第2話 呼吸を忘れる程に
――バカ
届かない声だけが、チャイムの音にまざって、おちる。
相変わらず振りつづける、雨。やむ気配はサラサラない。
「カゼ、ひくぞ」
そう言いながら、どこから持ってきたんだかタオルをあたしの頭にのっけるあの人。
はっきり、言ってやりたかった。
なんで、やさしくするの、と。
言えなかったのはたぶん、ハルの頬におちるしずくが、なみだに見えてしまったから。
「ハルは、なにが、したいの」
ふるえる声が、塞がれる。
冷たい目に、縛り付けられた影は身動きさえもとれない。
ながい、沈黙。
目を、屋上のそとへ逸らしたハルは、ちいさく囁いた。
「しらね。ミユのことが、スキなんじゃねーの」
言ったがさいご、体温が上昇していくのが分かった。
あつい頬に、やたら冷たい彼のゆびさき。
こんなはずじゃないのに、ユウ以上にイジワルなハルを見たのは、はじめてだった。
「抵抗、しないんだ?ユウが、もう帰ってこないってわかってるから」
ながされたなみだが蒸し返される。
つめたい、ハルに赤くなった目の、あたし。
答えを求めるように、ハルとの距離がちかくなる。窒息しそうな、ヒトミ。
黒くなった上靴のおとが、ひびいた。
驚いた顔をした彼に、強引にのせられたタオルの熱を、投げつけた。
「――…、にすんだよ」
舌打ちまじりの声がきこえる屋上、
あたしと目があう、彼の顔は歪んでいた。
「ハル、最低だよ」
窓のむこう側で、だれかが。黄色い声をあげながら笑っているような気がした。
ただ、あそこには。
あの人はいない。もう、いない。
掴むように、求めるように、さびついたドアのぶに縋りつく。
閉まっていくドアの向こうで、
冷たい目のおくの動揺がみえた。
「アイツも、だろ」
熱をもっていたタオルが、グランドへ落下する。
あっと手をのばしたハル。
空回りするセカイに、また舌打ち。
虚しくおちたタオルを、ただ呆然と彼はながめていた。