第1話 痛みを伴う予感
「泣いてなんか、ないよ」
なみだを嗅ぎつけた影に向かってちいさく笑った。
「みゆ」
ひくい、こえ。
この人はいつだって、あたしの名をやさしげに呼ぶ。
いつも通りだった。
なのに、なぜか今日の彼の目は――
なにかが違うような気がした。
つかまれた手首に、彼の白い息がかかる。
「ハ、ル?」
あおかったはずの、ソラ。
そこからしずくが、一滴、彼のほおをかすめてまた落ちる。
とびちったしずくは水しぶきをあげて、屋上のそとへとびだした。
「もう、わすれろよ」
ますます低くなる黒。
わすれられるはずがないのに、認めてしまうことを身体が拒否している。
ハルが、軽いきもちで言ってる訳じゃないと、分かってる。
ただ、認めたくない。
ハルの、なみだの訳を知るのが、こわかった。
「泣か、ないでよ」
「泣いてねえよ。バーカ」
無造作になでられる髪。きっとこのぬくもりは、あたしの求めるものじゃない。
それは、とおい話で、ちかい話で。
傷つけられたなみだが落ちる。
わすれるなんて、できない。
「みゆはさ、あれだけ傷つけられたくせに、まだスキなのかよ」
激しくなる雨。
黒くなるソラ。
縛り付けられた身体。
「しらないよ」
赤くなった目を擦った。
見えたのは、優しいはずの冷たい人。
「わるいけど、オレ。優しくないから」
蔑んだ目に冷たい声。
正直言って信じられなかった。
だってハルは、優しい人だから。
優しい人のはずだから。
「オレ、人のモノだったら奪いたくなるんだよね」
それは、いつもの優しい声だった。
チャイムが鳴り響く、屋上。
彼の、名
赤峰ハル。
あたしの名
結城ミユ。
わすれられない、名
佐伯ユウ。
黒い雨にうたれはじめたふたりを、這い上がってきた何かが黒くそめあげていった。
勉強いぃやーだー
書いちゃいました、そしてサボってます…
ま、いっか★
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