二十七話 季節の変わり目とプレゼント
気付けばすでに11月に入っていた。つい先日まで辺りには落ち葉が沢山落ちていたのにいつの間にか落ち葉から雪に変わっていた。屋根の上には雪が積もり、時折太陽の熱で溶け屋根からすべりおちる音が聞こえる。木々の枝には葉は1枚も付いておらず、代わりに枝に積もった雪が枯れた木を色付けしている。道には馬車や人の歩いた跡がくっきりと残っており、どのくらい降り積もったのかを物語っている。
国内最大の山である、ヘドロン鉱山や周辺の山々の頂も今ではすっかり白く化粧付られ、外では子どもたちのはしゃぐ声が部屋にまで響き渡り、いっそう季節の変化を感じるまで至った。そんな冬の始まりを肌で感じることのできる中、コウキ達は部屋でガタガタ震えていた。それが彼らにとって初めて冬を迎えるかたちとなってしまった。
フォッシルは山に囲まれているため夏は暑く、冬はとりわけ寒い。盆地の脅威である。宿の部屋に居ながら3人は白い息を吐きながらうずくまっている。時間は午前10時を過ぎようとしていた。
「さ、寒み~~~~~~~~」
「は、はい~~~~~~~」
「ハァ、ハァ........」
布団に包まりながらベッドの上で3人は身を寄せ合っている。3人の身体の振動で別途はキシミ、ガタガタと揺れている。恐らくとなり近所の部屋の住人に対し良からぬ誤解を招きかねない状況の中、それでも3人は何とか暖を取っている。
「ご、ごめん、俺がケチったせいで~~~~~」
「い、いいいえ。わわ、私は問題ござざざ..........」
「本当にごめん、今すぐもらいに~~~~あ~さみっ!!!」
コウキは一度布団から出ようとしたがすぐに戻ってしまった。コウキは冬を甘く見ていた。フォッシルの冬の脅威をこの実を持って初めて感じたのだ。何故3人はこんな目に遭っているのか、それはコウキが部屋を借りるときにケチったのが原因だった。借りる際、魔法道具のストーブをオプションで付けるかと言われコウキは「いや、大丈夫です」と答えたのが悪かったのだ。おかげで11月に入りいきなり寒くなった途端、このあり様である。
こうなりゃ10000ゴールドケチるんじゃなかった。
あとの祭りである。
「よしっ、借りに言ってくる」
「だ、大丈夫ですか?」
「ああ、行ってくる」
コウキは意を決して布団の中から出た。室内にも関わらずまるで冷蔵庫の中のように寒い。コウキは足早に部屋を出て行った。
数分後、スーツケース程の大きさの黒い箱の様な物を持ってきた。
「こ、これですか?」
「あ、ああ。魔法道具で、従来の魔石よりもはるかに、純度の良い石が入って~いるるんだだ~~~~」
床に置くと、仏壇の様に扉を開き中にある野球ボール代の赤い魔石に触れる。すると石はほのかに光だした。
「こ、これでで~大丈夫だ」
コウキは2人のいるベッドに逃げ込んだのであった。5分後、部屋は先ほどと見違えるように暖かくなった。3人はベッドから出ることができた。
「いや~死ぬかと思ったよ」
「危なかったですね」
「ホントさ。さっきランさんに借りに言ったら〝来ると思って取っておいた〟って、俺に渡してくれたんだよ」
「なんてお優しい方だ。今度会ったら礼を言わなくては」
「ですね。でもコレすごいですね。こんなに小さいのにすごく暖かいです。」
「これがフォッシルの叡智の結晶だ。ここにいるドワーフは皆卓越した技術を持っているからね。ほら、あの王子の武器だって彼らが作ったんだよ」
「アレは驚きました。ちょっとあの武器、欲しくなりましたし」
サラは欲しいおもちゃを思い出す子供の様な表情でいた。
「アレさ、一応売ってるんだよ」
「本当ですか?!」
「うん。でもね、あれかなり面倒な武器なんだよ。それがさ―――――」
