第4話 朝の慟哭
「ユウ君のこと、いまでもスキなの?」
いきなり何を言い出すのかと思えば、ふれて欲しくない名。
考えれば、考えるほど、頭のなかが乱される。
ユウは、どうして――
「…ミユ」
なにも言わず、とつぜん、いなくなったのですか?
「わすれられない?」
優しさが混ざった声に、笑った。
うまく笑えたかは、分からなかったけれど、
「わすれなきゃ、だめかな」
足音ひとつ、聞こえない。静まり返った、空間。
ひとつぶの、しずくが落ちて、雨がやんだ。
「いつかはね」
消えかけそうな、声で言われた。
消えかけそうな、顔で言われた。
ほんとうは、分かっていた。
いつもいつも、わすれようと思っていた。
だけどあたしは、きっと。
「がんばるよ」
わすれられないと思う。
いつの間にか、玄関には人だかりができていた。
指をつきたてて、ハル君は?、と笑われた。
ハルが、なに。
思わず言ってしまいそうになる。
あなたたちが望んでいるほど、おもしろいことなんてないよ、と。
「ミユ明日も、くるよね?」
よくかんがえられなかったけれど、咄嗟に頷いてみせた。
近づく門。
グランドにおちたはずのタオルも、屋上にいるはずの影も、そこにはない。
――――――――――…
―――――――…
「はよ、ミユ」
だりぃ、と欠伸をしながら机にのびる彼。
昨日の雨は嘘みたいに止んだ、はれの日。
目を、塞ぎたくなった。
「ハル…」
冷たいはずの彼、だったのに。
「ん?どした、てか目、腫れてんじゃん」
いつも通りに戻っていた。
「ハル、だよね?」
「何言ってんだよ、」
ためしに自分の頬をつねってみた。
うむ、いたい。
「なんでもないっ、」
昨日のハルの頭がおかしかったのか、
あたしの頭がおかしかったのか。
後者は避けたいところ。
優しいハルが冷たいはずなんてない。
きっと、そうだ。
そう思うことに決めた。
「ミユ、――」
「なに?」
「スキ」
甘い、囁き。
キュっと、彼の腕の中におさまる、あたしの身体。
やっぱり、あれは、嘘じゃなかったんだ。
そう理解したのは、抱きしめられて1分後。