十二話 甲殻原生生物
前回の話の続きとなります。あと、今回は無駄に長い話です。
10時20分、コウキ達はギルドにいた。
今日は妙に視線を感じる。まあ理由は俺にあるんだけどね。
いつも通りコウキは掲示板へ直行し依頼内容を見る。討伐と言ってもいきなり大型の生物を狩る訳ではない。
そうだなあ、ここは簡単な『ブレイクラッド』の討伐にしよう。
紙を取りカウンターへと向かった。
依頼は討伐のため当然森の中へと入る。また、依頼書にはブレイクラッドは東の山の方に生息していると書かれている。
地図とイラスト付きであるため非常に解りやすくてありがたい。現在南に位置している。目的の山まではかなりの距離があるため普通のハンターなら馬を借りていくところだが、何せ規格外な魔法使いであるためそんな物を使う必要が無い。本当にチート様様だよ。
コウキ達は人気が無い木陰に入り、東の山へと転移した。
「到着、いや~久しぶりに来たよ」
今いる所は山の麓。この山はヘドロン鉱山に次いで鉱石が採れる山とされている。
前に鉱石採掘の依頼をしたことがあったがそれはもう疲れましたどころじゃ済まなかった。とにかくひたすら鶴嘴で山の一部を削っていたのを今でも鮮明に覚えている。あのとき鉱山で働いている人々に対して感謝と尊敬の念を抱いたのは確かだ。
「たしか、ブレイクラッドはこの麓のどこかにいるんだけどなぁあ」
依頼書を確認する。
「どのように見つけるのですか?」
「う~ん、見つけると言うより、おびき出す方が正しいんだよ」
「どういうことですか?」
「ブレイクラッドって小型の原生生物なんだ。で、アイツら小さくてすばしっこいもんだから見つけにくいんだよ。だからギルドで支給された『におい玉』でヤツらをおびき出したところを一気に畳み掛けるという分けさ」
サラにピンポン玉サイズの球を見せる。
「そうだったのですか」
「そゆこと。この辺だと微妙だからもう少し奥へ行くか」
コウキ達は森の奥へと進んで行った。
進むこと30分、森の3分の1を通過し3分の2に差し掛かろうとしていた。道中木の実などを摘みながらブレイクラッドが多くいそうな場所を探す。周りの木々の間を通り抜けながら進んでいると今までとは違った若干木が少ないところに着いた。
「ここにしようか」
『におい玉』を取り出して地面に置く。今度はそこから5メートル程離れたもう一つ。その後コウキは計3個の『におい玉』を各場所に置いた。コウキは魔法で火を出して、各『におい玉』の表面を炙った。すると見る見るうちに燃え始め、玉から煙が立ち始めた。
「なんです、この臭い」
「ヤツらが大好きな臭いなのさ」
果物が醗酵したような臭いが鼻腔を刺激する。
「サラ、そこの草むらに隠れよう」
「了解しました」
二人は草むらで待機した。
「いいかいサラ、このまま集まってくるのを待つんだ。出てきたからといっていきなり襲わ無いように。最低でも20匹くらい集まったら容赦なく殺って構わないから。いいね?」
「了解です」
この依頼の目的はブレイクラッドの駆除。近頃ブレイクラッドの数が増えたおかげで他の生物、木や木の実などが被害に遭ってしまっている。このままでは生態系に偏りが生じてしまうため駆除の依頼が来たというわけである。
2人が息をひそめて待つこと3分が経過した。その時、モルモットの様な生き物がわらわらと集まってきた。口からは齧歯類特有の出っ歯を持っている。
「お、キタキタ.....」
「あれがそうですか」
「うん、あのちっこいのが討伐目標だよ」
「なんだか可愛いですね」
「と思うじゃん。気を付けなくてはならないのはあの歯だよ歯。あの歯に掛かれば鎧に穴をあけることなんて簡単なんだ。だから可愛いからといって油断しないように」
「解りました」
「じゃあ、そろそろ行きますか」
「はい」
気付けば『におい玉』の周りには約100匹近くのブレイクラッドが集まっている。はっきり言って異様な光景だ。気持ち悪いにも程がある。
コウキはそんな光景に対して臆した表情一つ見せないサラが頼もしく見えた。コウキは小さな声で今回の作戦を伝えた。
