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十六話 少女の追憶

 私が初めてアールヘイムに来たのは今から14年前だった。そして初めて掛けられた言葉が「気持ち悪い」だった。当時なぜそう言われたのか理解できなかった。ただ毎日周りのエルフから嫌がらせ、罵詈雑言を受けてきた。


 友達と言う存在は私にはいない。いるのは私を蔑む者ばかりであった。当然今もそうである。


 深く傷ついた。心身ともに。しかしそんな時、いつも私をやさしく受け止めてくれたのが祖母だった。祖母は私に言った「何時か必ずあなたを認めてくれるときが訪れます。だから決して相手を憎んではいけません。あなたはあなた。私の可愛いアリシア」と。


 祖母は私にいつも言い聞かせていた。幼いながらも私はその意味を理解していた。だから今までこうして生きてこれたと言っても過言ではない。でなければとうの昔に自ら命を絶っていた。


 私の人生18年の内14年は祖母との思い出でいっぱいだ。私がどんなに傷ついても、いじめを受けても常に私の味方をしてくれていた。時には私をいじめた相手の家族に直接出向いた時もあった。祖母は父でもあり母のような存在だった。しかし、祖母との記憶(おもいで)はあるが、両親との記憶(おもいで)がほとんどない。4歳までどこに住んでいたかすら覚えていない。父親の顔を私は知らない。母親の顔すらおぼろげにしか記憶が無い。母は私を祖母に預けて以降一度も合っていない。


 私が母に捨てられたのだと解ったのはここに来て2年後の6歳の頃だったと思う。そして捨てられる原因が私にあると理解したのもちょうどその頃だった。だが心苦しく思ったことはなかった。私には祖母がいたからだ。


 あるとき、私は自身の容姿に抱く疑問を祖母に訊いた。今まで散々周りから容姿について言われてきたため疑問に持っていた。また、母が私を捨てた理由が容姿に在るのではないかと思ったからだ。しかし、どうしても訊くに訊けなかった。私はどうにかして自分の容姿の謎を知りたくなったため、思い切って訊いてみた。「どうしてアリシアのかみはぎんいろなの?」。その時一瞬祖母の顔が神妙な面持ちになったのは今でも覚えている。難しい顔をしながら祖母は口を開いた。


「銀色なのは、たまたまあなたがそういう風に生まれて来ただけなの。だから気にしなくていいのよ」私はその言葉を聞いて内心ほっとした。


 時が経ち、9歳になった頃。私は一人弓の練習をしていた。本来ならばココには学習することろがありそこで多くのエルフの子どもたちは読み書きや武器の扱いなどを学ぶ。しかし私は何故かそこに入ることを許されることはなかったため祖母から読み書きを教わった。武器の扱いはこっそりと練習風景を観察し独学で身に着けた。


 弓の練習が終わり、またこっそりと他のエルフ達の練習風景を観察しようと遠くから見ていると、近くで会話が聞こえた。ゆっくりと近づき、聞き耳を立てた。


「――――――――最近あの銀髪見ないね」

「うん。きっと自分の正体に気づいたんだよ」

「〝正体〟?」

「知らないの? なんで銀髪なのか」

「ううん。」

「あのさ、親からなんて言われてる? あいつのこと」

「えっと、〝けがれたもの〟だから近づくなって」

「そう、じゃあなんで汚れてるか知ってる?」

「わからない。」

「ここだけの話だけど、あいつ〝ハーフ〟なんだって」


 その時私の頭の中は『?』でいっぱいだった。『ハーフ』その言葉を耳にしたのはその時が初めてだった。


「なに〝ハーフ〟って?」

「お父さんが言うには、他の血が混ざってるのを言うんだってさ」

「え!! 血が!?」

「おい、声が大きい。んで、なんでもあいつの半分は人間の血が入っているんだって」

「人間!? あの人間!?」

「うん。だから見た目がそんなに変わらないんだって」


 頭の中が真っ白になった。それ以降の会話の内容は覚えていない。私は〝偶然〟この姿になったわけでなく、作為でこの姿になった。祖母の言ったことが信じられなくなり一目散に家に帰った。そしてことのあらすじを祖母に話した。すると祖母は万策尽きた顔をしていった。「ごめんね。アリシア。あなたを傷つけさせないと思って黙ってたの」祖母は申し訳ない顔で言葉を繋げた。「あなたはね、人間とエルフのハーフ.......ハーフエルフなの」


