十一話 サラと泥酔、ときどきバナビ?
翌朝、太陽が9時の位置にあるコウキ達は朝食を食べ終えて、今は部屋のソファーでくつろいでいる。
今日は昨日予定していたギルドで依頼を受けつもりだ。この国は周辺が森や山に覆われているため討伐依頼もさることながら採取の依頼も多数存在する。今日は軽く採取系の依頼でも受けようかと思う。
いきなり討伐系を受けるのは危険だから、初めは緩い依頼から順々に難易度を上げていく方針だ。
「様、コ....様......コウキ様!!」
「ふぁあい!?」
思わずマヌケな声を上げた。
隣でサラは心配そうに顔を覗きこむ。
「どうか、なされたのですか?」
「あ、いや、大丈夫、だよ」
「呼んでも反応を示さなかったので、何かあったのかと......」
「ごめん。ちょっと考え事をしてた。で、何か?」
「本日の予定について訊きたかったのですが」
「なんだ、そのことついて考えていたんだよ」
「そうだったのですか。邪魔してしまい申し訳ございません」
「いいんだ。今日の予定だけどこの後ギルドに行こうと思う。依頼は簡単な採取系の依頼にしたいんだけど、何か要望は?」
「いえ、ありません」
「分かった。じゃあ、この後すぐにでも行こうか」
20分後、宿を出てギルドのブランチへと向かった。ギルドは歩いて15分の所にある。
なぜここから近いのかと言うと中心地に置いてしまうと移動までに時間がかかるため、ギルドのブランチは外側に数か所点在している。
「さてさて、どんな依頼がありますかなっと」
掲示板を見ると何件か依頼の紙が貼っていた。
討伐、採掘......あった、バナビの採取。
早速依頼の紙を取り窓口へと向かい、依頼手続きを済ませてすぐにサラとギルドを出た。
「どのような依頼ですか?」
「今日はバナビの採取だよ。」
「あの、〝バナビ〟とはなんですか?」
「外側が厚い皮で覆われた黄色い実の事だよ」
「そんな実があるのですか。美味しいのですか?」
「うん、美味しいよ。実際食べるのは中身なんだ。外側の皮は硬くて食べられないんだ」
「食べてみたいです」
「この後、食べれるから楽しみにしているといいよ」
「ふふっそうします。」
すると目の前に森が現れた。
今回の依頼はこの森の中で行われるためバナビは木の上になっている実なのでよく注意して置く必要がある。また、森もジハードの時とは違いかなり広いので遭難しないようにしなくてはならない。と言っても俺の場合は転移魔法があるから遭難とは無縁なのだが。それよりも原生種に気を付けなくてはならない。この辺の原生種は何かと厄介なモノばかりで正直相手にするのはクソめんどくさいのが本音だ。
「さあて、行こうか。逸れないように注意して」
「はい」
ハルバートを握る手に力が入る。
「じゃあ、出発進行~」
森の中へと入って行く。
中は当然木々が生い茂っているが、意外と太陽の光は届いている。まったく開拓されていないため獣道を進んでいく。
コウキ達は上を見ながら慎重に歩く。バナビの木は白樺見たく木の皮が白く、葉は若干黄色いのが特徴なのだが、白い木は多いし、おまけに今は季節の変わり目のため葉の色が変わり始めている。この世界で紅葉を見ることができるのはこの国含めて数国しか存在しない。
くそ、上ばかり見ているから首が疲れてきた。
首の骨を鳴らす。一方サラは平気なのかずっと上を観ながら歩いている。
「コウキ様」
突然サラは言った。
「あったか?」
「いえ、あの小動物は?」
サラの指す方を見ると、枝の上にリスのような生き物が木の実持っている。
「あれは、リスネズミといってこの辺によくいる原生生物だよ」
「なんだか可愛いですね」
「うん、見た目はね。でもアイツらああ見えて結構獰猛だから、下手に手を出すとかじられるから気を付けな」
「わかりました。しかし、本当にコウキ様は何でも知っているのですね」
「こればかりは俺が一度経験したことだからね。めちゃくちゃ痛いから」
「そうなのですか」
「そうなんだよ、あの時は死を覚悟し―――.....ん?」
