第四十六話 『主人公が見捨てられかける話。』
楽しい春休みですよーうふふー(・ω・)
あっれぇ?でもぉ、何も予定ないんですけどぉ……(´;ω;`)ウソダァー
旅行の話が流れた……大学でもぼっちかよぉ
ルフナは愛馬と共に、城の中庭を抜けようとしていた。
「ああもう、厄介な荷物を預かってしまったものね!」
手綱を利き腕でない左手で操らなければならないルフナは、いつも通りに乗馬できないことにいら立つ。
利き腕には、まだ意識が戻らないエイリを抱えていた。
ルフナが意識を失った人間を抱えたまま馬に乗るのは初めてのことである。
「さっさと降ろしてしまいたいけど、ここじゃあ人目があるかもしれないし……」
いつもなら猫を被って隠している、いちいち文句を言う癖が出ていた。
表面は強気を装っていても、内側は恐怖心でかじかんでいる。
ルフナは弱い人間だ。
目の前に恐怖があれば、降りかかる前に逃げ出したくなる人間だった。
でも、それを咎められる人間など、まず居ないのも現実である。
ルフナは恵人を呼ぶことのは諦めて、避難を始めていた。
利一に頼まれた通りにするなら、ルフナは恵人がいるであろう居室へ行かなければならない。
しかし、そこへ行くにはかなり時間が必要だ。
愛馬を外に置いて、城内へと入り、長い廊下を駆け抜けてもなお、呼び戻った時には手遅れである可能性すらあった。
ルフナはそう考えた時点で利一との約束を半分放棄して、逃げだすことを決めたのだ。
もしもこの事を知られたならルフナは責任を追及されるだろう。
しかし、このまま王城が焼けたのならこの国は終わる。
王城が焼け落ちれば、既に傾いていた王国など何もかもおしまいだ。
利一との口約束について証拠など残るわけがなかった。
「うぅん……ここは?」
中庭を通り過ぎ、後は裏門まで一本道というところで、エイリが目覚める。
エイリはルフナに抱えられた体制を直し、自力で馬にしがみついた。
ルフナはやっと楽になったと思いながら走る速度を上げようとしたが、まだふらつくエイリを見てやめる。
「今、裏門へと向かって避難しているところです。倒れたあなたを連れて行くようにトシカズ様に言われて」
「グレン……リボルブさんはどうしたのですか?」
「あなたの代わりにトシカズ様が足止めをしています」
「それなら早く、聖剣を届けないと……」
ルフナはエイリの言葉に眉を顰めた。
危険なところへと戻る理由などルフナにはないのである。
何よりも同じ巫女という境遇であるエイリが戻ると言ってしまうと、一人で逃げ帰ったことが知られた場合に責任問題になりかねなかった。
「もう遅いです。利一様の行為を無駄にしないためにも、避難しましょう」
これならエイリも仕方なく頷くしかないと、ルフナは考えていた。
相手は素直な性格のエイリだ。
人を無下にする行為など出来るはずもない。
そして助ける相手はたかだか騎士である。
「……お願い、馬を走らせて下さい。あれを封じるにはどうしても聖剣が必要になります」
「手遅れだと言っているでしょう? 今から戻ってさえ、間に合うか分からないのですよ」
しつこいエイリに対してルフナの語調も荒くなる。
だがエイリも引くことは無かった。
「私の馬です。危険なところには行かせられません。まして、勝算のない戦いになど」
「じゃあ、降ろして貰って構いません」
「嫌です」
いい加減に苛立ちを抑えられないルフナは、エイリを冷たくあしらう。
だが、決してエイリが利己的であると非難できることではない。
エイリもまた、エゴのために頼みを言っているに過ぎないからだ。
ルフナは会話の間、決してエイリの顔を見なかった。
駆け抜ける風景は徐々に門へと近づいている。
離れれば離れるほど、救出は難しくなる。
それでもエイリは諦められなかった。
「……リボルブは幼馴染なんだ」
エイリは独り言のように語り始める。
俯いた表情は見えない。
エイリの独白を聞きながら、ルフナは迷うことなく馬を走らせる。
一切、態度を変えることはなかった。
「とても昔、まだ正式に『風の巫女』として認められる前からの友人。数少ない、分かりあえる存在なんだ」
その言葉を言った時、エイリは泣きそうだった。
説得するために何も言うことが出来ないことがむなしくてたまらない。
ルフナはただエイリの話を聞くばかりで、最後まで表情が変わることも無かった。
「巫女にとって、それがどれだけの存在か、分かってもらえないか?」
門が見えてくる。
エイリの心は冷たい絶望に満たされた。
あらゆる感情が駆け巡る。
大切な人も助けられず、自分は友人に助けられただけで、そして助かるのは自分だけだ。
なにを考えても助ける具体的な手段は思いつかなかった。
あまりに無力だ。
一瞬、背中で手綱を握っているルフナを恨んでしまいそうになったが、そうではないと考えなおす。
ルフナは間違ったことを言っていない。
今から戻る方が可笑しいのだ。
エイリは自己嫌悪でいっぱいになる。
そうして黙りこむしかないエイリの背中を、ルフナ見ていた。
そして、余りに無力な姿だと思った。
ルフナは同情で危険を冒すような人間ではない。
いつもなら愚かだとすら考えていただろう。
