九話 鍛冶の国。その名はフォッシル
サラと生活し始めて1ヶ月が過ぎ、2か月目に突入した。季節はちょうど秋頃だ。この世界でもしっかりと季節は4つに分かれているし、1月~12月まで転生前の世界と共通している。
だいぶこの生活に慣れてきたみたいだし。そろそろ新しい地で新しい生活も悪くないと思う今日この頃。
彼女には多くのモノを見て感じてほしい。ちょうど季節の変わり目だし移動するにはちょうどいい。サラの意見も聞いてみたいところだ。
「ねえ、そろそろ次の国に行こうと思うんだけど、どう思う?」
ソファーの上でお茶をすすっているサラに声を掛けた。
「次の国、ですか。なぜ急に?」
「この国の他にもいっぱい国があるし、この国以外の国に行ってみたいとは思わない?他の国に行けばまた一味違った体験ができるかもしれないよ?」
「そうですねえ。他国に行くことで、より見聞を広めれると言うことですか」
「その通り、それに最初に俺がサラに「一緒に世界を観ないか」って言ったの覚えているかい?」
「え、ええ。断片的にですが....」
「だから、俺はキミには多くの世界を観て欲しいのはその為さ。」
「そこまで私のことを思ってくださっていたとは......」
サラは、まるで神でも見るかのような目でコウキを見る。
「じゃあ決まりでいいね。出発はそうだなぁ、明日にでもどうかな?」
鉄は熱いうちに打てと言う言葉もあるくらいだ。気が変わらないうちに移動する方がいい。
「はい、問題ありません」
「んじゃ、そういうことで。今日はゆっくりと過ごそうか」
ソファーから立ち上がりドアの方へと向かう。
「何処かに向かわれるのですか?」
「ちょっと女将のエレナーダさんの所へね。明日この宿を出ることを伝えとこうと思って」
「かしこまりました」
「留守番よろしく~」
「行ってらっしゃいませ」
サラの見送りでカウンターにいるエレナーダさんの所へと向かった。
コウキが部屋を出て行ったあと。サラは再びお茶をすする。
「はぁ・・・・。新しい国。一体どんな国なのだろうか」
窓の外を眺める。
今のサラの頭の中は次の国の事でいっぱいだ。何せこれまで魔界に居て、いざ人間界に来てもあの古びた城にこもっていたためサラにとって新しい国に行くと言うことは未知の体験となる。気分はまさに遠足前の小学生の気分そのものだった。
「ただいまー」
10分後、コウキが戻ってきた。
「お帰りなさいませ」
部屋に戻るなり、ソファーにふんぞり返る。
「どうかなさいました?」
「いや、ちょっとリリーに捕まってね」
「あの子むす-------女の子ですか」
「......うん」
遡ること7分前、エレナーダに明日の昼にはこの国を出て再び旅に出ることを報告し終えたた直後の事だった。
「それじゃあ、そういうこと何で。またよることがあればよろしくお願いします。」
部屋に戻ろうとした時だった。
「お兄ちゃんまた行っちゃうの?!」
いつの間にかリリーが居た。
まずい、今の話聞かれてたみたいだ。
「ああ、そうなんだ。」
「え~なんで?ずっとここに居てよ!」
碧い瞳を潤ませながら訴えかけてくる。
「それはできない話だ。俺はハンターであり旅人なんだ。だから一か所に留まることはしない。解ってくれ、リリー。」
「やだ、またお兄ちゃんと離れ離れになるなんて寂しいもん!!」
途中でエレナーダがリリーを止めに入るがリリーは落ち着く気配はないと解ったエレナーダはリリーを一喝し、その後ふてくされたように奥へを行ってしまった。
エレナーダに謝られた。なんだかコウキも悪いような気がして一応謝った。
「――――――と言う分けなんだよ」
「それはまた大変でしたね。放っておいてよろしかったのですか?」
「エレナーダさんが「それでいい」って言ってたからね。と言うか、お年頃の女の子は難しいねぇ」
