十九話 決意と代償 乙
こんなタイプ、見たことない。再生と変化を同時に行うなんて....コイツは一筋縄ではいかなそうだ。さて、どうしますか。攻撃を加えても即時再生、厄介だ。でも即時と言っても一定の時間は有するよな。だったら、再生が終わる前に――――――
「―――――仕留める」
刹那コウキの姿は消えた。
次の瞬間コウキは魔物の目の前に現れた。
「ハァア!!」
鬼神の猛攻の如く、袈裟切りをお見舞いする。魔物は斬り飛ばされたが、瞬時に背後を取られ、二撃の逆袈裟切りで浮き上がった刹那、コウキは真下に移動し〈隕石砲〉を撃った。
零距離で〈隕石砲〉を受けたため甲殻の一部が剥がれ落ち、周囲にヒビが入る。同時に、その巨体は衝撃で更に上昇した。
「サラ――――――――――!!!!」
コウキは天に向けて叫んだ。
上空には太陽を背にし、1つの黒い影があった。その影は翼を広げ急降下した。
「ハァアアアアアアア―――――!!!」
サラはハルバートで一気に切り掛かる。しかしサラの攻撃はそれだけに留まらなかった。
一撃を与えると今度は二撃、三撃と間髪入れずに連続して攻撃を加える。その速さは凄まじくサラが分身して見えるほどである。また、魔物は四方八方から攻撃をくらっているため落下することなく、血肉を撒き散らしながら空中で静止している。
「ハァア!!」
一気にハルバートを振り下ろし、ついに魔物は地面に叩きつけられた。
魔物は全身の甲殻が剥がれ、全身の切り口からは大量の血液が滝の様に流れ落ちている。
「まだだぁ!!」
コウキは上から〈業火〉を連射した。無数の〈業火〉は魔物降り注ぎ爆発を繰り返し爆煙によって見えなくなった。その時、突然煙の中からおびただしい量の棘の様な物が飛び出してきた。赤黒い棘は周りにいるエルフ達に襲い掛かる。
「クソッ! まだ生きてるのかよッ!!」
コウキは6つの魔法陣を展開しすべての魔法陣から〈氷の牙〉を撃ち棘の攻撃を相殺する。サラもハルバートを2本持ち無数の棘を破壊してく。
その光景をアリシアは遠くからただ茫然と眺めている。
なぜあそこまで必死になれるのだろ。なぜ彼ら守るのか。アリシアには理解できなかった。自分たちはあの2人に対し家畜同然の扱いをしてきたと言うのになぜ見捨てず戦うのか。責任? 一瞬そう思った。元はと言えば彼らが招いた原因だ。しかしそれなら他は無視して彼らの自由に戦う筈だ。だがそうしない。アリシアは思い出した。それはコウキに助けてもらった直後の事だった。
「なぜ.....?」
「なにが?」
「助けたの?」
「ああ、〝なぜ〟って。当然守るためだよ。別にアイツを殺したから許してもらおうなんて思っちゃいないさ。ただ今は目の前の問題を片づけなきゃいけないからね。自分のためじゃなく、皆のためにね」
「皆のため........」
「ま、今回ばかりは俺達のせいだから義務と言うか、けじめと言うか....」
そう言って人間は「話はここまでだ」と言って再び斬りかかって行った。
今までの私はどうだっただろう。里のために心血を注ぐつもりで生きてきた。でも、違った。私はただ私と言う存在を認めてもらう為に行動してきた。里のためでなく私自身のために。私は、怖かったんだ。里を失うことが。だから、動くことが出来ないんだ。無くなってしまえば認めてもらえる場所が無くなる、でも....そんなんじゃない。認めてもらうんじゃない。自分の力で、居場所を里を.....守るんだ!!
