二話 油断大敵
瞬時にロッドを構えた。向こうは魔法でアックスと矛が合体した武器、ハルバートを出した。さらに背中の翼を広げ、こっちに向かって飛んできた。
俺は瞬時に魔法陣を展開。攻撃魔法〈氷の牙〉で迎えつつ。足元には〈台風の眼〉の応用である〈風の絨毯〉の魔法陣で平行移動しながら距離を保つ。しかし、無数の鋭い氷柱をものともせず武器を構え突っ込んでくる。バケモンかコイツ!!
「ほう、無詠唱か。だが、所詮は雑魚!」
攻撃を紙一重でかわしながら徐々に距離を詰めてくる。攻撃を強めるも相手は衰えることなく攻めてくる。
「小賢しい真似を!!」
魔人は武器を思い切り振り落とす。空を切った先から黒い斬撃の刃が飛んでくる。黒い斬撃は真っ直ぐ向かってくる。当然〈氷の牙〉の威力を上げる。当然相殺できると思っていた。しかし、斬撃の勢いは衰えることなく向かってくる。
「マジかよっ!!でも、こっちには―――。」
奥の手の〈妖精の衣〉がある。仮に相殺しきれなかったとしても〈妖精の衣〉で斬撃は消滅できる。
「――――さすが、にちとキツイな。」
その時、爆発が起きた。斬撃は〈氷の牙〉に耐え切れず爆音と共に黒い煙を放った。よし、相殺した!
「―――――――!!!」
その時、爆煙の中から影が見えた。それは確実に迫ってきている。煙の中からアックスの刃が飛び出してきた。しかし、刃は体に当たる前に見えない壁に当たっているかのように静止した。〈妖精の衣〉が発動した。が、発動したのにもかかわらず刃は消滅しない。
「クソッ!何で壊れないんだよ!!」
飛ばされないように〈風の絨毯〉で応戦している。
まずい、このままじゃ、保たない!!ウソだろ!?刹那、〈妖精の衣〉は打ち砕けた。
「死ねーーーーーー!!」
ハルバードを掴む両手に力が入る。刃が目の前に迫ったとき、再び刃は留まる。
「小癪な!!」
寸でのところで障壁の魔法陣で防いだ。
「グヌウウウウウウウウゥ!!」
奥歯に力が入る。ロッドを必死で堪える。障壁もいつまで保つか分からない。
ハルバートの刃は≪ギリギリ≫と音を立ててその勢いを止めない。その時、俺は少しずつ身体が押されていることに気付いた。
ダメだ、力負けしている。
「くたばれ!」
魔人は力任せに障壁ごと俺を吹き飛ばした。
「――――――――――――!!!!」
飛ばされて壁に激突。全身に衝撃が走った。そのまま床に倒れ落ち、大きくヒビの入った壁は崩れる音を立てながら倒れている上から落下した。
身体の上に落下し完全に身体が見なくなってしまった。
「フハハハハハハハ―――所詮その程度!!」
高笑いをする魔人。その顔は勝利を確信しているように見える。
ヤツは死んだ。我の勝ちだ。人間なんて所詮雑魚、我に敵う筈がない。
しかしその時、爆音と共に瓦礫は吹き飛んだ。
そこには死んだと思っていた人間の姿が。衣服はボロボロで顔中傷だらけ。口と頭から血を流している。
「なんだ、まだ生きていたのか」
「こんな所で、死ねるかよ」
偶然できた隙間で身を瓦礫から守ることはできた。しかし、それでダメージは大きいものだった。
瓦礫の中、俺は〈台風の眼〉を発動した。
「まったく、しぶといなお前は。今、楽にしてやる......」
魔人は黒い羽を広げて飛んだ。空中で静止したと思ったら左右四つずつ黒い球が現れた。
「......死ね」
魔人が発したと同時に黒い球は一斉に急降下して向かってきた。
「ざっけんな!クソッ!!」
瞬時に陣を形成し上昇した。これも〈台風の眼〉の応用版〈風乗り(エアライド)〉。その何の通り風に乗ったかのように飛ぶことができる。
だが、黒い球はそのままぶつかることなく軌道を変え追ってきた。
追尾か!!なおさら当たる分けにはいかない。とにかく回避に徹することにした。しかし、何処へ逃げても黒い球は追ってくる。その勢いを絶えることなく。
「フハハハハハ――――。踊れ踊れ!!」
魔人は楽しそうに眺めている。魔人には必死に逃げ惑う姿が踊り狂ってるように見えていた。
クソ、こうなったら。
壁に向かって飛んだ。しだいに壁が近づいてくる。
あと少し、あと少し.......今だ!
