二十一話 訓練とピタゴラ的な何か
くだらない回です。
「サラ、右に二匹。アリシアはサラの援護をするとともに迎撃を」
「「了解!」」
この日、コウキとサラ、アリシアは森で狩りを行っていた。今回の獲物はブレイドクーガと呼ばれるネイルライガー種の原生生物の討伐及び採取である。特徴として挙げられるのは尻尾の先が剣の様に鋭利な甲殻になっていることである。そのためブレイドクーガの主な攻撃手段として牙や爪で攻撃では無く、尻尾を振って攻撃を仕掛けてくる。
遠心力を利用して攻撃してくるため一撃が重く、攻撃を防いだとしても次の行動に移す際に僅かなタイムラグが生じてしまう。しかし、サラは避けること無く受け流している。受け流しつつ、別のクーガに斬りかかる。また、受け流されたクーガはアリシアの矢で仕留める。
アリシアは数日前にコウキに買ってもらった衣服と矢を手に、コウキの指示通りに遂行してゆく。彼女の矢は精密かつ正確に目標を射る。さすがエルフ、と言うよりはアリシア自身の能力の方が大きい。ちなみにサラも新しいハルバートを使っている。
コウキはコウキで複数のブレイドクーガを相手にしている。〈妖精の衣〉を展開しているため一切寄せ付けないどころかむしろコウキにばかり寄ってきているようにも見える。しかし、これでいい。コウキ達にとっては都合のいい状況だった。現在の割合は6対4で、コウキの方が分が多く、相手の戦力分散には都合の良い状態である。2人の方に分が多くなってしまうとサラの方は問題ないがアリシアの負担が多くなってしまう。
〈風刀〉を駆使しながらクーガの首もしくは胴体を切り落としてゆく。ブレイドクーガは他の甲殻原生種に比べて全身の甲殻率が低いため容易に切ることができる。その点ではサラもアリシアも苦戦を強いられることは無い。コウキは着々とその数を減らしている。その時、アリシア背後に一匹近づいているのが見えた。
「アリシア!! 後ろだ!!!」
コウキが叫んだ瞬間、背後にいたブレイドクーガは跳躍し、剣状の先端部分を身体をひねりながら横に振る。アリシアは気付いたは良いものの、回避行動に移ることができない。サラも援護に回ろうにも手が離せない。このまま避ケ斬ることは不可能だった。コウキはとっさの判断で〈雷刃〉で焼き殺した。
アリシアは驚きのあまり尻もちをついた。
「馬鹿者! よく周りを観ろと言っただろ!!」
サラは攻撃をクーガに加えながらアリシアに注意する。アリシアは弾かれたように立ち上がり、弓を射る。
コウキは今の一撃を賭けに出ていた。〈雷刃〉は目標の真上に魔法陣を展開しピンポイントで攻撃を与える。しかし、それは落雷と同様で『誘導雷』を引き起こしかねないがコウキはイチかバチかの賭けに出たのだ。仮に飛び道具系の魔法を放っていたら間違いなくアリシアは怪我を負っていただろう。
その後、3人は何とかブレイドクーガを倒し、目的の尻尾の剣を取る作業に移った。この先の剣は加工することによってナイフや武器の付加に用いられる。ゆっくりとしていては群れが来る恐れがあるため作業は早急に行われた。
「始めて2日しか経っていない割には良く働く方だとは思うが、まだまだお前は甘い。特にさっきのアレは油断から来るものだ。あんなモノに足元をすくわれてしまうようじゃ、いずれ死ぬぞ」
「まあまあ、サラ。アリシアも頑張ったんだから、そこまで言わなくても」
「いえ、コウキ様。今のうちにしっかりと叩き込んで行かないと後々足を引っ張りかけかねません」
サラは真剣な目でコウキを見る。
確かに、それは言えている。今回の様にことが毎回起こってしまえばチーム全体のバランスが崩れてしまう。やはりそれぞれが一定の独立した強さを持っていなければ上手くサポートできなくなってしまうし。さすがサラ、経験が違う。
コウキ自身も団体競技のスポーツをしていたからそれは良く理解できた。アリシアはサラの言葉を真剣に聞いている。するとアリシアはコウキに言った。
