第四十四話 『リボルブの記憶。』
こんばんは。やった!書ききった!リボルブの過去!
追加したり省いたりしたからどっかで矛盾があるかも知れないが、許してください。('・ω・`)太陽のせいなんだ。
とうとう主人公が全く絡めず、サブタイからも消失してしまう事態に。
まあしょうがないね。
=リボルブ編=みたいなあれだし。
それももうすぐ終わるから……ね?
聖剣がどれだけ価値のあるものか、という以前に剣を盗むことに抵抗を感じたリボルブは拒否したが、全く聞き届けられることはなかった。
それどころか断固として断る姿勢を崩さないリボルブに対して、ジェドは出来ないなら絶交と言い、リボルブは受けざるを得なくなる。
犯行当日。
リボルブはいつも通り店先に大人数が集まり、そしてその客が離れる瞬間、店員が一段落して安心する時を狙って路地裏に潜伏する。
罪悪感こそあるが緊張はしていなかった。
狙っている代物は子供には不相応な物だとしても、リボルブのすることが変わるわけではないのだ。
ただ姿を消して物を盗むだけ。
最初から失敗することは少しも考えていないのである。
それも以前なら維持する時間に限界があったが魔法を繰り返し練習したことで一日程度なら姿を消していられるようになった。
路地裏に潜伏する間も見つかる危険がなのならほとんど無敵である。
店に入るまでリボルブはそう思っていた。
リボルブが観察していると何やら大口の契約をしていた数人の客が去っていく。
客を見届けながら蜜柑色の髪を持つ店員が店内へ戻っていき、リボルブは音を立てないように気を付けながら素早く店に近づいた。
聖剣は人目に付くように飾られているが、リボルブが手に持ってさえしまえば見えなくなるのだから問題ない。
リボルブは慣れた手つきで固定具を外し躊躇いなくそれを掴んだ。
その瞬間、リボルブを覆っていた影が霧散した。
店員はリボルブを見て唖然。
リボルブも唖然。
二人はお互いに目があったまま意味不明な状況に思考停止する。
「おーい、エイリー! 注文書の棚ってどこだ? 」
「ジーグさん。」
鍛冶場になっているらしい奥から出てきた大柄な男は、聖剣に手をかけるリボルブと立ちすくむエイリを見て怪訝な目をする。
「エイリ、そいつは客か? なんで聖剣に触らせてるんだ?」
「たぶん泥棒です。さっきまで姿を消していました。聖剣に振れて魔法が解けたみたいです。」
「おい、坊主。その剣から手を離せ。そして店の二階に来い。エイリは店を閉めといてくれ。」
リボルブに拒否権はなかった。
________________________________________
ジーグはリボルブを二階の椅子に座らせると不快そうな顔を隠そうともしないで話始める。
「お前、名前は?」
「リボルブ=グレン=アーティです。」
「お前はあれを盗む気だった、ってことで間違いないな? 」
「はい。」
未遂だから嘘をついてしまいたかったけれど、ジーグの射抜くような鋭い視線がそれを許さなかった。
例え威圧に耐えて嘘をついてとしても謎の盗難事件は既に有名になっていて、とても言い逃れ出来なかっただろう。
「お前、何歳だ。」
「10歳です。」
「あの剣を盗んでも使える訳でもないだろう。誰かに盗めと言われたか? 」
ジーグはこの時、リボルブ自身が悪戯でこの剣を盗もうとしたのではないと考えていた。
これまでの盗みの被害は子供向けの物ばかりだったので、子供が自分で盗もうと考えてもおかしいとは思わないが、今回はあまりに事情が違いすぎる。
街に最近来たばかりであるジーグはアーティ家の事情をしらないため、裕福な人間の集まる街で子供が金に困っているとは考えていないし、リボルブが盗みをする理由は特殊だ。
リボルブが誰かに脅されたと考えるのが自然だった。
だが一方でリボルブはどう答えようかと迷う。
嘘を吐くことはしないとしても、果たして事実を言ってどうなるだろうか。
ジェドの信用を得る努力は全て無意味になり。
働ける最後の可能性を失うだろう。
それだけではない。
その内ジーグがアーティ家の話を聞いて、また入れない店が増えるくらいならまだ良い。
ジーグに全てを話したとしても、盗みの罪は消えないのだ。