一気に加速し、壁にギリギリのところで急降下。すると8個中2個が急な方向転換に追い付けず壁に衝突して爆発した。
しかしまだあと6個もある。が、ここで問題が発生した今の加速で随分魔力を消費してしまった。腕輪を使おうにもさっき吹き飛ばされた衝撃で鉱石自体にヒビが入ってしまった為オシャカになってしまった。
まずいな、これでは身が保たないぞ!?どうする。
それにも関わらず黒い球は無慈悲に追いかけてくる。今度は急上昇した。
クソッ!!防壁の陣を出した。
「こうなりゃヤケだ!」
残り全てを陣で受けた。黒い球は容赦なく突っ込んできた。
一発目が炸裂したと思うと間髪入れずもう一発。虚しくも4発目で陣は砕けてしまった。残り2発はその身で直接受ける羽目になった。
「グアアアアアアアアア―――――――――!!!」
2発が爆発した。
血を吐きながら落下した。マントに対魔法防御を付けているとはいえダメージは相当な物だった。
落下している最中、薄い意識の中俺は思った。アイツの攻撃、何処か変だ。妙な違和感を感じた。
躊躇?迷い?恐怖?そんなようなモノを感じた。人間への憎しみとは違った感情を俺はヤツの攻撃を受けて感じ取った。....そうか、そういうことか。なんだよ、アイツ。俺と〝同じ〟じゃん。
落下するギリギリのところで体勢を変え背中で受けた。
「ゴバァ!!」
血反吐がでる。
骨が軋み、視界がぼやけ、意識も遠くなる。頭上の魔人を見た。ヤツは俺を見下している。
「フン。言った割には他愛もない」
魔人はハルバートを構えた。トドメを刺す気だ。
「特別にコレで楽にしてやる」
すると武器の周りに黒いエネルギーが集まる。
俺は何とか左手を首元のチョーカーに移す。
「〈第一魔力制限〉.....解除......」
「クタバレ!!人間!!」
思い切りハルバートを振り下ろす。
二人の行動は同時だった。魔人の放った黒い塊は落下していくごとに肥大化し、倒れている俺の所へ見事に命中し、床は爆発と共に吹き飛びクレーターのように陥没した。
爆煙が晴れた。人間の肉片ひとつ見当たらない。そこには何もないただの穴が広がっていた。
「フ、フハハハハハハ――――」
声高らかに笑った時だった。
「残念!」
「なに!?何処だ!!」
突如、声が聞こえた。人間の声だ。
魔人は驚愕の表情を浮かべている。
「ここだよ」
真後ろを向いた。が、いない。気配はするが姿が見えない。
「ここ」
今度は上。いない。
「我を愚弄するな!人間ごときがぁ!!!」
「フフフフフ.........」
隣にいた。
「貴様!!」
武器を振る。が直前で消えた。
「惜しかったね、あの攻撃。あれはさすがの俺も生きてはいなかったと思うよ」
今度はしっかりと視界でとらえることができた。人間は前方にいる。
「貴様、瀕死だったはずじゃ」
「悪いね。少しアンタを嘗めていたよ」
「なん、だと!?」
「だから、俺も今度はちゃんと本気を出す」
「なに!?」
「これから本気で戦うんだよ。俺が」
魔人の表情がみるみる豹変した。鬼の形相とはこの事だ。次第に魔人の周囲に黒い靄が立ち込める。
「き.....さ.....ま.....」
みるみるうちに黒い靄が濃くなり、魔人を包む。
「我を愚弄して、さらには戦いまでも愚弄するか.....貴様、万死に値する!!!」
怒号と共に靄は晴れ、中から全身甲殻の魔人が現れた。そこには全身甲殻に覆われた魔人の姿があった。顔には能面のような仮面を付けていて、長い髪の毛だけが唯一露出している。さらに両手に同じ武器を持っている。おまけに尻尾の先端が剣に変わっている。
いっそう禍々しさがました。まさに魔戦士だな。
「貴様を殺す、人間!!」
魔人が発したと同時に眼の前に居た人間の姿が突然消えた。
「どこを見ているんだい?」
後ろからだ、振り返ったと同時に攻撃をした。
「クソッ!!」
しかし攻撃は外れた。
魔人は一度距離をとった。視線の先には人間がいる。さっきまで見せていた余裕の笑みとは異なった笑みを浮かべている。刹那視界から消えた。
「〈雷刃〉」
「グアアアア――――!!」
突然、魔人は稲妻を受けた。
「〈風刀〉」
今度は無数の風の刃が襲い。
「〈業火〉」
巨大な火の球がその身を包み込む。
「〈水遊〉」
強力な水鉄砲がいとも簡単に甲殻を砕く。四方八方どこらともなく魔法を受ける。
「グオオオオオオオ!!!」
甲殻が剥がれ、ところどころヒビが入り素肌が露出する。
「貴様.....どこにそんな魔力が.....」
