第二十話 『主人公が失礼な話。』
パレードは終わったが今日の城下町は夜も旅人で賑わうのだろうと、利一は一人思いにふけっていた。
(祭りの終わりの寂しさを感じるのは日本人特有なのだろうか。)
小さい頃に行った祭りは吊るされた提灯が雰囲気を醸し、人がごった返しているのも構わずに楽しんでいたように思える。
そうして楽しんだ祭りも、終わってしまえば疲れで名残惜しさなど感じはしなかった。
いつからか祭りに行かなくなっていた利一は、パレードの後で久しぶりの祭りを楽しんだ。
いろいろな出店を回って食べたことのない食べ物に舌鼓を打ち、彼らの心から楽しそうな空気に惹かれ、童心に帰って遊び続けた。
城に帰った頃には日が暮れていて、お世話係のイレイに怒られたのは当然だろう。
そんな利一が今いるのは、城の応接間だ。
本来なら国王と各国の権力者が対談するために使われるこの部屋で、これから利一は国王と対面して話す機会を得た。
利一はリナティアにとても急いでいるような雰囲気で、国王に直接伝えなければならないことがあると頼み、どうにか会う約束を取り付けたのだ。
(恵人についてどう考えているのか、全て聞きだしてやろう。間違えている判断ならば正そう。たとえばリナティアを恵人に任せようとか、リナティアと恵人をくっつけようとか、リナティアと恵人の仲を取り持とうとか。)
利一には主にリナティアについてのことで聞き出したいことが山ほどある。
だがそれをどう聞き出すのかについては少しも考えてはいない。
相手が国王という場慣れしている人間だというのに、この油断は致命的だった。
「待たせたかね、トシカズ殿。」
廊下へと続く部屋の扉から現れたのは、利一が今まで遠くからしか見たことのない王様である。
(正直なところ顔も知らなかった。)
「いえ、待っただなんてとんでもない。お忙しいところを私が急に呼びつけてしまったのですから。」
王は利一が気を使わないで下さいと言うと、軽く笑った。
「ならば良かった。この階には全体に『武器を手に持てない』という魔法がかかっておる。こうでもせねばなかなか向き合って話が出来ぬのでな。使用前にいろいろと確認が必要なのが面倒だが。」
「国王ともあろうお方なら、万全を期すのも当然でしょう。」
利一が少し警戒されているのは、当然のことだろう。
だが利一が思っていたよりも警戒が少ないのは、王の演技なのだろうか。
「娘より我に話があると聞いている。申されてみよ。」
「・・・その前に少しだけ、質問をしてもよろしいでしょうか? 確認しなければ話せないお話もございます故。」
王は突然先ほどまでの微笑みを消し、神妙な顔つきになった。
「お主、嘘をついておるだろう。」
利一の脳内をこれまでについてきた嘘が巡る。
「グラフォルト王国の王にはな、建国時から受け継いできた『嘘を見破る』力がある。代わりに受け継がれる制約もあるがな。お前が今ついた嘘は、この目に通じることはない。覚えておけ。」
利一は王から怒りを感じず、それが逆に恐ろしかった。
「さあ、真実を話してみよ。我はお主がここで話したことを、誓って他言しない。先ほどから口調を作っているのも、この目には負荷になる。お主自身の言葉で話せ。」
このまま黙って引くことは、許されなかった。
「リナティアさんを俺にください。お願いします。」
「断る。」
迷うことのない即答だった。
「ふむ。思った通りの内容で安心したわい。昼間に挑発した甲斐があったというものだ。」
挑発に乗ってしまった利一は、完全に『阿呆』だった。
「なんで挑発なんてするんです!」
「城内でお主と娘との噂を耳にしてな。面白そうだったので、お主から来てもらったまでのことよ。」
(なんて嫌な性格をしているんだ!こんなのが王様でいいのか!?今すぐに変えるべきだ!)
もちろん、利一はどれだけ罵倒したくても命が惜しいので心に留めた。
「リナティアさんと俺の中を認めてくれないのは、何故ですか?」
王は一瞬だけ利一の瞳を見て思案した後、利一に容赦ない言葉を掛ける。
「それはお主に娘を預けるだけの価値が無いからだ。地位も名声もない男に、大切な愛娘を渡せるわけも無かろう。どうしてもというなら、最低でも名声で勇者を超えることだ。我はお主に地位を与える予定はないのでな。」
利一の精神はかなりのダメージを受け、瀕死状態だった。
それでも一矢報いようと心を奮い立たせ、限界を超える虚勢を張って、利一は王に言い放つ。
「その言葉、絶対に忘れるなよ! 俺は勇者ってもんが霞むくらいの大物になってやるからな!」
「いいとも!だがお主も忘れるでないぞ。この国の勇者への期待は、そうそう消せないのだからな。」
利一が部屋から出て行ったあと。部屋に残された王は、一人考えるのであった。
(娘の未来を思う、父の気持ちを分かって貰いたいものだ。他国との政略結婚などで不幸な人生を送るよりかは、娘を守り抜いてくれる男に任せたいのだが・・・)
他国の反発を防ぐ意味で、相当な名声や地位がある人物でなければ仲を認めるなど出来ない。
まだ若い少年の気持ちを理解しながら、少しでも可能性を示してやるのが精いっぱいである王は、複雑な思いを胸に自室へ戻るのであった。