騎士に突き出されれば、法廷で裁かれ罪を償うことになる。
どんな判決になるか分からない。
貴族だからと追放くらいで済むかもしれないし、逆に責任を追及されて極刑に処されるかもしれない。
良くても前科がついて就職は出来なくなるだろう。
もしもジーグが騎士に突き出すことをしないでも、街の住人に謝らせるくらいはするだろう。
そうなればあの住人たちのことだ。
追い出す理由が出来たと居場所のなかった街にはとうとう居られなくなる。
何をしても街から追い出され、病床の母親を守ることは出来なくなるだろう。
リボルブは自分の行動が母親を傷つけることを理解していたし、何も悪いことをした覚えはないとは言わない。
だがこのまま母親を失望させ、あの理不尽な住人に街を追い出されてのたれ死ぬのは嫌だった。
あまりにも苦痛そうな顔で考えるリボルブを不思議に思ったジーグは、質問を変える。
「よし、じゃあ盗んだ理由を言え。誰がどうとかは良いから。」
「生活のため」
ジーグの顔が怒りで強張る。
「生活のためなら盗んで良いってことはないだろう? 」
リボルブもジーグの言い分が正しいことを理解していながら事情を知らずに断言する姿勢に腹を立てた。
「働けない状態で病気の親を養えるなら教えてくれよ。」
「働けない?」
「ああそうさ。厄介者の没落貴族は働き口すらもらえないんだよ、この街じゃさ! 」
「……病気の親のために街を出られず、働けなくて、仕方なく盗みをしたと。」
「そうだよ。もうこうするしかなかった。」
今の収入はリボルブがジェドからたまに受け取る盗みの少ない報酬だけだった。
その報酬が盗みの目的ではなかったが、実際盗まなければ生きていけない生活であったのだ。
「事情を聞いてやるから、話してみろ。」
「誰か他の奴に言うか? 」
「内容による。」
「なら……」
リボルブは全て話した。
アーティ家の終わりと、住人から受けた迫害。
兵士の試験の条件と自分がそのためにしてきたこと全てを話したのだ。
よく知らない大人に全て話したのは、きっと信用できそうにない街の大人たちを見続けて疲れていたせいだろう。
リボルブは盗みに入った自分の話を何も言わず聞いてくれるジーグに、何が何だか分からない感情がこみあげてきて途中で泣き崩れてしまいそうになった。
リボルブが落ち着いてからジーグは同情のまなざしで話す。
「間違ったことをしていなかったのに白い目で見られるのは辛かっただろう……。まあ盗みを始めたり、俺の最高傑作を盗もうとしたのは許せないが、そのジェドとかいうガキの命令だったんならお前にゃ逆らえんだろうしな。今回は見逃してやるよ。」
「本当に? 」
「嘘は言わない。これまでの盗みだって結局は住人の責任が大きい気がするしな。しかし王国の事情はしらなかったが、城下町の手前でここまで貴族制が腐敗しているとは。」
「そういえば最近店を開いたみたいですが、ジーグさんはどこから来たんですか? 」
「ああ、俺は鍛冶師として各地を修業しててな。ちょっとした護衛任務で当分ここに住まうことになったから、自信作を一振売った金で出店したんだ。生まれは商業連合の方。」
教会で行われる自由教室の授業で一般常識を学んでいるリボルブは、当時珍しかった商業連合からの移住民ときいて驚いた。
「商業連合からここに移住しても、向こうの方が豊かですよね? 護衛の任務はそんなに儲かるのですか? 」
「あ、話しちゃならんのだ。悪いな。」
「はい、分かりました。とにかく、助けて頂いてありがとうございました。話を聞いてもらえて気が楽になったし、もう盗みはやめます。」
「働き口に困ってるんだろ? うちで働け。」
「そんなに迷惑を掛けられません……腕利きの鍛冶師が実力を評価されなかったら僕が困ります。」
「それでお前の母さんに死なれたらこっちが嫌なんだよ。明日からこき使うから覚悟しとけ。」
リボルブはこんなにもよくしてもらって良いのかと迷ったが、最後にはありがとうとまた感謝して家に帰った。
そのあとでジーグとリボルブとエイリ、三人で話したり、ジーグが鍛冶師、エイリが接客係、リボルブが肉体労働係として鍛冶屋で働く平和な日常が過ぎていく。
その日常はリボルブの記憶の中で最も平和な二年間だった。
