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十七話 動乱

お待たせいたしました。

 2人がアールヘイムに来て、すでに1週間が経過した。牢獄内での生活もだいぶ慣れ、今ではのんびりくつろいでいる。食事は相変わらず堅いパンと傷んだミルクを出されているが、3日も過ぎると幾分慣れた。トイレに関してだが交渉の末、1日3回まで牢屋から出て用を足しても良いことになった。

 

 コウキは伸びた口元の髭を指先でいじりながら寝そべっている。サラの方は穴から見える空を眺めている。太陽は12時の位置にありそろそろ昼食時である。コウキは起き上がり首や腰、指の関節を鳴らす。


「そろそろかな」


 コウキが呟いたとき、その()はやって来た。


 銀髪でエメラルド色の瞳をしたエルフの少女、アリシア・アルバーニが昼食を乗せたお盆を持って来た。


「やあ、ご苦労さん」


 コウキはそう言ってアリシアから昼食を受け取る。しかしアリシアは終始無言のままでいる。それを見かねたサラは檻の傍まで寄って言った。


「おい貴様。無視をするな」


 サラはアリシアを睨むが一瞥されて終わった。彼女はそのまま背を向けた。

「~~~~~~~~~!!!」


 掴みかかろうとしたがコウキに止められてしまう。


「おのれぇ、覚えておけ!」


 アリシアの背に向けて放つが当然相手にされる筈が無い。


「まあまあ、落ち着きなさい」


 サラの前に立って言う。


「コウキ様! 毎回無視されているのですよ?!」

「うん、まあしょうがないよね。でも、あの娘、他のエルフと違って俺達に対してそんなにアタリは強くないよ」


 事実、他のエルフはコウキ達を見る目は本気で蔑んだ目をしているが、アリシアの目はそこまで悪い印象は無かった。


「そうでしょうか。ただ見た目が違うだけで中身は同じにしか見えませんが」

「以外とあの娘、やさしい目をしてるよ。他のエルフに比べてね」


 そう言ってコウキは座り込む。


「私には全くもって判別がつきません、それになんですかあの態度。幾らなんでも無視はあり得ないです。腹立ちます、だいたい――――――」


 コウキは声を塞ぐようにサラの口にパンを入れる。


「そこまでだ。」


 髭面でサラに言う。口元をパンで塞がれたサラはそのままパンに噛り付く。


「とりあえず食べようよ。態度が腹立つのは分かるけど悪いのは俺だ。サラが苛立つ必要はないよ」


 コウキもパンを口にする。


「で、ですが主であるコウキ様に対してあのような態度を取られては...」

「ありがと。そこまで思ってくれて......お、今日のミルクはそこそこ美味いぞ。」


 コウキは髭にミルクを付けたままサラに言う。その時「付いてますよ」と指摘を受け指先で拭き取った。


 いい加減俺達の処遇はどうするつもりなんだろう。捕まって一週間は立つのにいまだに何も報告はない。あの娘に訊いても「知らない」の一点張りだし。何か知っているそうでもないから彼女の言うことは嘘ではないだろう。


 ホントにどうなるんだ? このまま一生ここで過ごすのか、それとも死刑か。ま、エルフのみぞ知るといったところだな。


 食事を終えコウキはそんなことを思っていた。すると外から人が来る気配がした。出口の方を見るとそこには数人のエルフの男たちがいた。よく見るとその男達は以前コウキ達をここまで連れてきたときにいたリーダーとその男達だった。