内容はこうだ。まず、コウキが電爆で動きを封じる。身動きできなくなったところを一気に二人で畳み掛けると言う作戦だ。
「そんじゃいくぜ」
ロッドを構えて、魔法陣を展開する。するとブレイクラッドらの頭上から5つの電爆が投下された。
5つの塊は空中で弾けて電磁場を作りだした。
「「「ピギューーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」」」
ブレイクラッドの断末魔が響き渡る。電撃を受けたブレイクラッド達は≪ピクピク≫と身体が痙攣している。どうやら成功の様だ。
正直成功するかどうか自信が無かった。俺の魔法って回復防御を覗いて全て殺傷能力が高いから下手すればロケットアイが確認できない程の姿にしてしまうからね。
コウキはサラに合図をした。
「っしゃーサラ、行くぞ!!」
「はい!」
コウキ達は突撃した。
「タァアアア、セイッ!!」
サラはハルバートの刃を下に構え、アイスホッケーのラケットの様にハルバートでブレイクラッドを切って行く。彼女が通った後には真っ二つにされたブレイクラッドの亡骸が散らばっている。
一方コウキは『氷の牙』で突き刺してゆく。
次第に辺りが血の匂いで充満してきた。見渡すと地面はブレイクラッドの死骸だらけになっていた。
「もういいよ、サラ」
「はい」
サラは手を止めて戻ってきた。2つ支給されたロケットアイのうち1つをサラに渡し、それぞれブレイクラッドの死骸をロケットアイに記憶させた。
案外数が多かったため終えるのに少し時間が掛かった。
「終わったぁあ」
「終わりましたね」
サラが言った時だった。急にサラの表情が険しくなる。
「ど、どうしたの、怖い顔して」
「......来ます」
「来るって何が?ブレイクラッド?」
「いえ、そんなものではありません......」
刹那、茂みから一頭の虎の様な猛獣が飛び出してきた。
「グルァアアアアアア!!!」
その猛獣はコウキ目がけて鋭い爪を振り下ろした。瞬間、防御魔法陣を展開し攻撃を防いだ。
「っぶねーーー!!!」
攻撃を弾かれた猛獣は体勢を立て直し、再び攻撃のチャンスをうかがっている。
「あれはいったい」
「あれはネイルライガーと言って、ここにしか生息していない原生生物だよ」
「原生生物…今までに見てきたのと違いますね」
その原生生物の身体の一部は甲殻で覆われている。また足には20センチはあるのではないかと思うほどの鋭い爪を持っている。まるで鎧を纏っているかのような姿だ。
普段ならもっと奥の方に生息している筈だ。俺の予想だが、理由は血の匂いだ。1匹2匹だと問題はないが一度に大量に殺したせいで一気に森中にブレイクラッドの血の匂いが拡散してしまった。そのためヤツらは匂いを嗅ぎつけてここまで来たと言うわけだ。
完全に俺の考えが甘かった。
「この辺に生息している大型生物は皆あんな感じなんだ。特にあの爪には気を付けて、かなり強力だから」
「....はい」
ハルバートを握り直す。
「あと、アレ、群れで行動するから」
コウキが言った傍から、ぞろぞろと茂みから湧き出るようにネイルライガーが出てきた。述べ20匹と言ったこところだろう。皆牙を剝きだし威嚇している。
「あ~こりゃ完全に逃げ道塞がれた」
「どういたしますか?」
「そりゃあ倒すしかないよね。サラ、ここは本気で行くよ」
ここで逃げてしまえば近隣に住む人々に被害が及ぶことは間違いない。ここは何としても俺達で食い止めなければならない。
「かしこまりました」
コウキは魔法陣を展開し、サラは攻撃する構えに入った。
「行くぞ!」
「ハァアアアアアア!!!」
サラは一気に切りかかる。一匹の頭部にハルバートの刃が入った。しかし、刃は頭部の甲殻に弾かれてしまった。相手も攻撃を仕掛けてきたが、サラは瞬時にその場から退いて再びコウキの下に戻ってきた。
あのサラですら一撃で甲殻を破壊することは難しいようだ。
「なんですか、あの外殻は?」
「あれこそ、ここの原生生物の特徴である甲殻だよ」