二年経ち、ジーグが護衛の任務の関係で店を閉め城下街へと引っ越さなければならなくなる。
エイリはジーグについていくことになったが、リボルブはまだ快調とはいえない母親を心配して街に残ることになった。
エイリとジーグの身元がはっきりした二人から人物証明をもらったことで、兵士の募集に応募できるようにもなっていたので、さみしさを感じつつも残ることに迷いはなかった。
そして日常を壊した悪夢の日がやってくる。
リボルブよりも二歳年上のジェドは父親が事業に成功し、金を持ったことで子供たちを従えていただけの頃よりも悪質になっていた。
そしてジェドはまともに働くことで命令を聞かなくなったリボルブをよく思っておらず、鍛冶屋が閉まるときいて呼び出した。
「何の用? 」
リボルブは下手に出る気はなかった。
そんな風にしていてはジェドを調子づかせることを知っているのだ。
「お前の働いてる店がなくなるって聞いてだな。稼ぎ口のなくなるお前に仕事をやろうかと思ってさ。」
もちろんジェドは金を持っている。
これはリボルブを利用する支配欲を満たしたいがための言葉だ。
「もう盗みはしない。」
「ああ? 働けない奴は盗みでもしなきゃ生きてけないだろ馬鹿。俺にしたがってればいざと言うときも助けてやるぜ? 」
「何を言われようとも、もう盗みはしないんだよ。まっとうに生きる道を探すさ。」
「まっとうに……ああ、兵士募集な。あれはお前がなれそうな唯一の職業だし、先に手をまわして落ちるようにしといたから。」
一瞬、ジェドが何を言っているのか分からなかった。
理解していくと同時に、頭の中で三人で過ごした日常が無意味になって、そしてリボルブは苦しくて狂ってしまいそうだった地獄の日々を思い出す。
自分は地獄から抜け出せないと、リボルブはそれまですがっていた希望を全て失って絶望し、目の前のジェドへの憎しみと、無力さへの悲しみとむなしさが心を蝕み、何もかも諦めてしまいたくなる衝動がリボルブを縛っていた理性を破壊した。
それまで二年間、黒炎作り出す修業をしたことはなかったというのに、その時リボルブの中に芽生えた破壊衝動とこの世の辛い事実から目を逸らしたいという感情とが混ざり合って、はっきりとしたイメージをリボルブに抱かせてしまったのだ。
理性を失い、ただ衝動的に黒炎を暴発させるリボルブに、ジェド達は対応することが出来なかった。
黒炎に包まれたジェドとその取り巻き立ちは跡形もなく消滅する。
消滅と浸食を司る闇属性の性質が、物質の変化現象である発火に加わった、熱くない炎。
術者の魔力以外に何のエネルギーも消費せず、何のエネルギーを生み出さず消し去ってしまう炎。
観測できたならその炎は燃やしたものを魔力に変換して術者に吸収させていることが分かっただろう。
理性を失ったリボルブは歩き出さなかったが、その黒炎はどこまでも高く燃え盛っていた。
________________________________________
「おい、なんか嫌なもんが見えねえか? 」
「黒い火柱……? 闇属性の魔法のようですが、聞いたこともないですね。」
ジーグとエイリは荷造りをしているときにその炎を見た。
「今日、リボルブは来てない。そんで奴の使うのも闇魔法。」
「どうしますか? 」
この時、いつもすぐに決断するジーグが決断を迷った。
エイリは急いだ方がいいその局面で、その決断を静かに待った。
「聖剣を持っていく。」
「良いんですね? 」
エイリはジーグが一度決めた決断を簡単には覆さないことを知っていながら、聞き返す。
「一振くらい。何、聖剣鍛冶になればいいだけのことだ。命には代えられん。」
「急ぎましょう。」
エイリとジーグが火柱の元、リボルブに達した時、黒炎に巻き込まれた家屋は消え去り更地になっていた。
「エイリ、黒炎をどかしてくれ。」
「ジーグさん、わかりました。そのあとは任せますよ。」
一呼吸、エイリは集中するために間を置く。
ジーグが覚悟をしたように、エイリも覚悟を決めなければならないことがあった。
黒炎を見た時、それに有効なのはエイリがどうしても避けたかった巫女を力を使わなければならなかったのだ。
まだ巫女を正式に継いでいないエイリはその魔法を使っていい立場ではない。