今まで受動的にとらえていたアリシアであったが、今回の経験でようやく理解できた。受け身の姿勢でいるのではない。能動的になることが重要なのだと。自らから尽くすことによってはじめてその価値が生まれるのだと。独りよがりな考えを捨てたアリシアの目は今までにないほどに強く、凛々しい色をしている。恐怖心はある。しかし、それ以上に「守りたい」と言う感情の方が勝っていた。
「やっと解ったよ、おばあちゃん.....」
アリシアは落ちていた弓と筒を拾い、魔物のいる方へ駆けた。
「クソッ、どんだけタフなんだよ!!」
コウキはロッドを構えた瞬間、再び魔物は口を開いた。
「ざけんな!」
コウキが攻撃を繰り出そうとした刹那、1本の矢がが魔物の口に向かって放たれた。突然の出来事にその場にいた一同戸惑った。しかし、すぐにその戸惑いは消えうせた。
「やってくれるじゃねーか」
視線の先には弓を構えるアリシアの姿があった。アリシアはそのまま連続して疲弊した魔物に向けて計3発の矢を放つ。放たれた矢は軌道を逸れることなく真っ直ぐに魔物に刺さる。だが、魔物もやられっぱなしでいる筈も無く。再び散弾銃の様に棘を吐く。
コウキはエルフ達を守り、サラは魔物に接近する。アリシアも攻撃を避けながら更に魔物に接近を試みるが1本の棘が肋骨をかすめた。直撃を免れたが衣服は破れ、裂かれた皮膚から、肋骨の一部が露出してしまった。
「グッ!!」
あまり激痛で傷口を押さえ倒れ込む。呼吸ができないほどの痛みに耐えながらも何とか立ち上がろうとするが上手く立ち上がることができない。顔を上げた時、目の前には無数の棘が迫っていた。本能的に瞳を閉じた。不思議と傷みは無かった。その代わり―――――
「全く、世話の掛かる娘だ」
そこには、黒い甲殻の様な鎧に身を包んだ人間の女が背を向けて立っていた。彼女は背を向けたままの状態で言った。
「あ、あ.....」
「しゃべるな、死ぬぞ。ったくちょっとヤル気になったかと思えばこれか」
サラはコウキの命により攻撃からアリシアを守ったのだ。
コウキ様も一体なぜこんな娘を助けろと。全く、何故よりにもよって我が子守りなんかを....それよりもあの魔物はなんなのだ? 確かにあの時確実にダメージを与えた筈だ。どこにあんな余力があると言うのだ。あのコウキ様が手を焼くほどの相手。どうかお気をつけて。
ハルバートを握る手に力が入った。
その頃コウキは魔物との戦闘に悪戦苦闘していた。思った以上に魔物の回復スピードが速く先ほどの攻撃をした直後、他のエルフ達に襲い掛かった。コウキは防御魔法を駆使しエルフ達を守るが魔物は疲弊することなく棘の攻撃を仕掛ける。
.....クソッ、なんで死なないんだ。こっちは第一魔力制限外してんのに。あんだけくらっておいてまだピンピンしてやがる。そういえば、さっき攻撃した時なんで口を開けてたんだ。もちろんヤツの攻撃手段の一つであることは間違いない。でも目の前に魔法の攻撃が....あ!! そういうことか!!!
コウキはようやく仕掛けを理解した。
「おい、お前ら!! 魔法の攻撃は止めて武器限定にしろ!!」
コウキは周りにいるエルフ達に言った。
「はぁあ?! 何を言ってるんだ貴様!?」
1人のエルフがコウキの意見に反発する。
「うるせぇ!! 生きたきゃ言うこと聞け!!」
そう言ってコウキは再び〈山斬剣〉を出す。
多分コレは大丈夫の筈だ。
コウキはロッドを構え、そのまま突撃する。
「ガァアアアア!!」
咆哮と共に魔物の胴体に向かって斬り掛かる。その後も勢いを殺すことなく斬る。エルフ達もコウキに続いて魔物に攻撃を仕掛ける。
コウキが甲殻を破壊し、破壊された箇所をエルフ達が攻撃する。
まだイケる、まだイケる、まだイケる!!
目が血走り、血管を浮き上がらせながらコウキは振り下ろす。その刹那、何か異変を感じた。突然魔物は大人しくなった。コウキは途中でやめ距離を取る。その間もエルフ達は攻撃を続けている。コウキの目にはどうしても奇妙に見えて仕方がない。今から数十秒前とは確実に様子がおかしい。魔物から突然何かが無くなった。
なんだ、魔力が急上昇してるのか?
