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十四話 アールヘイム

「コウキ様」

「なに?」

「何時になれば解放されるのですか?」

「さぁな」

「そうですか......」

 

 現在2人は鉄柵に囲まれた、まるで刑務所の様な場所に拘禁されている。周りには何もなく冷たく堅い床と鉄柵が在るだけ。柵の向こう側には戸の無い出入り口が在るだけの小さな建物である。


「こんな縄、すぐにでも――――」

「やめな。余計に立場が苦しくなる」


 後ろで縛られている手首の縄を(ほど)こうとするがコウキに止められた。その気になれば脱出することができるが、コウキ達はそのようなことはしなかった。


 でも、サラの言う通り何時になればここから出られるんだ......


 コウキは途方に暮れた表情のまま、唯一あるガラスのない窓から空を見上げた。秋の冷たい風が室内を満たす。すると寒さが身を襲う。コウキは寒さから体育座りの姿勢を取った。するとサラが身体を密着させてきた。


「.....ありがとう」

「い、いえ......」


 2人は寄り添うように寒さをしのぐ。


何故このようなことになってしまったのか。それは遡ること昨日になる。



 その日コウキ達は東の国境付近の森の中で原生種の素材調達の依頼を終えたところだった。


「ふう、まさかここまで来るなんて」

「結構手ごわい相手でしたね」


 コウキ達はネイルライガーの爪を求めた結果、国境付近にまで来てしまった。依頼開始からすでに2時間以上が経過した。コウキはネイルライガーからとった爪を袋に入れ、マントにしまった。


 今回は街からもかなり遠く住民に被害が及ぶ心配が無いので死骸は土葬することなくそのまま放置することにした。


 日もだいぶ傾き、歩いて帰るにはかなり時間が掛かってしまう。コウキは転移魔法を発動しようとロッドを天にかざした時だった。


「あそこに」

「えっ?」


 サラが指す方を見ると50メートル先に何か黒い影がうごめいていた。


「どうしますか?」

「.......ちょっと近くまで行ってみよう」


 そう言ってコウキ達は影のある方へと向かった。


 近づくにつれ、妙な音が聞こえてきた。


≪クチャ、クチャ、バリ、バリ、ハフ、ハフ......≫


 次第にその音の正体が掴めてきた。コウキ達は身をかがめ距離を取った。そっと草むらから顔を覗かせるとそこには、先ほどコウキ達が倒したネイルライガーの死骸をむさぼる様に食べている黒い狼の姿があった。それを見た瞬間、コウキとサラは確信した。


 コイツは〝魔物〟だと。


 しかし、コウキは腑に落ちなかった。この辺一帯に魔物の出没例なんて訊いたことが無かった。何故ここに魔物がいるのか、ただただ不思議でならなかった。


 今は余計なことはどうでもいい、とにかく早いうちに始末しなくちゃ.....


 横目でサラを見る。彼女は既に戦闘態勢に入っている。いつでも襲いに掛かっても大丈夫そうだ。


「サラ」

「はい」

「俺がヤツを足止めするから、サラは一気に仕留めて」

「了解です」


 魔物は食事に夢中でいる。殺るなら今が絶好のチャンスである。コウキはそっと立ち上がり魔法陣を展開した。刹那魔法陣から氷柱が射出された。


 放たれた氷柱は真っ直ぐに魔物の胴に向かう。しかし、当たる戦前に魔物は身体をひねらせ攻撃を避けた。その瞬間コウキは理解した。


 こいつ初めから分かってやがったな!!