 それから祖母は私に事の全てを話してくれた。母は今の私の歳までココいた。しかしどうしても外の世界に出たいと言ったが当然皆反対した。しかし諦めなかった母はどうしても外の世界を観てみたかった。そこで現在のアールヘイムの長兼自衛団長は、ある提案を母に下した。外の世界に出ても良いが、その代り情報漏洩を防ぐ為記憶を消す術式を体内に入れることだった。もし外部にココの場所が知られるようなことがあれば、術が発動し今までの記憶を全て抹消すると言うものだった。


 母はよほど自信があったのかその提案を呑みこんだ。実はこの背景には祖母が一枚かんでいた。祖母と団長は旧知の中であったため何とか条件付きで外の世界に出ることを許されたのだ。


 その後、母は外の世界で旅をした。しかし、旅先で出会った人間の男との間に私が生まれてしまった。母は結婚することはなく私を4歳まで一人で育てた。だが、女一人で子供を育てる事は難しかった。ハーフである私を育てる事に苦難を強いられていたそうだ。世間一般的にハーフと言うだけで周りから白い目で見られ、差別の対象でもあった。また、ハーフを生んだ母親までもが世間から非難を受ける。

 

 母はそれに耐えることが出来なくなり僅か5年という短さでココに戻ってきた。しかし、周りは、母を非難した。母は祖母に私を預けた後、自殺した。当時、祖母は母を説得したそうだ。しかし母は祖母の説得を無視した。


 そのことを知った私は絶句した。母は私を捨て、自殺した。それも私のせいで。幼い心に初めて『罪悪感』なる物が芽生えた瞬間だった。


 祖母に訊いた。「わたしが〝けがれている〟から?」と。祖母はこう答えた。「アリシアは汚れてなどいません」と。再び訊いた。「じゃあ、わたしは何?」


 一瞬祖母は目を丸くした。しかしすぐにいつもの優しい瞳に戻った。そして祖母は私に手鏡を持って見せた。


「ほら、ここに今鏡に映っているのはあなたよ。あなたにはどう見える?」

「銀色で、耳が短い.....」

「そうね。でもアリシア、それがあなたなの」

「..........うん、じゃあ、わたしは人間、エルフ、どっちなの?」

「それはおばあちゃんには分からないわ。アリシアはどう思うの?」

「......エルフ.....」

「なら、あなたはエルフよ。あなたがそう思うなら」

「ねえおばあちゃん?」

「なに、アリシア?」

「おばあちゃんは嫌じゃないの?」

「どうして?」

「だって、ハーフだよ? けがれたものだよ?」

「アリシア、あなたがどんなんだろうと私の孫であることは変わりないわ。あなたは汚れた者じゃない。私の可愛いアリシアよ」


 そう言って私を抱きしめてくれた。そして私に言った。


「いつか必ずあなたを認めてくれる日が来るわ。だから諦めないで」


その日を境に私は意識を変えた。周りから何と言われようが構わない。私は私。銀髪のエルフ、アリシア・アルバーニとして、皆から認めてもらう為に日々努力した。学問から弓術まであらゆることを自分の力で全物にした。


 それから6年の月日が流れ、私は祖母にある話をした。それはこのアールへイムの自衛団の入隊することだった。今まで私が身に着けてきた能力を発揮するためにはそれしか方法が無かったからだ。


 15歳で入団できるため私はこれしかないを思った。祖母は難しそうな顔をした。私がこれまで周りから受けてきた事をすべて理解しているからこそ、返答に困っていた。


「.....後悔、しないわね?」


 祖母はそう言った。私があの中に入ればどうなるか祖母は分かっていた。私には目的があるそのためにはどんな困難にだって立ち向かう覚悟はできていた。私は頷くと祖母は言った。「あとで団長さんに話しておくわね」と。