「そうですよ、コウキ様」
「お、言うねえ。サラもやっぱり昔はあんな感じだったの?」
「今はよく覚えていませんがよく周りに迷惑かけていたそうです」
「サラがねえ。想像もつかないよ」
「コウキ様はどういらっしたのですか?」
「俺?俺はしょっちゅう外で虫取りや運動して遊んでいたよ。でも、無茶ばかりしてそのたんびに母さんに怒られていたけどね」
「ふふっ、コウキ様ってやんちゃだったんですね」
「まあね。常に遊ぶことしか頭になかったよ」
「そうなのですか。いいですね」
「そういうサラはどういう遊びしていたの?」
「私は常に訓練していたのであまり遊んだことは無いです。覚えている限りでもほんの数回、ですかね」
「そうなんだ。遊びたかっただろう?」
「いえ、それが当たり前だったので特に苦に思ったことはありません」
「そっか。じゃあさ、近いうちにでもどこかに遊びに行こうか」
「ど、どこで遊ぶのですか?」
「それは別の国に言った時に考えよう。それぞれ国には独自の文化が備わっているからね。観光しながら何か美味しい物でも食べて、満喫するのもいい」
「それはさぞ楽しいことでしょうね」
目を輝かせる。
「ああ、そうさ。旅にはそういう楽しみがついているからね」
「とても楽しみです」
サラはほほ笑む。
「ははっ、そうだね」
サラの笑みを見てだけで気持ちが和むコウキであった。
その後、夕食を済ませ、俺達は就寝した。
翌日、午前11時頃コウキ達は宿の前にいた。荷物は全てコウキのマントの中に入れているためほぼ手ぶらの状態だ。
「まずは関所に向かおうか」
「はい」
宿に背を向けた時だった。
「お兄ちゃん」
振り返るとリリーが立っていた。
「やあ、リリー。見送りに来てくれたのか」
「うん......その、昨日はごめんさい」
リリーはその小さな頭を下げた。
「いいんだよ、誰だって会えなくなるの寂しいかに決まってる。俺だってリリーに会えなくて寂しいんだよ」
「そうなの?」
瞳に涙を溜めて見上げる。
「ああ、そうだよ」
しゃがんでリリーの目線を合わせる。
「大丈夫、またここに戻ってくるから。その時までしばしのお別れだ」
リリーの頭を撫でる。
「ううっ、絶対だよ」
リリーは抱きついてきた。
「約束する。絶対だ」
小さなリリーの背中をゆっくりと撫でる。少ししてリリーは離れた。
サラとリリーの視線がぶつかる。しかしそれはすぐに終わりいつも通りの笑顔でコウキを見る。
「がんばってねお兄ちゃん、おばさん」
「おう、元気でな。さぁサラ行こう」
「はい。コウキ様」
コウキの跡をついて行く。サラが再び振り返った時リリーと目が合った。それは敵意の眼差しでは無くお互いを好敵手として認めたかのようだった。
関所へ向かう途中サラは訊いた。
「あの、コウキ様」
「なに?」
「なぜわざわざ関所へ向かうのですか。転移魔法を使えばよろしいのでは?」
「ああそれはね―――――」
国に出入りする際パスポートが必要となる。この世界の場合、パスポートの役割を果たすのがハンターに支給されるカードである。ここの国を出る際必ず関所でカードを見せ、出国の証となる、魔法のハンコを押される。
これがないといざ入国する際に関所で見せた場合出国の証が無いため不法に出国したとみなされてしまう。そのならないためには面倒くさいが関所で出国のハンコを押してもらう必要がある。ギルドでも確認されるため誤魔化しは利かない。ちなみに商人や一般の人でもパスポートのカードは申請すれば手に入れることができる。
「なるほど、正式な手続きをしなければならないのですね」
「そうなんだ。ここは比較的中心地に近いから関所まではそう時間はかからないよ」
「解りました」
三十分後、関所に着いた俺達はそれぞれハンターカードを見せて、ジハードを出た。さすがにすぐそばで転移魔法は使えない。もし知らない人に見られた場合色々と面倒なことになる。したがって少し離れた森の木陰で魔法を発動することにした。