タクティカルソードの様な多彩なギミックを搭載した武器は流通している。攻撃力はもちろん、使い方によっては戦いを有利に持ってくることもできる優れた武器なのだが、一つ欠点がある。維持費が掛かるのである。当然使かい続けていればメンテナンスが必要になるのだが、その費用が武器の種類によって異なる。一時期ブームになったのだが金銭面の問題から手放す者が多くなりいつしか衰退していったのである。現在では一部の国で騎士の武器として採用されているが、ほとんど通常の武器を使っている。
「.....それは、ちょっと.......」
「ねぇ~、買うのは自由だけど維持は自己責任で。さすがにそこまで金を回すのは、ちとばかしキツイ。」
サラは諦めた様子でいた。
「あの~ちょっといいですか?」
「なに?」
アリシアは少し恥ずかしそうに言ってきた。コウキとサラは視線を向ける。
「お腹、すいたんですが.......」
「.....確かに、今朝は食べる暇無かったもんな。」
コウキは時計を見ると針は11時を過ぎていた。
あれからもう1時間も経ったのか。時間が立つの早いなぁ....少し時間は早いけど、飯にでもするかな。
「よし、ちょっと早いけど昼にしよう。どこで食べる? 外? 中?」
「私はどこでも構いません」
「アリシアは?」
「ワタシは出来ればここで」
「俺は外でもいいと思ってたんだ」
「ならコウキさんに会わせます」
「いやいいよ。ここにしよう」
「コウキさんはリーダーですから。コウキさんの意見を優先します」
「ええ!?」
コウキはサラを見るが、サラは「お決めください」と言った表情でコウキを見返す。コウキは少し考える素振りをした。
「.....分かった。今日は外食にしよう」
「了解です」
「はい」
3人は部屋を出た。コウキはマントを着用しているがサラとアリシアの2人は薄着のため寒そうにしている。特にアリシアの下はミニスカートであるため非常に防寒対策が必要であった。サラは比較的丈の長いスカートであるためアリシアに比べれば寒くなさそうに思えるがやはり、冬の寒さを凌げるかと言えば難しいところである。
早に買っておくんだった。あとでどっか店で買ってあげるか。
3人は白く彩られた建物の中を歩き始める。この辺は人通りが多いため地面に雪はあまりなかった。白い息を吐きながら歩くこと10分弱、3人は煙の立つ一軒の店があったので迷わず中に入って行った。
1時間後、食べ終えた3人は宿に戻ることなくコウキの提案で中央都市に向かった。向かった先でコウキは衣服が売っている店の前に立つと言った。
「これからもっと寒くなるから2人とも長ズボンとか必要になるからさ。買ってやるから好きなの選びな」
「ええ!?!?」
「い、いらないですよ!!」
「何でさ。その格好だと満足に依頼すら出来なくなるし。ささっまいりましょう。」
2人の肩を抱き強引に店の中に入って行った。店内には衣服以外にも防寒着やアクセサリーと言った物までそろえており、バラエティーに富んだ店だった。コウキは2人に選ばしている間1人別のコーナーに向かって行った。
あの娘には何がいいんだろうか。最低限無くさない物で動きの邪魔にならない物がいいよな。
コウキは何やら選ぶのに苦労している様子だった。すると向こうの方から呼ぶ声が聞こえたためとっさに思いついた物を手に取って2人の下へと向かって行った。
「なに、もう決まったの?」
「はい、色々考えた末こちらの2点を」
サラから薄地のタイツの様なズボンを受け取るとそのままカウンターへと向かって行った。会計を済ませた後、外で待っているとサラ、少し遅れてアリシアが出てきた。
「遅かったね」
荷物をマントの中にしまいながら2人を迎える。アリシアの手には何か黒い物が握られていた。
「はいちょっと」