このフォッシル周辺の森に生息している甲殻を持つ原生生物。通称、甲殻原生生物または甲殻原生種と呼ばれている。
この生物の特徴ともいえる甲殻は、体内で自然発生した物ではない。彼らは身を守るために鉱石を体外から摂取するため、その成分が体内で分解されず皮膚の表皮から分泌され、硬質成分が体外で硬質化した現象である。また、その強度は個体別で、硬質化成分を多く摂取すれば、それに比例して頑丈にかつ攻撃力が高くなる。しかし、身体的速さはそれに反比例し削られる。
これはその土地で独自に進化した形態、つまりガラパゴス化生物である。
「倒すには甲殻以外の限られた部分を攻撃するんだ。先に言うべきだった。」
「大丈夫です、了解しました」
サラは再びハルバートを構えて、突っ込んで行った。
コウキは再び氷系の魔法で攻撃を開始した。
なぜこの場で氷系にこだわるかというと、それは前回のゴブリン討伐の時と同様に火や雷を使ってしまうと木が燃えてしまい火事が起こってしまう。そうなればもっと不利になる。ここで「さっきブレイクラッドの時に使ったじゃないか」と、思うかもしれないが、ブレイクラッドの場合は一か所に多く集まっていて、尚且つ威力を加減していたため使用できた。しかしこの状況では加減はできないし、確実に攻撃が当たるともいえない。もちろん風系も使えない。
それにハンターの規則で、むやみに自然を破壊することは禁止されている。したがってここでは水または氷系の魔法に限定される。
本当に森林内での戦闘は面倒極まりない。
コウキは『氷の牙』でサラの援護に回る。サラの死角になる所を徹底的に潰していく。だが、一発二発で死ぬようなヤツらではない。同じ個所に5、6回当てなければ甲殻が砕くことができない。サラの周りだけでも10匹以上はいるため、同時に2つ展開しそれぞれ連射している。
ちなみにコウキは周囲に防御魔法を展開しているためやられる心配はない。
サラに向かって2匹同時に襲い掛かってきた。しかしサラは逃げようとはせずにそのままハルバートを構え、そして2匹の爪が振り下ろされた瞬間に左から右へ横に一閃。2匹の足首は切り落とされた。この時サラは完全に前足を振り下ろされる前にタイミングよく狙って横に振った。
2匹は左右に転げ落ちた。すかさず背後から来たのを俺が仕留める。
「ありがとうございます!」
「礼はいい、片づけるぞ!!」
「はっ!!」
バランスを崩した2匹に向けてサラは跳躍し、ハルバートを手前の一匹目の首がけて一気に振り下ろし、切り落とす。すかさず、2匹目に向かって振り下ろした刃の向きを下から上に変え救い上げるように首を跳ね飛ばす。
その瞬間3匹が同時に一瞬未防備になったサラに向かって飛び掛かってきた。刹那、振り上げたその体勢からのけ反りブリッジの体勢になったところを3匹は空中で衝突し弾かれた。サラは瞬時に倒立し、腕だけの力で跳ね、距離を取った。
衝突した3匹が無謀になった瞬間一気に『氷の牙』で仕留めた。
「タァアアアアアアアーーーーーーー!!!」
サラは飛び掛かってきた1匹の爪を振るバートの刃で砕き、その勢いで顎に向かって蹴りを入れた。
蹴りの威力で浮き上がった隙に甲殻の無い腹を切り裂いた。ネイルライガーは臓物をまき散らしながら仰向けに落下した。
そのまま、サラは一気に攻め込む。コウキはネイルライガーをサラに近づけさせないように足止めや援護攻撃をする。しかし、一度に大量に攻撃できないのはやはりネックだ。サラがいるため一斉に攻撃してしまえば彼女を傷つけてしまうため、慎重に確実に攻撃をする。
戦い始めて十分が経過したとき俺はあることに気付いた、この群れのボスがさっきから見当たらない。本来群れで行動するならば必ずその群れのボスが支持を出す筈だ。しかしこの群れにはボスが見当たらない。司令塔なしに攻撃を仕掛けてくるのはおかしい。
だいぶネイルライガーの数が減ってきた。数にして約10匹弱、このまま凌ぎきれば勝ちだ。そう確信した時、視界に黒い影が飛び込んだ。