「あの、コウキさん。今少し時間ありますか?」
「うん、まだ午前中だし、余裕だよ」
「解りました。それじゃあ、サラさん」
「なんだ?」
「私に剣術を教えてくれますか?」
サラは一瞬驚いた表情をした。それはコウキも同様だった。アリシアの主要武器は弓である。それなのになぜ彼女はいきなり剣術を教えてほしいと言ったのか。
「さっき、襲われかけた時、とっさに逃げることが出来ませんでした。せっかくあるナイフも使うことが出来ずに......ですから弓以外にも接近戦も行えるように訓練して欲しいんです」
臨機応変に対応するために自ら率先して行動する姿にコウキは関心を覚える。
「.....そういうことか。なら少しばかり相手をしてやろう。コウキ様、ナイフを1つよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、いいけど。大丈夫なの、本物で?」
「はい、大丈夫です」
コウキは「気を付けてくれよ」と言ってサラにナイフを渡した。サラは皮のカバーからナイフを取り出す。アリシアも自身の腰に着けているナイフを取り出し構える。
その様子をコウキは遠くから見守っている。
「遠慮はいい」
「解りました。お願いします」
途端にアリシアはサラに向かってナイフを突き立てたが、サラは半歩下がって受け流す。すぐさまアリシアはナイフを横実振る、しかしそれもサラに避けられる。今度は突き、切る、切る、突き、と攻撃パターンを換えたり後ろに回ったりとしたがサラは全て何食わぬ顔で防ぐ。
「すげえ....」
その光景をコウキは興奮の眼差しで眺めている。
サラはまるでアリシアの攻撃を予測しているかのような動きをしている。アリシアは負けじとナイフを振るがサラにかすりもしない。やはり経験の差があるのは明白だった。幾らアールヘイムで訓練していたとしても、彼女には経験が浅かった。
その時、サラはアリシアのナイフをすくい上げるようにし、アリシアの手からナイフが弾き飛ばされた。
「動きは悪くない、しかし、お前の動きには無駄が多すぎる。1つ1つの動きが大げさすぎるからすぐに相手に読まれるし体力の消費も激しい。解るな?」
サラは息切れしているアリシアに言うが、彼女は返事をすることができないが頷くことはできた。
今のサラの発言でコウキも理解した。さっきのサラの動きを思い返してみるとアリシアの動きに反してサラの動きは小振りで必要最低限の動きだけをしていた。
「お前の課題は今言ったことの改善だ」
サラはそう言うとアリシアのナイフを拾い上げ渡す。息切れしながらもアリシアは受け取ると再びナイフを構える。
「もう、一度、お願い、します!!」
「.....いいだろう。次は我もいくぞ」
サラは何処か嬉しそうな声で言う。そして2人の刃は再び火花を散らせた。
「ハァ、ハァ、ハァ......ありがとう、ござい....ました....」
十分後、地面にトンビ座りのアリシアは礼を言った。
「うむ。少しは意識していたみたいだが、まだまだだ。しかし、これから続けていけば今以上に上達するぞ」
「はい......」
やはりサラはすごい。サラはアリシアの攻撃を受け流しつつ『あえて』自身の攻撃を外しながらアリシアに攻撃のチャンスを与えていた。アリシアもサラに受けたところをすぐに実行してしまうなんて、すごいじゃないか。
コウキは2人に感心していると、サラが寄ってきた。
「どうした? もう帰るかい?」
「いえ。コウキ様に一つ提案が」
「なにさ、いってごらん」
「では。先日のあの魔物との戦いの際、魔物に斬り傷がありましたが、あれはコウキ様のですよね?」
「うん、そうだよ。あのデカい2つの傷跡は俺がやったよ。それがどうしたの?」
「コウキ様、あれでは切り込みが浅く一撃で仕留めることはできません。」
「あ、ああ確かにな」
「ですから、これからコウキ様も魔法以外にも剣術を身に着けてみてはどうかと」