「さて、この辺でいいや。サラ、何処か行ってみたいところかないかい?」
「う~ん、悩みますね。....武器、なんかを多く扱っているところとか、ありますでしょうか?」
「武器かあ、そういえばここから数十キロ離れたところに鉱山のある国が在ったな。そこなんてどうだ?」
「構いませんが、どのような国なのですか?」
「簡単に言えば、鉱山からとれる鉱物で沢山武器を作っている国だよ。その名も〈フォッシル〉。通称〝鍛冶の国〟とも呼ばれている国さ」
「そんな国があるのすか。それは是非とも行ってみたいものです」
「決まりだ。早速行こうか」
サラを引き寄せロッドを空にかざす。すると魔法陣が現れ、魔法陣は二人を呑みこむように降りて行った。
転移し終わった俺達は高台の上にいた。目の前には広大な国が広がっている。
国の周辺は自然に囲まれていて、山がちらほら点在している。その中でも一際目立つ山がある。その山こそがこの国を支えていると言っても過言でない鉱山、へドロン鉱山と言う。この鉱山からは武器に使う鉱物が多く採れるほか、発光水晶、魔力反応鉱石など、生活必需品も取れる。もちろん周辺の山からも取れる。当然国土面積は広い。
この国は採れた鉱物を加工し他国とその品を貿易しているため、財も多く非常に豊かな国として知られている。
ここで注意してほしいのはあくまでも武器の鍛冶、鉱物の加工の様な技術職のレベルが高いのであって武器を作っているからと言って国自体の交戦力が高いわけではない。しかし、国全体が持つ力は大陸2位を誇る。
「わぁあ.....すごいですね!」
「だろ、ココからだと国全体とはいかないけど、見渡すことができるんだ」
「ジハードとは違い雰囲気が違いますね」
「違うのは見た目だけじゃないよ。国内も全く違うからさ。ここからだと関所まで行くのは時間かかるからまた転移しよう」
「はい」
俺達は再び転移した。
転移した場所は関所から若干離れたところに着いた。
「さてと、着いたことだしてっとり早く関所を通って宿を取ろう」
「はい」
歩くこと五分後、俺達は関所でハンコを押してもらいフォッシル国内に入国することができた。
「やっぱいつ来てもここは賑わっているなぁあ」
現在俺達は宿舎街にいる。見渡す限り人でいっぱいだ。ジハードの時よりも人口密度が多いのを感じられる。
「あの」
「なに、サラ?」
「武器の国と言う割には武器屋の数はあまりないのですね。先ほどから鉱石を売る店ばかりなのですが」
「この国は確かに武器を多く取り扱っている国でけど、この国では武器は他国との貿易で扱っているから、自国ではあまり武器とかの店の数はジハードとそんなに変わらないよ。もちろんそのほかの金属品もね。でも中心地に行けば鍛冶の工房があるからここよりは武器屋の数は多いよ。」
「そうなのですか。私はてっきり武器のみを扱っているだけの国だと思っていました。」
「確かに〝鍛冶の国〟と聞けば武器屋を思い浮かべるのも無理はないね。」
そうこうしているうちにコウキお気に入りの宿フォッシル支部に着いた。
「これからしばらくはこの宿で過ごすことになるから」
「はい」
宿に入った。玄関から甲冑の置物やインテリア用の武器が目に入った。
相変わらず宿は個性が出てるな~。
ロビーに入り真っ直ぐカウンターへと向かう。
カウンターの前に着いたのはいいけれど誰もいなかった。辺りを見渡してもいるのは他の宿泊客がちらほらいるだけだ。
おっかし~な~。まあいいや。
カウンターテーブルの上にある呼び出しベルを鳴らす。すると奥の方から中年のおばさんの声が聞こえた。
「お待たせしてすみません。あら、コウキじゃない」
「ども、ランさん。お久しぶりです」
