二十二話 秋の祭りは災厄の幕開けに
本格的に寒くなり始めた10月某日、コウキとサラとアリシアの3人はギルドのブランチで依頼の結果報告をしていた。この日は原生生物の討伐を受けたあと、日課となったサラとの近距離戦訓練をしたおかげでコウキとアリシアの疲労はピークに達していた。コウキはギルドを出るなり「ん~~~あ~~~~~~」と声を漏らしながら身体を曲げたり練ったりした。その後ろにサラ、アリシアと続く。すると、アリシアは言った。
「あの、気になったんですが、今朝からずっと向こうから聞こえる音は何ですか? 工房から聞こえるのと少し違う気がして」
「ああ。祭りの準備だよ。明後日からココで2日間、フォッシルの秋の祭りがおこなわれるのさ」
「そんなのがあるのですか」
「うん。まあ、具体的に説明するとね―――――――」
フォッシルでは年に1度のイベントとして秋の感謝際が行われる。ここで言う『感謝』とは山々に宿っているとされている精霊に向けての行事である。フォッシルは鉱山に囲まれた地帯であるため、生活の要である鉱山に日頃の感謝とこれからの国の繁栄の意味を込めて、そこに住む住人と精霊が一緒になって楽しむカタチを取っている。また、開催中は一切山に入ることは禁じられている。
「―――――とまぁ、こんな具合かな」
「ワタシ、行ってみたいです」
「大丈夫だよ。行く予定だから」
「本当ですか。コウキ様!」
「勿の論さ。正直俺も今回が初めてだからね」
今までコウキは各地を転々と渡り歩いていたためフォッシルの祭りに参加する機会は無かった。実際一番楽しみにしているのはコウキの方であった。
普段から人で賑わっているのに祭り当日だとどんだけごった返すんだろ。すげえ楽しみだなぁ。何かべよっかな~......それよりも、〝アレ〟が見られるんだからどんなことがあっても参加しなきゃ。早めに (アールヘイムから) 出れて良かった。
と始める前から祭りへのわくわく感を抱きながら昼食をとりに近くの屋台へと向かったのであった。
時間は経ち、祭り当日。中央都市から広がる様に周りの建物には装飾品に彩られている。飲食店や雑貨店、アクセサリー店などは店先で屋台を開いている。店にとって多くの観光客がフォッシルに訪れるため、この祭りが開催しているときが書き入れ時である。しかし、そんな時こそ最も忙しいのが王国の騎士団である。より多くの人が入国すると言うことはそれだけ事件や犯罪が起きるリスクが高くなると言うことだ。騎士たちはいつも以上に厳戒態勢で城や各所で警備している。
時間は3時を過ぎ、コウキ達は一番盛り上がりを見せる中央都市へと向かっていた。普段からは想像できないほどの人が行き交っている。普段ならすでに到着している頃なのだがこの日ばかりは数十分も遅れて到着した。
うひゃあ、こりゃすげえな。まともに進むことすらできないな。でも、テンション上がってきた~~~!!
コウキは眼鏡の位置を直し、そのレンズを光らせる。
「コウキ様、すごい人の数ですが。まともに楽しむこともでき無さそうにも見えますが......」
「何言ってんだよ。祭りってえのは雰囲気も娯楽の1つさ」
「そういうモノなのでしょうか」
「そうそう。だから早速楽しもうじゃん」
「「!!」」
コウキは2人の手を握ると入り乱れる人混みの中へと消えて行った。
3人はぶつかりながらも何とか見て回っていた。先頭からコウキ、アリシア、サラの順番で歩いている。この時期はとても寒いのだが街は人々の熱気で暑かった。
「なあ、アリシア。こうしてみると沢山の種族がいるだろ」
「はい。すごいです」
「だからあまり、見た目とか気にするな。と言っても難しいか。たださ、〝自分は変だ〟とか思う必要はないからな」
一緒に過ごすようになって見えてきたが、やはりアリシアは容姿に強いコンプレックスを抱いているようだ。とくにギルドなんかに行くと周りからの好奇な視線を感じるのか良くサラの後ろに隠れるような素振りを見せる。現にこうしてサラと挟むようにいるのだがそれでも気になるよな。上手く向き合ってくれればいいんだけど、それは本人次第だよなぁ....難しいよ。
「そうだ。お前は在りのままでいい」
サラは横に立つとアリシアの頭を撫でる。
「あ、はい」
少し恥ずかしそうに、けど何処か嬉しそうにアリシアは返事をした。
すると前方からとてもジューシーな肉が焼けた匂いが3人の鼻腔を刺激した。匂いは進むにつれ強くなってくる。
「あれか」
コウキ達は屋台の方へと向かった。屋台には肉と野菜が串に刺さって売られていた。見た目はバーベキューと同じ料理であった。コウキは抑えきれない食欲からか、衝動的に3本の串を買った。
「はい、これ」
「よろしいのですか?」
「おいくらですか、後で返します」
「イイのイイの。食べながら見て回ろうか」
3人は串に噛り付きながら再び歩き出す。なお、串焼きの味は最高に美味だった。肉も柔らかく歯で簡単に噛みきることができた。味付けも申し分なく、甘辛いタレが口いっぱいに広がった。野菜も甘みが多く、もっと買っておけばよかったと思うコウキであった。
今度は反対方向から何やら聞き覚えのある歌が聞こえてきた。コウキ達は人と人の間をすり抜けながらその主の方へと向かう。
そこに居たのはギターの様な弦楽器を持った男性が弾き語りをしていた。数人の人がコインを投げている。コウキは歌が聴きたくて立ち寄ったわけではない。問題はその歌の歌詞にあった。
「さぁ!! 噛み砕いてく――――――僕の.......」
コレ、間違いなくあの歌だよな。昔聞いた事あるぞ。確か中二男子と少女のアニメ、だったような......ま、まあここは異世界だし色々あるよね。でもここであの歌を聴くなんて。
コウキは10ゴールド投げた。しかし、その後もどこかで聞いたことのあるような歌がわんさかあった。『僕が抱きしめてあげる』とか、中には嵐の中で輝きそうな歌も多数あった。どの歌にも共通するのがアニメソングに似ていた。
「あの、コウキ様」
「なに?」
「あちらにある、〝アイス〟なるモノがあるのですが――――」
「いいよ。行こうか。アリシアは?」
「私も、行きたいです」
「じゃ、行こうか」
サラの希望で3人はアイスを売っている店へと向かった。初めはデザートの方じゃない別のモノだと思っていたが紛れも無くコウキが知っているアイスだった。
こんな時期にアイス....別に嫌じゃないけど、何ともミスマッチな気が....