どうやらサラはコウキにアリシアと共に剣術を教えるつもりでいるみたいだった。コウキはさっきの2人の練習を見て分かったが、サラは相当なまでに強い。今のアリシアを見ればわかるが、地面にへたり込む程ハードなのだ。当然魔法使いのコウキからしてみれば魔法ならまだしも剣術を身につける事なんて畑違いにもほどがあることだった。
「サラ、俺にはできないよ」
「コウキ様。今〝できない〟とおっしゃりましたが。〝できない〟とは愚か者の言葉です」
「お、おう」
「〝できない〟のではありません〝やる〟んです」
「と、言いますと?」
「やらないからできないんです」
「いや、あのさ。本人が出来ないと判断してるから、〝できない〟と言うんだよ」
「違います。やるんです。魔力が尽きようが何されようがとにかくやるんです。」
「.....」
「そうなると、もう〝できない〟とはなりません。現にもう〝やって〟いるのですから。〝できない〟とは二度と言えません」
「.....は、はあ.....なる....ほど、ねぇ......」
サラのトンデモ理論にコウキは反論できなかった。むしろ少し引いている様子だった。この時、コウキは思った。「サラフォンティールと言う魔人はいろんな意味で〝黒〟いんだな」と。完全に負けたコウキは土魔法で鉄の棒を2本作りだしコウキの訓練が始まった。アリシアはその姿を、主にコウキを心配そうに見つめるのであった。
「も、もう.....動けません」
12分後、地面にうつ伏せで倒れているコウキの姿があった。
「センスは感じられるのですが、それ以前に体力がいささか足りないかと。ですからこれからみっちり練習して、体力も付けましょう」
サラは膝を着く姿勢でコウキに話しかけるがコウキの反応がいまいちだった。コウキは全身に伝わる筋肉の痛みのせいで満足に首すら動かすことが出来ない。
つ、辛い。てかサラ強すぎ!! 全く歯が立たないし。何だよあの動き、棒をどこに振ろうがカスリもしない。結局俺はサラに翻弄されて終わっってしまったよ......そう言えば、今日のアリシア、水玉か。いいじゃないかいいじゃないか。やっぱりミニスカに白ニーソ、いい服のセンスをしてるじゃないか。買って正解だった。絶対領域もとい、ああいうチラリズム的な要素を含――――
「コウキ様、どさくさに紛れて何かよからぬことをお考えになられていませんか?」
目を動かしサラを見る。彼女はやさしく微笑んでいる。が、良く見ると瞳は全く笑っていない。
え、何さ。俺言葉に出して無いよね? 何でそんな優しく言うの。怖いって逆に。ねえ、サラさん......?
「さ、コウキ様。そろそろ戻りましょうか」
「......はい」
コウキはきしむ身体を無理やり起こした。
アリシアを呼び寄せ3人はギルドへと向かった。
その後、無事に依頼は完了し、報酬は2人にあげた。宿に戻るとコウキは重い体を引きずりながら脱衣所に直行した。夕食まで時間があるため、少し早いが風呂に入ることにした。
「んじゃ、先に入ってるから~」
とだけ言って脱衣所の奥に消えて行った。
「あ~よっこいしょっと」
風呂椅子に座り自前の石鹸を泡立て髪を洗う。
久々に身体を動かすとコレだもんなぁ~、ったく髪洗うだけでも一苦労だよ。なんだか気分がアレだな。歌でも歌うか。
コウキはお気に入りの歌を歌いながら髪の毛を洗った。
「―――――真っ赤なちか......ああヤベッ、泡が! あ~どこだ桶、桶~」
手探りで湯の入った桶を探していると――――
「どうぞ」
「おう、すまんな.............................!?」
泡を洗い流したコウキは一瞬硬直した。
『どうぞ』?
コウキは後ろを振り返ると、そこにはバスタオルを巻いたサラの姿があった。その後ろで隠れるようにアリシアもいた。
「おいいいいいいいい――――何でいるんだよ!!」
クソっ全く気付かなかった!! 俺、疲れてんのか?
