十三話 余暇と双子
コウキとサラがフォッシルに来て1週間が過ぎ、2週間目に入った。季節が秋に変わってしまったため、心地よい風から少し肌を刺激する冷たさへと変化しているそんな中、2人は現在宿で午後の余暇を過ごしていた。
部屋でコウキは一人用のソファーで、最近中央都市で買った本を読んでいる。一方新しい服に身を包んだサラは、ロングソファーに座り今にも寝てしまいそうである。太陽の高度が低くなっているため夏の時よりもより日光を受けている。コウキは眩しそうに瞼をしぼませながらカーテンを半分くらいまで閉めた。
「ふぁ~~~」
眼鏡を外し、目頭を指で摘まむ。
今日はコレといってやることが無いためこうして読書で時間を潰しているのだが、どうもつまらない。読書って言っても前の世界に在るような娯楽を目的とした本ではないから読んでて堅苦しくなる。
コウキはカーテンによって半分になった窓の世界を眺める。窓の外から人々の話し声や笑い声、子供の遊ぶ声が聞こえる。
サラの方に視線を移すと、彼女は電車内で寝ているかのように身体を傾けては戻り、傾けては戻りを繰り返している。そんな彼女の姿を見ているとふと前居た世界の事を思い出した。
学生の頃はああやって朝と夜、電車の中で寝てたなぁあ.......
時折転生前の記憶を呼び起こしては一人思い出に浸る。再び本を開き横に並べられている歪な文字に目を走らせる。今読んでいるのはこの国に伝わる郷土史が掛かれている本だ。国が出来てから今に至るまでどのように文化、技術が発展していったかについて書かれた内容である。決して面白いわけではないが知識として頭に入るため暇があれば読んでいる。
30ページ程読み終えた頃、本を閉じテーブルの上に置いた。
「ん~~~~~~~~~~ん」
ソファーのから立ち上がり身体の筋を伸ばす。身体の至ることろから骨のなる音が聞こえる。
伸ばし終え、サラの方を見ると彼女は寝てしまっていた。ソファーの上で横に倒れた姿勢で≪すうすう≫寝息を立てている。
コウキはタオルケットを取り出してサラの上にそっとかけてやった。ソファーに戻ることなくコート掛けに掛けているマントを取り、羽織る。テーブルの上に置手紙を書き残し部屋を出て行った。
階段を下り真っ直ぐドアへと向かい、近くの小さな屋台が並ぶ場所へと出た。そこでサンドイッチを1つとフルーツジュースを購入した。フルーツジュースは持参した木の水筒に入れてもらった。
宿へは戻らず宿とは逆方向へ進む。秋風が周りの木々を揺らし落ち葉が空を舞う。その中を一人もくもくと進むこと10分、コウキは小さな丘のある所へと着いた。
その丘は緑色の芝が所々剥げていて、地の部分が見えている。丘を登り頂上まで登ると腰を下ろし、紙に包まれたサンドイッチを取り出し、噛り付く。
口の中で野菜の≪シャキシャキ≫感とジューシーなハム、ピリ辛のマスタードみたいな調味料の味が広がる。
コウキの視界に紅葉と町並みが広がる。周囲が紅葉に囲まれ、その中には沢山の建物が立ち並ぶ。工房の煙突から噴き出す煙が秋の真っ青な空へと昇って行き、煙突の煙が竜の様に天へと上る。
こうして何もない日に何もない丘でただサンドイッチを食べているだけなのに、景色を見ているだけでサンドイッチが何十倍にも美味く感じる。まさに食欲の秋......
