十話 なんだかんだでデートな観光
翌日、宿で昼食を済ませたコウキ達はフォッシルを観光している。中央都市は宿から離れているため、昼食後すぐに中央都市まで行った。
ここもだいぶ復興が進んでいるのか壊れかけている建物はあまり見当たらない。しかし完全に詰め跡を消したとは言えないが、二年前に比べたらだいぶ良くなっていて安心した。
鍛冶の国と呼ばれているため道中幾つもの建物から金属を叩く音や煙突から煙が出ている。この国にはこういった建物が数多く存在しており武器や魔力反応石を加工する施設を〝工房〟と言っている。ちなみに女将さんの旦那であるゲイルも職人で自前の工房で武器や防具を作っている。宿内にあった装飾品は全てゲイルが作った物である。
さすがドワーフと言ったところだ。何でも自分で作ってしまうのがすごい。
進み始めて1時間半が経過した。中央都市に近づきにつれて工房の数が目立たなくなり、次第に店の数が多くなってきた。
「見てみな、あれ」
コウキが指差す方向を見るとそこには立派な城が立っていた。
「おお、大きすぎて気づきませんでした」
「あの城がこの国の王様が住んでいる『フォッシル城』だよ」
フォッシルの由来はこの国を治めている王家の名前から来ている。ちなみに現王の名はガイウス・アース・フォッシルと言う。
この城は国を360度見渡せるようになっていて、上から見るとこの国はドーナツ型となっている。穴のある部分にはフォッシル城、ちょうど上の外側の縁にはヘドロン鉱山がある。国全体を分布すると、中央の王宮から外へと広がっていくことに人口や建物の割合が少なくなっている。開拓地が6割で未開拓地が4割である。ちなみに俺達が止まっている宿はちょうど、自然と街の中間に位置している。
「立派な城ですね」
「ああ、いつ見てもこの城はデカイ」
城を眺めながら中央都市へと向かって行く。次第に周りには大きな建物が目立つようになってきた。魔力反応石の加工店や衣服、飲食店、当然武器屋が数多く見られる。それに中央都市だけあって人で賑わっている。いたるところから屋台や露天商の客呼びの声が聞こえる。
あ~すげえ。なんだろこの感じ。.....あ、そうかお祭りだ。
沢山の人で賑わうこの光景と活気のある雰囲気は、まさに日本の夏の風物詩である夏まつりの様なわくわく感がコウキを襲う。もちろんこの世界にもお祭りは存在する。しかし今の状況はまさにお祭りだ。ジハードとはまた一味違うこの空気はとても新鮮だった。サラを見ると彼女も同じなのか一際目を大きく見開いている。
「すごい盛り上がりようですね。見ているだけで楽しくなります」
「全くだ。俺らもなんか買ったり食べたりしようか」
「よいのですか?」
「大丈夫だよ。今日はこの国を観光しようじゃないか。サラは初めてなのにいきなり依頼はさすがに可愛そうでしょ。せっかくだし大いに楽しもう」
「ありがとうございます、コウキ様」
頬肉を上げて目を細めてほほ笑む彼女はとてつもなく可愛かった。
「さ、さあ。行こうか。どこに行きたい?この辺の地理は少しなら分かっているから」
不自然に眼鏡の位置を修正する。
「そうですねぇ。ここの事は全くもって分かりませんので、コウキ様にお任せしてもよろしいでしょうか?」
「いいけど、何せ最後に来たのは2年前だから俺の知っている店とか場所はあんまし覚えてないけど。まあいいか、適当に歩いていれば見つかるか。とりあえず行こうか」
「はい」
コウキとサラは中央都市の中を観光した。
人々が行き交う中、ある店が目に入った。その店はこの辺ではなかなか古い建物だった。看板には『鉱石専門店』とだけ書かれている。こういう店に限って安くて上質な物が売っていると言うものだ。
「サラ」
後ろにいるサラに声を掛ける。
「なんでしょう?」
「あの店に行きたいんだけど。いいかな?」
「大丈夫です」
「分かった」
2人は行き交う人の間を巧みに避けながらその店に向かった。
「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」
入ると初老の店員であるおじさんがいた。
店内はコンビニくらいの広さで、商品でごちゃごちゃしておらずキッチリと整頓されている。また、店全体が落ち着いた雰囲気であるためじっくりと商品を吟味できそうだ。
