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二十九話 周辺国 ロイト

「諸君」

「ど、どうしたのですか?」

「いきなりなんですか?」


 2人は突然のことで驚いた表情を向けた。いつにもまして真剣な面持ちでいるため自然と2人も身体の向きを変える。


「俺思うに、そろそろここを出ようとおもうのだが」

「と言いますと」

 

 サラは言う。


「フォッシルを出る」

「ええ!? どうしたんですか急に。何があったんですか?!」


 一番食いついたのはアリシアだった。

 瞳を大きく見開いてコウキに詰め寄る。


「いや別に。ただそろそろ次の国にでも行こうかと思ってね。イヤかい?」

「そんなことはないです。ですがなぜ急にその様なことを?」

 

 アリシアはソファーに戻りながら答える。


「俺達はここに来てもう2ヶ月以上いるわけだ。次の国にでも行こうかと思ってね。それに真冬のフォッシルじゃまともな依頼なんて受けれないし生活も大変だし。他の国に行けばもう少しまともに依頼も受けれると考えたんだ。ま、こんな時期だけど次の場所に移動しようって思ってね」

「私は問題ありませんが。アリシア、お前はどうなんだ?」

「わ、ワタシも問題ありません。コウキさんとの約束もありますし」

「良かった。ちょうど宿の契約期間も明日で終わるから明日出発しよう」

「了解です」

「はい」




 時間の感覚と言うものは恐ろしく気付けばすでに11月はとっくに過ぎ、12月半ばを過ぎていた。実際コウキ自身、フォッシルで年を越そうと思っていたのだが恐ろしく何もすることが無く、暇さえあれば中央都市での買い物ばかりで浪費癖が付いてしまった。主にサラとアリシアだが。


 そこで3日前、色々考えた末旅立つことにした。もともと旅人であるため一つの所に長居はしない。本当ならとっくに別のいる筈なのだが、今回は色々珍騒動に会ったためこの時期になっても滞在してしまったのだ。


 

 今回はアリシアもいるからなぁ、何処にしようか。今の所大国と2連チャンだからたまにはちょっと違う所にでも行きたいな。いきなり離れたところに行くのもちょっと大変だと思うから、近場でいいかなぁ......


 とベッドの中で包まりながらそう思うコウキであった。


 翌日、午前10時半ごろのこと。3人はチェックアウトを済ませ関所まで移動していた。宿を出るとき、女将のランしかいなかったためシズとリズには挨拶を伝える代わりに2人にプレゼンのアクセサリーを渡しておいた。午前中は特に寒く、吐く度に白い息が出て、足元からはキシリキシリと雪を踏む音が聞こえる。


「ワタシ、よその国に行くのって初めて初めてかもしれませんので、すごく楽しみです!!」

「楽しみにするのはいいけど、目の下にクマ、出来てるよ?」

「楽しみだったので、あまり寝付けなくって....」

「戦士にとって睡眠は重要だぞ」

「何言ってんだよ。サラだってここに来る前少しだけどあったよ」

「!! な、何を言うのですか?! 私にそのようなこと!!」

「へ~そうだったんですかぁ~」


 慌てふためくサラを悪戯な笑みを浮かべながら横目で見る。そんなサラをコウキは笑いながらサラの肩に手を置く。


「怒るなって、な?」

「コウキ様~......」


 サラは頬を赤く染めながらコウキを睨むがコウキはにやにやしながらサラを見る。


「サラさん可愛いですね」


 追い打ちをかけるようにアリシアは言う。


「だとさ~」

「うぅ....うるさい2人とも、なんなのだ!」


 頬を膨らませてソッポを向いてしまった。サラをなだめながら歩いていると目的の関所の前まで迫っていた。コウキはハンターカードを出す。


「何を出したのですか?」

「アリシアには言ってなかったね。関所を通るときはギルドでもらったカードがあるだろ? あれを見せないと出れないんだ」

「そうなんですか」


 アリシアはカードを出す。その横でサラも同じくカードを取り出した。カードを見せた後、3人はフォッシルから出た。そのまま3人は少し歩くと人気がいない所へと向かって行った。木陰に着くとコウキはマントからロッドを取り出す。


「さてお二人さん。いよいよ新たな国に行くときが来ました」

「今回はどちらへ向かうのですか?」

「それについてだが、アリシアの事も考えて大国ではなく周辺隣国にすることにしましたー。理由としてはジハード、フォッシルと大国が立て続けに来たわけだけど、外の世界が初めてのアリシアをいきなり大国に連れていくのはさすがに大変だと思ったんだ。そこで南側の小国で少しの間滞在しよう思うんだけど。どうかな?」

「〝どうかな?〟って、ワタシの事は別に気にしなくても良かったのに」

「何を言ってんだい。アリシアは外の世界初心者なわけだし」


 サラの時とは違いアリシアの場合は完璧に世俗から隔離されていたため外の文化や習慣など、適応するのに戸惑ってしまうと考えた。余計なおせっかいだとは思うが、コウキなりの優しさでもあった。