突然コウキの顔に何か当たった。サラとの会話に夢中で前を見ていなかった。
「これは......バナビだよな」
目の前の木には枝から吊るされているかのように黄色い実がなっていた。
「なんだよ、あったじゃん」
今まで見た木が大きかったためてっきり小さき木に成っていないとばかり思っていた。どうやらこの実はそこまで大きな木じゃなくても実るようだ。
「これが依頼のバナビですか」
「うんそうだよ。これがバナビ」
それはどっから見てもアケビだった。ただ違うのは黄色く、パックリと開いていないだけ。一つとってサラに渡す。サラは両手でそれを受け取ると珍しそうにバナビを突いたりしている。
もう一つを手に取り、マントの中からナイフを取り出し、縦に切り込みを入れる。すると中からバナナの香いがした。これがバナビ、アケビとバナナが融合したこの世界の食べ物である。切ったのをサラに渡し、サラの持っているのを受け取り切り込みを入れる。
「食べても良いですか?」
「どうぞどうぞ」
サラは皮を開いて中から実を取り出す。
「それでは.....甘くて柔らかくて、とっても美味しいです!」
サラは感嘆の声を上げる。
「そんじゃ俺も.....ううん、上手し」
中身はバナナの中身と似ているため手でつまんで食べることができる。ちなみに大きさはよくスーパーで見かける普段のバナナよりも小さいサイズと同じ大きさだ。
「もう一つ食べる?」
「お願いします」
サラはすっかり気に入ってしまったようだ。切り込みを入れて渡した。サラは再び中から取り出して先の方から口にする。サラの小さい口でバナビを咥えるように食べる姿が目に入る。
コウキは思わず生唾を呑みこむ。
なんつーの、その、え~っとあれだ。え、エロいんだよ。その食べる姿が。ただ普通に食べているつもりなんだろうけど、そんな棒を咥え――――俺は何を考えているんだ?単にバナナ――――じゃなくてバナビを食べているだけじゃないか。でもなぁあ~~~美人が食べると妙にエロティックに見えてしょうがないんだよ~こればかりは。
コウキの異変に気付いたのかサラが訊いてきた。
「?....どうしたのですか」
「え、あああいやなんでもない。さ、さあ~て。俺もおかわりしようかな。」
枝からとって速攻で切って実を口に運ぶ。
「ブハアッ!! マッズ!!」
俺が食べたのはまだ少し緑色の熟す前のバナビだった。依頼の目的であるバナビは熟す前の物を採ってくる内容だった。
「大丈夫ですか?」
サラは心配そうに駆け寄る。
「ああ、大丈夫だ......うぇ」
マントから水筒を取り出し、口をすすぐ。
「まあいいや、さっさと依頼をを完了させるかな」
皮袋を取り出し、まだ少し緑色のバナビを5つ採った。今回は数の指定がある内容だ。
「あの、この黒いバナビは?」
「これは完全に熟したバナビだよ。バナビは黒い斑点が出れば食べごろなんだ。で、次第に斑点の数は増えていって最終的に黒くなったバナビは、中が醗酵してお酒になるんだ」
「と言うことは酒ですか」
「うん、サラはお酒はイケるほう?」
「問題ありません」
「分かった。じゃあちょっと飲んでみな」
枝から採り、ちょっと切り込みを入れる。すると中から液体が漏れ出した。
「さ、どうぞ」
「いただきます....ング、ング、ング.....プハァ。美味しいです」
「じゃあ俺も....ブゥウウウウウウウ!!! キツッ!!」
余りのアルコールの高さに思わず噴き出した。口から綺麗な霧が吹き出る。
「大丈夫ですか?!」
「ガハッ、ガハッ.....よく飲めるね」
「そんなにキツくはなかったと思いますが」
その時コウキは口元を拭きながら思い出した。このバナビの酒はよくドワーフ達が好き好んで買っていると言うことを。
「......十二分に...キツいろ。さぁあてぇ、依頼はかんろうしたし戻ろうか」
ロッドろ取り出そうとしたとき、急に頭が突き刺すような痛みが俺を襲った。それに呂律は回らないし、ふらふらする。
俺、もう酔った、のか......?
頭では理解しているが身体が思うようにコントロールできない。
あ~まずい思考が.........