俺は早速目的の物が置いてある場所に向かった。そこには魔力蓄積鉱石の腕輪が陳列してあった。サラとの戦いで壊れて以来新しいのを買う予定はなかったのだが、せっかく来たのでいい物を買うことにした。
棚には大小様々な大きさの鉱石が置いてあり、腕輪の物から鉱石のみのも売っている。
どれにしようか迷うなあ。そこまで大きな物でなくていいから、ちょうどいいサイズの物は置いてないだろうか。
陳列棚を眺めていると―――。
「あった」
棚の下の方に『C』の形の腕輪を見つけた。手に取り確認する。
とても軽く腕に着けていても違和感はない。それに鉱石自体も小ぶりで大きさから2~3cmくらいだで、俺にとってはちょうどいい。
腕に着けて眺めているとサラが訊いてきた。
「この赤い宝石見たいのはなんですか?」
サラの方へ向かうと、サラは約5cmの鉱石を持っていた。
「初めてかい?」
「はい」
「分かった。じゃあ簡単に説明するね」
魔力反応鉱石または魔石と言う。これは鉱物も含まれており魔力に反応する全ての鉱石、鉱物の事を指す。今サラが持っているのは魔力反応鉱石である。鉱石と鉱物にはある特徴がある。それは名前から分かるように魔力を与えると何かしらの反応属性ごとに示す。
サラの持つ鉱石は赤色のため火属性の鉱石であり、それぞれ属性ごとに色分けされている。俺の持っている発光水晶も鉱石だ。これらはこの世界での生活にとって必需品である。
ランプやキッチン、各々の属性魔法の威力増加など様々は分野で、多くの場面で活躍している。
「―――なるほど」
「うん。あ、そうだ試にやってみるか」
「〝やってみる〟?」
「すみません、コレためしに着火しても良いですか?」
「はい、構いませんよ。ただし気を付けてください」
「ありがとうございます」
コウキはサラから鉱石を受け取り手のひらの上に乗せる。鉱石に魔力を注ぎ込む。すると鉱石から小さく炎が出た。
「これはすごい」
「だろ、この炎は俺が出しているから平気だけど他者が触れると間違いなくやけどするから注意してね」
「はい」
炎を消し、もとの場所へと戻した後、会計を済ませ店を出た。再び人ごみの中に入る。
再び歩き始めて数分後。
「次は何処か行ってみたい場所解かない?」
「いえ、特にありません」
「そうかあ....そうだ。サラはアクセサリーとかそういうのは興味無いの?」
「すみません。残念ですが、そういう身の回りの装飾品には興味はございません」
「なんだ。でもさ、寄ってみる価値はあるんじゃない?行ってみると意外と興味をそそられる物があるかもしれないよ」
「そ、そうなのですか?」
「ああ、行ってみないと分からないからねってことで行きますか」
次に向かった先は、魔力に反応を示さない鉱石を加工して販売しているアクセサリー店に入った。
店内はさっき入った店と変わりない広さだが、扱っている物が物だけあって妙に洒落た店内だ。商品棚にはアクセサリーがびっしりと陳列してある。指輪からネックレス、イヤリングに髪飾りなど沢山並んでいる。また、俺たち以外にも女性客が数人いた。
「すごいな、初めて入ったよ」
「私もです」
「なにかいい物ないか見よう」
「はい」
こうしてアクセサリー店初心者二人は店内を見て回った。
色とりどりの鉱石が目に映る。
「ほう、これはなかなか綺麗だな」
薄水色の透き通った指輪が目に入った。
「ねえ、サラは何かいい物あった?」
「いえ、特に」
「そっか。じゃあもう出る?」
「いえ、その、できればなんですが.....」
突然かしこまった風にサラは言った。まあいつもの事だが。
「なに?」
「実に身勝手ながら一つ頼みごとが、あるのですが」
「いいよ、なんでも言って」
「で、では、ええっと、こ、コウキ様に選んでいただいてもよろしいでしょうか?」
サラは少し俯きながら言う。
「え、俺なんかが選んでいいの?」
「はい、コウキ様が選んでいただいた物であれば......」
後半の声が小さくて聞き取れなかった。
「そうか、解った。んじゃそうしようか」
「あ、ありがとうございます!」
サラは勢いよく顔を上げる。
「う、うんでもあんまし期待はしないでおくれよ」
「え、あ、はい」
コウキはサラに合うアクセサリーを探した。