「アリシア、せっかくコウキ様がお前のためを思って考えてくださった事だ」

「....解りました。ですが今度からはワタシたちにもちゃんと言ってください」

「解ったよ。じゃあ決まったと言うことで行きましょうか。コッチ寄って」


 コウキは2人を身体が密着するまで引き寄せるとロッドを空に構える。魔法陣を連想するとロッドの先から魔法陣が出現し、ゆっくりと頭から飲み込んで行った。




 人気のない道端に魔法陣が出現した。下から上へと上昇し、少しずつその形を露わしてゆく。


 転移が終了した。3人は無事目的の小国の手前まで来ることができた。目の前には広大に広がる町並みが映し出されていた。遠くには城があり、城下の街はここからでも十分に人で賑わっていることが確認できる。周りは平地でフォッシルの様に山々に囲まれていないが、ポツポツと山が見える。南側であるため比較的雪の量は少ないようで所々草が顔を出している。


 3人がこれから向かおうとしているのは、フォッシルから南に数十キロ先にある小国。名を『ロイト』と言う。


「ここがそうですか? やはり小国と言うだけあって小さいですね」


 サラは言った。


「そりゃ小国だからね。でもこの国は他の小国と比べると比較的大きい方なんだ。フォッシルがデカかったから余計に小さく見えるだけさ」

「わくわくします」


 アリシアはよほど興奮しているのか、耳まで若干赤みを帯びている。


「期待するのはいいけど、後でガッカリしないでくれよ。なんて言ったて小国だからね」

「ガッカリしないですよ。外の国ですか....」


 アリシアはしみじみとした目でロイトを眺める。


「行くか。ロイトへ!」

「はい!!」

「了解です」


 アリシアに次いでサラは返事をした。


 3人の視線の先には荷馬車や冒険者などの人々が同じくロイトへ向けて進んでいるのが解る。関所に近づくにつれて3人の進む距離が徐々に短くなっていった。コウキは前の方を見ると、何台かの荷馬車が関所で入国手続きをしていた。コウキはそのことを2人に伝えた。


 数分後、ようやくコウキ達の出番がやって来た。3人はハンターカードを見せ、確認が済んだのでロイトに入国した。


 目の前には多くの店が立ち並び、それに比例するかのように多くの人々が行き交っていた。休日のデパートの様に。


「なんか、フォッシルに似ていますね」


 サラは言った。


「そうだね。近いってこともあるから、まあ、言うならフォッシルの劣化版だね」

「でも、他国なんですよね?!」

「そうだよ。どう、初めての感想は?」

「なんか、いかにも旅って感じがします」

「ははっ、まだ早いよ。これからもっと多くの国を見て回るんだ」


 3人は歩き始めた。多くの種族が行き交う中、サラはコウキに言った。


「これからどちらへ向かうのですか?」

「まずは宿を取ってから。それから後の事は考えようか」

「はい」

 

 左右から威勢のいい掛け声が聞こえて来る。そのとき、一際目立つものがあった。アリシアはソレを見つめる。


「コウキさん、あれって......」

「まだ、あるようだね。」


 商人が声を張って何かを宣伝している。その背後には横に長い檻があり、その中に鎖で繋がれた〝ヒト〟の姿があった。真冬だと言うのに来ている服はボロボロで、布1枚で他には何も来ていない。男女種族はバラバラで皆、虚ろな眼で檻の外の景色を眺めている者やずっと下を向いている者までいた。


 奴隷。この世界では当たり前の存在である。ヒトとしての機能を果たすことなくただ所有者の言うことをきくだけの存在。機能が果たせなくなると換えを用意する。彼らは物と同等の扱いを受ける。大戦後の現在では奴隷を売買する国は以前と比べて数を減らしてきたが、一部の国ではいまだに奴隷商を営んでいるところも存在する。


「........初めて見ました」

「アリシアは、彼らを可哀そうに思うかい?」


 コウキは足を止めて言う。


「ワタシは、そうは思いません。あの人たちは必要とされています。誰かに、誰かのために役立つために存在しているからです」


 アリシアは少し遠い目で言う。


「確かに、そういう考えもあるね。サラは?」

「私も同感です。しかし、言うならそれは、運命(さだ)めでは無いでしょうか。奴隷として生まれて奴隷として死んで行く。あの者達はそれを受け入れているため、同情をすることじたい無駄では無いでしょうか。何故、そのような質問を?」

「いや、なんとなくね。キミたちはああいうヒトたちを見てどう思うのかなって、思って」

「そうですか。しかし、もう少し配慮は無いのですか? あの商人にとって奴隷は商品ですからもう少し大事にすることはしないのでしょうか」


 サラは言う。コウキは少し難しそうな顔で商人のほうを見る。


「彼らは金さえ入れば問題なのだろうから、特にその辺は気にしないのかもし.......」


 そのとき、コウキは視線を感じた。人混みの中、確かに感じる。それは檻の中からだった。目を凝らして確認する。すると、一瞬その姿を確認することができた。小柄で、黒い不思議な服を着た少女の姿を。しかしすぐに埋もれて見えなくなってしまった。


 気のせい......か?


「どうかしましたか?」

 

 アリシアは心配そうに下からコウキの顔を覗く。


「いや、なんでもない。それよりも宿だ宿」


 コウキはスタスタと歩き始めた。その後ろを2人は追いかけたのであった。


勇者の行った奴隷解放運動は、あくまでも自国内で行った運動であるためまだ他国に浸透していません。

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