その陰の主はこれまでのネイルライガーとは比べものにならないくらいのゴツゴツとした甲殻と灰色の体毛に覆われて、また大きさも一回り大きい。驚くのはそれだけではなく、見た目に反して動きが俊敏にも驚きを隠せない。
一体いつから潜んでいたんだ?あんな図体がデカいとすぐに気配で分かる筈なのに。
コウキは警戒心を強めた。
「サラ!気を付けろ!!」
コイツこそがこの群れを率いているボスであると瞬時に理解した。
「了解です」
サラは返事をしつつ2匹の首を切り落とす。
ここでどう動くべきか考えた。
現在、ネイルライガーの数はおよそ5、6匹だ。内一匹が今来たボスライガー。今のサラにボスはキツそうだ。サラには残りの雑魚を、ボスは俺が引き受けることに。しかし何故今になって登場したのか。わざわざ伏兵をする意味などあったのか疑問に思ったが今はそれどころじゃない。
「サラ!ボスは俺が!!残りは頼んだ!!」
「承知!!」
コウキはボス越しに指示を出した。
「さぁて、行きますか!!」
コウキは『風の絨毯』を展開し、『氷の牙』で距離を保ちつつ攻撃を開始した。しかしボスはコウキではなくサラに用があるようだ。
「ケツががら空きだぜ!!」
数発撃ちながら移動した。打ち出された氷柱はボスの尻の甲殻に命中した。その瞬間目を疑った。尻の甲殻に命中した氷柱は蒸気を上げながら〝消えた〟。打ち砕かれたのではなく消えたのだ。
ボスはようやく存在に気付いたか、コウキの方を振り返る。
「ガルルルルルルルルゥ.........」
鋭い目つきで捕える。その目はまるで「俺の邪魔をするな」と言っているかのようだ。
「やっと気付いたか。さあ、かかってきな」
無数の氷柱はボス目がけて撃つが、ボスは動くことなく全ての氷柱を受け止める。そして受けたそのすべては蒸気を上げて消滅していく。
「グルルルルルゥ.....グァアアアアアアアアアアアウゥ!!!」
咆哮と共に甲殻がほのかに赤く光り、甲殻から蒸気が噴き出る。この時コウキは確信した。
コイツは並みのネイルライガーではない。ネイルライガーの亜種だ。おかしいと思った。他とは違う赤みがかった甲殻に蒸発する氷柱、コイツの餌は鉱石でも火の魔石を取り入れていたんだ。
普通の生物では魔石を取り込んでも体内の魔力が弱いためほとんど効果は表れない。しかし、コイツの様に高い魔力を持っているモノが摂取すると魔石の効果を引き出すことができる。
状況からして亜種の表面温度はとんでもない位にまで上がっていると伺える。したがってコウキが作りだした『氷の牙』は甲殻に接触した瞬間に蒸発してしまった。
「いっち番めんどいじゃん」
再びロッドを構えた時だった。ボスは木々をなぎ倒しながらジグザグに移動しながら迫ってくる。ホバー移動しながら距離を詰められないよう攻撃する。しかし、思った以上にボスは早く移動し来るため徐々にその距離を詰められる。一旦攻撃を辞め、別の魔法陣を展開する。
「詰んでやる」
瞬間、ボスの目の前に氷の壁が出現した。突然現れたためボスは止まることなく激突する。間髪入れずに残りの3方を氷の壁で塞ぎ、上にも氷の壁で蓋をした。
今の魔法は氷魔法『氷壁』。分厚い氷の壁を瞬時に作りだす中級防御魔法である。これを上手く扱えば今の様に相手を閉じ込めることができる。
「ちょっと大人しくしてくれよ~」
サラの下へと向かおうとした時だった。崩れる音と共にバラバラに崩れ落ちた。破片の断面は解けていた。
「グォオオオオオオオオオ――――!!!!」
咆哮と共にボスが飛び出してきた。
「溶断!?」
魔石を摂取しているため当然爪も魔石の効果を発揮する。今のネイルライガー亜種の爪は熱したナイフ同然の威力を発揮している。コウキならともかくサラが相手をすれば、いくら魔人とはいえあの爪を喰らえば致命傷になるに違いない。
ボスは周りの木々を蹴散らしながら一直線に向かってくる。その間『氷壁』で足止めを図ろうとするが全て溶断されてしまう。
「ならば真っ向勝負!!」
無属性の防御魔法陣を展開し、ボスを迎え撃つ。