魔物の身体から感じられる魔力が突然膨張し始めた。その勢いは衰える気配は全くなかった。
「マズイ......逃げろ―――――――――!!!」
コウキ叫んだ瞬間、魔物は爆発した。その威力は凄まじく、一瞬で周りの物を呑みこんでゆく。サラはアリシアを抱え飛翔したが思った以上に早く広範囲に広がりを見せる。サラは自身の羽を肥大化しアリシアを包み込むように閉じた。
コウキは〈聖盾〉を最大パワーで展開し、残ったエルフ達を守ったのであった。
数十分後、そこには荒れ果てたアールヘイムの姿があった。周りの木々は灰となり、家々は瓦礫と化し、地面には大きく開いた穴と小さな穴がいくつも見える。何よりそこに住んでいた筈のエルフの姿がほとんど見えない。あるのは黒く炭化した死体が沢山倒れていた。
サラは着地し羽を広げる。すると爆発の威力に耐え切れなかったのか、羽は砕け落ちてしまった。しかし、アリシアの事はしっかりと守り通すことはできた。サラはすぐさまコウキを探した。するとコウキは1人佇んでいた。
「コウキ様ご無事で?!」
サラは駆け寄るが反応が無い。
「コウキ、様?」
顔を覗くとコウキは呟いた。
「クソ....」
すると力尽きたかのように膝から崩れ落ちる。すかさず身体を支えるがコウキは立ちあがろうとする気配が無い。顔中から滝の様に汗をかいている。
「どうなさいました?! お願いです、返事を!!」
身体ごと揺さぶるが反応が薄い。突如今までどこにいたのか知らないが自衛団団長とその他の生き残ったエルフ達が現れた。
「半数以上の仲間が死んだ。貴様ら、どうしてくれる」
団長の怒りの籠った声で2人に言う。
「どうもこうも、最初に我らが言ったことを無視したお前たちがいけないのが悪い!! コウキ様ははじめ魔物がいると言った。しかし、お前たちは効く耳を持つどころか拘束した。はじめから聞く耳を持っていればこうなることは無かった。自業自得だ!!」
サラは目を吊り上げ怒鳴る。
「黙れ!! 誰が貴様ら人間の言うことなど信用するか!!」
「黙るのはお前の方だ!! 結果として惨状を招いたのはお前たちではないか!!」
「もういいよ、サラ。」
コウキはゆっくりと背を伸ばしながら言った。
「今回の件は俺達に、いや、早めに仕留めることのできなかった俺に責任がある。だから ――――――」
「アリシアのせいだ!!」
突然コウキの声を阻むように1人の団員が言った。
「お前のような汚れた者がこの地にいるせいで人間やバケモノが入って来たんだ!!!」
その声を聴いた瞬間、アリシアの目は飛び出しそうなくらいに見開かれた。
「そうだ、お前のせいだ」「その通りだ」「お前がいるから!!」何処からともなく同意と共にアリシアに対する憎悪の声が響き渡る。
おい、なに言ってんだこいつら、あの娘は何も悪くない。悪いのは俺だ。
コウキはいきなりの急な展開に動揺した。意味がさっぱり分からない。何故アリシアがここまで仕打ちを受けなければならないのか。コウキとサラには理解できなかった。すると団長は口を開いた。
「やはり、お前を置いておくべきだは無かった」
その言葉を聞いた瞬間アリシアの中の何かが崩れる音がした。
いままで経験したことの無い絶望感、喪失感、あらゆる不の感情が一気に彼女の心に襲い掛かる。呼吸が苦しくなった。目を開けることができない。何も考えることができない。耳を塞ごうにも周りからの声が頭の中で残響する。今のアリシアはいったい何が自身の身に怒っているのか理解できなかった。
「ちょっと待てよ! あの娘は関係ない!! なんなんだよアンタたちは、全責任は俺にある。いきなりなすり付けんじゃねぇ!!」
コウキは抗議するがエルフ達の声は止む気配がない。再びサラが口を開いた刹那、「痛いっ!!」後ろからアリシアの声が聞こえた2人は振り向くと頭から血を流していた。