サラはアリシアもの方を向くと、アリシアはコウキの前にまで来ると持っている黒い物を渡してきた。
「ワタシたちからのプレゼントです」
それはニット帽であった。黒字に何かの刺繍が施してある。コウキはそれ手に取るとまじまじと見つめる。
「お気に召しませんでしたか?」
「い、いいや。嬉しいよ」
思わぬ出来事にコウキは驚きと嬉しさが入り混じった感情のまま2人を見る。異性からと言うよりは、この世界に来て初めての経験でいささか戸惑っているようだった。転生し、魔王と倒して以降、1人で旅を続けてきた身としてはこれにまでにない感情が込み上げてきた。コウキは紛らわすように早速被った。
「どう?」
「似合います」
「カッコイイです」
「そ、そうかな~」
するとサラがコウキが持っている紙袋を見て言った。
「あの、それは?」
「ん? ああ、これはアリシアに」
「え? ワタシですか?!」
「うん。前々から買おうって思っていたんだけど、タイミングというかきっかけがね....それにほら、サラには買ってアリシアに買わないのはおかしいだろ?」
隣でサラは胸元から赤い石の入ったネックレスを取り出した。
「で~まあ、その色々考えた結果これが一番ベストだと思ってね」
小さな紙袋を渡す。アリシアは袋の中身を見た。
「コレ........」
その手には髪を縛るゴムが二つあった。また、そのゴムにはそれぞれ青いオハジキくらいの大きさの石が2つずつ装飾されている。
「........ありがとう.....ございます......」
「ねえ、着けてよ」
「そうだな。せっかくコウキ様が選んでくださったんだ」
「はい.......」
アリシアは左右の髪を解き、コウキからもらったゴムを付けた。銀色の髪にコバルトブルーの透き通った石が何とも映えてるため、いっそう可愛らしさを引き立てる。買って正解だったと、コウキは思った。
「似合ってる」
「うむ。さすがコウキ様だ、よく分かっていらっしゃる」
「えへへ」
アリシアは満面の意味で答えた。
なんだか先を越されちゃったな。まさか2人からプレゼントをもらえるなんて。ちょっと早いクリスマスプレゼントだな。アリシアも喜んでくれてよかったぁ.......
「さてと。買うもん買ったし、戻るか」
「はい。」
「そうですね!!」
3人は宿へと戻ろうとした瞬間だった。
「あ!!」
突然、コウキの視界は一瞬で切り替わった。建物から青空に変わっている。背中からは鈍く痛みが広がる。周りからはクスクスと笑う声が聞こえる。
「痛って~~~~~~~~」
「大丈夫ですか?!」
サラは片手でコウキの腕を掴み引き上げる。アリシアは全身に着いた雪を払う。
「ありがと。って~なぁ。まさかもう氷が張ってるなんて......」
足元には氷の水たまりがあった。
「危ないですね。コウキさん頭大丈夫ですか?」
「帽子のおかげで大丈夫。まあ、もともとおかしいから」
「コウキ様、笑えませんよ。」
「失敬失敬。」
サラの支えがあり何とか立つことができた。しかし、サラはコウキの腕に腕をからめたままでいる。
「サラ、大丈夫だから..........ってアリシアも」
気付けばアリシアもコウキの腕を組んでいる。彼女は頬を赤く染めている。寒さからなのか、それとも恥ずかしさなのかは分からない。
「また転んだりしたら大変です」
「そうですよ。コウキさん、しっかり支えますから」
コウキは苦笑いをしながらも、その顔は満更でもない様子でいる。両腕から伝わるソフトな感触に浸る暇なく2人は進み始める。コウキは少し引かれる感じで歩き始める。
アリシアはコウキの顔を一瞥すると、コウキの腕に頭をそっとくっ付けたのであった。
アリシアにとってコウキは信用できる大人になって来ています。また、2人からのプレゼントを提案したのはアリシアです。