 今の動きは完全に来るのを想定していた動きだった。向こうの方が一枚上手だったようだ。思わず一杯食わされた気持ちになった。


 魔物はそんなコウキを嘲笑うかの様な目で見つめる。分かっていてあえて食事を続けていたようだ。


「ふざけやがって!!」


 連射するが魔物は避けるどころか逃げてしまう。コウキとサラはその後を追った。


 コウキは『風の絨毯(ウィンドホバー)』で移動しつつ『氷の(アイスファング)』とおなじみのコンボで攻める。サラの方は地上だと足場が悪いため、ハルバートを巧みに利用して木に上り、まるで忍者の様に木から木へと飛び乗って移動している。


 魔物は左右に跳ねながらコウキの攻撃を器用に避けている。しかし、サラにとって格好の的となる。サラは魔物の動きに合わせて呼吸を合わせる。魔物は現在コウキの攻撃を中心に避けている。いくら知能が高かろうと2人同時の攻撃に対応できないと見たため、攻撃のチャンスを伺っている。

 

 命を懸けた鬼ごっこが始まり5分が経過した。魔物は疲れるどころかこの状況を楽しんでいるようにも見える。魔物を追いかけるが一向に追い付く気配がない。


「ああ、コンノぉ!!」


 氷の魔法を辞め次に出したのはバスケットボール位の岩の塊を打ち出した。痺れを切らしたコウキは岩の塊を乱射する。外れた岩は木や地面にぶつかり、木は折れ地面は陥没するが構うことなく打ちまくる。その時放たれた岩が魔物をかすめた。一瞬体制が崩れた瞬間サラは木の上から飛び降り、魔物に向けて一気にハルバートを振り下ろした。


「ハァアアアアア――――!!!」


 ハルバートの刃が魔物の胴体に食い込み、その勢いで魔物は吹き飛ばされてしまった。


「良くやった」


 コウキは感嘆の声を上げた。そのままロッドを横たわっている魔物に向けた瞬間、コウキの鼻背(びはい)を何かがかすめた。


「―――――――!!!!!」


 突然のことで体が硬直する。横に在る木を見るとそこには1本の矢が突き刺さっていた。


 鼻背に触れると僅かに血が出ていた。


「コウキ様!」

「大丈夫だ」


 矢が放たれた方を向くと10メートル以上先に一人の少女が立っていた。少女は矢を構えている。すると少女は再び矢を射ってきた。しかし、放たれた矢はサラに弾かれた。


「貴様何者だ!!」


 サラは少女に向かって叫んだ。


「お前たちこそ何者だ!!」


 質問で帰ってきた。少女はその流れで数センチの小さな笛を取り出した。そして笛から甲高い音が響いた、すると1分もしないうちにぞろぞろと彼女の仲間と思しき人たちが集まり、気付けば囲まれていた。おまけに全員剣や弓を構えている。


「あ.....これはちょっとマズイかも......」

「どうします」


 サラはハルバートを構え迎え撃つ準備は出来ている。


 その時一人の男性が近づいてきた。その男は金髪碧眼で色白、何よりも特徴的なのはその尖った耳である。もう解ると思うが彼らはエルフである。


 コウキが口を割ろうとした瞬間、エルフの男は言った。


「貴様らが、侵入者か?」

「〝侵入者〟? 俺達が?」


 コウキ達は現状を全く持って理解できなかった。突然『侵入者』と言われても戸惑うだけである。


「そうだ、ここが何処であるか知ってここに居るのだろ?」

「ここはフォッシル、すよね?」

「とぼけるな!! 人間無風情がァ!!!」


 いきなりエルフの男は怒鳴りたてる。コウキ達は思わず後ずさりする。


「ちょっと待てよ、何だってんだ。俺達が何したって言うんだよ!俺達は魔物を追って―――――」


 コウキは魔物のいる方を見るとそこには魔物の姿はいなかった。


「え、あ、いや、そんな、嘘じゃない!!」

「黙れ、白を切るつもりか、卑しき人間め!」

「おい! 今コウキ様に何と言った!!」


 今度はサラがエルフの男に怒鳴る。その目は怒りに満ち溢れている。


「黙れ、ここが〝アールヘイム〟と知って来たことは分かっている」


 何? アールヘイムだってぇ!?