「殺せ」「殺せ」「殺せ」.....憎悪から殺意へと変わって行った。何処からともなく石が飛んでくる。サラはハルバートで防ぎ、コウキはアリシアの怪我の確認をする。
「どうします?!」
「このままだとらちが明かない....仕方がない逃げよう」
さっきの爆発で結界が破れたと判断したコウキはロッドをかざし、魔法陣を展開した。
3人は森の中にいた。コウキはアリシアに回復魔法を施した。
アリシアは依然として地面にへたり込んだままである。コウキはアリシアの前に立つと頭を下げた。
「すまなかった! 俺がふがいないばかりに君をこんな目に遭わせてしまって」
アリシアはゆっくりと首を上げコウキを見つめる。
「....いいんです、すべてわたしがわるいのですから.....いままで、ごめんなさい....」
謝罪と共に立ち上がりコウキ達から少し離れたところまで歩いた。
「汚れると困るのでそこで見ててください。」
腰からナイフを取り出した。
「汚れたハーフが死ぬところを見ててください。私が死ねば皆喜びます。この世界は、不条理です......」
「おいやめ―――」
止めに入ろうとするが何合わない。自暴自棄になったアリシアは自身の首元に刃を突き立てた瞬間――――
「馬鹿者!」
サラが止めに入った。目にもとまらぬ速さでアリシアの元まで移動し、ナイフを持つ手を持ち上げ、ナイフを強引に奪い投げ捨てた。
「助かった命を無駄にするな!!」
次の瞬間コウキは目を疑った。サラはアリシアを抱きしめた。
「なんで、邪魔するのです? 私は、もう生きていても意味ないのに....」
「いいか、お前は助かった。お前にどんな理由があろうが関係ない。無駄に命を投げ捨てるような愚かな真似はするな」
その声は何処かやさしく、暖かさがあった。そんなサラの様子をコウキは信じられないような目で見つめる。今まで命に対して軽視していたのに今の彼女は全くの別人に見える。
この時初めてコウキはサラの成長と言うものを実感した。コウキは2人も元へと歩み寄る。
「確かに世界は不条理かもしれない。でもそれは君が今まで経験してきた世界での話なのだろ?」
コウキは跪き、言葉を繋げる。
「俺は君から居場所を、仲間を奪った。だから俺には責任がある。なあ、俺達に君の居場所を探す手伝いをさせてくれないか? きっと君はもうあそこには戻ることはできない。だから、せめてそれまで俺達が君の居場所であり仲間になりたいんだ。それに、世界は君が思っている以上に案外広いぜ?」
コウキの提案にアリシアは困惑した。この人たちに付いて良いのだろうか。自分は大丈夫だろうか。サラの顔を見るが「お前の道だ」と言った目でアリシアを見返す。
その時、再びコウキの言葉が蘇った。「自分のためじゃなく、皆のため」。今コウキはアリシアのために言ったのだ。そして思った。してもらうだけじゃだめだ。私も2人のために何かしなくては。あの時アールヘイムで決意したことと一緒だ。と。
「わ、分かりました。あなたの提案に賛成します。私もあなた方の力になれるように頑張ります」
コウキの目を真っ直ぐ見て言った。コウキは「良かった。これからよろしく。」と言って握手を差し出してきた。アリシアもおずおずと手を差し出す。その手は大きくとても暖かかった。
「ま、見つかるまで間だけだが、よろしく頼む」
とだけ言ってサラは立ち上がった。
今の2人のやり取りを見てサラは思った。コウキはアリシアのため、アリシアは自分たちのために。人と人とが互いに思いやる気持ち、施す気持ち。
これがコウキの言った〝繋がり〟なのかと。この時初めて実感した。
「さて、とりあえず宿に戻るか」
コウキはサラとアリシアを引き寄せ、転移魔法を発動した。
この日、アリシアは新たな決意と共に仲間を得ることができた。しかし、それを得るための代償は、彼女にとってあまりにも大きすぎる物だった。
なんだか人生教訓活劇みたい