秋の空のもとで1人しみじみとする25歳であった。
水筒に口を付けるとフルーツの香りが鼻を抜け、のどを潤す。そして再びサンドイッチに噛り付く。
サンドイッチを食べ終え、包み紙をクシャクシャに丸めてマントにしまう。
「ふぅ......」
一息つき、頭の後ろで手を組みまだ残る芝の上で寝ころんだ。視界には渇いた青空が一面に広がる。その中で一匹の鷹がぐるぐると円を描いている。
ホントに暇だ。依頼にでも行こうかと思ったけど、なんか乗り気にならない。サラに提案しても基本俺に合わせるから何もアクションが起こらない。ま、それはそれでいいんだけど。
無心に青空を眺めていた時だった。
「わぁあああああああ!?!?!?!」
不意に2つの顔が視界を遮った。
思わず叫び声を上げながらその場で飛び起き、後ろを振り向くとそこには同じ顔を持つ2人の少女がニコニコしながら見つめてる。
ずれた眼鏡の位置を直し2人の少女を見る。
「......んだよ、シズとリズじゃん」
「〝なんだよ〟とは何よ。せっかく久しぶりだっていうのに」
「まあまあお姉ちゃん。お久しぶりです、コウキさん」
この2人の少女はゲイルさんとランさんの娘のシズとリズ、双子のドワーフだ。ここ最近は父のゲイルさんの工房の方を手伝っていたため、2人に会うことはなかった。
2人を見分けるポイントは至極簡単で、黒髪でよくしゃべる方が姉のシズで若干茶色が混ざったダークブラウンの髪で大人しい方が妹のリズ。2人の性格は極端に違う為見た目で判断するよりも性格で判断する方が分かりやすい。
「久しぶり。て言うか何で2人はココに?工房にいるんじゃないの?」
「今日は宿の手伝いでちょっと寄り道したの」
「そしたら丘の上に黒ずくめの人が居たから、もしかしたらって」
「危ないだろ、そんな簡単な理由で近づいちゃ」
「大丈夫大丈夫、アタシ達ドワーフだし」
「何の根拠だよ」
この2人には警戒心と言うものが駆けている気がする。俺なら絶対に近づかないし。ていうか黒ずくめって......
「隣、いいですか?」
リズが訊ねてきた。
「もちろん、どうぞ」
二人は左右に腰を下ろした。
「ホント、コウキに会うのって久しぶり。アンタこそどうしたの?」
「旅の途中で寄ったのさ」
「まだ1人で続けてるのですか?」
「いいや、今は仲間と一緒に―――――」
「「誰 (ですか)!!」」
突然言葉を遮り2人が顔を近づけてきた。
え、なに、ちょっと怖いんですけど。
「そ、そんな顔するなって。」
「いえ、そんなことありません!」
「言え、今すぐ言え!」
「あ~~~分かった、分かったから、やめて~~~」
シズはコウキの胸ぐらを掴み前後に揺らす。ドワーフであるためその力は尋常じゃない。
「お姉ちゃん!!コウキさんが!!」
リズが止めに入る。コウキは白目を剥いていた。
「――――で、相手はどんな人なの?」
「性別は?」
「あ~、そうだなぁ、性別は女性で――――」
「「女性!?!?!?」」
2人はハモリを上げる。
「お、おう。そんでぇ、年上の剣士......かな.....?」
ビクビクしながら2人を見る。シズは険しい顔で、リズは虚の瞳で見つめてくる。
なんだよ、教えろと言ったのはそっちじゃないか。俺が何したって言うんだよ。
変に乾いたのどを潤そうと、足元に置いていた水筒に手を伸ばした時だった。
「あれ、ない。俺の水筒は?」
「さっきアンタが飛び起きた時に倒れて、ほら」
シズが指差す方を見ると、水筒が中身をぶちまけながら転がった跡が。
「ああああ~、言ってくれよぅ」
「倒したアンタが悪いじゃない」
「そんな冷たいこと言うなって、俺が何したって言うんだよ」
リズに助けを求めたがリズはソッポを向かれた。
おいおい何だってんだよ......まったく.......