 今にも爆発しそうなサラをなだめ、コウキは言う。


「どういうことか説明してくれ」

「おい、コイツらを連行しろ」


 コウキの発言を無視しエルフの男が言うと数人の男が2人に寄ってきた。

 サラは一瞬抵抗しようとしたが、コウキに止められた。


「なぜです?」

「ここは、大人しく彼らに従おう。下手に争いごとになるよりましだ。」


 どうにもならないこの理不尽な状況の中、コウキは考えた末この結論に至った。本来なら力で状況を打開するところだが今回はわけが違う。なぜならアールヘイムに行けるからだ。コウキは知的好奇心から黙って拘束されることを選んだ。それに逃した魔物もこの領域にいる可能性があるため、エルフ達に従うことにした。

 

 どの道俺らの話なんて聞く耳持つ気は無さそうだし.......


「......はい............」


 サラは腑に落ちない返事をし、武器を渡した。コウキもロッドとマントを差し出した。


 丸腰になった2人は手を後ろに回され、縄で手首を縛られた。


「はじめから大人しくしていれば……全く時間の無駄になった......」

 エルフの男はコウキを侮蔑の目で一瞥した。


 その後2人は、されるがまま森の中を歩かされた。



 森の中を進むこと二十分が経った頃、2人はある光景を見た。それは先ほどの森の中とは違い、家があり、小川が流れ、水車があり、家畜もいる。何よりそこはエルフだらけだ。


 一目でココが彼らの住むアールヘイムであることが分かった。しかし、コウキは不思議だった。何故ここにフォッシルにアールヘイムが存在するのか。今までこの世界の多くの本を読んできたが、この場所について詳しく書かれている本が無かったため知っているのは名前と存在すると言うことしか知らなかった。


 へ~ここがアールヘイム......思ったよりものどかなところだな。


 集落に入った瞬間、その場にいたエルフ達は2人を見た途端、逃げるようにいなくなった。子供は脅えたように、大人のエルフは軽蔑の目で見てくる。また、「あれが......」「気持ち悪い.....」「汚らわしい.....」「見てはいけません......」など、辺りから声が聞こえてくる。 

 

 歓迎されてはいないようだね。

 

 

「よそ見するな」


 別のエルフの男に背中を剣の鞘で突かれた。


「すんません」


 再び前を見直した。横で歩いているサラは今にも殺しに掛かりそうな目で囲んでいるエルフ達を睨む。コウキはサラに向けて「大丈夫だよ」と微笑みかける。


 すると目の前にギルドのブランチと同じ大きさの建物が目の前に現れた。全体的に白く、周りが柵で囲まれている。屋敷と言う方が正しいかもしれない。


 そのまま敷地内へ入った。屋敷内に連れて込まれると思いきや2人はその横あるプレハブ小屋を少し大きくし奥行きのある小屋のようなところに連れてかれた。中は殺風景と言う言葉が良く似合う。奥には檻がありそれ以外目立ったものは何もない、強いて言うなら手前に椅子が置いてあるくらいだ。


「入れ」


エルフの男は檻の鍵を開けると2人に言った。コウキ達は言われるがまま檻の中へと入る。完全に檻の中へと入ったのを確認すると、エルフは鍵を閉めた。


「そこで大人しくしていろ」


 室内に仲間のエルフを残して出て行ってしまった。


 コウキは立っているのも怠いので床に座った。尻に固く、ひんやりとした感覚が広がる。サラも一緒になって隣に座った。


 牢屋か。で、この武装しているエルフは、ただのエルフではなく自衛団と見た。そんでこの隣にある建物が自衛団本部だな。


 コウキは軽く分析して一息ついた。檻の外のエルフを見ると、仲間数人でなにかヒソヒソ話している。聞き耳を立てると僅かにその内容を聞き取ることができた。


 簡単にまとめるとエルフ達はコウキ達の今後の処遇について話し合っていた。生かすのか殺すのか。コウキは焦ることはなかった。こうなることは大いに予想できたからだ。


 その時エルフの男が戻ってきた。その後ろには初老のエルフの男がいた。 一目でこのエルフが長であることを理解した。


「この者たちが侵略者か?」


 落ち着きがあり、何処か威厳のあるその声でエルフに言う。


「はい。先ほど拘束したばかりです」

「そうか......ところで少しいいか?」


 初老のエルフは2人のいる檻に近づき、コウキに向けて言った。


「なんですか?」

「なぜここが分かった?」

「それは俺達も解りません。第一俺達は魔物を追っているときに突然この人たちに襲われたんですよ。それにアールヘイムがこの国に在った事自体知りません」

「貴様らがどんな事情であったかはどうでもいい。貴様らが結界を破った事には変わりがない」

「〝結界〟? どういうことですか?」


 コウキは初めて聞く『結界』と言う単語の疑問をぶつけた。


「貴様は知らないのか?」

「はい。アールヘイムと言う場所があることは知ってましたが、具体的な仕組みまでは知りません」


 コウキは若干不機嫌に答える。


「そうか。ならどういうことか説明してやろう」

 