一体何を選べばいいのだ?指輪、ピアス、髪飾り、ネックレス...生まれてこの方25年、俺は女の子の好みと言うものが全くもって分からない。どういう傾向のものを好むのか、さっぱりだ。マズイ、これは完全に詰んだ。ただでさえ、彼女いない歴と年齢がイコールで結ばさってんだぞ。
コウキが悩む横でサラはわくわくしていた。コウキから「期待はするな」と言われたがやはり期待してしまうのは乙女の性と言うものなのか、胸が高鳴る思いがした。
真剣に悩むコウキの姿を見ていると、コウキは右手を伸ばした。
何が良いだろうか。アクセサリーだからな~、戦闘の邪魔にならない程度にいい物はないだろうか。まず考えたのは指輪。これは武器を握るときに邪魔になるから駄目だな。次にピアス。普段耳を隠しているし、これじゃあ付けても付けなくても同じだから駄目。
髪飾り、遠距離ならいいが彼女は接近戦だから無くすか破損する恐れあり。となると、残すはネックレスか。首から掛けるだけだし、戦闘の際は服の下にでも入れておけば、たぶん問題はないだろう。よし、これだ。
右手を伸ばし、小さな赤い鉱石の入ったネックレスを取った。
「これなんてどうかな?」
サラにネックレスを見せる。サラはそれを手に取って見る。
「....綺麗ですね」
瞳を輝かせながら呟く。
「これにする?」
「はい、コレにします」
「そっか、それは良かった。俺は先に外で待ってるから会計済ませきな」
「はい、コウキ様」
サラはカウンターへと向かった。
コウキは店の外に出て空気を吸う。
「ハァア~」
あんなに頭を使ったのは久しぶりな気がする。
二回目の呼吸を終えた時、サラは店から出てきた。
「お待たせいたしました」
小さな紙袋を片手に笑顔で戻ってきた。
「ちゃんと買えたようだね。ねえ、せっかくだから今ここで付ければ?」
「今、ここで、ですか」
「うん」
若干戸惑ったサラだったが意を決したのか紙袋を開け、中からアズキタイプで銀色のチェーンに小さく輝く赤い鉱石をあしらえたネックレスを手に取り、留め具を外し首の後ろに両手を回す。
「どうでしょうか?」
胸の上には赤い鉱石が乗っている。鉱石は太陽の光を受け輝きを増している。
「とても似合っているよ」
「あ、ありがとうございます」
サラは頬を桜色に染めてほほ笑む。鉱石よりも彼女の笑みの方が数段眩しかった気がした。
さてどうするか。俺は買い物を済ませたし、サラも済ませた。このままぶらっと観光を続けるのも良いし、宿に戻って残りの時間をゆっくり過ごすのも良い。
「あのさ、この後どうする?」
「どうするとは?」
「いや、この後どうしようかなあと思って。何処か希望はない?」
「う~ん....あの、できればこのままもう少し色々見て回りたいです」
「そうか、分かった。じゃあもう少し見て回ろう」
俺達はフォッシルの観光を再開した。
城に近づくにつれて行き交う人の数がさっきよりも増す。先頭に俺、その後ろにはサラがいる。サラは後れを取らないようにしているがコウキはどんどん前に行ってしまう。
「あの、コウキ様、待ってください」
サラの声がして振り向くと1メートルほど遅れてサラが追い付いてきた。
「ああ、ごめん」
「いえ、私が遅いのが悪いのです」
「そんな謝るなよ、サラの事を考えないでいた俺が悪いんだから」
「コウキ様が謝る必要はございません」
「う~んそうかなあ。サラがそれでいいならいいけど」
再び歩き始めた時だ。
「あ、そうだ」
サラに左手を差し出し、そのまま彼女の手を掴む。
「あ、あ、あの、コウキ様、これは!?」
突然のことで動揺した声を上げる。
「迷子にならないようにと思ってね。いやだったらやめるけど。」
「いえ、そんなことございません!!」
妙に気合いの入った声で答える。
「あらそう、じゃあこのまま行こう」
コウキが進み、2歩後ろから手を引かれるようにサラが歩く。
その頃、サラの頭の中はパニックを起こしていた。
はわわわわわわ――――――――!!! こ、コウキ様とて、ててて手を繋いでいる。どうしよう、我は何をすればよいのだ?!ただ遅れて歩けばよいのか?それとも何か気の利いた事を話せばよいのか?全くもって手も足も出ない。お、落ち着け。きっとコウキ様の事だ特に我には求めていないに違い、うんそうだ。......でも、コウキ様の手、とても大きくて、暖かい。
そのとき、ちょっとだけ繋いだコウキの手を強く握ったことは秘密だ。
