第十八話 『主人公が撃退する話。』
巫女の三人を囲うようにリボルブ、恵人、利一の三人が構え、襲いかかる暗殺者をそれぞれ応戦する。
前衛が凌いだ時間で後衛三人は呪文を唱え、前衛を援護する。
この陣形を採ることで安定した戦闘が可能になった。
現在の敵の数は五人。人数で言えば利一たちが優勢である。
ただ、巫女たちが放っている攻撃魔法は一撃で気絶するレベルの魔法なのだが、暗殺者はそれを器用に避け続け、負傷者は出ていない。
勝敗はまだわからないだろう。
(そろそろお互いに限界が近づいてるな…)
リボルブは敵、味方ともに息が上がり始めていることに気づく。
(奴らが諦めて撤退してくれれば、こちらも別の手が打てるんだが)
どうもその気はないらしく、今も猛攻が続く。
罠を避けた時点で敵の計画は崩れているのだから、いつ撤退してもおかしくは無いはずなのだ。
(何か策でもあるのか…)
リボルブにはもう一つ気にかけていることがある。
「恵人! そっちに一人行った!」
「分かった! 」
汗を流し必死に応戦している利一と恵人のことだ。
二人の戦闘経験は、ほぼ無いに等しい。
精神的にも、体力的にも限界が来るはずだ。
むしろ来ない方がおかしいと言っていいだろう。
だが二人の横顔に辛さは見られない。
まだやれるという二人の意思表示なのか、本当に平気なのかはいまいち読み取れないが、利一の動きが悪くなってきているのだけは目に見えて分かった。
リボルブは飛びかかってきた暗殺者に、剣で切りかかる。
暗殺者は素早い身のこなしでそれを避け、連撃を繰り出す。
(戦況に大きな変化えを作れれば…)
リボルブの中では一つの迷いが渦巻いていた。
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戦闘が開始して十分ほどたったころ。
利一の四肢は悲鳴を上げていた。
(まだだ! ここで耐えなきゃ全滅する!)
倒れ無いのが不思議なほどに痛む手足を、それでも止めずに戦闘を続けたのは利一の意地だった。
(絶対にあいつらには秘策がある…それを見破るまでは絶対に引けない。)
リボルブと同様の考えで敵に秘策がある事を予想した利一は、大部分を戦闘に使っている頭でそれがなんなのかを考えていた。
敵は五人。これはあまりに少ないんじゃないだろうか。
敵は普段人の通らない道に罠を張っていたことから、最初から自分たちを狙っていたと考えられる。
ならわざわざこちらより少ない人数で挑んでくるだろうか。
目立つのを避けたとして、しかし同じかそれ以上の人数は揃えるのが普通じゃないだろうか。
敵の秘策で一番可能性があるのは、援軍である。
(今以上の人数になったら、厳しいな…)
利一が早期決着をしようと考えた時だ。
森の茂みから高速で近寄ってくる影が見えた。
(早い! これじゃあ後ろがやられる!)
影は前衛を抜け、巫女達後衛のもとへ走る。
その手には鋭いナイフが握られ、すぐにでも振るわれようとしている。
「行かせるか!『スペル=スピード』」
利一も高速化をし、飛び込んでいった影を追う。
間に合わない。利一は回転の速くなった頭で理解した。
槍を構え、薙ぎ払う。その長いリーチでも、今ほど離れていてはぎりぎり届かない。
槍を避けた影は手に持つナイフで、最も近い所にいるエイリを殺すだろう。
そうなれば一瞬でパワーバランスは崩れ、利一たちは全滅する。
だが、そこで不思議なことが起こった。
高速で飛び込んできた敵が不自然にバランスを崩し、その場に倒れこんだのだ。
利一は反射的に相手の足の腱を槍で切り、そのまま後ろから追ってきた敵を槍の軸で殴る。
これで六対四。利一たちが圧倒的優勢になった。
暗殺者たちは団長が負けたことに動揺し、撤退を始める。
『吹き荒れる風で万物を飛ばす』
エイリの詠唱が聞こえた後、離れようとする敵の背中に自然ではありえないほど強い風が吹き付け、彼らの体を強引に巻き上げる。
風が収まり背中から着地した時には、暗殺団は全滅していた。
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『水の血統に許されし治癒の力を用いて傷を癒す』
この利一たちのなかで治癒魔法を使用できるのはリナティアだけなので、傷口から出血をしていた襲撃者に魔法をかけてもらっていた。
殺さずに捕まえたのは彼らに事情、なぜ自分たちを狙ったのかを聞くためである。
もちろん言わない場合は拷問にかけられることになるし、終われば相当な刑罰が与えられることだろう。
利一は、馬車の馬が無事であることを確認し、ここから移動する手段を考える。
「ここにいるのも危ないだろうし、こいつらを馬車に乗せて町まで行けないか?」
もしも援軍が来たら、と考える利一は早くその場から移動したかった。
「馬車は大型ではありますが、さすがに十二人となると厳しいですね…」
リボルブは数十秒考え、提案する。
「とりあえず私が馬車で襲撃者たちを町にまで連れて行き、その間皆さんにはここで待機していただくということにしませんか?」
この方が確実に襲撃者を捕まえられ、残った五人は自衛することで安全を確保できる。
「私もリボルブさんに同行します。一人では危険も多いと思いますから。」
エイリを連れて行くことに一瞬不満気な表情をしたリボルブだったが、誰に気づかれるまえに元の表情に戻る。
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六人の気絶し、拘束された男たちを乗せた馬車の馭者席に、リボルブとエイリはいた。
「グレン君。君、魔法を使ったね?」
リボルブはエイリの言葉に動じない。
エイリならば自分が魔法を使ったことを見破れると分かっていたからだ。
「大丈夫だ。体に異常もないし、抑える魔法具も用意しておいた。」
リボルブの使う魔法には、まれに副作用が発生する。
それを知っていたエイリは、リボルブに同行することを進み出たのだ。
「魔法具程度で抑えられる訳もないだろう。もう使わないでくれよ、心臓に悪いから。」
「分かったよ。でも、いざって時はあの勇者さんが聖剣で救ってくれる…と思うんだけどな。」
エイリはそれっきり黙ってしまい、二人は再び利一たちと合流するまで会話をしなかった。