 結界の説明の前に、ここでエルフとアールヘイムについて説明しておく。

 エルフ族とはどの種族の中でも最も妖精の加護を受けている種族である。性格は個人差もあるが自尊心が高く、高飛車でプライドの高い種族である。 美男美女が多い。完全純血主義。


 彼らは攻撃の魔法より支援型の魔法を得意とする。オリジナル防御、回復魔法が存在する。また、これらは従来の魔法よりも強力である。それらを『エルフ魔法』と呼ばれ、人間でもいくつか扱える魔法が存在する。


 また妖精とは世界のどこかにいると言われる精霊。人々の前に姿を表すことはまずない。妖精は気まぐれな性格をしていて、姿は見せないが気に入った者に対して何らかの加護を与えると言われている。なぜエルフ族に対して加護を与えるのかは不明。しかし一説には、元は妖精とエルフは同一種だったのではないかと言われているが定かではない。


 アールヘイムとはエルフの里のことである。世界に複数存在されていると言われるエルフのみが住むことを許されている所である。ここにすむエルフ達は外の世界との関わりを一切受け入れず、独自の文化、生活基盤が備わっている。


 コウキ達が出会ってきたエルフ達の祖先も元はいずれかのアールヘイム出身で4世、5世である。アールヘイムに住むエルフ達はそんな彼らを同族であっても侮蔑の対象とされている。理由は単純、要は『里を捨てた裏切者』と見なしているためである。


 彼らにとってアールヘイムとは神聖な領域として認知されている。

 ここで結界が絡んでくる。結界とはアールヘイムを外部から防御結界である。特殊な術式を組み込まれた空間魔法であるため、目視することもできなければ、結界に触れることもできない。この結界を外部から認知することができるのはアールヘイムに住む一部のエルフのみである。


 よほどのことが無い限り結界が破られることはまずないと言われている。 しかし今回その結界を破ってしまった。その原因が2人にある。具体的にはコウキに原因がある。


 実はコウキの放った魔法が結界を破壊してしまったのである。コウキが乱射した攻撃が何十発もアールヘイムの結界に当たったせいで結界が壊れてしまったのだ。いくら強力な結界魔法でもチート能力で作られた攻撃は防ぎようがなく壊されてしまった。


 エルフ側としては突如外部から強力な魔法で攻撃され結界を打ち破られ、侵入してきたコウキ達は紛れもない侵略行為だった。


「――――解ったかな?」


 エルフの長はコウキの目をじっと見下ろす。


「............」


 コウキは口を開くことが出来なかった。


 俺が侵略.......何てことだ。下手すりゃ外交問題どころか戦争に発展しかねないぞ。


「仮に貴様が主張するように過失であったとしても、アールヘイムの結界を破り、足を踏み入れ領域を汚したことは紛れもない事実。そんな貴様らを野放しにすることはできない。よってしばらくの間ここで過ごしてもらう。」


 そう言ってエルフの長は後ろを振り返り出口の方へと向かって行った。


「解ったなら大人しくしてろ」


 別のエルフが2人を一瞥し全員出て行ってしまった。


「なんなのですか! あの態度!!」

「..........仕方ないよ。俺が悪いんだから。ごめん」

「謝らないでください。コウキ様が悪いわけがありません。数回の攻撃程度で壊れてしまうような、ヤワな結界を張ったりしているアイツらが悪いのです!!」

「ありがと、サラ。でも事実は事実だ」

「ですが――――――」

「いいんだ」


 その後コウキは口を開くことはなかった。


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