だが、同じ立場の相手だからだろうか、その時のルフナにはそんな無力な姿が以前の自分と重なって見えてしまった。
以前の無力さにすべてを失った自分の姿だ。
最後のエイリの質問に答えるならば、ルフナは理解できるに決まっている。
今、自分があの場から逃げ出したい理由も失いたくない、という気持ちからなのだから。
二人は似ていて、でも状況は違っていた。
エイリよりも長く巫女を続けているルフナは既に失いすぎている。
不条理に次ぐ不条理を受け入れさせられ、そのたびに大きな後悔をしては人として壊れて行った。
もう戻れはしないはずだ。
それでもルフナが抱いた同情は心を苦しめる。
例えどれだけの同情をしても、今を捨てることは出来ないと決めているのにだ。
ルフナにはそれが途方もなく耐えがたかった。
「……城に戻ります。それが最大限の譲歩です」
「城?」
「聖剣使いがいるでしょう、この国には」
そう言われてエイリは恵人を思い出す。
事件以来、廃人になった勇者の姿を。
「ヤスヒト様を頼れ……と?」
「それが私の精一杯です。どうしますか?」
現実味のない話にエイリはルフナに聞きかえしてしまったが、ルフナもそれ以上の問答をする気はなかった。
恵人はとても頼れる状態には無いとエイリは思いつつも、他をあたる時間がないことも思い出す。
あの剣がレイビットで使われたものと同じようなものであるなら、魔力を使い果たして死んでしまうかもしれない。
そうなる前に助けるためには、微かな可能性にかけるしかなかった。
「急ぎますよ」
ルフナは馬首を翻して来た道を戻る。
その時エイリはふとルフナの顔を見たが、その顔は変わらず無表情だった。
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ベッドの上で、恵人はふと目が覚ます。
日は既に完全に昇っていた。
眠ったのはまだ日が出る前。
6時間は寝ていただろう。
便利な夢を見るようになってから、意識して起きられない点だけはどうにかならないものかと、うんざりしながら頭を掻く。
夢から覚めたとき、外の騒がしさを疑問に思うことは無い。
まだ避難し損ねた人が幾人か残っているのだろう。
最も避難する必要などもうなくなっているのだが。
『浄化の光で我が身を清めたまえ』
恵人が呪文を唱えると、以前のまだ勇者然とした姿に戻る。
魔力を使うために使わないでいた魔法だった。
夢を見るために魔力を温存しなければならなかったのだ。
事件の後から恵人は、夢の中で世界の情報を得ることが出来るようになった。
誰かが見たものをそのまま自分の物として追体験できる能力を手に入れたのだ。
それに気づいて以来、自分を取り巻く状況を把握するために夢を見続けた。
起きた時、恵人は状況を理解していた。
リボルブが暴走した経緯も、利一が命を懸けて助けようとしていることも、全てだ。
扉を開け、窓から光刺す廊下にでた。
城門へむかうために石の階段を駆け降りる。
腰の聖剣を止める金具が激しい音を響かせた。
「うっ……」
五分掛けて恵人が外に出ると、数日ぶり浴びた眩しい日差しに目がくらんだ。
恵人はもどかしく感じた。
体も衰えている等、情報を得るためとはいえ代償は大きかったのである。
以前のように走ることもできず、間に合うか分からない。
だが、もう失うのは嫌だった。
「ヤスヒト様!」
恵人が城門の方向を確かめて走り出そうと言う時、逆の方角から呼び止められた。
振り返った恵人は黒い馬に跨るルフナとエイリを見つける。
二人は少し二、三言交わしてながら、恵人の元来た。
恵人の前でエイリが馬から降りる。
「その姿は……?」
あまりに奇麗な姿になった恵人を見てエイリは混乱していた。
恵人は驚くのも無理はないと思ったが、すぐに説明する時間はないと考える。
「魔法ですよ、便利な。それよりも、今は急ぐ時でしょう?」
「そ、そうですね……率直にお願いします、あなたの聖剣でリボルブを助けてはくれませんか?」
祈るようにエイリは言った。
恵人は小さく深呼吸してから、覚悟を決めて約束する。
「絶対に助けて見せます。ルフナさん、間に合わせるために馬を借りますね」
事の顛末だけは把握しておこうとまだ残っていたルフナはまず、いきなり自分の名前を呼ばれたことに驚いた。
それから恵人が何を言ったのか理解するまでに5秒の時間がかかった。
「は?」
有無を言わせぬ恵人の言動にルフナは面食らう。
見た目は以前通りに戻ったが、態度は以前とは全く別物だ。
前はこんな命令するような性格ではなかった。
恵人は驚くルフナの返答を待つことなく呪文を唱える。
『人を惑わす光を私は求める』
小さな光がルフナの目の前で弾けると、ルフナの意識は消え催眠状態になった。
問答無用である。
「ヤスヒト様!?」
「さあ、急ごうか」
何がなんだか分からず馬を強奪した恵人に戸惑いながら、エイリは言われるがまま馬に乗った。
どこか晴れ晴れとした感じのする恵人は、エイリには不気味に思えた。
一方で恵人はルフナが仕事の為に自分に寄ってきたという事の仕返しを終えて、すっきりしていた。
泣いてなんかないぜ! ああ!
いつだって元気! たぶんな!
一年365日の30パーは元気だ!
残りは諦めるしかねえぜ!