ボロボロの魔人は今にも落下しそうである。こうして浮いているのが不思議なくらいだ。成す術なくただ攻撃を受ける。これまで一度も人間に負けた ことの無い魔人にとってそれはまさにプライドを傷つけられることだった。
「まだ、続けるかい?」
目の前に現れた人間は余裕だ。
魔人は左右の武器を手前に交差させる。交差した刃先に闇の塊ができる。そのまま頭上に上げる。
「調子に乗るな!!」
一気に振り下ろす。同時に黒い闇の塊は伸び、闇の塊は長い刃となり振りかかる。
人間は逃げることなくその場で浮いている。
「――〈聖盾〉――」
10メートル以上に及ぶ闇の刃は魔法障陣によって受け止められた。闇の刃はその場でとどまる。
「おいおい。その程度かい?」
右手でロッドを掲げ、空いている左手で眼鏡の位置を直し人間は余裕の表情を見せる。
「おのれ―――――――――!!!!!」
両腕に力を加えるが白銀に輝く魔法防御陣はビクともしない。
ついに闇の刃は耐え切れずに消滅してしまった。
「なっ.....に.....!」
自身の渾身の一撃をいとも簡単に防がれてしまっては言葉が出ない。
「なら、細切れにしてやる....」
魔人は武器を左右に伸ばし、そのまま回転した。魔人は黒い竜巻と化した。
巻き込んで切り刻むつもりである。
「〈電爆〉」
シャボン玉状の電気の泡を複数投げ入れた。
その瞬間、泡は炸裂し竜巻の内部から魔人の断末魔が聞こえた。
この魔法は弾けると中の電気は放出される。すると誘導爆裂を引き起こし広範囲に及ぶ電磁場を作る。その電気は武器を伝いエ魔人本体に流れ込むという仕組みだ。
竜巻は止み中から、さらに甲殻が剥がれボロボロの魔人が現れた。
僅か数分でここまで本気の魔人を追い込むことができるのは彼くらいである。
「お.....の....れ....」
仮面の一部が剥がれ落ちわずかに左目が見えた。
魔人は武器を構える。
「まだやるのか.......」
魔人に言うが答えない。その代り仮面の下の左目が鋭くなる。
「ウオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
二本の武器を構え攻撃を仕掛けてきた。刹那、右翼が切り落とされた。
「なっ.......!?」
魔人はバランスを崩し落下した。
「〈光剣〉いいだろコレ」
そこにはフワフワと光輝く一つの剣が浮いている。これは命令を下すと自動的に攻撃を仕掛ける上級の光魔法。
落下した魔人は這いつく場るように倒れ込んでいる。
「き.....さま.....は.....」
魔人は手元に落ちた武器を杖代わりに何とか立ち上がった。
「なあ、アンタ、迷ってるんじゃないか?」
宙に浮いたまま魔人を見下ろす。
「な...に.....?」
「気づいていたんじゃないか?どんなに強くなっても何も変わらないって。」
魔人は黙り込む。
「過去に何があったかは知らないけど、そんな力を持ったとしても結局何も変わらなかったんじゃないか?魔王側について何をしようとしていたかはわからないけどね。なんだかアンタと戦ってみて分かったきがするよ。」
「黙れ.....なんだ、貴様....人間如きが.....我に説教か....」
俺も戦いの場でこんなことをしたのは初めてだ。
「別に説教じゃないけどさ.....」
言葉が詰まる。
「ほざけ!貴様に何が分かる!!!」
魔人は武器の先端を向けた。もう一本は離れた場所に落ちてある。
「食らえ!!人間!!!」
攻撃をしようとした瞬間、魔人の周りに四つの魔法陣が現れ中から光の鎖が出てきた。鎖は両手両足を捕えた。光の拘束魔法〈裁きの拘束〉を発動した。
「なんだと!?―――貴様!!」
何とか鎖を解こうをもがく魔人を無視し、ロッドを下にいる魔人へ向けて構えた。すると幾重もの魔法陣が重なりあって出現し、直径10メートルにも及ぶ陣となった。
「全ての悪を...闇を....その光で薙ぎ払え、〈聖光柱〉!!」
すると陣から巨大な光が一直線に放出された。まるで光の柱が出ているかのようだった。
光の柱が魔人に迫る。
「やめろ!貴様――――――――――――――..........」
魔人は光に飲み込まれた。
ここは......どこだ.....不思議な感覚だ.....暖かい....まるで母に抱かれているかのような......あぁ....すべてを.....許してくれるような.....我は....一体.....
光の中、魔人の意識は遠のいていった。
魔人は仰向けで倒れていた。全身何も身に着けておらず生まれたままの状態で。
我は......負けた......のか.....
