――――アムアムアム―――――」


 カグラはナイフとフォークを無造作に扱いながら料理を口の中に入れて行く。みるみるうちに皿に乗ってる料理が姿を消してゆく。そんな光景を3人は唖然とした表情で見つめる。次第に食器が鳴る音と共に鼻をすする音が混ざり始めた。するとカグラは涙を流しながら料理をむさぼり始める。


「ど、どうした!?」


 向へのコウキは心配そうな声を発する。サラはカグラの背中をさする。


「うっ、うっ、こんな....温かい、ご飯、食べたの......久しぶりで.....」


 その言葉を聞いた時コウキ達はいたたまれない表情を浮かべた。


「まあ、詳しいことは後で聞くかとして、俺達も食べるか」


 コウキは食べ始める。つられるようにサラとアリシアも食べ始めた。しかし、そのとき3人はいつも入りも口へと運ぶスピードが遅かった。




 4人は食べ終わり、一息ついた後本題に入った。


「さて、まず訊きたいんだが。カグラちゃん。キミ、ゲンさんとこの奴隷だろ?」


 コウキは首元の奴隷輪サーヴァントリングを見る。


「え!! ほんとですか!?」

「ワタシ見てませんよ!!」

「確かにいなかった。でもそれは2回目にあった時だ。初めて声をかけられたときにいたんだよ。小さくて見えなかったんだろうけどね。で、どうなの?」

「......間違いないです。アッシはゲンの大将の奴隷です」

「ね。あと、市場で俺を見ていたのもキミで間違いないね」

「どういうことですか?」


 サラは言う。


「そのとおりでございます。なんだか(あに)さんだけが他の人と違っていたので、つい見てしまいました。やっぱり兄さんでしたか」

「......ああ、まあそうだな。うん。ならしょうがない」

「だからあの時少し様子が変だったんですね。でも、なんでわかったんですか?」

「あの時一瞬だけだけど。他の奴隷のヒトたちと違った風貌してたし。何より雰囲気かな。確実に解ったのはゲンさんに会ったときさ」

「それで特定するとはさすがコウキ様」

「まあ、偶然が重なっただけだよ。さて、本題に入ろうか。何故君はあんなことになったんだい?」

「.....全部アッシが悪いんです」

「どういうこと? 何かとんでもないことでもやらかしたの?」


 若干の沈黙の後、カグラは苦虫を噛んでいるかのような表情で再び口を開いた。


「アッシ、アッシは、捨てられて当然です」

「詳しく話さなくていいから、大体の事を話してくれるかい?」

「はい、大丈夫です......」


 こうしてカグラは重々しく一連の流れを話なし始めた。それは今からおよそ1時間前弱の事である。




「す、すみません!!」

「うるせぇ!! テメェ何がすみませんだ、何回目だと思ってんだ!!!」


 ゲンは土下座をするカグラの頭を踏みにじる。カグラは痛みに耐えながらも許しをこうむることを辞めない。


「テメェがミスしなけりゃ今頃とっくに大金が手に入ってたんだ!!」


 別の男がカグラの横腹を蹴り飛ばす。カグラは飛ばされ横たわる。その際カグラは自身の肋骨の方から得体のしれない音を聞いた。


「うぅ......」


 痛みを訴えるかのような唸り声を発するがゲンを含む男女の仲間たちは蔑んだ目でその姿を見つめている。


「アンタ、自分の立場分かってんの? 奴隷の分際で足引っ張ってんじゃないよ!!!」


 女は剣を鞘を付けた状態でカグラの顔に向かって押し付ける。


「グギギギギギ――――!!!」

「アハハハハハ―――なんて顔してんのよ。ほら、もっと楽しませなさい」

「おいおい。こんな役立たずのクソカスなガキにはこういうのが一番いいんだよッ!!」


 男は横たわるカグラの腹に目がけて思い切り蹴りを入れる。内臓がグチャグチャにかきまぜられたような感覚のまま、のた打ち回る。


「ウウウウウウウウウウ!!!??!?!?!?!」

「元気あるじゃねーか。そんじゃこれはどうかな?」


 ランスを持った男は手にしているランスを思い切り叩きつける。


「アアアアアアアア――――――!!!!!」


 鎖骨が折れた。カグラは今までにない痛みの中ただただ叫んだ。


「うるせぇなあ。おい、このガキどうすっか」


 ゲンは言う。する隣の男が言った。


「少々もったいない気もするが、捨てるのはどうだ? どうせこのまま放っておいても死ぬだけだし、いっそ今のうちに捨てて勝手に死んでもらうのは?」

「それいいな。そうだ、ついでにその服と武器を取ってからにするか。珍しいから大国にでも行って売ればそれなりの金にはなるだろ」

「さすがね。アタシはさ~んせ~い」


 女は落ちたカグラの武器を拾い上げる。残りの男たちはカグラに詰めより衣服に手を掛ける。カグラは抵抗しようとするが全身に力が入らない。見る見るうちにカグラは衣服を脱がされた挙句、下着まで奪われてしまった。真白い裸体が露わになった。


「どうする? 記念に一発犯るってぇのは?」

「馬鹿言うな。こんなガキの裸見たってピクリとも勃たねぇよ」

「ハッハッハ―――()れる価値もないのかよ。可哀そうだな、お前」

「かえ、し、て.....」

「あん? なんだって?」

「かえ、して.....」

「お前、人に物を頼むときの礼儀も知らねえのか。奴隷のくせによ!!!」


 ゲンはカグラの顔面に蹴りを入れる。その際鼻から血が出てしまい、ゲンの靴を血で汚してしまった。エビ反りのままカグラは飛ばされた。


「あ~あ。汚れちまった。悪い子にはお仕置きしなきゃな」


 ゲンを含めた男女は仰向けでいるカグラ目がけて数十回にわたって踏み潰した。しばらくすると、ぐったりとしたカグラは2人に持ち上げられた後、近くにあった川にへ目がけて投げ出されたのだった。




「――――そういう分けです。失敗ばかりしていたんで買われてからずっとまともにご飯ですら......」


 アリシアは口元を押さえ、今にも泣きそうになるのを必死にこらえている。サラは無言のままカグラを見つめる。


「そうか。そういうことだったんだな」


 表情はそのままでいるが声は何処か怒りを含んでいるように聞こえる。


「――――しかし、まあ、命に別状なくてよかった。アリシアがいなかったら今頃死んでいたかもしれな。よくそんなことされ生きてたね。普通の人ならとっくに死んでるよ」


 コウキはなんとかこの空気を変えようとしているのが良く分かる。


「アッシは体力だけが自慢なんで。それにアッシは人間ではじゃないですよ」

「キミ、亜人なの?」

「はい。アッシは鬼人族(きじんぞく)です」


 山吹色の瞳がコウキを捕えたのであった。


コウキ達がゲンと飲みをしているとき、カグラは罰として別のところで放置されていました。

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