それでも迷わずに力を使った。
『風の巫女として古き風神との契約において定められし風の根源を司る魔法を我は求める』
エイリの周囲にある空気、意識できる空間にある全ての気流を自在に、継続的に操ることができる巫女にのみ許された魔法が発動する。
風は黒炎をはらい、リボルブまで続く細い道を作り出した。
聖剣を構えたジーグは開いたリボルブまでの道を一気に駆け寄って、聖剣でリボルブの脇腹を刺す。
リボルブが纏っていた黒炎が体内へと吸収されていくように消え去り、暴走していたリボルブは力尽きてその場に倒れた。
数日後。
目が覚めたリボルブはアーティ家の小さな家で、母親と出立予定を過ぎて残ってくれたエイリとジーグに看病される。
状況を理解している二人が自分が何をしたのかを意識しないで良いように気をつかってくれたおかげで、最初は吐き気を感じるほどあった罪悪感も和らいだ。
そして十分落ち着いてから、エイリが風の巫女を継ぐ家系の末裔であることと、ジーグがエイリの護衛兼、巫女の継承をする儀式に使う聖剣の納品役であったことを聞かされた。
ジーグはエイリの故郷で名の知れた名匠であり、その伝手で聖剣を儀式に使用することが決まった。
聖剣はその鍛冶師にとって『人生の最高傑作』に神様から加護を受けた剣のことであり、鍛冶師が自分の集大成としてどこかの機関に収めるのが通過儀礼となっているのだ。
しかし使用した聖剣については儀式には使えないと決められており、『エーケ』は納品不能になったとジーグは説明する。
それを聞いたとき、リボルブはまた迷惑をかけてしまったと謝ったが、そんなリボルブにジーグは謝らないでくれと言った。
時折、常人を遥かに超えた才能を持つ鍛冶師が幾振の聖剣を人生で鍛えることがあり、その者達を畏怖を込めて聖剣鍛冶と呼ぶのだと、ジーグは誇らしげに話す。
リボルブは最初、急に何を話し出したのかと思ったが、ジーグが見たことのない聖剣を持ち出した時に意味を理解して笑った。
「お前が寝てから、少しばかり本気になって鍛えたらな、聖剣になっちまったよ。だからエーケ気にしないでいい。それとな。」
「うん? もう十分驚きっぱなしだから、これ以上のサプライズはいらないんだけど……」
「店にあった聖剣『エーケ』は封魔の特性を持った聖剣だ。お前がもっておけ。」
「それは出来ない。自分の力くらい制御しなくてどうするんだ。」
「馬鹿野郎、制御できる完璧な騎士様になった頃に返せ。一生働いても変えない代物だからな。」
「……ありがとう。」
リボルブはジーグが一度決めたことを覆さないと知っていたから、それ以上は何も言わず聖剣を受け取った。
そのあとは城下街で三人が再開するまで、努力の日々が続いていたのだ。
「懐かしい記憶をさまよっていたみたいだ。」
リボルブは暗い空間の中、どちらが上か下か分からない空間で漂っていた。
「はあ……努力の日々をすごしたのに。」
能力を制御する方法を見出しリボルブはそれを用意していた。
だが現在、前よりも膨大な魔力を消費して黒炎が放出されているのを感覚で感じる。
「ああ、これは駄目だな。こんなにも意識がはっきりしているんだから暴走しているのとは違う。けど制御は出来ない。暴走させられていんだ。」
リボルブは外の状況を見ることは出来なかったが、幼馴染が見捨てることもせずに止めているのだろうと想像して、悲しんだ。
「聖剣も持たずに怪しい商人の渡す剣に触れたのがいけなかったか。また迷惑をかけたな……。見捨てて生きて欲しいのに。」
リボルブが騎士になったのは、エイリを王国が崩壊する前に救出するためだった。
だというのに今は自分がエイリを危険にさらしている。
殺してしまいそうになっているのだ。
「諦められないな。」
リボルブは少しの時間奮闘し、魔力の流れを多少変える事で、意識の奪還は出来ずとも身体の自由は奪えることが分かった。
それには大きな苦痛を伴ったが、リボルブはまた自分をとらえている何かに抵抗すべく、意識を取り戻すための戦いを始めた。
感想や何か意見などございましたら感想欄に書き込んで頂けると嬉しいです。
喜びます。
飛んで喜びます。
かんそーほしいよーかんそーくれよーからめよー
だってさみしいじゃないか! くそがっ!




