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第十九話 『主人公が次を決める話。』

暗殺団の身柄を引き渡した後は、ただひたすらに来た道を帰るだけだった。


そうして無事に王城へ着いた利一達は、ゴタゴタを片付けたあとでやっとのこと解散ということになった。


利一は旅の途中で心に決めた復讐を果たすべく、帰ってきて早々例のメイドを探そうと思い部屋からとびだした。


だが戻った時間は夜遅く流石に眠らずに襲撃にも行けないということで、朝起きてから行動しようという風に決めたのだった。


(どうせ朝起きれば向こうから来てくれるだろうしな…)



利一は旅の疲れを全て消し去るような、深い眠りについた。


________________________________________



朝目覚めた利一の見たものは、本人にとっておおよそ理解できないものだった。


「今日よりトシカズ様のお世話をさせて頂きます、イレイと申します。よろしくお願いします。」



(あれ、フキリさんじゃない)



いつもと同じように入ってきたメイドは、別人だった。



「えっと、とりあえず質問いいかな?」


「はい」



フキリよりも純粋そうな人であるため、利一も少し気を遣っている。



「旅へ行く前に世話をしてくれたフキリさんって人が居ると思うんだけど、その人はどうしたの?」


復讐したいんだけど、とまでは言わなかった。



「フキリさん…ですか。人づてに聞いた話では、ここを辞めて故郷に帰ってしまったと聞きました。なんでも実家の手伝いが必要だとか。あくまで噂ですがね。」


「故郷ってのが何処かは分かる?」


「トシカズ様に何か事情がおありでしたら、メイド長に尋ねれば分かるかと…」



利一は着替えもせずにメイド長の元を訪れ、フキリの居場所を聞き出した。



次の旅の目的地が決まった瞬間だった。


________________________________________



「次の旅の目的地は商業連合国の『レイビット』にしましょう。」


旅をした仲間が全員集う朝食会で食事がひと段落ついたとき、利一がさっき聞き出したフキリの居所を口にする。


「なぜ商業連合を知っているのですか? 何処かで調べましたか?」


リナティアが利一の話を聞いて出てきた疑問をぶつける。


「いえ、神様からのお告げがあったのです。」


全員沈黙。


内数名は話を真面目に聞くために静かになっただけだが。



利一は内心で赤くなりながら、演技で不自然さを押し通すつもりである。


「昨日の夢の中で、私はそこに悪魔が出るという謎の声を聞きました。起きてからただの夢ではないかと考えたのですが、私はもともとその土地の名前を知らなかったにも関わらず、今ではそこへの行き方すらも覚えているのです。これは神様のお告げに違いない!すぐにでも向かうべきでしょう!」


最近恥への抵抗が薄れつつある利一の、暴走だった。


「そういうことならば仕方なくもありますね。実際私たちに残されたヒントはトシカズ様の夢だけですから。」


ルフナが(嫌々)賛同する。


彼女としては王国から離れないほうが定期報告もしやすく都合がいいのだが、巫女という立場を考えると否定しずらかった。


「神様のお告げとあれば、従わないわけにもいかないでしょう。」


エイリが巫女らしい考えで利一の案を推す。



利一以外の男子はいまだ沈黙。朝に弱いのかもしれない。



リナティアは一瞬苦い顔をし、言わずにいてもしかたないので一つの話をする。


「次の旅に出るまでに、やらねばならない祭り事があるのです。」


「? この時期は祈りの儀式などもなかったように思いますが。」


リナティアの話を『巫女の仕事』の話だと勘違いしたエイリが、指摘する。


「いえ、そういった儀式とは違うのです。」


いよいよ分からなくなってきた一行は、リナティアの説明を待つ。



「昨日お父様と話し合った結果、今後の行動をしやすくするためヤスヒト様を勇者として国民に発表することになりました。」



利一はすでに聞いていたので驚くことはなく、恵人以外のメンバーは国民に発表された『勇者(仮)』という話の裏までを知っていたので、王の行動の速さに驚きはしてもお披露目の日がいつか来るものだとは思っていた。



この場で一人驚くことになった恵人は、眠かった頭を覚醒させたようだ。



「そ、そんな話聞いてませんよ! 」


「ヤスヒト様、これは各地から協力を得るための作戦なのです。これをしておかなければ、行かなければならない他国への入国にも困ることになるでしょう。出来る限りはやく勇者一行として各地に浸透させることは必須なのです。」



リナティアは無言で恵人を見つめ続ける。


(こ、これが無言の圧力…対象が俺でなくてよかった。)


利一は少し後で自分が勇者でないことを悔やむのだが、この時は勇者へ欠片の憧れも無かった。



「僕でなくとも、利一が居るじゃないですか!」


「…この国の昔からある御伽噺で『勇者は聖剣を持ち、光の斬撃で魔物を屠った』という記述があるのです。その話に出来るだけ近づけなければ、国民から信用は得られないのです。そしてこの条件を満たすのはヤスヒト様だけです。お願いです、引き受けては貰えませんか?」


「引き受けます。」


一瞬の間もなく答えた恵人に、呆れ返るしかない利一である。


(おいおい。渋ってたのは何だったんだ…)


「僕にしか出来ないことなら、やります。」


恵人のはっきりとした答えを聞いたリナティアは、小さく微笑んだ。


「では式典は五日後になります。私を含め他の皆さんにも『勇者一行』として参加していただきます」


________________________________________


利一は激怒した。


必ず、かの邪智暴虐の王を除かねばならぬと決意した。


利一は政治がわからぬ。


利一は、一人の槍使いである。


槍を振り、立ちはだかる敵をなぎ倒して生きてきた。


けれども理不尽に対しては、人一倍に敏感であった。


今日未明利一は城を出発し、城門を越え人垣を越え、他人の歓声の中を歩き此の城下町にやって来た…



「トシカズ様、何か考え事でもしているのですか? 人前に晒してはいけない顔になっていますよ。」


利一の隣を歩いているリボルブはさっきから馬の運転を疎かにし、蛇行歩行を続ける利一に声をかける。


「いや暗殺者でも出ないかな、と見まわしていただけさ。」


「出ない方が良いじゃないですか。」


「じつにその通りだな。うん。」


利一は軽く誤魔化して、列の先を行く三人の背中を見る。



(大丈夫だ。隣に並んでいるだけで、本当に仲が良いわけじゃないんだ。そうなんだ。だって恵人はルフナといい感じになってたじゃないか。あれは王様のなんというか、見た目を華やかにするための作戦とか、そういうあれなんだ。うん。)



この勇者お披露目パレードは、全員が騎乗し城下町の大通りを歩くというものだ。


先頭を歩いているのは、騎士に守られるようにして堂々と歩く国王。


その後ろを歩くのが、第三とはいえ、王女であるリナティア。


どうやら他の王女は他国と外交を行っているらしく、この場には不在だ。



利一が問題視しているのは、もちろんのこと、恵人の立ち位置である。



(なんで後ろじゃなくて、隣なんだよ!)


恵人は着飾ったリナティアの隣を、これまた不思議なくらい似合う衣装を着て歩いていた。


これは専門家が列順を考えた後で国王が直々に変更したらしいことを、利一は盗み聞いている。



(国王相手に仕返しは不味いか。)


とりあえず、真相を聞き出すくらいはしておこうと思う利一だった。

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