「とても疲れているようでしたのでお背中を流そうかと」
「さ、サラさん。やっぱり出ましょうよ」
後ろから胸元を手で押さえつけながらアリシアは言う。
「何を言っている。主が快適に入浴していただけるように努めるのも我らの役目だ」
そう言ってサラは胸を張る。その際布に収まりきらない果実が〈ぶるるんっ〉と上下運動をしたのをコウキは見過ごさなかった。いや、見過ごす筈がない。
視線はアリシアに移動する。白くて華奢な身体をすぼませながら、頬を羞恥の色に染めコウキを見つめる。バスタオルからはみ出た胸を見てコウキは驚愕した。アリシアは見た目に反してかなりのモノを持っていることに。サラ程には至らないが、十代でその大きさは逆に反則だった。普段服の上からしか見たことが無かったが、どうやら彼女は着やせするタイプの様だった。コウキの視線に気づいたのか、アリシアはバスタオルを上にあげ隠した。
「コウキ様、お身体の方は?」
「いや、まだだけど」
「そうですかなら、お背中を私が。アリシアは隣で洗っていていいぞ」
「あ、はい。で、では、お隣失礼します」
アリシアは隣の風呂椅子に腰かけた。
マズイぞ、完全にサラの支配下に置かれてしまった。猛講義したかったのに、なぜかあれよあれよと......まあ、願ったり叶ったりというか、ねえ...
「痛くありませんか?」
「いや、いいよ。大丈夫。悪いねなんか」
「いえ、私の独断で動いたまでなので、礼など....」
その時コウキは横に座っているアリシアを見た。なにやらずっと下を向いたまま動こうとしない。心配になり声をかけてみたらアリシアは「大丈夫です」とだけ言ったまま同じ姿勢を取っている。
「アリシア、何を恥ずかしがっている。コウキ様はそこらの下衆とは違い劣情をもようしたりしないから安心しろ」
サラの発言でコウキは「あーやっぱり」と言った表情をした。確かに思春期まっただ中、異性としかも全裸当然で一緒にいるとなると恥ずかしがるのは無理はない。
「無理しなくていいよ」
「.....は、はい。ワタシ、先にお風呂に.....あ!!」
立ち上がった瞬間ある意味奇跡が起こった。床の泡でアリシアは真横にすべり、コウキ目がけて転倒する。その際コウキが倒れたせいで後ろのサラも転倒する。サラがM字開脚で尻もちをついたその股にコウキの頭部が収まった。倒れたコウキの下腹部にアリシアが背面で乗っかるカタチとなった。
下半身の衝撃にさいなまれながら確認する。すると目の前には大きな素晴らしい白桃が目に入った。水蒸気で湿ったバスタオルは肌に張り付きいっそう身体のラインを強調する。更に、湿った布は尻の形を鮮明に映し出し、割れ目までくっきりと再現していた。
し、尻が――――――!! ヤバいってこれ。弾力が! 感触が! この体位マジでアウトだって。てかなんだよこの構図。おかしいだろ。何をどうしたらこんなピタゴラな奇跡が起こるんだよ。そして実にけしからん身体だ!!
ふとコウキは顔に伝わる弾力に気付いた。
これ、良く考えるとサラの股に挟まれてるのか!! マズイ、早くどかないと!!!
「ごめん!!サラ!!」
頭を動かした瞬間.......
「アッ、こ、コウキ様。か、髪の毛が擦れて....ンッ!」
サラから艶めかしい声が漏れ出した。
「はわわわわわ――――!!」
あ~ヤバい!! ムラムラしてきた。
「ひゃん!! な、何か股の下に!!」
「ああああああごめん!! 今退けるからぁあ!!!」
もう歯止めの効かなくなったコウキの眷属は大地に立とうとしている。もはやコウキの理性は爆発寸前だった。すぐさま上半身を起き上がらせ、乗っかっているアリシアをどかせて立ち上がろうとした瞬間、〈ハラリ〉と一枚の布が落ちた。
「す、すごい。これが......」
「どうした。おお、なんて気高く立派な......」
2人は目を見開き目の前にあるモノを見つめる。アリシアは両手で顔を隠すが指と指の間から。サラは正座してまじまじと。
「い、い、イヤ―――――――――――――.......」
コウキの魂の悲鳴が轟いた。
その後、夕食の時間になるまで布団にくるまっていたことは言うまでもない。