 リーダーの男は檻の前まで向かうと2人に言った。


「お前たちの処遇が決定した」


 その言葉を聞いた瞬間コウキのカッと見開いた。


「ほ、本当ですか?!」


 コウキは食い入るように見つめる。


「そうだ。いつになるかは、分からないがな....それだけだ」


 そう言って男たちは出て行った。周りの男達も2人を嘲笑するような目で一瞥した。


「ふう、何とかなったね」

「はい。ですが、アイツらは本当にすんなり出してくれるでしょうか?」

「どうかな。なんかされそうだよ」

「〝なんか〟とは?」

「十中八九俺らに魔法でもかけるな。じゃなきゃ外に出す筈ないし」

「確かに、アイツらがそうやすやすと私たちを解放するとは思えません」

「だろ? それにこれ以上彼らが俺達をここに置いておくことは無いでしょ」


 そう言ってコウキはさも当たり前の様にサラの膝に頭を下ろす。


「ま、2、3日以内には出れるよ」

「だと、いいですね.....」


 コウキの言葉を信じ、そっと頭を撫でた。



 少し前のこと、食事を運び終えたアリシアは自衛団の集会に参加していた。普段は午前中に行われるのだが今回は午後に行われた。集会と言っても室内で行わない。幾ら本部が大きくても自衛団員全員が集まるとごった返してしまう為屋外で執り行われる。集合して数分後団長は姿を現した。


「静粛に」


 威厳のあるその一言で周りは一斉に静まり返る。辺りから緊張感がひしひしと伝わってくる。アリシアも気を引き締めて団長の言葉に耳を傾ける。


「近頃、家畜が何者かの被害を受けている。現在も犯人の足取りを追っている。皆も警戒に力を入れるように」


 その話は数日前から知っていた。ここ数日家畜たちが何者かに食い殺されるという事件が起こっていた。家畜小屋の一部が破壊されそこから侵入したと思われている。現在では原生種の仕業ではないかと疑われ、その警戒が一層極まっている状況でいる。


 その後も団長は放しを進め、30分後には集会が終了した。今回の話の中には捕えた人間の処遇が決定した話もあった。どうやら人間達を解放すると言う話だ。解放する理由とはやはりアールヘイムに人間を留めておくべきでないからだ。小耳に挟んだ情報だが解放する以外にも奴隷にするとか死罪を求めた者もいたそうだ。確かにその気持ちも理解できない訳ではないが。


 複雑な思いを胸にアリシアは集会場から離れた弓の練習場に向かった。


 数時間後事態は一変した、1人目の犠牲者がでた。被害に遭ったのはまだ10歳に満たない子供だった。死体の損傷はひどく、上半身が丸ごと食いちぎられていた。そのおかげで発見まで時間が掛かってしまった。第一発見者は犠牲に会った子どもの友達だった。周囲には血痕が残っていたため犯人は森の中で身を潜めている可能性があり、自衛団は総動員で捜索に当たった。


 内側と外側の両面から捜索に当たって30分が過ぎたころ、2人目の犠牲者が発見された。今度は森の中で老人の死体が発見された。右半身を食われた跡があり同一のものだと断定された。住民にも警戒するように伝え、自衛団は警備を24時間の厳戒態勢で行った。



 翌日、アリシアはコウキ達のいる牢屋へと向かっていた。牢屋に着くと案の定コウキはサラの膝枕でくつろいでいた。


「おや、今日はどうしたの?」


 着くなりコウキは起き上がり、アリシアに声をかけた。ついさっき朝食を届けたばかりであったためコウキは不思議そうにアリシアを見る。


「昨日言った事、覚えているか?」

「昨日の......ああ、魔物の事か。何かあったの?」

「昨日2人の死体が発見された。いずれも損傷個所はこの近辺にいる原生生物の物とは違っているそうだ」

「だから言ったじゃないか。気を付けろと」

「その通り、コウキ様の言葉を無視したからだ。自業自得というやつだな」

「......」


 アリシアは苦虫を噛んだ表情で俯いてしまった。



 昨日の午後、アリシアが昼食の食器を片づけた時突然コウキが話し始めた。


「あのさ、今更なんだけど。このアールヘイム内に魔物がいるかもしれないから気を付けて。絶対にヤツはいるから」


 この人間は突然何を言っているんだ? とアリシアは思い特に話を聞くことなく半ばスルーしていた。それでもコウキは話を続けた。


「君からすれば言い訳に聞こえるかもしれないけど、俺達は魔物を追ってここまで来てしまったんだ。結果俺の魔法がここの結界を破壊してしまうことになってしまったんだけど......」

