第6話 面影を追わないで
――いつかは、忘れなきゃいけない。
「あーっ!ハルくんだぁ♥」
「めずらしぃね、学校来てるなんてーっ!」
甘ったるい声に塞がれた耳。
その声の先にいたのは、ハル。
教室に足を踏み入れる女の子たちは迷わず、ハルにかけよる。
あたしも、こんな女の子だったら後悔することなんてなかったのに。
後悔に後悔を重ねる臆病者。
「ハルくん…、放課後時間ある?」
「ない」
「あしたは?」
「ムリ」
愛想のないハル。あの頃は、ちがったのに。
――ハルになにがあったの?
そう聞いたところで、答えが返ってこないのは分かりきっている。
「あんたら、何なの?頭おかしいんじゃない」
それは頭上から突然聞こえた声。
氷のように、もしかしたらそれ以上に冷たいかもしれない。
え?、と顔を歪ませる女の子たちは、ハルの迫力に退く。
「なんか、ハルくんコワイ」
驚いた、というより信じられなかった。
ハルがあの頃のユウと重なって見えたから。
いつだって女の子に冷たかったユウ。
そんな彼とは対照的に優しかったハル。
ねえ、今では過去なんだよ。
本当のハルは、どっちですか?
どちらを演じているのですか?
「え……、ハル、くん?」
一人の女の子の声が聞こえて、正面に向き直ると、そこにハルはいない。
もろい、ドアの向こう。
いかにもダルそうに、教室から足を踏み出していた。
「ハル、どこいくの?」
「……サボる」
即答。
半分呆れながら、「卒業できないよ?」、とあたしが言うと、
「余裕だし」
と、笑っていた。
ホントかよ。
――――――――――…
―――――――…
「わー、災難災難お疲れさま」
ヒジちゃんめ、人ごとのように言いやがって。
…そりゃ、人ごとだけどさ?
ハルが出て行ったあと、イケイケ女子たちに囲まれたあたしの身にもなってよ…。
「だけど何も言われなかったんでしょ?」
「そりゃそうだけど…、空気がおそろしかった」
「災難だね」
、と。
ヒジちゃんが大変最適なコメントを入れたところで予鈴が鳴った。
また、はじまる退屈な時間。
――また、だ。