第7話 秒針が行方不明
――『俺、お前みたいな女一番キライ。のろまで泣き虫、それに地味。馬鹿なんじゃねーの』
緑色の板がきしみんだ音をたて、退屈な時間を一層退屈にした。
…そんななか、蘇るあの頃の記憶。
『ユウ、やめとけよ。かわいそうだから』
『は?ハルは、こいつの味方するわけ?』
『悪い?』
優しかったハル。
刻、一刻と音をたてる秒針。
それはバラバラになったあたしたちを唯一繋ぎ止めるもの。
花をたくわえた実が、ひそかに開花した―――4月。
儚くはじまり、虚しく終えた半年前。
『なんか俺……、あんたにすげー振り回されてる気がする』
『だって、振り回してるもん』
『言ったなおい』
『やめろよ、二人とも。授業中だって』
あんなに嫌いだったはずなのに。
…はずなのに。
その想いはいつの間にか変わった。
『何、してんだよ』
『何って……、体育から逃亡?』
はじまりは、雨の日。
息を切らすユウ、珍しくハルの姿はない。
『心配させんなバカ』
『え……っ?』
息を呑むほどの衝動。
それは雨を巻き上げて、二人を焦らせる。
『好き、なんだよ』
嘘。
……何、言ってるの?この人は。
『冗談、だよね?』
雨音にかき消される声。
それがユウに届いたかはわからない。
だけど、彼は声にならないような声で、口を動かした。
――『そう見えんの?』
見えない。
冗談を言っているようには見えない。
だけど、だけど、だけど。
なんで?
……それしか言えない自分が無償にチイサク見える。
『もう一度言う。好き。理由とか、いる?』
途切れ途切れとしか聞こえない真剣な声。
佐伯ユウ。
おそらく、この学校で一番女の子に人気。
そんな彼が、
地味、のろま、泣き虫のオンパレードダメ女のあたしに、なんで?
仲だって、悪いはずなのに。大嫌いのはずなのに。
『、で?返事は?』
迫られる花は、咲く方法を知らない。
同時に、散る方法も知らない。
なら、誰かと半分に荷を減らしてみるのは、どうですか?
激しくなる雨を割った花は、儚い恋を知る。
『あたし……、なんかで良いの?』
唐突なはじまりから、幸せな時間は幻に、終わりへと翼を失う。