コウキは苦笑いを浮かべながらアイスを受け取る。受け取ったアイスを2人に渡した。ちなみにコウキは買わなかった。
サラが選んだのはピンク色のアイスでアリシアが紫色のアイスだった。だいぶ歩いたため少し休憩しながら食べることにした。
「どうだい? 楽しいだろ」
「はい。なんだか心が躍る気がします」
「だろ。アリシアはどう?」
「こういう気持ちになったの久しぶりで、なんだか不思議と言うかなんと言うか.......」
そう言ってアリシアはアイスを口にする。
アールヘイムでの一件があったからな、少しでも気を紛らしてくれたらいいと思ってたんだけど。一応その効果はあったのかな?
コウキはアリシアを見つめていると、目が合った。その瞬間アリシアは頬を若干赤く染め、目を伏せながらもくもくとアイスを食べ始めた。と同時に、可愛いな、と思うコウキであった。
気付けばすでに太陽は沈みかけ、辺りは暗くなり出店の灯りが目立つようになっている。楽しい時間と言うのは本当に短く感じる。そんな錯覚に3人は陥っていた。
「そうだ、そろそろ時間だから。あそこに行こう」
コウキは食べ終えた2人を引き連れ例の塔へと向かった。
巧みに間を抜けながら2人はコウキの跡を追う。すると目の前には階段が見えそのまま上って行く。
登り終えた3人の目の前には一面に広がる夜景が映った。まるで暗い夜空の中に光る星々の様に灯りが幻想的に輝き、広がりを見せる。
「キレイ.....」
アリシアの口から言葉が漏れる。
「コウキ様がおっしゃった通り、美しいです......」
「だろ。でも祭りになるとまさかここまでキレイになるとは.....」
3人はその幻想的な灯りを眺めているときだった。突然風が吹き、冷気が3人を襲う。
「さ、寒いです」
「うむ。確かに」
こういう時って、男はどうすれば良いんだ? どうすれば。男は、漢は...
考えた末コウキはマントを広げ、左右にいる2人の肩を抱くように包み込んだ。
「これで、少しは.....な?」
「あ、ありがとうございます」
「そ、そんな、ワタシは別に......」
2人は驚きと恥ずかしさとうれしさが混じった声を発した。
両手に花束とはまさにこのとこだった。コウキは力を入れすぎないように細心の注意を張らないがら2人の肩に手を添える。
しばらく眺めていると、城の方から何かが音を立てながら夜空に打ちあがる。それは爆発音と共に鮮やかな光りを放ち、弾けた。
刹那アリシアは驚きのあまりコウキに身を寄せる。
「待ってました」
「コウキ様、あれは?」
「あれは〝花火〟といって夜空に打ち上げて弾けたのを見て楽しむ最高の娯楽さ」
「そ、そうなのですか?」
「そうだ。だから怖がらなくてもいいだよ。アリシア」
この祭りの最大のイベントである花火は最高に綺麗なモノだった。
さすが物作りに卓越した技術を持つ国だ。花火まで作ってしまうんだからやっぱりすげえな、第2位の国。にしても盛大すぎやしないか?
その後は一定の間隔で打ち上げられる花火に魅了されていると。≪ドーン≫と言う音と共に地面が少し揺れた気がした。
「コウキ様、ハナビとはすごいですね。ここまで揺れを感じるとは」
「え、ああ、ね」
気のせい、か。
しかし、その揺れは徐々に大きくなってきている気がした。次第に周りにいる人々も異変に気付いたのか、ざわつき始めた。その時、遠くから叫び声が聞こえた。声は花火の音でうまく聞き取れないが明らかに動揺した声であったことは確かだった。
「コウキさん。向こうに何か」
突然アリシアがしろとは逆の方向に目を向けて言った。
「なに、見えるの?」
「はい、多少ですが」
「何が見えるのか教えてくれ」
「は、はい。赤い、光が3つ、ゆらゆら動きながらコッチに近づいて来ます。」
「コウキ様、いったい......」
赤い光、ゆらゆら、振動......まさか!!
コウキが気付いた瞬間、数十人の騎士が走って来た。そして彼らは叫んだ。
「ゴーレムだ!!! ゴーレムがコッチに来ている。全員避難しろ!!! ハンターは出来るだけ手を貸してくれ!!!!!」
その声を聴いた瞬間その場にいた全員が悲鳴を上げながら一目散に城の方へ向かって走り出す。祭りの空気は一変し、瞬く間に恐怖の色へと変わって行った。
「ゴーレム!? コウキ様」
サラの横でアリシアは不安そうな顔でコウキを見つめる。
「解っている。でもなぜ急に......」
コウキは神妙な面持ちでゴーレムがいる方向を見つめていた。
「....行くぞ」
「「はい!!」」
3人は騎士団の指示のもと、一度城へと向かったのであった。
コウキがアイスを買わなかったのか知覚過敏だからです。




