第二話 『主人公がまともだったりする話。』
数時間後。
少女のいる部屋は意外とはやく見つかった。
探している途中利一はいろいろな情報を手に入れていた。
まずこの世界が異世界であること。
この世界には魔法やら魔力やらがあること。
ここがどこかの国の王城らしいこと。
そして、さっきの少女はこの国の第三王女で、『水の巫女』というものをやっているということ。
これは利一にとって一番大きな衝撃だった。
何故かは聞いてはいけない。絶対に。
あわよくばアンナコトやコンナコトをしようと考えていた、なんてことはなかったのだ。
なんでも王妃様が巫女の家系の女性だそうで、本流の巫女の家系が潰えたので第三王女が巫女をやっているらしい。ついでに王族は総じて魔力が高いことも分かった。
残念ながら少女の名前は分からなかったが、王族の名前などいつでも分かりそうなので後回しである。
利一はさっきの儀式が『勇者召喚』の儀式で、これで三度目になるということも知った。
これまでの結果はすべて失敗。今回も失敗となり一週間後の次回が最後の機会になるらしく、あの場にいた人達が落胆した理由も理解できる。
利一は部屋に侵入したはいいが緊張していた。
何せ彼女はとびきりの美少女である。
ロングストレートの淡い金髪に綺麗な空色の瞳は、あのパニック状態でもその美しさに見惚れる程だった。
そこで利一は緊張をほぐすために自己暗示をかける。
これは覗きじゃないこれは覗きじゃないこれは覗きじゃない……
落ち着いたところで利一は彼女から少し離れて右側に立つ。
彼女は何かのメモ書きを見ながら言葉を発していた。
「……魔法は魔力の質や量によってその威力が変わり、同じような効果を持つ魔法でも、違う呪文で魔法を行使すると、個人の適性の違いによる差が生まれます。また……」
利一はそのだいたいの内容から、魔法についての説明だという事が分かった。
少女は分かりにくい部分を表現を変えて分かりやすくしていく。
その内容には勇者からくるであろう質問に対しての答えも含まれていた。
三時間に渡るその作業の間彼女の表情は真剣そのものだった。
それがどういうことを意味するのか利一は気付いた。
彼女はまだ召喚すらできていない勇者のために、ひたすら努力をしていたのだ。
すでにメモが文字でいっぱいであるから、以前から続けている事なのだろうと予想できる。
それは失敗に対する緊張や恐怖からしていることかもしれない。
ただ彼女自身がプレッシャーに耐えるためなのかもしれない。
それでも利一は彼女の努力が報われてほしいと思えた。
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それから六日が経ち、昨日、利一はちょっとした魔法を使えるようになった。
理論などは知らないし、修行などもってのほかでなんとなく衝動的に使おうと思ったら偶然使えることが分かっただけである。
魔法を使うのには呪文を唱えなければならないらしい。
それでも魔法自体はごく一般的なもののようでこの城に仕えているメイド達も仕事中に何気なく魔法を使っていた。
そして利一は何故か呪文を唱えなくても魔法が使えたのだ。
これは魔法に関する知識のない利一にとって嬉しい誤算だった。
利一は今日もまた風魔法でスカートめk
この六日間利一はいっこうに帰る方法が分からずにいた。
今となっては情報収集もせずに戯れに魔法を使っているだけだ。
もちろん、利一も最初から諦めていた訳ではない。
この世界に来た次の日などは図書室らしきものがないかをひたすらに探した。
一日だけで終わらず、三日かけて探し続けた。
そして見つけた。更衣室である。
男性騎士用の物であり、さらには使用中であった。
利一はそれから昨日の朝まで、吐き続けた。
理由は聞かない方がいい。絶対に。
透明人間でも吐くことができるという本当に要らない情報を手に入れた利一であった。
そんな利一も一つの指標を立てた。
『勇者召喚』の儀式が終わるまでは何があってもこの城に残っていよう、というものである。
ひょんなことから元の世界に帰る方法が見つかるかもしれないし、戻るためのヒントだけでも手に入れば非常に助かる。
空腹感を感じない事も分かっているので餓死するなんてこともないだろう。
時間に余裕はあるのだから、少しでも有用そうな情報は安全に集めておきたかった。
利一が少女の人知れず続けてきた努力が報われるところを見たかった、というのも理由の一つかもしれない。
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今日は『勇者召喚の儀』を行う日だ。
利一は最初にいた部屋、『召喚の間』にいた。
昨日、遠足前日の小学生よろしく眠れなかったという訳ではないが、ちょっとした緊張から誰も集まらない内にこの部屋に来ていた。
そのうち『召喚の間』に貴族風の人間や騎士の中でも偉い部類に入るのではないかと思われる、数名の人間が集まってきた。
その半数ほどの人間はすでに期待していないような顔をしていて、利一はかなり不愉快な思いをした。
少しして前にも見た巫女の姿で少女が入ってきた。
しかし皆の目を惹いたのは、彼女と一緒に運び込まれ魔法陣の中央に置かれた、人よりも大きな青い岩だった。
よく見れば淡く光っているように見える。
それが何なのかは利一には分からなかったが、儀式に必要な物であることは確かだろう。
『水巫女の血統のもとに、聖なる水の女神へこの魔力を捧げる……』
彼女が呪文の詠唱を始めると、それに呼応するように魔法陣が白い光を帯びる。
詠唱が進むにつれてその光は強くなっていく。
これにはさっきまで無関心だった男達も驚きを隠せずにいた。
きっとここまでの光を発したのは今回が初めてなのだろう。
詠唱が終わりに近づくと利一は空気が揺れるのを感じた。
『……盟約に従い力ある者をここに召喚せよ』
詠唱の終わりとともに部屋は光に包まれた。
2014/2/18少し改稿