 その数週間後、私は入団試験を受けることになった。周りの視線や陰口を無視し私は試験に臨んだ。内容な実技試験だった。私は得意分野の弓で挑んだ。結果は見事合格した。


 合格したことを祖母に伝えた。当然祖母は祝福してくれたしかしその笑顔には何処かかげりを含んでいたと思う。


 自衛団としての生活が始まった。相変わらず私への嫌がらせは続いていた。ことあるごとに「ハーフのクセに」と言われたり、支給されたご飯の量が明らかに少なかったり、弓を隠されたり壊されたりされた。だが、私は彼らを恨んだり仕返しをしようなどとは思わなかった。祖母の言葉を私は常に心の中に留めていたから。


 そんな生活も一年が過ぎたころ、悲劇が襲った。祖母が倒れた。それも私がいない合間に。私はすぐに助けを求めた。幸い祖母の知り合いが駆け付けてくれたが、時すでに遅く、祖母は帰らぬヒトとなってしまった。


 あまりにも突然のことすぎて頭の中はパニックを起こした。ついさっきまで元気だったはずなのに、笑顔だったのに.........私は原因が知りたく祖母と親しかった友人にいいてみた。


 するといきなり目の色を変えて言った。


「アンタ、何も知らないの? アンタのおばあちゃんはね、病気だったの。それも半年前から。〝レオナ〟はアンタに心配かけさせないために黙っていたのよ。『(アリシア)には黙っててくれ』って、私たちにまで言ってまでね。ろくに薬も飲まずに.....」


 それを聞いて私は愕然とした。祖母は私のために今まで元気を装っていたなんて。次第に心の中で罪悪感が生まれて来た。


 続けて言った。


「アンタが居なければレオナは死なずに済んだかもね。ハーフであるアンタが居なければこうはならなかった」


 すると周りの大人たちの声が騒がしくなった。「だからあれほどやめろと....」「母親の次は祖母までも.....」


 すべての言葉が否応なしに耳に入ってきた。

 

 その後の事は全て大人たちが勝手に進めた。祖母の葬儀を終えた私は住む場所を追われた。今まで2人で暮らしてきた家は更地となり、今では畑になっている。私の手元に残ったのは手鏡一つだけだった。そして天涯孤独となった私は今住んでいる廃墟同然の小屋のような家が用意された。それから周りからの差別を受けながら今に至る。


 18歳になった今年、ある事件が起こった。それはココを守る結界が破られたのだ。私はすぐに破られた地点へ向かうと、そこには2つの影が見えた。木陰に隠れて確認すると、影の正体は人間だった。この時生まれて初めて本物人間を見た。手前の男は魔法使い、隣の女は剣士であることが分かった。私はまず厄介な魔法使いから狙った。命令で「生け捕りにしろ」と言われていたので一発目は威嚇のつもりで射ったのだが、思った以上に矢が近すぎたため、矢は男の顔をかすめた。


 その瞬間仲間と思われる女がこちらに気が付いた。私はすぐに仲間を呼ぶために笛を取り出し仲間を呼んだ。その後2人は抵抗することなく牢の中へと連れられて行った。すぐ後に私は団長に呼ばれた。こんなことは初めてだったためものすごく緊張した。そして団長は言った。「良くやった」。私は一瞬耳を疑った。今まで誰も私の事を褒めることは無かった。しかしこの日私は褒められた、それも団長から。嬉しさのあまり私は涙が出そうだった。


 翌日から私は2人の世話係を任命された。その間も周りからは相変わらずの差別を受けている。だが、私は諦めない。まだ、始まったばかりだ。これから少しずつ周りから認めてもらえればいい。祖母の言葉が蘇る。だから、私は耐え続ける。どんなに辛い仕打ちを受けようとも......あの日が来るまでは.....


「湯豆腐が食べたい」最近そう思います。

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