苦笑いを浮かべ、コウキは立ち上がった。
「どうしたの?」
シズが見上げて言う。
「宿に戻ろうかと。やることないし」
「でしたらこの後少し付き合ってくれますか?」
「付き合う?」
「そ、さっきアタシが言ったじゃん」
「.....ああ、宿のね。別にいいけど、何すんの?」
「新しいメニューのために材料を採りに行くんです」
「ほう、新メニューか。何を取りに行くの?」
「キノコ採りよ」
通りで背中に大きなカゴを背負っている分けだ。
「秋だもんねぇ、どこで採るつもりさ」
「すぐそこの森の中ですよ」
「じゃあ、なおさら俺が居なきゃダメか」
「そういうこと、ボディーガード頼んだわよ」
「お任せあれ。あと、新メニューの事だけど――――」
「もちろん出来たら一番に」
「やた!!」
コウキは子供用にガッツポーズをした。そんな大人を2人は楽しそうに見つめる。
「さっさと済ましちゃいましょ」
シズが丘を下り、その後ろにリズ、コウキの順番で森へと向かった。
数分後、森と言うより、厳密には林に近い場所に3人はいた。シズとリズは木の棒で地面をかき分けながら食材のキノコを探している。コウキはその辺を花や木を眺めている。
今のことろ2人合わせて10個程キノコを採ったがまだまだ少ない。この後何十回と試作するため10個では少なすぎるとのことだ。
しっかしあれだな、2人ともよくポンポン見つけれるな。俺だって適当に探してみてはいるけど、殆ど雑草しか見当たらないぞ。
感心して眺めていると、風が吹き木々が音を立て、葉が舞い落ちる。木々が揺れる音に耳を傾けていると、頭に何か当たった。地面に落ちたそれを拾い上げると、それは木の実だった。見た目はドングリの様な大きさで表面の硬さもまんまドングリだった。
ドングリ? なんだこれ、初めて見るぞ。美味いのかな?
コウキは2人に訊いた。
「あのさ、コレ何の実か分かる?」
「それはアングリです」
リズが答えてくれた。
アングリ...ドングリでなくアングリ。『怒る』の方意味ではないよな、異世界だし。
「食べれたりする?」
「できますよ。外側の皮を剥いて中身を食べるんです」
リズはコウキからアングリを受け取り、器用に皮を剥いて渡した。
「どうぞ」
「ありがと。そんなじゃいただきます」
口の中に入れる。噛みごたえは煮豆の様に柔らかい。歯で噛み潰した瞬間口の中によく知っている味が広がった。
これ、餡子だ!!饅頭の中に入っている餡子と同じだ!なるほど、だからアングリなのか。よく考えると餡子も元は大豆だし、別に驚く必要はないんだけど、この状態でここまで餡子の味を引き出しているなんて......
控えめの程よい甘さが舌の上で踊る。コウキがアングリの味に舌鼓を打っていると――――
「何二人だけ楽しんでんのよ」
シズがジト目で2人を見る。
「ごめんね、お姉ちゃん」
「ごめんごめん」
「んもー」
シズは頬を膨らませた。
再び作業に取り掛かった時、コウキは黄色い実を見つけた。メントの実よりも若干大きいその実を手に取る。
「ねえ、この実は何? 食べれる?」
シズに訊いてみた。
「ええ、一応食べれますけど―――――」
「んじゃ、いただきます。」
リズが言い終わる前に食べてしまった。
「.....別に何にも味が........アァアアアアアアアアアアアアア――――!!!!!」
顔を真っ赤にし、のどを押さえながら叫ぶ。その光景を見た2人は「あ~やっちゃった」と言った風な目で芸人張りのリアクションをしているコウキを見る。
まるで殺虫剤を掛けられた虫の様にのた打ち回っている。
「な、なんなんだい、コレ.....」
「アンタそれハバーナの実じゃん。」
「ヒィ、ヒィ、ヒィ.....は、ハバーナ?」
仰向けで汗だくになりながら聞き返す。
「それ、めちゃくちゃ辛い香辛料の原料よ。」
「な、なんだってぇえ! 早く言ってよ。」
「アンタが最後まで聞かなかったんでしょ! 全く......」
「ご、ごめん、リズ.......」
「それよりも、これを。」
リズが出したのはメントの実だった。コウキはそれを取り口に運んだ。すると瞬く間に口の中の刺激が和らいでくる。どうやらメントの実は料理の口直しの他にも辛さを中和する効果があるみたいだ。
「ハァ、ハァ、ハァ.....助かったぁ.....」
「大丈夫ですか?」
「う、うん....」
汗を拭いながら立ち上がり、マントを脱いで土埃を払う。
「まったく、いい歳して情けない。」
シズはアホを見る目で見てくる。
「いや~やっぱり自然には危険が付き物だね」
「な~に言ってんだか......」
シズが言う横でリズはただただ苦笑いを浮かべるのであった。
その後気を取り直してコウキも本格的にキノコ採りに参戦した。3人キノコの他にも山菜を採り、計40個程採ることができた。
「いや~助かったよ」
「ありがとうございました」
2人がほくほく笑顔でお礼を言う。
「いやなんの。こっちこそ誘ってくれてどうもな」
コウキもさっきまでのやる気のない顔とは違い、ハバーナの実かそれともメントの実の効果は別として、今はフレッシュな笑顔で2人に言う。
たまに楽しくキノコ採りもいいよなあやっぱり。依頼だとどうも『仕事』って思ってやってるから何にも楽しさを見出すことなんてないし。今度サラと4人でもう一回行きたいなあ.....