ボスがて飛び掛かってきたと思われたが、頭上を越えそのままサラのいる方へ向かって行った。
「!!!クソッ!!」
『風の絨毯』で後を追う。ボスの後ろ脚を狙うが、動きが速いため上手く照準が合わない。
「気を付けろ!!!」
コウキは叫んだ。
「はい!!」
サラが最後の1匹を仕留めたと同時に、サラ目がけて熱を帯びたその爪を振り下ろした。瞬時に半歩下がり、身体を回転させ攻撃を受け流した。その隙にハルバートで胴体を攻撃するが、刃は甲殻に弾かれてしまう。
「チッ」
サラは体勢を立て直しているボスの背後に回り込み、腱に向かって振り下ろすがそれに気づいたのか、足をサラの方へ向け爪で刃を防いだ。再び胴体に攻撃しようとした瞬間、ボスの身体から炎が噴き出た。
「なっ!?」
一瞬隙が出来てできてしまった。刹那サラはボスの体当たりを受けてしまった。また、相手は炎を纏っているため火が引火してしまい服が燃え移ってしまった。
サラは地面に叩き飛ばされてしまった。
「アァアアアアアアアアアアアア―――――!!!!」
魔力を持った炎は瞬く間に燃え広がり、サラを包み込む。サラはその厚さに耐え切れず地面に転げ回る。
「サラァア!!!!!」
魔法で水玉をだしサラにぶつける。魔力はコウキの方が高いためすぐに鎮火した。サラのもとへ向かい彼女を抱き起す。
「大丈夫か!!」
火傷を負ったサラの顔を覗きこむ。
「は....はい....だい、じょ...ぶです.....」
弱々しい声で答える。
「もっとしっかりしていれば......」
苦虫を噛んだような表情をするコウキにサラは力なく微笑む。
「すぐに終わらせるから。『妖精の吐息』.....」
光がサラを包む。見る見るうちに火傷の部分が消えて行く。彼女は抱き抱え、離れたところへと運び、寝かせる。
コウキはボスの方へを向きを変える。
「へぇえ、獣でも一応空気は読んでくれるんだ。」
ボスは「早く殺るぞ」と言いそうな目で見る。
先ほどから〝ボス〟と呼んでいるが実はこいつはボスではない。本物のボスはこの亜種に殺されたに違いない。
なぜこいつがボスではないか、それはさっき対峙した時灰色の体毛の一部に血液が付着していた。ネイルライガーも群れで襲ってくるにしては数が少ないし、肝心のボスの姿が見えない。つまり、亜種もネイルライガー同様匂いに誘われてきた際に群れに鉢合わせしたのだ。そのときボスや他のネイルライガーと戦っていたため遅く登場してきたのだと推測する。しかし、サラを執拗に狙った理由は分からない、差し詰め強そうだったからだろうな。事実ほとんどサラが倒したようなもんだし、野性の感ってやつか。
コウキはロッドを構える。
「グルルルルルル.....」
「やっとサシで勝負できるなぁあ!!」
コウキは叫ぶ。
「........さっさと来いよ」
すると全身から魔力が湧きでる。それを感じ取ったのか周辺の鳥たちは一斉に飛び立ち、亜種も自らの恐怖心をかき消すかのように全身の炎の威力を上げる。
「グォオオオオオオオオオオン!!!」
炎の塊と化した亜種はコウキ目がけて突進する。しかし、途中で何重もの『氷壁』を展開した。愚直とも言えるかのように亜種はそのまま壁を破壊しながら突っ込んでくる。
亜種は最後の1枚まで来たとき、コウキの姿は既になかった。亜種は方向転換を図ろうとするが、間に合わず壁に激突してしまった。しかし、亜種が激突したのにも関わらず氷の壁はビクともしない。気が付くとコウキは先ほどまで亜種が居たところにいた。
「フッ」
向けたロッドの先から魔法陣が形成され、そこから氷の弾丸が打ち出された。これは『氷の牙』の氷をさらに小さくし、密度を濃くした氷の弾丸である。
打ち出された氷の弾丸は亜種に向かって容赦なく撃ち込まれる。そのさいこの壁が役に立つ。氷の壁があるおかげで相手の動きをある程度封じることができる。
氷の弾丸は最初こそは蒸発しなくても甲殻を傷付けるまでには至らなかった。しかし、次第にその数が増していくほどに速さと強度が増していき、徐々に甲殻に亀裂が生じてきた。それも一点ではない、数か所に渡って撃ち込まれているため炎を作りだすことが困難になっていった。
