第三話 『主人公が泣く話。』
光と空気の揺れが収まると、魔法陣の中央には岩の代わりに銀髪碧眼の少年がいた。
無事に儀式が成功したのだ。
あまりにもイケメンだった為に、利一が泣きそうになったのは秘密である。
優しい系イケメンというのが利一の持った印象だ。
格差に泣きそうになった利一は自分のなんだかんだで元の世界へ帰れるのではという希望が儚くも終ったことに気づき、さらに落ち込む。
さて、と利一は目の前の状況を整理しだす。
周囲の人間はざわざわと騒いでいるだけだ。
そこでまず彼女が名前を名乗る。
「初めまして。私はグラフォルト王国第三王女、リナティア=セナ=グラフォルトというものです。あなたの名前を教えて頂けますか? 」
銀髪の少年は混乱しながらも彼女の問いに答える。
「えっと、志木恵人です。名前が恵人で、苗字が志木です。」
どうやら彼は日本人のようだ。
これに対して、利一はいろいろと思うところがあったが、それらの中から一つ紹介しておこう。
日本人で天然銀髪とカラコンなしの碧眼…だと?
容姿チートとかやめろよ俺の心を抉るためだけのチートじゃねえか!
もちろん彼の心の声が届くはずもなくリナティアはもう一度口を開く。
「ヤスヒト様ですね。事情をご説明しますのでついて来てください。」
リナティアはそう言って少年を別室に案内する。
予定だった。
しかしそれは彼女が部屋の奥、つまりは利一の方を見ると止まった。
姿が見えていないはずなのにリナティアと利一の視線がぶつかる。
利一はとっさに部屋の奥の壁をすり抜けて逃げようとしたが、今度は壁にぶつかってしまい通り抜けることは出来なかった。
しりもちをついた利一はその痛みに顔を歪める。
「いたた……なんだこれ? 」
「大丈夫ですか? 」
気づけばリナティアは利一のすぐ側まで近づいていた。
声をかけられた事で初めて姿が見えるようになったことに気付く。
「あなたは誰ですか? 」
リナティアにそう問いかけられて利一はどう答えるか迷った。
ここで下手な嘘をついたりすれば、一発で極刑にされるだろう。
それだけ怪しい空気が部屋には流れていた。
だからといって二人目の勇者なんて非常事態を起こしたならリナティアは本当に儀式を成功させたのか疑われ、彼女の努力は目的が達成されたにもかかわらず水泡になるのだろう。
利一はリナティアに迷惑をかけてしまうことに多少罪悪感を感じつつも、本当のことを話す。
「俺は新島利一。異世界人です。」
さっきから騒がしかった周りの人間が一層うるさくなる。
その中から騎士風の男が一歩前に出てきて、話し出す。
「王女様、危険です。その男から離れてください。」
今にも斬りかかりそうな殺気を纏っていながらもすぐに行動しないのは、リナティアが利一の近くに居るためだろうか。
「いえ、彼からは十分な魔力を感じます。召喚された勇者だと私は思います。」
リナティアは反論したが騎士も引き下がりはしなかった。
「黒の髪に黒の瞳など不吉です。そのような者が勇者であるはずがない。」
見渡せば、この意見には多くの人間が同意を示していた。
見た目だけで判断するとか性根から腐ってるなと、利一は心からそこにいる人間を嫌いになった。
「この部屋には幾重にも防御結界が張られ魔法による侵入もできません。扉から中に入ってこられるのは入室証を持っている者だけです。それならば、入室証を持たずにここにいる彼は召喚されたとしか考えられません。」
騎士はこの言葉に反論ができないようで、リナティアは呆然と立っていた恵人と利一を連れ説明するための別室へ向かった。
余談ではあるが利一は連れて行かれる時にリナティアに手を握られたことで、なぜか今までの行いを信じてもいない神様に懺悔したくなったそうだ。
2014/2/18少し改稿