「コウキ様、幾ら話したところで無駄です」

「いや、さすがに1週間も顔を合わせてるから話の1つや2つは訊いてくれるかと思ったんだけどね。前から言よう言ようと思ってたんだけど、なかなかタイミングが無くて。そういう事だから他の皆に伝えておいて欲しいんだ」



 アリシアはゆっくりと顔を上げた。


「お前たちの言うことなんて信用ならない。それは万が一の可能性としての話だ。まだ魔物だと決まったわけじゃない」

「ならなぜわざわざ確認しに来たのさ。それは君も今回の仕業が魔物のせいだと思っているからじゃないのか?」

「......私は、ただ、少し気になっただけだ。それを確認しに来ただけ。だいたい、犯罪者のお前の言うことなど信用できない」


 アリシアは背を向け外へと出て行った。


「なんか騒がしいと思ったらそういうことだったのか」

「そのようですね」


 コウキは眼鏡を外しレンズの汚れを拭き取った。


 さっきあの娘は〝原生生物とは違っている〟と言った。ということは間違いなく彼女の意見でないことが解る。他のエルフ達からの情報が回ってきたと言うことだな。それにまだ彼女が言う原生生物が見つかっていないのも不思議だ。自衛団が総勢で取り掛かっているならば、すでに足取りが見つかってもおかしくない。ずっとこの森で過ごしてきたのであれば習性や行動パターン何かを理解できているに違いない。しかしそれが出来ていないということは.....


「―――――――コウキ様!!」

「はいっ?!」


 突然耳元で名前を呼ばれて一瞬驚くコウキであった。


「大丈夫ですか? 突然手が止まってしまったので何かあったのかと....」


 サラは心配そうに見つめ来る。


「ああいや、ちょっと考え事をね」

「いったい何をお考えに?」

「今回の事件は魔物の仕業じゃないかなって」

「ことろで、なぜコウキ様は魔物の仕業だと?」

「一週間前に俺達が()り損ねた魔物の事は覚えているよね?」

「もちろんです」

「あの時すでに俺達はアールヘイム内に居た分けじゃない? 当然魔物一緒に。あと、これは俺の勝手な妄想と言うか想像なんだけど、あの魔物はもしかしたらここに入るために俺達を利用したんじゃないかなって」

「どういうことですか?」


 サラは食い入るようにコウキを見つめる。


「今まで俺が会い手をしてきた魔物は皆すぐに襲ってきたんだよ。て言うか魔物事態がそうじゃん。でもさ、今回の魔物はすぐには襲ってこなかったんだ。俺の姿を見た瞬間待ってましたと言わんばかりにすぐに逃げた―――――いや、誘導か。魔物は俺やサラから逃げるように見せかけて実際はアールヘイムの結界を破壊するように仕向けたんだと思うわけだよ」

「確かにコウキ様の言う通り魔物は衝動的に襲う習性があります。ですが相手を誘導するような高度な知能を持った魔物などあのサイズで見たことがありません」


 魔人として157年生きているサラでもさすがに知らなかった。サラ曰く高度な知能を持つためには前に相手したボスゴブリンやミノタウロス並みの大型でなければ知能は発達しないそうだ。


「だよね。まあ所詮俺の勝手な妄想みたいなもんだ。でも、今わかることはヤツは間違いなくここに居るね」

「いたとしても一体どこで身を潜めているのでしょうか?」

「解らないな。でも、灯台下暗しと言う言葉があるくらいだからね。意外と身近なところに潜んでいるかも」

「あの、なんですか? 〝とうだいもとくらし〟とは?」

「簡単に言ってしまえば、身近な事ほど案外気づきにくいものと言う意味だよ。」

「なるほど、確かにそうかもしれません」


 納得の言った表情で頷いた。



 見張りを終えたアリシアは自宅に帰宅した。昨日から一睡もしていないためすぐにベッドへ向かい小1時間の仮眠を取った後、荒れた部屋の片づけに入った。


 集めたゴミを裏の物置小屋に仕舞おうと向かった時だった。アリシアは鼻腔に異変を感じた。いやに神経を刺激するような生臭い異臭が立ち込めていた。自宅に向かうまでは特に感じなかったが小屋に近づきにつれて徐々にはっきりとしてくる。一瞬、生ものをそのままにしてしまったのかと思ったが違った。アリシアは恐る恐る物置小屋の取っ手を掴もうとした瞬間、アリシアはその手を止めた。