魔人が負けたことにより空間魔法が解け辺りは瓦礫の山で覆われている。屋根も吹き飛び元の廃墟になっていた。
見ている。人間だ、我を倒した人間だ。
「う......」
何とか状態を起こそうとしたがやはり無理だった。身体に力が入らない。すると、人間はゆっくりと魔人の下に降りてきた。
「ころ....せ.....」
何とか言葉を発した。
「う~ん、やめた。」
「なっ.....!?」
意外な答えに驚きを隠せない。
「驚くのも無理はないな。なにせ今さっき考えが変わったからな。」
魔人は首を起こして見ている。
「なんかさ、アンタを見て思ったんだよ。殺すべきじゃないな.....て。」
俺は照れくさそうに人差し指で頬を掻く。
「なに......?」
「今、俺はアンタの闇....つまり心の闇と言うかなんと言うか....とにかく闇を払ったのさ。もし、アンタが完全に闇に飲まれてたら今頃完全に肉体ごと消滅してたよ。」
「かん....ぜん....に.....?」
「そ。あれは浄化の光で、主に魔族に使うんだけど、俺は遭えて賭けにでた。もし少しでも、アンタ“自身”が残っていたら救えるかもしれないってね。まぁ、結果俺は賭けに勝ったわけさ。」
「.......」
「けど、完全に払えたわけではない。まだ僅かにだがアンタの中に闇の力が残っている。と、言っても約3分の1程度だけどな。・・・僅かでもないか。」
魔人は黙ったままだ。
「さすがの俺でもすべてを払うことはできなかった。で、俺は考えた、アンタ、俺の仲間にならないか?」
唐突過ぎにも程がある。
「!!!!!!!」
魔人は眼を大きく見開く。
「どうせ俺はアンタを殺さない。アンタは残った力でこの先何ができる?今のアンタならまず襲われたら即死だ.....なぁアンタの力、俺にくれないか?俺はまだ弱い。この先俺が生きていけるか保証できない。」
「我が、人間の.......」
魔人は思った。本当に言っているのかと。しかし魔人は気づいた。自身が今まで持っていた憎しみや恨み、迷いの感情がなくなっていた。本当に不思議だ、この人間も、感情も。
もしかしたら、我は待っていたのかもしれないこの時を、あの時魔王様が我に救いの手を差し伸べてくださった時とは違う。この力は本当の救いなどではなかった。今、この場にいるこの人間こそが我を........
涙が出た。不思議だ。今日と言う日は不思議なことばかり起こる。
「―――――だから、俺と共に―――――観ないか?この先ずっと――――――」
断片的にしか聞き取れない。
我を必要としてくれる.......ずっと......
とめどなく涙がこぼれる。
「〈妖精の吐息〉」
突如全身が薄い緑の光に包まれた。すると、全身の傷が癒えている。痛みも差ほど感じられない。さらに人間は来ているマントを掛けてきた。
「なぜ.......」
「言ったじゃないか。アンタが欲しい、必要だからさ......」
優しい声だ。今まで生きてきてこんな言葉を聞いたことがなかった。
ゆっくりと起き上がる。
「大丈夫か?」
「だい.....じょうぶだ....」
「で、答えは?」
答え.....ああ。そんなのもう決まっている。
涙を拭いて頭を垂れる。
「我は、これよりあなた様の剣となり盾となることを、ここに誓います。」
これでいい、これでいいのだ。きっとこの方なら我を導いてくれる。我は今日で生まれ変わった。この方に全てを託すことに何のためらいもない。
「よし。分かった。表をあげて。」
この方の眼は澄んでいる。
「じゃあ、早速だけど.....移動しよっか」
「はっ我が主!!」
「主....なんか堅いな。名前でいいよ。俺はサトウ・コウキ。コウキが名前ね」
「はい。でわ、コウキ様とお呼びいたします」
「うん。君の名前は?」
「サラフォンティール・アンブラ・レインアントと申します」
「綺麗な名前だね。」
「そっ、そんな心にも無いことをおっしゃるのはお由ください」
突然サラフォンティールの顔が赤くなった。
「そんなことないよ。今日からよろしくね、サラ。」
サラ。名前が長いから呼びやすくした。
「はっはい....コウキ様」
また赤くなってる。なんか可愛いな。さて移動したらまずはサラの服だな.....
「よしっ、そんじゃあ早速移動しようか。サラ、こっちに来て」
左手でサラを寄せる。サラは急に恥ずかしいのか急にちじこまってしまった。
「いいかい?行くよ」
「はい」
右手のロッドを天にかし、転移魔法を発動した。魔法陣は二人をゆっくりと飲み込んでいった。