「コウキ様?!」
「ら、らいじょぶ」
と言いつつもふらふらの状態でロッドをかざした。
その後何とかギルドで依頼報告はできたが、終った頃にはもうコウキは酔いが回ってしまっていて、まともに歩ける状態ではなかったのでサラはコウキを支えながら宿へと戻った。宿に着いはいいが周りに従業員がいなかったためサラはコウキをおんぶして上まで運んだ。
「コウキ様、部屋に着きましたよ」
背中におぶさっているコウキに話しかけるがイマイチ反応が無い。
サラはコウキをベッドまで運んでゆっくりと寝かせた。マントと眼鏡は外し、テーブルの上に置く。
「どうするべきか......」
ベッドの上で寝ているコウキを見て悩む。
こういう時は何をすればいいのか。このまま寝かせるべきか、いや、ここはコウキ様が快適に寝れるようにお着替えをしなくてはならない。
「失礼します」
サラは無理やり上半身を起き上がらせ上着を脱がす。衣服の下からコウキの素肌が現れた。サラの手は思わず止まる。前に一度風呂で見たことはあったがここまで直にじっくりと見たことはなかった。魔法使いであるから身体は中肉中背だと思っていた。しかし、コウキの身体は以外にも引き締まった体をしていた。あと付け足すなら今のコウキは中途半端に脱がされているためバンザイしているようなおかしな恰好でいる。
「....はっ! 我は何を」
再び上着を脱がし始める。上着を脱がし終わり再び上半身を寝かせ、靴下を脱がしてそのままズボンのベルトに手を掛ける。ベルトを外しズボンを脱がした。これでコウキはパンツ一丁になってしまった。サラは脱がした服を畳んでマントと同じくテーブルの上に置いた。
クローゼットから寝巻を取り出した。
サラがベッドに座って、寝巻を着させようとした瞬間――――。
「わぁあ!?」
コウキは思い切りサラの腰に抱きついた。そしてそのままサラをベッドに倒した。
「こ、コウキ様! コウキ様!!」
「う~ん」
コウキはまだ酔っている。サラは何とか腕を解こうとするが外れない。
「コウキ様~お願いです放してください~」
「や~~~わ~~~ら~~~か~~~い~~~~.......」
コウキはサラの胸に顔を押し当てる。胸にコウキの顔の感覚が伝わる。
「お、おやめください、コウキ様~」
顔を真っ赤にしながら訴えるがまんざらでもない様子である。この時、前にも似たようなことがあったのを思い出した。しかし、そんなこと今の状況ですぐに掻き消された。
パンツ一丁の男が女性に抱きついている姿は、傍から見ればただの変態が襲っているようにしか見えなかった。
数分後、サラは何とかコウキから解放され、素早くコウキを寝巻に着替えさせた。サラはコウキが起きるまで待っていたが太陽が沈んでも起きる気配がなかったので、一人で夕食を済ませてその日は終わりを告げた。
翌日、朝8時。
「ふぁあああああああああん........あ~よく寝たぜ。ってあれ、なんで部屋で寝てるんだ?」
俺がベッドの上で言っていると、サラが脱衣所から戻ってきた。
「おはようございます」
「あ、おはよう。ねえ、俺に昨日何が起こったの?」
「昨日でございますか、それはもう大変だったのですよ?」
「いったい俺に何があったと言うんだよ」
「それについては下の食堂でゆっくりしながらお話しいたしますので」
「....分かった。速攻で着替えるからサラは先に行って場所とっておいてくれるかい?」
「はい」
サラは部屋を出て行った。コウキは猛スピードで着替えを済ませて部屋を後にした。
「――――なるほどねえ、俺が酔って........すまなかったね」
食事をとりながらサラから一通りの事情は聞いた。
まったく俺としたことが、情けない。
「いえ、そんな大したことではありませんでしたので」
「そうか。俺さ、なんか変なこととかしなかったかな?」
その瞬間昨日のベッドの上での出来事がフラッシュバックする。
「い、いえ。大丈夫、でしたよ。酔ってそのまま寝ていただけですよ」
「そっか、なら良かった」
コウキは再び食事に戻る。
さすがに抱きついてきたなんて言えない。言ったら何が起こるのか我には分からない。
「どうしたの?ぼーっとして」
「いえ、なんでもないです」
「そうかい。あ、そうそう、今日の予定なんだけど」
「何でしょうか?」
「今日は討伐にするつもりなんだけど、どう?」
「解りました。」
「何時頃行こうかなあ........10時くらいになったらギルドに行こう。」
「はい」
食器を片づけて部屋に戻った。時間まで余裕があったので部屋でサラと談笑して暇を潰した。
最近外から鈴虫の鳴き声が聞こえなくなりました。なんだか寂しく感じます。