歩き始めて十分が経過した。その間いろんな建物を見た。やはり中心地は復旧作業が完了していたためどの建物も新品同様の姿を多く見ることができた。
外側と比べて内側は綺麗になっていることから、この姿に戻るのに相当時間と金を有したことが伺える。そんな考査をしながらある所へと向かう。
目の前に階段が見えてきた。コウキはそのまま階段を上り、サラも手を引かれるように上る。緩い螺旋を描きながら登って行く。するとようやく階段が終わったかと思うと目の前には広大に広がる建物と森、山が目の前に広がる。
「わぁあああああ、すごい」
サラは感嘆の声を上げる。
「だろ。ここは展望台で、いくつかあるんだけど特にここは俺のおススメの場所なんだ。」
「最高の眺めですね」
「最高なのは昼だけじゃないぜ、夜になるとこの辺一帯が建物の灯りで綺麗に輝くんだ」
夜景はこの国の名物でもあり、多くの旅人や観光客は必ず夜になると展望台から眺める。
俺も最初見た時はビビった。前の世界でも多くの夜景スポットはあったがこの世界の夜景ははるかに凌駕する。機械で作られた無機質な灯りでなく、ちゃんと生きた灯りを見ることができる。
「近いうちに見に行こうか」
「是非お願いします」
その後しばらく街を見渡した。遠くで煙突の煙がゆらゆらと空に昇っている。秋の渇いた青空には雲一つ見当たらない。太陽は3時の位置に傾いている。静寂が2人を包み込む。
こうして、のんびりとただ眺めるのも悪くないな。サラの方を見ると同じ気持ちなのかなんだかリラックスした表情でいる。
その時、冷たい風が吹いた。
「さみっ!」
「確かに、今は少し寒かったですね」
サラは街から俺の方に顔を向ける。
「ねえ。今日は、この辺にして宿に戻ろうか。本当はもっと見て回りたかったけど時間も時間だし。これ以上回ると宿に着くころには太陽が月に変わっているよ」
「そうですか、解りました。今日はありがとうございました」
「いやなんの。ところで楽しめたかな?」
「はい、楽しかったです」
サラはほほ笑む。
「良かった。じゃあ宿に帰ろうか」
コウキが階段に向けて歩いた時だった。無意識のうちに繋いでいた手を放した瞬間。
「あっ........」
サラは思わず声が漏れてしまった。
「ん?どうした?」
「い、いえ。何でもないです」
サラは少し名残惜しそうに右手を見つめるもすぐにコウキの跡を追った。
宿に戻ったとき、太陽は沈みかけていた。なんだかんだあの後、いくつか寄り道をした結果こんな時間になってしまった。
コウキ達は食堂で夕食を取った。この日のメニューは山で採れた、きのこと野菜のカレーライスっぽい料理だった。
部屋に戻り入浴を済ませ残すところあとは寝るだけとなった。ベッドに寝そべり明日の予定を確認する。
明日は一度ギルドで依頼を受ける。依頼は簡単な依頼をいくつか受けてみようと思う。
観光もしたいがまずはこの国の自然に触れるのも大切だ。この辺にはこれまでとは別の種族の生物が沢山生息している。サラにはこれから多くの自然や生き物、文化に触れてほしい。
「サラ、もう寝るけど、灯りを消してもいいかな」
「はい。私が消します」
「すまないね」
サラは部屋の灯りを消した。
消した途端一気に部屋の中が暗くなる。これが今日入った中央都市だとカーテンをしていても店の灯りで部屋が一気に明るくなる。
「あ~眠い。おやすみ、サラ........」
「お休みなさいませ」
コウキが寝た後、サラは枕元に置いてあるネックレスに手を伸ばす。人差し指で鉱石をなでる。
初めて買ったアクセサリー。初めて異性の方が選んでくれたアクセサリー。大切な人が選んでくれた大切なアクセサリー。無理を言って、真剣に選んでくれた物だ。大切にしたくてはならない。
ネックレスを握った時、手を繋いだ瞬間が蘇った。ネックレスを放し、まだぬくもりがあるのか右手を軽く握っては放し握っては放しを繰り返す。小さく拳を作ると左手で拳を包み込む。
今まで感じたことの無い感覚だった。もしかしたらあれが人の温かさだったのかもしれない。するとなんだか心がほっこりし始めた。
その後サラはそのまま寝てしまった。
月がまるで秋の始まりを告げるかのように地上を照らす夜の事だった。
しゃぶしゃぶで豚肉とおろしポン酢の相性の良さに気付き始めた今日この頃です。でもゴマダレ派です。