 おかしい。アリシアは取っ手をの方をよく見ると、取っ手の至る所に(くぼ)みが出来ていた。


 ここ数日間使わなかっただけでこんなになる筈がないと思い、思い切って取っ手に手を掛け引いた。すると中から一気に異臭がアリシアを襲い掛かる。思わず嘔吐しそうになったが何とかこらえ中に入った。口元を押さえ第一歩を踏みだした瞬間、足の裏に違和感があった。何かと思い拾ってみると丸くて小さなボールの様な物だと思ったがそれはボールではなかった。一度外に出て確認した。


「――――――――!!!!」


 アリシアはソレを地面に投げ捨てた。ソレは眼球だった。


 なぜ?! え? 分からない。なんで私の家にこんなモノが!?!?!?


 アリシアは混乱する頭を無理やり落ち着かせ、再び小屋の中に入った。すると中には固まった血と半分だけ齧られたような痕跡を残したエルフの頭部が転がってきた。ついに耐え切れなくなり床に嘔吐した。


「はぁ、はぁ、はぁ...何なの、一体......」


 ふらふらと外へ出て地面にへたり込んだ。


 なぜあそこに首が? 私が、ヤッたの? いや、そんな筈はない。でも、なんでよりにもよってここなの。確かに外見からすると古びた家屋だけど....大体誰が何の目的で....


 その時、「魔物を追ってきたんだ」コウキの言葉が頭の中で再生された。

 魔物、本当にそうだとしたらことは更に重大さを増す。それに魔物ってそこまで器用な真似をするものなのだろうか。


 とにかく状況を今すぐ言いに行くべきか。いや、言ったこところで無駄だ。今回の人間の件、家畜からエルフの変死。それにハーフである私。今の状況と私の立場から考えても、相手にされないか、容疑が駆けられるに違いない。


 どうしよう、このまま黙って一緒に捜索と警備にあたるか...ダメだ。ウソは付けない。やっぱり伝えよう。きっと解決の糸口につながるかもしれない!!


 アリシアはすぐさま自衛団本部へと向かった。



 家から本部までは距離があるため走って向かった、ちょうど中央に差し掛かった時、アリシアはその惨状を目の当たりにした。家々は破壊され、地面は陥没し、辺りには多くのエルフ達の無残な死体がそこにあった。


「なに、これ......」


 アリシアは呆然と立ち尽くしたままその光景を見つめている。辺りからは子供の泣き声や痛みに苦しむ声がアリシアの耳の中身で複雑に入り乱れる。


 すると遠くの方から叫び声が聞こえた。声がする方を向くと黒くて大きな何かが男の胴体を咥えている。黒くて大きな何かはそのまま胴体を分離させた。分離された口から鮮やかな鮮血と臓物が音を立てながら地面に落下する。ソイツは顎を動かしながら喉を鳴らす。


「あ、あ、あ......」


 言葉が出ない、上手く呼吸ができない、周りの声が遠く聞こえるる、焦点が定まらない、足が言うことをきかない。全ては恐怖心から来るものだった。


 早く、早く、逃げなきゃ。どうして足が動かないの!! 早く、早く....


「ハァハァハァハァ......」


 呼吸が乱れ、瞳から漏れた涙は汗と共に頬の輪郭をなぞりながら地に落ちる。全身の震えが止まらない。


 何が起きたの、私がいなかった間に、何が起きたって言うのよ!!


 言葉に出そうも出せない状況の中、ただただ頭の中には恐怖と疑問が渦を巻いている。


 今のアリシアには逃げると言う行為そのものが行えないでいた。


「え?」

 気付くと目の前には黒いソイツは大口を開けていた。


年末は忙しく週間投稿が難しくなりますが、なにとぞお付き合いください。

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