カウンターには小さなおばさんがいた。その見た目はとても中年には見えないほど幼く、年齢は20~25歳の女性に見える。しかし声はどう聴いてもおばさんそのものだ。耳もエルフの様に尖っている。
「久しぶりじゃない、元気だった?」
「はい、この通り。紹介しますね。新しい仲間の―――」
「初めまして、私はサラフォンティール・アンブラ・レインアントと申します。」
「これはご丁寧にありがとう。私はこの宿の女将のランと申します。よろしくね」
ランはにこやかに返す。
「さっそく宿泊の手続きをしたいんですけど、空いてある部屋ありますか?」
「ええ、大丈夫よ。何泊するつもり?」
「そうですねえ、とりあえず一週間分でお願いします」
「分かったわ。じゃあ値段は二人で42000ゴールドね」
7泊で42000ゴールドは安い。一人3000ゴールドはこの辺ではかなり良心的な値段だ。中心の都市だと一泊40000ゴールドは普通だからな。
マントから袋を出してランにちょっきり42000ゴールドを渡した。
「これは部屋の鍵と番号ね」
受け取ると2階へと続く階段へと向かった。
これからお世話になる部屋は2階の端から3番目の部屋だった。鍵を開け中に入ると、意外室内はすっきりしている。部屋以外のすべてはこの宿の主人の趣味と言うか個性がにじみ出ているが部屋は普通の宿の部屋と変わらない。これは奥さんのランがご主人のゲイルに何とか部屋だけは〝まともにしてくれ〟と説得したそうだ。
ちなみに部屋はベッドが2つある部屋を借りた。別に下心があるからそうしたわけではないぞ。一部屋にするには理由がある。それはトラブルに遭遇したときに備えるためだ。
いつ何か厄介事があるか分からない。昔勇者と共に行動していた時に何回もトラブルに遭遇した。その際互いを安否を確認するためには別れて二部屋にするよりも、常に互いを認識できる一部屋の方が行動しやすいためだからだ。なんども言うぞ、トラブルに備えるためだ。
「ふうぅ.....」
入るなり早速マントを脱ぎ、ソファーに座る。サラも隣に座った。
「訊きたいことがあるのですが」
「なんだい?」
「先ほどの女将は何者なんですか?見た感じエルフと似ているようでしたが」
「サラはドワーフに会うのは初めて?」
「はい、直接会うのは」
「そっか、それじゃあこの国に居るドワーフのついて説明するよ」
「お願いします」
ドワーフまたはドワーフ族と言われ亜人とは全く異なった完全個別の種族である。
彼らの特徴は背が小さく手先が器用な種族。男性は筋肉質で立派な髭を蓄えている。女性は見た目ほどではないが引き締まった身体をしている。身長は男女平均150~165cm。また、男性は成長していくごとに顔にしわが濃くなり実年齢よりも老けて見られる。
逆に女性はエルフに似て見た目には目立った成長は見られない。彼らは高度な加工技術を持っており種族の大半は鍛冶職人で店を経営している。または鉱石の発掘にも就いている。ちなみに、この国の人口の4割はドワーフが占めている。
しばし、エルフとは対立の関係にあると思われがちだが、実際の仲は良い。『土』の魔法を得意とする。酒に強い。
「――――――という分けなんだよ」
「さすがコウキ様です。とても分かりやすい内容でした」
「そりゃどうも。この宿には他にも何種類かの種族が従業員として働いているから興味があったら何でも訊いてくれ」
「はい、そうします。」
サラは笑顔で言う。
説明も終わった事だし。なんだか腹が減った。そういえばまだ昼食は済ませてなかったな。
「ねえ、サラこれから昼食を取りたいんだけど。サラはどう?」
「問題ありません」
「わかった。多分下でまだランチはやっていると思うから行こうか」
「はい」
こうして2人の新たな国での生活は始まった。
グルメ旅行をしてみたいです。




