第3話 雨音に隠れる声
バタン、と閉まるドア。
思うように呼吸ができない。きっと、ハルのせいだ。
そう思って。自分の、ちいさすぎる両手に、顔をうずめた。
「っ、わ」
立っていられなくなった足が冷たい地面に倒れこむ。
だけど、痛みよりもさきに、悲しみがこみ上げてくる。
分かってるんだ。
――ユウは、もう、あたしを抱きしめてはくれない。
「ユウ…っ、」
情けない、声。
頼ることしかできない、弱い自分、
――だから、ユウはあたしの前から消えたんだ。
そう納得することが、一番自然に思えた。
ソラから、黒がきえていく。
ユウも、見ていますか?
――――――――――…
―――――――…
べたべたする手で、またなみだを拭った。
戸惑いは隠しきれず、立ち上がり、走り出す。
あのドアの向こうから、あたしを呼ぶ、ちいさな声が聞こえた。
それがだれの声なのか、痛いくらいに分かる。
だから、めいっぱい走って、吐き気がするほど、にげた。
無意識にきこえたのは、予鈴。
きっと気のせいだと納得して、だれもいない、生徒玄関のベンチに座った。
泥だらけだったと、後になって気づいたけれど、もう遅い。
「ミユ、だよね?」
よくできた偶然、よくできたセカイ。
そう思うことですら苦しい。
「目まっかじゃん、なにがあったの」
いつも通り、気にかけてくれる彼女。
――桜木聖
「ヒジ、ちゃん?」
幼いときから、定着してしまった名。
「また、何か言われた?ユウ君のことで、」
――また
ヒジちゃんが発した、その聞きなれた言葉に肩がピクリとあがった。
もう、半年が経つというのに。
ユウのいない時間が、不自然でしかたがない。
あふれて、こぼれたそれをまた拭う。
ユウに近づけば、必ず泣く。
そんなこと分かっていたはずなのに。
それでも、スキになった。
じぶんでも、よく分からない。
「ちが、うよ。ただ、授業にでる気がしないだけ」
半分は本音で、もう半分は、ただの強がり。
そんなことにも気づいているくせに、
「そっか、あたしもそんなとこ」
軽くわらうヒジちゃんは、あたしのとなりに座る。
そこが泥だらけだということにも、気づかずに。