ふとそんなことを思っていた。
「もうないか?」
「うん、今日はもういいよ」
「時間も時間ですし、戻りましょう」
なんだかんだ2時間近く3人はキノコ採りをしていた。日もだいぶ沈んでいるため空が茜色に染まっている。コウキ達は寄り道せずに真っ直ぐ宿に戻った。
15分後、宿に着いた3人はそれぞれ戻った。コウキは2階へ上がりサラの待つ部屋へと戻った。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ」
すでにサラは起きて待っていた。
「起きたんだ。まで寝てても良かったのに」
マントを脱ぎ、サラに渡す。
「いえ、もう十分です。それよりもどちらに?」
「今日はこの宿の双子の娘と一緒にキノコ狩りに行ったんだよ」
「双子!?」
サラはコウキに詰め寄る。
あ、あれ~さっきもこんなことあったような......
「う、うん。シズとリズと言うんだけど、近いうち今日採ったモノで新作の料理を食べさせてくれるんだって」
「そ、そうですか」
サラは引き下がり、マントをコート掛けに掛ける。
「.....ああ、もう、せっかくの時間を無駄にしてしまった。何故あの時寝てしまったのだ、起きていればコウキ様と一緒に余暇を楽しめたと言うのに。ドワーフの双子めえ。うう、我としたことが、とんだ誤算ではないか。おのれ陽射し、よくも我を眠りへと誘ってくれ――――......」
ひとりぶつぶつと呟いているのをよそにコウキはソファーに座った。
「どうしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
我に返ったサラはコウキの迎えに座った。するとコウキはポケットの中からアングリを3粒取り出し、テーブルの上に置いた。
「これはなんですか?」
「アングリと言って饅頭なんかの中身に使う材料だよ、そのままでも十分に美味しいから食べてごらん」
これはシズから教えてもらったことだ。俺の持つ野草や木の実なんかの知識のほとんどは彼女らから得た知識だ。
外側の皮を剥いてサラに渡す。サラは受け取ると少し見つめて口にした。
「あむ....程よい甘さがいいですね」
「よかったあ....今日は黙って行ってしまってごめんね」
「気にしていませんよ」
「そうかい、ならいいけど。今度はサラも一緒に行こうよ」
「はい....」
元気がない様子に見かねたコウキはテーブル越しに若干俯いている彼女の両肩を掴み姿勢を正した。
「こ、コウキ様......」
突然のことで驚きと興奮で頬が赤く染まっている。両肩からコウキの手のぬくもりが全身に伝わる。
「元気出せって、無理しなくていいんだぞ。今度はちゃんと起こすからさ」
ニカッと笑うコウキの笑顔が目の前にある。
「え、あ、はい。是非....」
思わず変な返事をしてしまったがコウキは特に気にしている様子はなかった。
「ふう、腹が減ったなあ。ちょっと早いけどご飯にするか」
「はい。そうしましょう」
今度は妙に覇気のある返事が返ってきた。
なんだか分からんが、元気を出してくれたようだ。
コウキとサラが部屋を出た時だった。突然サラがコウキの腕に手を回してきた。
左腕には言葉にできない弾力が伝わる。
「ど、どうした?」
戸惑いを隠せない声でサラに言う。
「その、迷惑、ですか....?」
恥ずかしそうに紫色の瞳がコウキを見つめる。思わず返す言葉を見つけ出すことが出来なかった。
「.....いや、別に。い、行こうか」
コウキは食堂へ向う間息を吸うのを忘れていた。