「ほら、お前の自慢の炎は消えてゆくぞ?」
煽った瞬間、亜種は咆哮し甲殻の炎を一気に放出する。
「そう来なくちゃ、でないとお前を殺す楽しみが減ってしまう」
コウキは攻撃を辞め、亜種に向かってとゆっくりと歩み寄る。
「さあ、来いよ。」
漆黒の瞳が亜種を映す。刹那、亜種はコウキに向かって飛び掛かろうとしたが防御魔法で防がれてしまった。何度も何度も爪で引っ掻き、体当たりをするがびくともしない。
「無様だな、さっきまでの威勢はどうした........」
亜種はコウキのじっと見つめる。その目は先ほどの様な目は無く、まるでバケモノを見るかの様な目だ。
「所詮はその程度.......か、残念。もっと楽しませろ!」
すると亜種の足元に魔法陣が現れた。
「.......うっ......コウキ様........」
眠っていたサラは意識を覚ました。魔人の治癒能力とコウキの魔法の力でサラはすぐに回復することができた。
サラは向こうで戦っているコウキを見た。その時、何か違和感があった。
何かが違う。
サラはそう感じた。
「お前には、ガッカリだ」
足元の魔法陣が輝きを放った瞬間、亜種は魔法陣から出現した水の塊の中に閉じ込められてしまった。呼吸が出来ずもがき苦しむ姿をコウキは目を見開き、興奮しているかのようにその光景を見つめる。すると亜種の甲殻が割れる音を立てながら崩壊してゆく。
「『死海圧死』........ゆっくりと味わえ.....」
コウキが発動した魔法、『死海圧死』は目標に魔法陣で結界を張り、身動きを封じた後に魔法で形成した水の塊の中に目標を閉じ込める。その際任意で中の水圧を調整し、目標を死に至らしめる。
≪バキバキ≫と音を立てながら亜種の身体はみるみるうちに収縮していく。まるで空気が抜けてしぼんでゆく風船のように。
「アハハ.....ハハ.....」
コウキは不敵な笑いを発しながらその光景を見つめる。そしてついに亜種の身体がピンポン玉サイズにまで収縮したとき、魔法は解かれ亜種の塊は地面に落ちた。
変わり果てた亜種の姿をコウキはじっと見つめる。
「終わった.....か.....」
その時、コウキの様子はおかしかった。その姿はまるで何かに耐えているかのように。
「......ふう、ふう、ふう.......うぅ.....クッ!」
コウキはとっさに落ちて他甲殻の破片を左手の甲に突き刺した。
「ぐぬぬぬ!!.......あぶねえあぶねえ....へへっ......」
激痛が襲い血がにじみ出る。引き抜くとしばらく傷はそのままにした。
「コウキ様......」
寝ていたサラがコウキのもとへと戻ってきた。
「起きて大丈夫?」
「あ、はい。この通りです」
「良かったぁ」
「そのお怪我は」
左手甲に視線を向ける。
「これ?さっきの戦いでね。戦いに怪我は付き物さ」
「そ、そうですか」
どうやらさっきの行動はサラには見えていなかったらしい。
「でさ、この死骸はこのままにしとくのもダメだから、土葬するね」
「わざわざするのですか?」
「うん、また集まってきたら大変だからね」
俺は土魔法で全ての死骸を地中に埋めた。
辺りを見渡すと木々が倒れたり、焦げたりしている。思った以上に派手にやったからなあ。まあ、しょうがないか。今回ばかりは。
「帰るか。あ、その前にサラの新しい服を買いに行こう」
ほとんど焼けたり焦げたりしてしまっているせいで露出度がかなりアップしている。
コウキはマントを脱ぎ、サラに掛けた。
「そんなわざわざ......」
「いいんだよ。前にもあったじゃん」
「た、確かに、そうですが.......」
サラは頬を赤くして言った。
「服の1着や2着、幾らでも買ってやる」
「あ、ありがとうございます」
コウキの目を見た瞬間、一瞬目を疑った。前髪で見えなかったが、コウキの左目がわずかに緋色に染まっていた。
今年の秋の日常系アニメは最高に面白いですね。
夏にでも親戚のいる田舎に行ってみたいです。




